845 再会した
69話を改訂版に差し替えました。
質問は以上だった。
俺たちは行動を開始する。
ただし、一斉に動いたのでは目立ってしまう。
そんな訳で時間差で何パーティかごとに分かれて出発することになった。
「次はうちらの番やでーっ!」
アニスが腕まくりのような仕草で気合いを入れていた。
やたらと張り切っている。
「負けないわよぉっ!」
レイナもだ。
仁王立ちで両拳を天に向かって突き上げている。
何故か他のパーティに対抗意識を燃やしていた。
理由?
俺が知るわけない。
これが何かの競技であるなら、まだ分かるのだけれど。
だが、仕事の割り当ては決まっているからそれはない。
タイムトライアルも禁じた。
部外者とのトラブルを誘発しかねないからな。
故に競う余地がないのだ。
なのに──
「「ファイトォー、オーッ!」」
2人だけで異様に盛り上がっている。
あまりの気合いの入りように祈りたい気分になってしまったさ。
『変な方向へ突っ走らないでくれよ……』
内心では懇願すらしている程だ。
これを声に出してしまうと逆効果なのでね。
言ったが最後──
「任せてやー!」
「本気で行くわよっ!」
などと言い出して余計に暴走しかねないのだ。
どう考えても俺の話は届いていない。
いや、限定的には届くのか。
あの2人には俺から激励されたと脳内変換されてしまうけどね。
何処が激励なのかだって?
そんなの俺も知らん。
でも、そうなることは経験則から容易に想像できるのだ。
高確率でそうなる恐れがあるなら回避するのが賢明というものだろう。
とにかく暴走されるのは困る。
パーティ内で揉めるより遥かにマシとはいえな。
いずれにせよ俺が口出ししない方が良いこともあるのだ。
「2人とも調子に乗らない。
失敗するとハル兄が困る」
「「うっ……」」
パーティリーダーであるノエルに釘を刺されると鎮静化してしまったが。
とりあえず一安心だが不安要素も残しているとは言える。
故に、ここで俺がノエルに声を掛けると、どうなるか分かったものではない。
労いの言葉は終わってからでも充分なはずだ。
それはノエルも分かっているのだろう。
俺の方を振り返ることなく月影の面々を引き連れて出発した。
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俺たちの出発は最後である。
他のパーティーと同時に内壁から出たが、直にダンジョンへとは向かわない。
「それじゃ俺らはこっちだから」
エリーゼファミリーとでも言うべき臨時パーティの面々に声を掛けた。
面子はトモさんとフェルト、そしてミズキとマイカだ。
同時に出発した他のパーティの面々は先にダンジョンへと向かっている。
トモさんたちとは雑談しながらだったので遠回りをさせる格好になってしまったのだ。
俺らが遠回りする理由は婆孫コンビにある。
未だに冒険者登録していないためだ。
ダンジョンに行く前に登録していかなければならない。
そんな訳で俺たちはギルドの建物の前にいる。
「ハルさん、また後で~」
「ハルト様、失礼します」
「ハルくん、またね」
「ハル、お先にー」
「おー、頑張ってなー」
挨拶をして見送った。
4人の姿が見えなくなったところで──
「じゃあ中へ入るか」
コクリと頷くドルフィン。
「了解です」
先導するように前に出るハリー。
お互いに顔を見合わせて頷き合うベルとナタリー。
これが今回のパーティメンバーだ。
いわゆる野良パーティなので名前はない。
婆孫コンビ以外にドルフィンやハリーがいるのはコンビの護衛の意味合いがある。
冒険者ギルドに新規登録に来た新人はトラブルに巻き込まれることが多いからな。
絶対ではないのだけどね。
ただ、女子供は目をつけられやすい。
大したことない連中に限って見た目だけで判断してくるからな。
婆孫コンビはレベル80を超えているというのに。
ベテランになると雰囲気で分かるらしく変なちょっかいは掛けてこない。
まあ、ベテランほどアホな真似はしないものだがな。
今の婆孫コンビなら簡単にあしらうこともできるが慣れていないので加減が難しい。
変に大怪我させるといけないのでドルフィンやハリーをつけた訳だ。
で、ギルドの建物に入るなり──
「おおっ、こんな所で会えるとはな!」
俺が声を掛けられた。
『どうして俺なんだよ?』
これは想定外である。
まあ、若造だからだろう。
というより声のかけ方が顔見知りに対するものだ。
『まったく……
誰なんだ?』
声のした方を見ると奥の方から1人のオッサンが歩いてくる。
何処かで見た顔だ。
過去ログを画像検索するまでもなくオッサンのことはすぐに思い出せた。
「ああ、オッサンか」
世紀末な世界で荒ぶる雑魚キャラ風味の連中に絡まれた時の世話焼きなオッサンだ。
「いつぞやは世話になったな。
審判をしてくれて助かった」
名前は知らない。
鑑定もしなかったからな。
パッと見で実力者であるのは分かったら充分だったのだ。
こんな所で再会するとは思わなかったが。
「オッサンはよせ。
俺はこれでも26才なんだぞ」
衝撃の発言である。
「ええ─────っ!?」
思わず声が大きくなるのも仕方あるまい。
お陰でギルド中から注目を集めてしまった。
『マズいな』
これは俺の失態だ。
俺が注目されるということは、連れも目立つことになるからな。
素早くドルフィンたちにだけ見えるようにハンドサインを出した。
俺も【天眼・遠見】を使わねば見えないような状態だ。
そこまでする必要性もないのでスキルは使っていないがね。
背後で気配がゆるりと動いた。
別行動の開始だ。
俺が注目を集めている間に登録を進めれば、絡まれる確率も減るだろう。
『やはり、護衛をつけておいて正解だったな』
「声がデケえよっ。
恥ずかしい奴だなぁ」
その気持ちには同意するが、仕方あるまい。
オッサンが26才という事実は衝撃的だったのだから。
驚くなと言われても無理である。
「しょうがないだろう。
絶対26には見えねえって」
俺の言葉に、こちらを見ている連中がうんうんと頷いている。
無精髭のせいで変な貫禄が出てしまっているからな。
「実際、アラフォーだと思ってたからなー」
「アラ何だって?」
聞き慣れない言葉だったらしく、オッサンが困惑の表情を浮かべる。
「40前後のことをアラフォーって言うんだよ」
「嫌な言葉だな」
顔を顰めるオッサン。
その割に本気で嫌がっているようには見えない。
実年齢が大きく掛け離れているからだろう。
「オッサンが老け顔だからだろ」
「老け顔、言うなー」
そっちの方が嫌そうだ。
「だったら無精髭は剃った方がいいぞ、オッサン」
「えーっ」
嫌そうな顔をするオッサン。
「気付いてないのかよ」
いや、無理もない。
綺麗な鏡なんて満足に普及していないからな。
「何がだ?」
「髭のせいで変な貫禄がついてしまってるんだよ、オッサンは」
「マジかよー」
信じ切れないのかオッサンは呆然とした表情だ。
と思ったら、急に真顔になった。
「さっきからオッサンオッサン繰り返してんじゃねえ」
『気にするのはそっちか』
だが、言われてみればそうか。
26才だからな。
オッサン呼ばわりは嫌だろう。
それが分かっていて、わざと言っていたりもするのだが。
「俺からすればオッサンだ」
「だからぁー」
「だったら名乗ればいいだろ。
名前が分からんうちはオッサンのままだ」
「ったく、口の悪い賢者様だぜ」
オッサンは軽く溜め息をついた。
「いいか、良く聞けよ。
俺の名はビル・ベルヴィントだ」
「分かった、ビルのオッサン」
「オッサンは余計だっ!」
「冗談だ」
「冗談かよ」
オッサンはからかうと面白い。
……これからはビルだったか。
「俺はハルト・ヒガだ」
「知ってるぜ、戦う賢者様」
「は? そのセンスのない二つ名は何だ?」
思わず間抜け面をさらしてしまう。
「やっぱり、そう思うか?」
ビルが苦笑した。
「髭爺の奴がそんな風に呼ぼうと画策してたぞ」
俺の名はその過程で広まっているようだ。
「その様子だと上手くいってないみたいだな」
「ああ、皆ダサいし呼びにくいって言ってたな」
髭爺と呼ばれるのが、よほど嫌なのだろう。
定着しているのなら諦めてもらう他ないがな。
「まあ、好きなように呼べば言いさ」
「嫌がらないんだな」
意外そうな顔をするビル。
「どうせ定着しないだろう」
加えて人のことを名前で弄った直後だしな。
「それもそうか」
言いながらビルが笑った。
『何か忘れてないか?』
読んでくれてありがとう。




