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842 盲点を指摘される

 ダンジョン設備を試験運用する前にエリスに相談してみた。


「専用ライトはそれで構わないと思います」


「やっぱ転送機の方が問題か」


「はい、それも致命的な問題があるかと」


「ええっ!?」


 潰せる問題は潰したはずなんだがな。


「お気づきではありませんか?」


 まるで気付いて当然と言わんばかりに真顔で聞かれてしまった。


『そんなこと言われてもなぁ……』


「私もすぐに気付きましたよ」


 クリスが追い打ちをかけてくる。


「申し訳ありませんが、私もです」


 マリアもか。

 どうやら思い違いとかじゃないみたいだ。


「大きすぎるとかじゃないんだよな」


「はい、持ち運びや設置については再考の必要があるかとは思いますが」


 一応は考えないといけないようだ。


「これについては致命的な問題点ではないでしょう。

 設置後の大きさも必要性を考えれば非常識なものではありませんし」


「私はできれば下の方にも大きい方がいいと思います」


 クリスが何か意見があるようだ。


「どういうこと?」


「足で触れた場合でも発動すれば対応の幅が拡がると思うのです」


 交戦中に敵の攻撃を捌きながらという状況を想定しているのだろうか。

 確かに片手が塞がるよりはいいかもしれない。

 だが、それはそれで踏ん張れずにバランスを崩しやすいという欠点がある。


「うーん」


 しかしながら、そういう意見が出るなら何か考慮しないといけないだろう。

 現状は手で触れた状態でしか動作しないようにしてあるからな。

 特別な意図があってそうした訳じゃない。

 単にタッチパネルなら手で触れるのが基本だよなと考えただけである。


「それなら体のどの部分が触れてもいいようにした方が良いのではないでしょうか?」


 マリアが更に追加で案を出してきた。

 それくらいはすぐに対応できるから何の問題もない。


「いっそのこと触れずに発動させられるようにしてはどうですか?」


 エリスのぶっ飛んだ意見。


「えーっ!?」


 聞かされた俺は飛び上がりそうになったさ。


 だが、よく考えてみると悪くないかもしれない。

 両手が使える。

 バランスを崩すこともない。


『その場にいて魔力さえ放出できれば、いけるか』


 パネルではなく空間を発動範囲にすればいい。

 転送機の近くで魔力を流したら光の魔方陣が出るようにする。

 魔方陣の範囲内に体の一部が入っていれば転送されるようにすれば……


「いいね、その案を採用しよう」


「それだけではダメですよ」


「え?」


 何がダメだというのだろうか。

 そう思ったが、致命的な問題があるとエリスは言っていた。

 恐らくそれのことだ。

 が、見当がつかない。

 クリスやマリアはすぐに分かったようなことを言っていたけど。


『何か見落としているか?』


 念のために術式を再チェックする。

 シミュレーションもしてみた。

 【多重思考】でもう1人の俺を多数動員して高速で見直してみたが……


『異常なし』


『術式に矛盾なし』


『無駄な処理なし』


 術式チェックは数秒とかからず次々と報告が上がってくる。


『シムの結果も変ではないぞ』


『右に同じ』


『俺も』


『俺もだ』


 シミュレーションの方もワンテンポ遅れる程度で問題ないことが報告された。

 俺の気付かないところで何かミスがあるのだろう。


「分かりませんか?」


 充分に考える時間をもらったがダメだった。

 絶対に何かあるはずなんだが、分からない。

 自分の間抜けさを露呈しているようで恥ずかしかった。


「ああ、お手上げだ」


 俺は小さく両手を挙げた。

 恥ずかしいが知ったか振りをする訳にもいかない。


「元々の仕様に問題があります」


「ん?」


 エリスの指摘は俺にとって盲点だった。

 故にそこはチェックしていない。

 もちろんシミュレーションの対象外である。

 そこに気付いて考えようとしたところで時間切れとなった。


「西方人は魔力操作が下手です」


「あっ!」


「魔法が使えない人は特にそうですよ」


「おそらく使える人はほとんどいないのではないでしょうか」


 クリスやマリアの言う通りだ。


 思わず上を仰ぎ見てしまった。

 己の間抜けさ加減が痛くて痛くて仕方がない。

 肩を落として溜め息をつく。


「それは致命的だ」


 せっかくの魔道具も魔力が流せなくては使えない。

 ハッキリ言って宝の持ち腐れだ。


「自分がバカすぎて嫌になるよ」


 恥ずかしすぎて泣きたくなってきた。


「そっ、そんなことはないと思いますっ」


 慌てた様子でマリアが否定してきた。

 そこに根拠はないけれど。


「そうですよ」


 クリスも同意するが、やはり根拠はない。


「自分が至らないことを素直に認められる。

 バカな人にはできないことだと思いますよ?」


 エリスがそんなことを言ってきた。

 褒められているのは間違いない。

 だが、いまいちそういう気になれないのは何故だろう?

 俺が捻くれているだけかもしれないが。


「それはいいよ。

 とにかく作り直しだ」


 試作品の術式はすべて消去された。

 ただの板に逆戻りである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ダンジョン内転送機は仕様から練り直した。

 形状はもちろん


「さて、それじゃあ作り直しだな」


「頑張ってくださいね」


 最初に試作品を作った時は1人きりだったが今回は違う。

 エリスたち3姉妹が見学している。


「邪魔ではありませんか?」


 マリアが遠慮がちに聞いてきた。


「邪魔なら言ってる」


「ハルト様は遠慮がないものね」


 クリスはふとした拍子に辛辣だ。

 無意識だから質が悪い。

 天然少女は最強だ。

 ギリギリ成人しているから少女と言うのは失礼かもしれないが。


『俺も遠慮がないよな』


 まあ、お互い夫婦なんだし良しとしよう。

 まずは倉庫に入れていた初期化した板を取り出す。


「また板状にするのですか?」


 エリスが聞いてきた。


「いいや、パネル型は不採用だ」


「では、何故?」


「材料が勿体ないから再利用するだけ」


「リサイクルですね」


 クリスはそう言うと楽しそうにクスクスと笑った。

 何がツボなのか俺には分からない。

 エリスやマリアは微笑ましいものを見る目を向けているけどな。


 何だか取り残された気分になったが、作業の手は止めない。

 まずは板を縦長の筒状に丸めていく。

 筒型の製図ケースに入る太さになるまでクルクルした。


 板同士が重なる部分は隙間ができないよう錬成魔法で変質させる。

 これで大きさ的には前よりはマシになったと思う。

 ついでに紐を通して背負えるようにした。


『ロケットランチャーみたいになったな』


 発射するものは何もないが。

 言うほど似ている訳でもないな。


「ここまで形状を変更すると、設置後に大きくなっても触れる部分が狭まりますよ?」


 マリアは心配性である。


「パネル式は不採用ということだから問題ないんじゃないかしら」


 エリスが俺の方を見た。


「そうだな、エリスの案を採用させてもらった。

 利用者が触れる必要はない。

 代わりに所定の範囲内であれば発動するようにする」


「上手くいくでしょうか?」


 自分の案が採用されたというのにエリスは何故か懐疑的だ。


「埋設ということは埋まってしまって見えなくなるんですよね?」


「その点については、ちゃんと考えたよ」


「どうするんですか?」


 謎があれば聞かずにはいられないとばかりにクリスが聞いてきた。


「同時に設置するライトを利用する」


 こう答えただけではピンと来なかったのかクリスは首を傾げている。


「同期させて効果範囲の近辺では光る色を変えるのですね」


 マリアが正解した。


「その通りだ」


 同期して色を変えればいいだけなので術式は単純だ。

 手間もかからない。


「それと設置方法が楽になるようにしたつもりだ」


 言葉にしてしまうと凄く楽に思えてしまうが、それ程までのものではない。


「勝手に埋まるんじゃないんですか?」


「私もそう思っていました」


「私もです」


 やはりエリスを筆頭にマリアやクリスにも誤解されてしまった。


「埋まるのはそうだけど、パネル式のときは数人がかりで押さえる必要があったからな」


 黒板サイズに展開するのが、どうしてもね。

 その気になれば術式で補うことはできるけど、やり過ぎると色々とうるさそうだし。

 そんな訳で複数のパーティが必要になったんだけど。


 筒型に形状が変われば保持は1人で済む。

 まあ、今度は接触から空間認識に感知方法が変わるので成し得ることだ。

 設置場所に着いたら立てて安全ピンを抜けば勝手に埋設される。

 空間に影響を及ぼすなら地面か天井に埋め込む形の方が効率がいいからな。


 ただ、天井は選択肢から外れる。

 土砂が降り注ぐとかではない。

 地魔法を使うので、そのあたりの心配は無用だ。


 そうではなくダンジョンによって天井の高さは異なるからな。

 天井が高いところだと設置するのに脚立やハシゴを用意しなければならなくなる。

 無駄な荷物は増やすべきではないだろう。

 故に地面一択である。


「そう言えば肝心の発動はどうするのですか?」


 そこを改良しなければ意味がない。

 空間に対して魔力を放出?

 それはあまりにナンセンスだ。


「音声で解決だ」


「それしかないでしょうね」


「音声認識は割と面倒なんだけどな」


 単純化すると認識率が下がってしまうからね。


「でも、メリットもありますよ」


 クリスの言う通りだ。

 階層を指定すれば移動できるようになるからな。


読んでくれてありがとう。

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