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825 雑草小僧の傾向と対策

 残った1体が片腕を使ってズリズリと這い寄ってくる。


『うわぁ……』


『ゾンビチックで嫌だなぁ』


『ゾンビとか言うな』


『思い出すだろ』


 なかなか騒がしいが、それどころではない。

 グロいのを思い出して地味にメンタルなダメージだ。


『とにかく実験だ』


『了解した。

 じゃあ固定させるぞ』


 どうやってと聞く前から自動人形がメタルワイヤーの魔法でグルグル巻きにした。

 塵も積もれば山となる。

 ワイヤーも束ねれば重量物って訳だ。

 確かに近寄ってこられなくなったが……


『却下』


『ええっ!?』


『捕らえるのが目的じゃなくて実験するのが目的だ』


 今の状態では防具を身につけたも同然である。


『……そうだった』


 担当者が意気消沈しながら倉庫へとワイヤーを回収する。

 で、理力魔法で浮かせて動きを封じた。

 浮かせるだけなら腕の動きや反応の仕方が確認できるからな。


『最初から、そうすりゃ良かったのに』


 もう1人の俺の追撃を受けて担当者が更に凹んだ。

 しかしながら、それを悠長に見ている訳にはいかない。


『おい、実験するぞ』


『了解』


 地魔法で作った剣や槍の攻撃を加えていく。

 あえて刃筋は通さない。

 何度も何度も叩き付けたり突いたりした。


『少しも弱らんな』


 やはり魔石に攻撃が届かないと死んでくれないようだ。

 ますますゾンビチックに見えてくる。


 嫌な感じだ。

 グロいからと言うより、これを現場組に対応させたくない。

 分かっていても弱点を攻撃できない恐れだってあるからな。


 ダンジョンに挑むのは初めての者がほとんどだろう。

 冷静に対処できる者が何人いることやら。


 特に湧き部屋なんかに当たった時が怖い。

 タフな相手が数で迫ってくるのは純粋に驚異である。

 力が弱くて頑丈でないのが救いだが。


 どうせなら楽に倒せる方法を見つけておきたい。

 そのための実験でもあるのだ。


 相手は雑草だから燃やすのなんかが最適だとは思う。

 ならば火魔法でトドメを刺してみるのはどうだ?

 現場組には、たいまつを持たせるしか無いだろうが。


 それでも敵の弱点属性を確保しておくのは基本である。

 願わくば、このダンジョンに出没する敵がそういう植物系ばかりであってほしいところ。

 ここじゃ壁面とかの光る苔のお陰で照明はなくても困らないからな。


 雑草小僧だけの対策になるのであれば、お荷物感が増してしまう。

 そんな風にあれこれと考えている間にも実験は続いていた。


『おい、見ろ』


『なんだ?』


『急に弱り始めたぞ』


 浮かされた状態で藻掻いていた雑草小僧の動きがみるみる弱っていく。

 電池が切れかけの電動歯ブラシみたいだ。


 ……例えが分かりづらいかもしれないな。

 あと他に思いつくのは電池で動く玩具とか。

 とにかく弱々しく力が抜けていく感じである。


『攻撃は弱めのばかりなんだがな?』


『コアも傷つけるような攻撃はしてないぞ』


 そんなことを俺たちが言っている間に雑草小僧が急速に枯れていく。

 そして完全に枯れてしまうと動きが止まった。


『あらら、死んじゃった』


『ダメージは受けてたんだな』


『大ダメージを与えたら、とにかく動かせばいいってことか』


『時間はかかるが、これなら対処可能かもな』


『他の雑草小僧でも確かめる必要はあるぞ』


『それなんだが、もっと簡単に倒せるかもしれない』


『燃やすんだろ』


『危なくないか?』


『燃やした相手に襲いかかられるのは現場組にはキツいと思う』


 確かにその懸念はある。

 腕を切り落としても動きは衰えなかった相手だ。

 燃えながらも死ぬまで動きが落ちずに攻撃してくる恐れもある。


『全身を燃やしながら突っ込んでくるのか』


『特攻だな』


『やめた方がいいんじゃないのか?』


『それを検証するための実験だ』


『確かに』


 危険なことは最初からやらないんじゃなく、対応できる俺らが確認しておく。

 それで現場組に対応が困難となればレポートに遵守事項として記述しておけばいい。

 守らない奴がいるかもしれないが、そんな自業自得を考えない連中のことは知らん。


『とにかく次を見つけないことにはな』


 自動人形を使っての探索を続行する。

 戦闘中も他の自動人形が続けていたが、敵との遭遇はなかったのだ。


 ただ、罠はいくつか発見した。

 今のところは落とし穴や矢を飛ばすようなものだけである。

 構造は単純で素人でも注意していれば発見できるような代物ばかりだ。


 穴の底が槍衾なんて凶悪な落とし穴もないし。

 矢に毒が塗られているなんて陰湿さもない。

 それが逆に不気味だけどな。

 油断しきった頃にヤバい罠が待ち受けているなんて良くあるパターンだ。


 どうやら、それもなさそうではある。

 深い階層に行くほど罠が多くなる傾向はあるがね。

 それも浅い所と深い所を比較して割り増し程度の差だ。


 え? そんなのは調べ始めて間もない段階で分かる訳ない?

 実は既にどのフロアも通路だけは確認済みなのだ。

 魔物との遭遇を回避しつつ駆け抜ければすぐに終わる。

 ダンジョンの全体像を把握しておいた方が罠を利用した戦い方とかできるしな。


 まあ、ここからは部屋の確認と魔物との戦闘がメインになってくる。

 知っている魔物なら瞬殺。

 時短のコツである。


 知らないのは戦って確かめる必要があるがね。

 そんな訳で雑草小僧はすぐに見つかった。

 別のフロアで8体の団体さんが待ち受ける部屋へと突入することになったけど。


『さあ、レッツ戦闘だ!』


 今回の担当であるもう1人の俺はハイになっていた。

 理由?

 自分の担当する自動人形で戦闘ができるからだろうな。

 なんというかラジコン感覚だ。


『8体まとめて燃えつきるがいいっ!』


 テンションが高くて不安になってくる。

 人間、調子に乗ると思わぬミスをするからな。

 俺も例外ではない。


『程々になー』


『加減しろー』


『たいまつレベルだぞー』


 分かっている俺たちがヤジを飛ばすように注意を促した。


『ええいっ、分かってるっての』


 若干の苛立ちで応じた担当者が自動人形を介して8個の火炎を展開した。

 どれも、たいまつレベルに落とした火球だ。


『うぉっ!?』


『何だっ!?』


 雑草小僧たちの様子が急変した。

 今までのゴブリン然とした獣感あふれる動きにダイナミックさが加わったというか。

 ゴリラが威嚇するようなドラミングまでしている。

 もっとも、ゴリラのアレは戦いを避けるための合図らしいが。


 とにかく雑草小僧たちは火を見て豹変した。

 なり振り構わず突進してくる。

 火球を撃ち込まれても怯まない。


 着弾すると、その部分は燃えた。

 が、燃え広がるようなことがない。

 そして火が消えても凶暴化したままだ。


『小さなバーサーカーだな』


『このダンジョン、たいまつを使うのは厳禁だな』


『レポートには火を見ると凶暴化すると書いておこう』


『他に気になる点は?』


『思ったより燃えないことだな』


『枯れてないんだから、むしろ当然じゃないのか』


『それもそうだな』


 そんなことを話している間に雑草小僧が急に止まった。

 一気に枯れて崩れ落ちる。


『どういうこと?』


 死んだのは間違いないが、原因が不明だ。


『一部でも燃えるとダメージが大きいとか?』


『そんな感じじゃなかったぞ』


『むしろ凶暴化したのが原因じゃないか』


『命を削ってまで暴れたと?』


 次の戦闘で確認したが、その仮説は正しいことが実証された。

 火を見れば約10分は凶暴化して暴れ、急に死ぬ。

 簡単に倒す方法と言えなくもない。


 が、その間は攻撃力が倍加するのでリスクは大きいだろう。

 特に数を相手にする時は危険だ。

 とにかく凶暴化させてはいけない。


 当然、流れとして火気厳禁という話になったのだが……


『火だけが凶暴化の原因とは限らないよな』


 もう1人の俺から問題提起があった。

 他にも狂暴化の要因があるかもしれない。

 後々、来るであろう冒険者には魔法使いもいるだろう。

 そのことも考えてレポートを作成しておくべきだ。


『明るいのを拒絶しているとか』


『植物は普通、光を好むものだろう』


『ダンジョンの環境に適合したと考えれば無いとは言えんぞ』


『いやいや、高熱源体に反応しているのかも』


『極端な環境の変化ということも、あり得る』


 色んな意見が出たので一通り試してみた。

 まずは光魔法。

 ライトサーキュラーソーを使ったが反応は普通。


 次は火と地と理力の混合魔法である溶岩弾。

 溶岩流であるラーヴァフロウを弾丸サイズにした魔法だ。

 これに幻影魔法で光学迷彩をかけて様子を見たが、これも反応なし。


 ただ、せっかく発動した魔法なので攻撃に使ったのだけれど……

 過剰な攻撃力と言わざるを得ない結果となった。

 胸に命中させたら雑草小僧が爆散したからな。


 もう少し大人しめの魔法があってもいいかもしれないと結果を見て思った。

 ワイヤーショットに熱を持たせたヒートショットとか。

 考えただけで簡単に術式が組み上がった。

 まあ、後の祭り状態なんだが。


 とにかく他の魔法も色々と試した。

 水魔法や氷魔法にも無反応。


 スリープミストは効果がなかった。

 凶暴化させてもさせなくてもだ。

 【諸法の理】で調べてみたら植物系の魔物はそういう傾向があるようだ。


 火魔法の反応も詳細に調べた。

 このくらい大丈夫だろうと高をくくって火を使う奴が出かねないのでね。

 火花には無反応。

 ただ、火が灯るとサイズに関係なく暴れ始めた。


 ここはレポートに詳しく書いておこう。


読んでくれてありがとう。

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