表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
833/1785

822 ダンジョンへ行かせてもらえない?

「呆れたものだね」


 そんなことを言いながらもカーターは笑っていた。


「適切な対処だと思いますよ、叔父様」


 フェーダ姫も笑っている。


「それは否定しないさ。

 気を失っている間に作業を完了させれば、凄いものを見なくて済むからね」


「張り巡らされた水路は充分に凄いと思いますが」


 たまらずといった様子でオルソ侯爵が口を挟んできた。

 言わずにはいられなかったのだろう。

 結果が結果だけにな。


「過程はもっと凄いってことだよ」


「そうです。

 ヒガ陛下は、これ以上の混乱を望まれなかったのでしょう」


『まあ、そうなんだけどね』


 主に俺のためにだから後ろめたさがあるというのは内緒だ。


「それは……

 確かにそうでしょうな」


 オルソ侯爵は嘆息しながら頭を振った。


「で、ハルト殿。

 ダンジョンができたって?」


「新規にできた訳じゃない。

 活動を停止していたものが再起動したんだ」


「似たようなものだよ」


 意外とカーターは大雑把である。


「中を調査した上で常駐する人員を決めないといけない」


 俺がそう言うとオルソ侯爵が一瞬だけ渋い顔をした。


 まあ、気持ちは分かる。

 誰かは送り込まないといけないのだ。

 しかしながら、何が出てくるか分からない。


 当たりかハズレかで変わってくる。

 この場合の当たりはヤバい魔物が出るという意味だ。

 中の状況が不明である以上は当たりであるという前提で動かねばならない。


 故に調査では精鋭にパーティを組ませて送り込む。

 オルソ侯爵はそう考えたのだろう。

 状況によってはそれでも全滅するリスクがある。

 そこまで思い至ったからこその渋面だった。


 だから咎めるつもりはない。

 そもそもオルソ侯爵は勘違いしているしな。


「おいおい、調査するのは俺なんだけど」


「はあっ!?」


 俺が指摘した途端に素っ頓狂な声を出して目を丸くしていたくらいだ。

 頭の片隅にもなかったのだろう。

 俺にとっては、その方が不思議なんだが。


「調査に時間かけていられないからな」


 おおよその構造を把握している俺が行かないとマッピングから始めることになる。

 精鋭ということは騎士でそろえられるだろう。


 だが、戦争の訓練は受けていてもダンジョン探索の方はいかほどか。

 少なくともベテランクラスの技能は持ち合わせていないはずである。

 素人のマッピング技術で探索なんてされたんじゃ、調査が終わるのはいつになることか。


 全容を把握しろとまでは言わない。

 大型のダンジョンでなければ、ある程度の探索で概要はつかめる。

 それでも何日かかるか分からないのは御免被りたい。


「単独で、ですか!?」


「当たり前だろ。

 早く終わらせたいんだから」


「ですが……」


 何故か変に食い下がろうとするオルソ侯爵。

 何を考えているのか理解不能だ。


「足手まといを連れて行く気はないぞ」


 護衛をつけるとか変なことを言い出す前にシャットアウトする。

 だが、オルソ侯爵は俺の返事に何故か血相を変えた。


「危険です!」


 何を今更なことを言い出すのだろうか。

 そんなことは百も承知だから連れが必要ないと言っているというのに。


「あのなぁ、こう見えても俺は何度もダンジョンに潜ってるんだぞ」


「えっ!?」


 意外だと言わんばかりの顔をするオルソ侯爵。


「そうなんだー」


「凄いですね」


 カーターやフェーダ姫まで驚いているのが意外なんだけど。

 驚き方が別物ではあったがね。


 だが、それで気が付いた。

 俺が冒険者であることを知らないのだと。

 言ってないから知らなくて当然だ。


「ほら、これ」


 冒険者カードを懐を経由して倉庫から引っ張り出して呈示した。


「へえー、これが冒険者カードなんだ」


「私、初めて見ましたわ」


「いや、これは何かおかしいです」


 叔父姪コンビが興味津々で見ている中でオルソ侯爵がツッコミを入れてきた。


「なんだ、普通の冒険者カードは見たことがあるんだな」


「は、はい……」


 オルソ侯爵が落ち着かない様子で頷く。


「私が見たのは銅の色をしたカードでした」


 俺のは、くすんだ銀色のカードである。


「こんな色のカードは見たことがありません」


 意外だ。

 むしろ貴族という立場なら、冒険者カードの方こそ見たことがないと思うのだが。


「ハルト殿の冒険者カードは特別製なのかい?」


 カーターが知らないのは、微妙な立場のせいで実務から遠ざけられていたからだろう。


「何処かで見たような気もするのですが……」


 フェーダ姫も似たようなものだ。

 ただ、まったく見たことがない訳でもないようだ。


「これは商人ギルドのギルドカードだ」


「あっ、思い出しました!」


 フェーダ姫がパンと手を叩きながら言った。


「商人ギルドの金クラスの方が持ってらっしゃるカードですよ、これ」


「な、なんと……」


 ギョッとした目を向けてくるオルソ侯爵。


「へー、そうなんだ」


 目を丸くしながらも楽しそうな笑みを浮かべるカーターとは対照的だ。


「あれ? でも……」


 そのカーターも何かに気付いたように怪訝な表情になった。

 首を傾げている様子から疑問が湧いたのだと分かる。


「それじゃあ、これは冒険者カードじゃないってことなのかい?」


「兼用なんだよ。

 どちらの情報も記載されている」


「おおっ、便利だね」


 妙なところで感心されてしまった。

 本題は冒険者であることを証明するためにカードを呈示したつもりだったのだが。

 見慣れていない人間には意味がなかった気がする。


「なんにせよ、ハルト殿は冒険者なんだね」


「ああ、こんなことでウソをついても意味がないだろう」


「これなら安心だ」


『何がどう安心なんだよ』


 思わず内心でツッコミを入れていた。

 冒険者だからダンジョン探索がお手の物と思っているなら大間違いだ。

 冒険者といっても素人同然のビギナーから超のつくベテランまでピンキリなんだし。


 まあ、言いたいことは分かる。

 俺の戦闘力はさんざん見せてきている訳だし。


 分かろうとしない者も約1名いるけどな。

 戦うことと探索とは違うと言いたいのだろう。


「そうは仰いますが、アンデッドが出たらどうするのですかっ?」


「はあ?」


 今度は俺が素っ頓狂な声を出す番だった。

 アンデッドばかりのダンジョンなら、尚のこと連れて行く訳にはいかない。

 ダンジョンの再奥まで行って迷宮核を破壊して終わらせないといけないからな。


 普通の冒険者だと手に負えないのであれば、そうするしかない。

 最短の時間でそこに向かう必要があるだろう。

 間違っても外に溢れ出させる訳にはいかない。


『そのあたり分かってるのか?』


 いや、分かっているからこそか。

 一般的にはアンデッドは厄介な存在として恐れられている。

 集団で湧いた場合、通常攻撃での殲滅はほぼ不可能と言われているからな。


 コアにダメージを与えられるなら話は別だが。

 しかしながら物理攻撃でそれを実行するのは難しいものがある。


 最も有効なのが神官などが使う光魔法だ。

 それ以外だと火炎が実体を持つアンデッドに効果がある程度だろう。

 ただ、燃やし尽くすとなると油をぶっ掛けるか火魔法を使うしかない。

 後者の場合は相当に魔力を消費することになってしまうのだけれど。


『下手に知っているのが面倒だな』


 俺が1人だと囲まれた時に魔法が間に合わないだとか考えていると思われる。

 そう考えると、オルソ侯爵の懸念も分からなくはない。


「せめて神官を呼び寄せて同行していただかないとっ」


『ああ、やっぱり』


 俺の推理は外れてはいなかったようだ。

 さて、どう答えたものかと思っていたら──


「その必要はないよ」


 俺の代わりにカーターが答えていた。


「え?」


 オルソ侯爵が怪訝な顔をしてカーターを見る。


「どういうことでしょうか?」


「神官なんて必要ないんだよ」


「必要ないことはないでしょう!」


 オルソ侯爵が向きになっていた。

 頑固モードが入ると厄介な相手なんだがな。

 カーターは特に気にした様子も見せていない。


「ハルト殿にかかればアンデッドの集団さえ雑魚だよ」


「いや、しかしですな……」


 オルソ侯爵はカーターの話を聞いても反論しようとする。

 にわかには信じられないのだろう。


「ハルト殿がいなければ私は生きてはいないんだよ」


 その言葉を受けたオルソ侯爵が怪訝な表情をした。

 何を言い出すのかと言いたげに見える。


 確かに唐突で意味不明だ。

 故に困惑させられたオルソ侯爵が受けに回ってしまう。

 次の言葉を聞いてからと考えさせた時点でカーターの勝ちだ。


「ハルト殿のところの精鋭がアンデッドの集団を軽く捻ってくれたからね」


 一瞬、呆気にとられた顔をしたオルソ侯爵。

 言葉の意味をすぐには理解できなかったのだろう。


 それでも頭の中で反芻し理解するに至るや──


「ま、まさか……」


 呻くようにそう声を絞り出すのが精一杯の状態となった。

 そのまま絶句するも小刻みに震えながら頭を振っている。


「こんなことでウソなんか言ってもしょうがないだろう」


 カーターの言葉にフェーダ姫の方を見るオルソ侯爵。

 証言を聞きたかったのだろう。


「その体験をされているのは叔父様だけです」


 生憎と求めたものは得られなかったが。


「でも、私は叔父様の言葉を信じます。

 アナタが考える以上にヒガ陛下は凄い方なのですよ」


「いえ、信じていない訳では……」


 そう言う割には弱々しい声音である。


「ですが、万が一ということも……」


「ハルト殿に限って、それはないね」


「私も叔父様の仰る通りだと思います」


 すごい信頼ぶりだ。

 何を根拠に、そうまで言い切れるのだろうかと思ってしまった。


『シノビマスターとの勝負で、かな?』


 そんな気がした。

 もしそうだとしたら、何が役に立つか分からないものである。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ