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818 つくってあったことにしたので農業支援を開始する

「本当に個人用なんだね」


 カーターがずらりと並んだ飛行用の魔道具を目の当たりにして苦笑している。

 もっと大きいものを想像していたのだろう。

 全長3メートルでは2人乗りさえ無理だからな。


「ここまで小さくして輸送機より速いとは驚きだよ」


「そうかな?」


 これでも控えめにしたつもりなのだが。

 ミズホ組なら本気になれば風魔法で輸送機より速く飛べるし。

 それを見せてしまうとマズいことになるだろうとパーソナルジェットを作ったのだが。


 もちろん、とっくの昔に作ってあった風を装って倉の中で突貫作業である。

 さほど大変ではなかったけどね。

 空中空母の艦載機を流用したから。


 というか時間のない中で新設計とか実につまらなくて、やっていられないのだ。

 こういう楽しそうなことを義務的に終わらせることほど萎えるものはない。

 本来なら、じっくり味わうようにやりたいところだ。

 そんなことを言ってられる状況ではないのは充分に理解しているつもり。


 ということで折衷案。

 出来合いの改造という形で落ち着いた訳だ。

 性能だけで考えると実は改造など必要なかったりする。


 が、みんな黒巨人兵を見ているから人型に変形すると気付かれる恐れがあった。

 現場組がどんな風に反応するのかが読めない。

 最悪なのはパニックを引き起こされること。

 可能性としては低いかもしれないが、無いと言い切れるものでもなかったり。


『面倒くさー』


 だが、艦載機をそのまま使って騒がれることになったら更に面倒だ。


 そんな訳でシンプルデザインの機体にデチューンした。

 飛行形態で比較した場合は性能アップしているからデチューンとも言い切れないが。

 とにかく慎重に用意したつもりだった。


「本当に飛ぶのかと思ってる人もいるみたいだよ」


 カーターの視線の先ではオルソ侯爵が頭を振っていた。

 それどころか司令官や副官たちも唖然呆然な状態である。


「あー、みたいだね」


 またしてもやり過ぎてしまったようだ。

 輸送機で飛んできたオルソ侯爵であの状態だ。

 他の面子が茫然自失になるのも頷ける。

 飛ぶ前からこれとは頭が痛い。


「でも、見なかったことにはできないしなぁ」


「確かに今更感はあるね」


「黒巨人兵ほどインパクトはないと思うんだけど」


「どうだろうね?

 空を飛ぶ方が凄いと思ってそうだよ」


「勘弁してくれー」


 考えただけでもゾッとする。


「ハハハ、騒ぎ出さないだけマシじゃないかな」


「そう思いたい」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ミズホ組の操るパーソナルジェットが次々と目的地へ向けて飛び立っていく。

 ポカーンと上空を見上げる現場組。

 驚きが一定のラインを超えると声も出なくなるらしい。


「飛行機って外から見ると、あんな風に飛んで行くんだね」


 カーターは平常運転だ。


「速いですねー」


 フェーダ姫も同様である。


「そういう風に作ってあるからね。

 食糧支援を間に合わせないといけないし」


「そうでした」


「この地方もこの近辺だけじゃないから急がないといけないね」


「心配しなくても指示は出してあるよ」


「そうだったのかい?」


 怪訝な表情を見せるカーター。


「食糧支援と農業支援は違うぞ、カーター」


「おおっ」


 俺の指摘で勘違いに気付いたようだ。


「物資補給を優先して先に行い、自立支援でフォローする訳ですね?」


 確認するようにフェーダ姫が聞いてきた。


「そういうこと」


「勉強になります」


 そんな言うほどのこともないと思うのだけれど。

 とはいえ、あえて否定することでもない。


「それは何より」


 言ってから次の行動をすべく切り替えにかかる。


「さあ、行くぞ。

 次は畑の復活だ」


 返事がない。


『こういうときに皆がいないとノリが悪いよな』


 ちょっと寂しくなった。

 が、しかしである。

 俺が数歩ばかり歩いたところで違和感を感じた。

 カーターたちが付いて来る気配がないのだ。


『どういうこと?』


 怪訝に思って振り返って見たら──


「あー……」


 ものの見事に固まっていた。

 そろいもそろってポカーンと大口を開いている。


「おーい」


 その呼びかけで再起動したのは3人。

 カーターとフェーダ姫、そしてオルソ侯爵である。

 やはり慣れているか否かで差は出るようだ。


 カーターたちは苦笑するに留まったが、オルソ侯爵は激変である。

 大きく目を見開き駆け寄ってきた。

 必死の形相で目の前まで迫ってくる。


「おいおい、近すぎだって」


 オッサンに迫られて喜ぶような変態ではないのだ。

 向こうはそんなことに構っていられないようではあるが。


「どどどどいうころれすかっ!?」


 必死すぎるせいか、どもった上に噛みまくっている。


「落ち着けよ」


「これが落ち着いていられますかっ」


 必死さは変わらないように見えるが、噛まなくなった。

 修正できるなら判断力はあるか。


「人間に栄養を行き渡らせることができたから、今度は畑の作物を元気にするだけだ」


「なんとおっ!?」


 オルソ侯爵が驚愕の表情で仰け反り2歩3歩と後ずさった。

 芝居がかって見えるが、どうも本気で驚いているようだ。

 【千両役者】スキルが芝居ではないと教えてくれる。


「ハルト殿、本当にそんなことができるのかい?」


「ヒガ陛下のことを疑う訳ではありませんが、途方もないことではないでしょうか?」


 叔父姪コンビが前に出てきて聞いてきた。


「大袈裟だな」


 何でもないことだとアピールするために苦笑してみせる。

 が、2人は顔を見合わせて困惑していた。

 どうやら本当に途方もないことだと思っているらしい。


「人が病気や怪我をした時に治癒魔法を使うと元気になるだろう?」


 2人がそろって呆気にとられた表情になる。


「もしかして作物にも治癒魔法は有効なのかい?」


「使うのは治癒魔法じゃないよ」


「「え?」」


 再び困惑する叔父姪コンビ。


「治癒魔法も使えなくはないけど効率が悪い」


「もしかして、それが植生魔法かい?」


「正解だ」


「それは凄いな。

 弱った作物の回復まで可能なんて……」


 カーターは放心気味だ。


「作物の成長促進だけじゃないんですね」


 感心しているフェーダ姫の方が大物度は上かもしれない。


「そのあたりは見た方が早いだろ」


 俺は畑に行こうと皆を促した。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「よぉしっ、行くぜ!!」


 なんて気合いを入れてみました。

 それだけで周囲からは本気っぽく見えてしまうのは【千両役者】スキルのお陰です。

 あと【気力制御】で俺の存在感を強くしてアシストしている。

 これがアニメなら俺の体からオーラが湧き上がっているのが見えているはずだ。


 やり過ぎると失神者が続出することになりかねないので加減も忘れない。


「「「「「─────っ!」」」」」


 背後から何人もの息をのむ気配を感じることができた。

 見なくても現場組やこの地方の農民たちだということが分かる。

 少しの期待と多大なる不安が伝わってくるからね。


 それ故に植生魔法を終わらせた後の反応が怖い。

 成功すると分かっているからこそ皆の反応が読めない。

 大袈裟に騒がれるぐらいで済めばマシだろう。


 だったら、どうするか?

 最初から凄く大がかりであると思わせて、それに見合った結果に持って行く。

 これならギャップが少ないはずだ。

 うまく煽っておけば、もしかすると期待外れみたいな方向へ誘導することも……


『それだけはないか』


 それこそ都合良く期待しすぎである。

 向こうには期待させて俺は期待しないのが成功の秘訣である。

 とにかく凄い魔法を使うっぽく見せる。


 演出は大事だ。

 【気力制御】は一般人相手だと限界っぽいので幻影魔法を使う。

 わざとらしく見えないよう俺の姿が揺らいで見えるようにしただけだが。


「「「「「おおっ!」」」」」


 効果は充分あったようだ。

 更に大魔法に見えるよう光魔法で巨大な魔方陣を描いていく。

 ゆっくりじっくりと。

 その方が完遂させるのが大変な魔法に見えそうだと思ったからだ。


 もしかするとパッと一瞬で描いた方が凄いと思わせることができたかもしれない。

 そうしなかったのは、やり過ぎないよう細心の注意を払っていたからでもある。


『抑えて、抑えて、抑えて、抑えて、抑えて……』


 などと内心ではエンドレスで唱えていたほどだ。

 気合いが入りまくった外見の状態とは大違いである。

 こうでもしないと手慣れた植生魔法なんて、あっと言う間に終わってしまうからな。


 とにかく目一杯のスローで地中の環境を良くしていく。

 程良い栄養と水分を与え。

 土の硬さも整える。

 それが終わったら作物だ。

 根っこから活力を与えていく。

 我慢に我慢してジワジワと元気を取り戻させていった。


「「「「「おおおぉぉぉぉぉっ!」」」」」


 目に見える変化が出たことで外野が騒ぎ出す。

 声の大きさは控えめで反響は思ったほどではなかった。


 が、俺の狙い通りの状況とは違うようだった。

 現場組は絶句しているし。

 農民たちは、これでも声の限りに歓声を上げていた。


 人数が少ないのではない。

 長期にわたる体力低下の影響だ。

 目一杯で歓喜しても、これが限界。


 そう思うと悲しくなってきた。

 向こうは嬉しくて泣いているのにね。


読んでくれてありがとう。

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