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813 予定を決めたら皆でつくってみよう『兵員輸送車?』

「オルソ侯爵、司令官に命じて現場の者たちを休ませてくれるか」


 俺が司令官に言うと畏縮されそうな気がしたので、間接依頼の形を取った。


「はい」


「昼頃になったら移動を開始する」


「撤収ですか。

 ですが、この天候では……」


 未だ嵐がやまない状況を危惧するのも無理はない。

 ここは結界の内側だから風雨にさらされることはないけど。

 外に出れば、横殴りの雨と風が襲いかかってくることだろう。


 悪天候時の行軍ほど消耗するものはないからな。

 だからといって輸送機で移動させるつもりはないし。


 それ以前に、乗り切る人数ではない。

 オルソ侯爵もそのあたりを考えて言っているはずだ。


 ちなみにピストン輸送も却下である。

 そんな面倒くさいことなどしていられない。

 何往復すればいいのかってことになるからな。


「天候は気にしなくても、どうにかする」


「それは……」


 実際に結界でどうにかしているので反論はない。

 が、オルソ侯爵の視線は諦観の濃いものだった。

 いろいろと見せすぎたからかもしれない。


「濡れない移動手段を用意するから」


「……………」


 沈黙が返ってきた。

 輸送機以外にまだあるのかと言いたげに見えるのは気のせいではないだろう。


 だが、それは違う。

 今から作るのだ。

 そのために現場組には休んでもらうのである。

 彼らも夜中に叩き起こされているので疲れているだろうし、丁度いいはずだ。


「あと、一部は撤収じゃなく進軍という形になるだろうな」


「それは……」


「反乱を起こしそうな領主の所へ行くんだが問題があるか」


「騎士はともかく兵の士気は低いでしょうな」


「強制徴兵されたからか」


「左様にございます」


「なるたけ地元に近い者を選んで仕事が終わったら解散させるしかなさそうだな」


「それでも戦うとなると厳しいでしょう」


「いや、戦う必要はない。

 立っているだけの簡単なお仕事だ」


「先程、ヒガ陛下が仰っていたプロパガンダですか」


「そういうこと。

 正規軍から包囲されれば私兵の集団など畏縮するだろ。

 その間に俺が精鋭を送り込むから、こっちに被害は出ない」


「そう上手くいくでしょうか」


 オルソ侯爵は懐疑的だ。

 普通はそう思って当然なのだが。


「俺が手出しをさせない」


「……それは確かに被害が出ないでしょうな」


 わずかな沈黙の後、嘆息しながらオルソ侯爵が呟くように言った。


「それが終わったら農業支援もしていく」


「はあっ!?」


 オルソ侯爵が素っ頓狂な声を出していた。

 目がまん丸になっている。


「そんな簡単にできるものなのですか?」


「魔法で開墾する」


「いくらなんでも……」


 無茶だとでも言おうとしたのだろう。

 だが、ハッと何かに気付いたような表情になって言葉を引っ込めていた。

 壁を沈めた魔法を目の当たりにしているからな。

 少しも無茶ではない。


 ついでに既存の畑に活力を与えることもできるだろう。

 あからさまにやるのは無しの方向で。


「魔力の方は大丈夫なのですか?」


 それでも不安を感じるのだろう。

 オルソ侯爵がそんなことを聞いてきた。

 心配性なオッサンである。


「余裕だな」


 ストレートに躊躇なく答えた。

 できれば曖昧な返事をしたいところだったがね。


「……………」


 とうとうオルソ侯爵が無表情になってしまった。

 こうなることが予見できたから誤魔化したかったのだが。

 それをすると今度は魔法の使用を控えるように言ってきたりしそうだからな。


 誤魔化した手前、魔力のことを理由にされると強く出られなくなってしまう。

 だったら何の問題もないことをアピールするしかないという訳だ。

 そのせいで、かなり呆れられているのだけれど。


『ハハハ、俺への化け物認定ぶりが青天井だぜ……』


 乾いた笑いが俺の中だけで虚しく木霊する。

 まあ、自重しないとこうなってしまうのは仕方がない。

 とにかく早く仕事を終わらせて帰りたいのは強制徴兵された兵たちだけではないのだ。


「そんな訳だから休憩が終わったら出身別に集合するように」


「はっ」


 短く返事をするオルソ侯爵。


「あと反乱を起こしそうな奴のリストアップ」


「はっ」


「それから──」


「回るべき道順ですな」


 3度目は先回りされた。


「そうだ」


 だが、それで終わりではない。


「討伐完了後の農業支援の順番も考えないといけませんな」


「そういうことだな。

 ただ、それは猶予があるから急がなくてもいい」


「畏まりました」


「あと気付いたこととか問題があったら報告ヨロシク」


「はっ!」


 オルソ侯爵がビシッと直立して返事をした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 現場組から離れた場所に陣取った。

 人の背丈を超える塀を地魔法で作って視線を遮っている。

 出入り口は1個所にして外に和太鼓を設置しておいた。

 ノック代わりに叩くよう大きく書いた立て看板とセットでな。


「呆れたもんだねー」


 苦笑しながらカーターが声を掛けてきた。


「そうかい?」


「どんな大魔導師にだってこんな規模の陣地構築を一瞬で終わらせるなんてできないよ」


「大袈裟だなぁ。

 一瞬で終わらせたりしてないだろ?」


「些細なことだよ。

 早いことに代わりはないんだから」


『自重した皆のペースに合わせてもこれなのか』


 ままならないものである。


「我々の人数は数えるほどなのに、この面積は必要だったのかい?」


「陣地じゃないからな」


「じゃあ、なんなんだい?」


「何って言われてもな」


 答えに困るのだが。

 カーターが困惑している。


「あえて言うなら作業スペース?」


「やけに広いよね」


 その口調はどう聞いても感心しているようには思えない。


「それに、どうして疑問形なんだい?」


 ツッコミも入ってくるし。

 どう考えても呆れている。

 まあ、どこそこの球場何個分みたいな広さだからな。


「作業スペースだけじゃなくて……」


 大きな光の魔方陣をいくつも展開する。

 資材をあれこれと引っ張り出す。

 毎度のごとく召喚魔法風だ。

 少量だったら省略してもいいかなと思ったのだが。


『今回はハンパないからなぁ』


 次々と資材が積み上げられていく。


「資材置き場にもなるんだな、これが」


 確保したスペースの3割にドドーンと積み上げられたあれこれ。

 金属だったり木材だったり、とにかく大量だ。


「「ふわぁ」」


 何処から声を出しているのかというような奇妙な声を出している叔父姪コンビ。

 2人とも大口を開けている。

 さすがに呆気にとられたようだ。


「じゃあ、これから皆で兵員輸送車を作るぞー」


「「「「「おーっ」」」」」


 こういうときのノリは、さすがうちの国民たちである。

 設計図を見せる前からワクワクしているぐらいだからね。


「これが設計図だ、ドン」


 幻影魔法で拡大した設計図を一斉に表示させる。

 完成図面を一番大きくした。

 展開図や組み上げ工程は添えるような形で。


 説明は日本語である。

 カーターたちの目があるからね。

 細かな部分や注意点は皆のスマホにメールで送った。

 本当は何もかもメールで送れば良かったのだが。

 何の図面もなしだと変に思われかねない。


 じゃあ見せなきゃいいのかという話が出てくるかもしれないが、それは悪手だ。

 こういう時に遠ざけようとすると逆効果。

 余計に興味を持たれてしまう。


 普段通りのように見せかけて何も言わないのがモアベター。

 後はカーターたちの目が追いつかないよう皆で作業を分担して煙に巻く。

 まあ、デザイン的に奇抜なせいか皆が煙に巻かれているような状態だけど。


「これが兵員輸送車なの?」


「けったいな形しとるで」


 レイナとアニスが怪訝な表情で早速ツッコミを入れてきた。


「列車のようですが?」


 エリスが首を傾げながら感想を述べる。

 細長い車両部分があって連結させているから、そう見えるのだろうが。

 疑問を抱くのは全体のフォルムが列車とは異なるからだ。


「それにしては下半分が変なスカートで覆われていますよ?」


 クリスが違いを指摘する。


「車輪もないようですね」


 マリアもだ。


「こっちの図面」


 ノエルの言葉に皆の注目が集まった。


「形が違う」


「「「「「ホントだ」」」」」


 ノエルの指摘を受けて一斉に声が上がった。


「窓がなくて代わりにノズルが斜め後方に出てますね」


「屋根の部分にもノズルが出てるよ、お姉ちゃん」


 レオーネとリオンが真っ先に大きな違いを口にした。


「つまり、これが機関車両になるのか」


 リーシャが自分の推測したことを述べた。


「だが、輸送車両と同じく車輪がないぞ」


 ルーリアが指摘する。


「ホバークラフト」


 ノエルがポツリと呟く。


「「「「「あ─────っ」」」」」


「それで車輪がなかったんですね~」


 ダニエラがフンフンと感心したように頷くと、皆が釣られて頷いていた。


読んでくれてありがとう。

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