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808 第3形態で本気になるか?

「尻尾で輪っかを作って何をするつもりだ?」


 思わず口から問いかける呟きが漏れていた。

 相手に対する質問ではない。

 見当がつかなかったことによる苛立ちが幾分ふくまれている。


 そんな使いづらいものが攻撃手段になるはずもない。

 そう思っていたら今度はモコモコと奴のボディが波打ち始めた。

 まるで昔のギャグ漫画に出てきた筋肉を移動させる技だ。


 それが両腕に集まっていく。

 左の手首から先が伸び、先端が斧になった。

 そして右腕は肘から先が大きく長く変形していく。

 その形状は馬上槍だ。


『あの低速でランスチャージか?』


 ならば尻尾の輪っかは何なのか?

 明らかに走行の邪魔だ。

 輪っかが地面に干渉してブレーキになってしまう。

 水平に向きを変えても空気抵抗にしかならない。


 バランサーとして考えても尻尾より効率が悪いし。

 ならば第3の攻撃手段かとも考えたが、すぐに否定する。

 取り回しが悪すぎるのだ。

 互いの武器に干渉するのは明らかだからな。


 意味が分からない。

 俺が困惑していると、黒巨人兵は軽く真上にジャンプした。


「は?」


 それは一瞬の困惑だった。

 そして疑問が氷解する。

 股の間に輪っかを通したのだ。

 黒巨人兵は輪っかの頂点で跨がっていた。

 頑丈にできているらしく、たわんだりはしていない。

 その姿はまるで一輪車に乗っているようだ。


『騎兵型の第3形態ってことか』


 ただ、馬代わりにしては重厚さに欠ける。

 本体のゴツさと一輪車の細さが釣り合っていないからだろう。


 せめて2輪であったならと思わなくもない。

 が、小回りが利くという点では一輪車の方が有利。


 それに足裏の車輪で走るよりは速そうだ。

 ならば右腕のランスも宝の持ち腐れとはならないだろう。


 懐に飛び込んでも斧で攻撃してくるはず。

 あるいは斧を盾がわりにするか。


 よく考えている。

 特に一輪車の発想はなかった。


 転倒の恐れもないだろう。

 両脚がバランサーになる。

 普通の一輪車と違って脚は自由に動くからな。

 そして補助輪も足裏にある。


「来るっ!」


 一輪車が土煙を上げた。

 黒巨人兵が停止状態から加速する。

 足裏の車輪より明らかに速い。

 一気に距離を詰めてきた。


 歩法でスライドしてランスの外側に回避する。

 斧での追撃をさせないためだ。

 だが、そんなことは黒巨人兵も織り込み済みだったのだろう。

 ランスが俺のスライドに合わせて追随してきた。


「おっと」


 突き出されたランスを更にスライドして躱した。

 思っていた以上に侮れない。


『攻撃が正確だ』


 いや、グランダムファンなら「正確な攻撃だ」と言うべきか。

 コンピューターに予測させやすいかまでは知らないが。


 向こうにしてみれば小さい的である俺を的確に追い回せるとは思っていなかった。

 第3形態はひと味違うようだ。


 通り過ぎていった黒巨人兵が一輪車を大きく傾けて左へ急旋回する。

 左脚で転倒を阻止する強引な旋回だ。

 膝を使って衝撃を吸収しつつ足裏の車輪を補助輪代わりに使っていた。

 右脚はバランサーってところだろう。


 大きく減速することになるが、加速力はロケットパンチの比ではない。

 トップスピードでは負けているものの、それは旋回性と加速力で補われている。

 こちらの方が攻撃までの間隔が短いことを考えると、より手強いと言えるだろう。


「切り返しが速いな」


 ランスチャージには短い距離だ。

 が、向こうは端からランス攻撃をするつもりがなかったらしい。

 ランスを斜めに広げるように構えて俺の回避方向に絞り込みをかけてくる。


「斧が本命かよ」


 そのまま接近して薙ぎ払ってくる。

 柄を短くして懐に入らせないようにしていた。


『だったら外に回避するまでだ』


 スライドして躱しにかかったのだが。

 黒巨人兵が斧の柄を伸ばしてきた。

 刃の部分が滑るように追いすがってくる。


「おわっと」


 後ろにステップして多い目にマージンを取った。

 なかなかに意表を突く攻撃だ。

 危うく服が切られるところだった。


 斧も体の一部だったことを失念していたのはミスだ。

 変形は停止中でなくても可能なようだ。

 ある程度の制限はつくのかもしれないが。

 などと余裕ぶっている場合ではない。


 斧を振った勢いを利用して黒巨人兵がコマのようにスピンした。

 強引に進行方向を変えてランスを突き込んでくる。


「危ねえー」


 これも歩法で回避。


 黒巨人兵は突き込みの勢いを殺さぬまま加速して駆け抜けていった。

 追撃は貰わないとばかりに斧を下からすくい上げるように振るって牽制していく。

 背後を振り返らぬままなのは不意を突くためか。

 それともバランスを崩さぬためか。


 いずれにしても割と息つく暇がない攻撃をしてくる。

 まるで先程まではウォーミングアップだったと言わんばかりだ。


『さて、次はどう来る?』


 ランスチャージに充分な距離を稼いでから俺を中心に反時計回りで回り始める。

 今度も斧が本命か。

 一見するとチャージングするタイミングを見計らっているように見える。


 だが、先程と同じくランスのリーチで逃げ道を防ぐ構え方だ。

 あるいはそう見せかけてランスで攻撃することもあるかもしれない。


「ん?」


 2周3周とするうちに変化が出てきた。

 徐々に描く円を狭めているのだ。

 プレッシャーをかけるのが目的か。

 最初はそう思っていたのだが。


 更に周回を重ねるごとに別の変化を入れてくるようになった。

 俺の背後に回り込んだ時だけ周回半径をより短くしているのだ。

 しかも、これを悟られぬようスピードを微妙に変えている節がある。


『小賢しい真似をするじゃないか』


 徐々に近づいてきた。

 今の俺は待ちの体勢である。

 自然体の構えで立っているだけだ。


 もしこれを向こうの動きに合わせて体の向きを変えたなら……

 黒巨人兵が誤魔化す気ならタイミング次第でバランスを崩してもおかしくない。

 そうでないなら──


「どうするよ?」


 問いかけながら奴が背後に回り込もうとする瞬間に左足を引いた。

 上半身がぶれることなく黒巨人兵の姿を正面に捉える。


 ちょうど倒れ込む角度を深くして接近しようとする瞬間だった。

 奴の体がぶれた。

 が、瞬時に体勢を立て直す。

 そのまま直線に近い軌道で俺に向かって突進してきた。

 まるで予定通りと言わんばかりの軌道変更である。


『これが狙いだったか』


 俺が黒巨人兵の動きに気付いていることまで計算に入れて反応するのを待っていた。

 そう考えた方が立て直しのスムーズさに納得がいく。

 反応して動いた直後なら躱しづらいであろうと計算したか。


 並みの人間が相手であるなら決して間違いではない。

 今の体を開くような動きで右脚を軸にした。

 足さばきが未熟なら次の動きがワンテンポ遅れるだろう。


『俺の動きを観察していた割にはお粗末な対応だな』


 それでもランスを広げて持ち視野範囲から先端を遠ざけようとしている。

 ふくらみ気味に大きめの弧を描きながら突進してくるのも、それが目的か。


 だからこそ向こうの意図が見え見えだ。

 ギリギリのタイミングでランスを突き付けて来るつもりだろう。


 果たして、その通りであった。

 グイッと内側に戻されたランスの先端が迫ってくる。

 絶妙のタイミングだった。


 西方の冒険者ならそこそこ高レベルであっても何が起こったか見切れなかったはずだ。

 だが、あえて言わせてもらおう。


「温いわっ!」


 正確な攻撃だからこそ、どこに来るかとタイミングは丸わかりなのだ。

 目を閉じていたって分かる。

 ランスの先端を下から真上に蹴り上げて──


「バゴオォッ!」


 爆散させる。

 軌道も変わった。

 黒巨人兵の進路ごとだ。


 こういう反撃は初めてのはず。

 即応はできないだろう。


 現に奴は小細工できずに通り抜けていった。

 いや、何もしなかった訳ではない。

 瞬時にランスの先端を修復させていた。


『やりやがる』


 少し感心させられたが、それは少し早かった。

 黒巨人兵が通り過ぎるのに合わせて振り返る。

 不意に奴が地面にランスを突き立てた。


「なにっ!?」


 バランスを崩して前のめりに倒れ込んでいく。

 いや、自ら倒れ込んだ。

 どんどん地面に刺さっていくランス。

 更に体をバネのように縮めることで突進の勢いを殺す。


 そう、バネだ。

 縮んだバネは伸びる。

 倒れ込んだ体勢から勢いよく放たれるのは高速で回転する一輪車の突きだ。


「おわっ」


 横向きで放たれたそれはスライドでは躱せない。

 俺はバックステップで距離を取った。


 黒巨人兵は深追いはしてこずに体勢を立て直しにかかる。

 ランスは細長く変形させて引き抜いていた。

 一輪車を背後に戻して両脚で立つ。

 立て直しが終われば再び一輪車に跨がった。


 バックで交代していく。

 隙を見せまいとしているのだろう。


『いや、違う!』


 あれは奴に意識を向けさせるためだ。

 ランスで穿った穴から黒い槍が飛び出してきた。

 引き抜く時に先端を切り離していたらしい。


「切り離した後も変形できるかよ」


 それでも射出できるのかと驚かされたが、見れば槍の穂先以外は螺旋状である。

 射出はスプリングによるようだ。


 飛んで来た黒槍は最小限の光壁を展開して止めた。

 そして聖炎で燃やす。

 呆気ないくらい簡単に燃えてしまう黒槍。


『本体から離れると耐久性が落ちるのか?』


 それとも元々が脆いのか。

 判断がつかないが、それは確かめればいいだけのことだ。


読んでくれてありがとう。

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