800 それはマジックショーのように
「ドガガガガ────────ッ!」
城が形を失っていく音が聞こえる。
が、バーグラーの時に比べれば音は控えめだ。
振動の方は皆無。
そうなるよう音は半減させ振動はシャットアウトした。
あまり旧スケーレトロ組をビビらせてもしょうがないからな。
目の前の光景だけでもインパクトはあるけど。
剣に槍に斧などが空から勢いよく降り注いでくるのだ。
しかも城と城壁を削りながら、もうもうと土煙を上げている。
これ以上の刺激はパニックを引き起こしかねない。
『それに壊すだけじゃないしなぁ』
後の予定のことも考慮して土煙が立ちこめるように風魔法で調整している。
結果、城や城壁が土煙に覆われたことで破壊の過程が見づらくなっていた。
俺は前を向いたまま後ろの様子を覗った。
今度は【天眼・遠見】も使っている。
パニックになりそうなら対応しないといけないからな。
少し離れた赤線の枠内にいる面子の中でも5人組の兵士が目を引いた。
何故かは俺にも分からなかったが、とにかく気になったのだ。
「ど、どうなってるんだ?」
「色んな武器で壊してるんだろ」
「そんなのは分かってる。
俺が言いたいのは煙が邪魔で見えないのがもどかしいと言ってるんだ」
「分かるけど、見えない方がいいかもよ」
「なんでだよ」
「見えた方がいいだろ」
「そうだそうだ」
「あの王様が壁を蹴り飛ばした時、どう思った」
「どうって言われてもな。
化け────────っ!」
周囲の面子に寄って集って口を塞がれている兵士がいた。
化け物と発言しそうになったのを止められたようだ。
「バカか、お前はっ」
声を潜ませて仲間の口を塞いでいる兵士が言った。
「失言だぞ、失言」
「考えて喋れ」
「その言葉は言っちゃならんと理解しただろうが」
追撃する仲間たち。
「す、すまん」
ようやく解放された失言しかけた兵士が謝った。
何だか可哀相になってくる。
そこまで向きになって責めなくても、と思うのだ。
その程度の失言でキレたりはしないと言ってやりたいくらいである。
言ったところで信じてはもらえないのだろうが。
憐れに思ったことでちょっと親しみを感じてしまったのか、密かにあだ名をつけた。
その名も、失言兵士くん。
ネーミングが微妙なのは適当に考えたからだ。
うちの国民じゃないから、そこまで真剣に考えたりはしない。
「まあ、いいさ。
とにかく凄いと思ったことは確かだろう?」
「あ、ああっ、それは間違いなく」
動揺を残しつつも失言兵士くんは頷きながら返事をした。
「アレより範囲が桁違いに大きいんだぞ」
「おお、そうだな」
「城壁まで満遍なくだもんな」
「あんなに沢山の武器を一度に見るなんて、ここは戦場か?」
「まさしく貴様の言った戦場の規模だ。
しかも城を破壊する魔法なんだぞ」
「魔道具じゃなくか?」
「あれだけおびただしい数の魔道具をどうやって用意するんだよ」
「空飛ぶ倉庫まで用意する王様だから、できるんじゃないか」
輸送機が空飛ぶ倉庫などと言われてしまっている。
あながち間違っているとも言えないか。
飛行機という概念がないのだし。
とにかく1人の兵士の発言は仲間たちを沈黙させるには充分だったようだ。
「「「「………………………………………」」」」
「できそうだな」
「否定できないのは確かだ」
「仮にあれが魔法で形作ったものだったとしても同じくらい凄いことだ」
「それも言えているな」
「ああ、なるほど。
そういうことか」
兵士が頷きながら1人で納得していた。
「おい、どういうことだよ?」
「俺たちにも分かるように話せ」
「さっき、こいつが言っただろ。
見えない方がいいかもって」
「さすがに、それを忘れるほど馬鹿じゃないつもりだぞ」
失言兵士くんが言いながらドヤ顔をした。
そんなに自慢するほどのことでもないだろうに。
と思ったら、仲間の兵士たちが小さく溜め息をついていた。
「「「「……………」」」」」
微妙な沈黙の間が訪れる。
「な、なんだよ」
失言兵士くんが仲間の視線に狼狽える。
何らかの追及を受けると感じたのだろう。
「何でもない」
言葉の上ではそう言っていたが、仲間の兵士たちは思うところがあるようだ。
どうやら以前に何かあったらしい。
追及しないことにしたようだが。
時間の無駄と感じたのかもしれない。
何であれ、俺と関係のない話だ。
そこに首を突っ込むつもりはない。
「とにかく、この規模で魔法を使うなり魔道具を扱うなりしているんだぞ」
「そういうことか。
煙のない状態だと、コイツが失言しかねんな」
「えーっ」
不服そうに唇を尖らせる失言兵士くん。
「「「「何か言ったか、ああん?」」」」
「いや、何もないぞ……です」
仲間たちの有無を言わせぬプレッシャーに震え上がる失言兵士くん。
そのせいか、発言の最後だけを修正しようとする奇妙な言い回しをしていた。
「けどよ、ひとつ疑問があるんだ」
「疑問だって?」
「あんなスゲえもん見せられて疑問に思う余地があるのか」
「アレが魔法だとすると、誰が発動したんだ?」
「「「「あっ」」」」
「確かにそれは疑問というか謎だ」
「じゃあ、あの武器は魔道具ってことか」
「そうとも限らんぞ」
「なんだって?」
「あんな魔法は見たことがない。
だが、儀式魔法には後で発動させる呪文があるらしいんだ」
「そんなものが……」
「よく知ってたな」
「知り合いの学者に聞いた」
「魔導師じゃないのかよ」
「本人は魔力が少なくて魔術士レベルなんだとよ。
魔導師になることを諦められずに研究を続けて学者になった変人だ」
「お前に変人と言わせるくらいだから研究バカなんだろう」
「まあな」
「それなら本職よりも知識が豊富かもしれんなぁ」
「そうか」
「なるほど」
何だか妙な誤解をされているが、その方が都合がいいので放置しておく。
まあ、都合が悪くても下手に介入できないのだが。
覗きをしているようなものだからな。
そして、おあつらえ向きに破壊完了だ。
オープン・ザ・トレジャリーを止める。
監視をしつつ、もう1人の俺を呼び出して次の作業に入ってもらう。
土煙が残っている状況をとことん利用するつもりだ。
「お、おい、止まったぞ」
「どうなったんだろうな?」
「それは、この煙が完全にどうにかならんことには分からんよ」
「俺は何となく想像がつくけどな」
「何だって言うんだよ」
「瓦礫の山に決まってるだろ」
『それはどうかな』
瓦礫なんて残す訳がないのだ。
煙が晴れれば綺麗さっぱりな状態を目の当たりにすることになるだろう。
ついつい、ほくそ笑んでしまいそうになる。
「さすがにそれは無いんじゃないか?」
「だよなー。
城壁は低いけど並みの厚さじゃないんだぜ」
「あれが全部壊れるとは思えないんだが」
反論を受けた兵士は呆れた目を仲間に向ける。
「お前らは何を見ていたんだ」
芝居がかった感じで溜め息までついていた。
「何って言われてもなぁ」
「魔法?」
「そういうことじゃなくてだな……
煙で見えなくなる前のスゲえ破壊力は見たじゃないか」
「おお、そうだな」
「見た見た」
「アレがずっとだぞ。
俺たちが話している間中ずっとだ」
念押しする兵士の言葉に気圧される仲間たち。
「お、おう」
「……言われてみりゃ、そうなのか」
「瓦礫の山ってのも、あながち無いとは言い切れないようだな」
「よく分からんが、とにかく凄かったと思う」
失言兵士くんだけはアッケラカンとしていたが。
とにかく彼らの意見が瓦礫の山に傾いたところで、お披露目だ。
土煙を風魔法で吹き散らした。
「「「「「おお───────────っ!」」」」」
赤線の枠内に集まった旧スケーレトロ組の面々が一斉にどよめいた。
土煙が消えると同時に姿を現したのは瓦礫の山などではなかった。
更地になっている訳でもない。
真っさらな城壁。
その向こうには同じく真新しい城があった。
「オルソ卿、これは一体……」
新伯爵がオルソ侯爵に問いかけるが、答えられるものではない。
「分からぬ。
王城が破壊されたものだとばかり思っておったが……」
困惑の表情でそう言うのが精一杯だったようだ。
城を壊していたと思ったら、以前とは建築様式の異なる城に変化していた。
信じられないに違いない。
マジックのショーでも見たことがある者なら話は別だろうが。
西方にはそんな文化がないのは【諸法の理】で確認済みである。
「我々は夢を見ているのでしょうか?」
エーベネラント風の城を見上げながら新伯爵が頭を振った。
「いや、そうではないだろう。
これもヒガ陛下の力なのだ」
「まさか……」
驚愕に目を見開く新伯爵。
「他に説明がつけられるか」
「……いえ」
「ならば、そういうことだ。
我々は実に幸運だった」
「幸運ですか?」
新伯爵は意味が分からず困惑していた。
「エーベネラント王国に宣戦布告していたら、この結果にはならなかったぞ」
「あ……」
「それに疲弊した我が国の状況を救っていただけるかもしれぬ」
期待を込めた目を離れた場所にいる俺に向けていた。
どうやら前線の兵を引き上げさせて終わりという訳にはいかないようだ。
読んでくれてありがとう。




