782 使者はそっちで決めてくれ
すみません。
遅れました。
結局、クリスの意見が最も支持された。
『ふーんだ、ふーんだ』
いじけてみるが何も解決はしない。
それは分かっているが、気持ちは収まりがつかない訳で。
『どうせズルいって言うなら、最初からぶちかましてやるもんねー』
八つ当たりもいいところである。
ハッキリ言って子供の発想だ。
みっともないので、それを表に出すのは躊躇われる。
そのぶんフラストレーションは溜まってしまうのだが。
何かしら解消する手段が必要になるだろう。
とりあえず俺は癒やしにそれを求めることにした。
「マリカ、おいで」
「なになにー?」
てててとやって来て小首を傾げる。
俺は自分の膝をポンポンと叩いた。
それだけで俺の意図を察したマリカが満面の笑みを浮かべて俺の膝に座る。
『うーん、これだけで癒やされるなー』
心のささくれ立った部分が少しだが丸くなっていくのが分かった。
だが、まだまだである。
これ以上となればマリカを膝の上に乗せてナデナデするくらいしか手がない。
幼女モフモフである。
字面だけを見ると危ない雰囲気が満載だが、気にしてはいけない。
俺は癒やされたいだけだ。
『考えてみると、今回は不愉快なものばかり見てきたからなぁ』
他所の国とはいえ村の全滅は気分が悪かった。
しかもアンデッド化させて使役する魔道具を使っていたし。
王族を暗殺するためとはいえ度が過ぎるというものだ。
それを画策した骸骨野郎は文字通り嫌な奴だった。
その割に雑魚だったが。
逆にそれが俺の中で苛立ちを増幅させていたとも言えるか。
名もなき悪魔にもムカついた。
存在を消滅させても、苛つきは心の中で何処かに残っていたのかもしれない。
それは俺がズルい認定されることで吹き出す形になった。
とはいえ最後まで出し切ったようには思えない。
まだ、終わっていないという意識がそうさせているのだろう。
どこかで完全解消するしかなさそうだ。
が、この場でそれを実現させるのは難しい。
マリカのナデナデも一時的な抑制効果しかない訳だ。
『これはこれで至福ではあるんだけどなぁ』
根本的な解消にはならないのが残念なところ。
要するに俺はスカッとしたいのだ。
そのためには体を動かす必要がありそうである。
穏当な手段で考えると、車やバイクを心ゆくまで思いっ切り走らせるとかだろうか。
『ただ、この方法は西方ではやりづらいんだよなぁ』
派手な運転をすると誰かに目撃されて魔物扱いされるとかありそうだし。
とにかく騒動の元になってしまう。
光学迷彩とか結界を張りながらだと心ゆくまでとはいかない。
片手間で可能なことだが、わずかに注意がそちらに向いてしまうからな。
スッキリはできないだろう。
となると、手っ取り早く解消するには何かをぶん殴るぐらいしか思いつかない。
が、それはしばらくお預けだ。
周辺被害が出そうな真似をこの国で実行できるはずがない。
『少しくらいは何かを壊さないとね』
やるとするならスケーレトロ王国でだろう。
向こうの王は卑劣な輩であるのは確認済みである。
遠慮をする必要がない。
殺しはしないがね。
向こうだって、まだ宣戦布告はしてきていないのだし。
いつでも戦争ができる状態にはしているけれど。
人的な被害さえ出さなきゃ多少の破壊活動くらい問題なかろう。
そんなことを考えている間にカーターがまず復帰してきた。
『気が付いたか』
続いてフェーダ姫。
爺さん公爵は、もう少し時間がかかりそうだ。
「みっともないところを見せてしまったね」
カーターが苦笑していた。
「よく考えれば、驚愕になど値しなかったというのに」
カーターの言葉にフェーダ姫がうんうんと頷いていた。
「宣戦布告には我が国の人間が行くべきだよね」
それだけで何を考えているのが分かった。
「別にその必要はないぞ。
俺が代理で行くから」
こうでも言っておかないと爺さん公爵がうるさそうだからな。
「いやいや、誰も行かない訳にはいかないよ」
カーターがこれ以上ないというくらいニコニコしている。
真面目な話をしているだけのはずなのに。
誰が見ても行きたがっているのは明白だ。
つい先程まで失神同然の状態だった人間とは思えない。
「やはりここは私が使者として出向く必要があるだろう」
「いけませんぞっ!」
爺さん公爵が割り込んできた。
今のカーターの一言が完全な復帰を促したのは間違いあるまい。
「大事な御身を何と心得られますかっ」
「ほら、言わんこっちゃない」
こちらに矛先が向けられないように先手を打っておく。
「逃げたね、ハルト殿」
カーターが恨めしそうな声音で言ってくる。
何故か表情は楽しそうではあったが。
「そこまで言うならヒューゲル卿を説得してみなよ。
それができるなら連れて行ってもいいさ」
安い挑発である。
だが、カーターと爺さん公爵に対する両睨みの手でもあるのだ。
判断を爺さん公爵に任せることで俺はノータッチになった。
結果がどうなるにせよ、どちらからも恨まれることはないはず。
「私は行くよ」
「いいえ、ダメです」
早速バトルが始まった。
俺は傍観者に徹する。
ここで口出しをするのは自分の手を潰すようなものだからな。
2人が言葉で応酬し合うが声を荒げることはない。
向こうには知られていない今がチャンスだの。
そういう問題ではないだの。
そんなやり取りが続く。
「ねー、あるじー」
ナデナデの合間に振り返りながら見上げてくるマリカ。
「んー?」
「長くなりそうだよー」
「だなぁ」
逃避のために放置プレイを選んだが、失敗だったようだ。
が、これ以上の上策を思いつかなかったのも事実。
あの時点では、ああするしかなかった訳だ。
「恨みっこなしでジャンケンにすれば良かったのにー」
『なんですとぉっ!?』
幼女の発想にギャフンである。
「そいつは盲点だった」
だが、まあ今更だ。
それに提案したところで受け入れられたかは分からない。
上手く誘導する必要はあっただろう。
「決着がつかないなら、そうするか」
数時間以上も論戦を繰り広げれば互いに消耗しているだろう。
判断力も少しは鈍るはず。
休憩する余裕を与えず提案すれば受け入れるかもしれん。
『我ながら発想がセコいぜ』
できれば話し合いで互いに納得してほしいところだ。
その可能性は低いと言わざるを得ないがね。
どちらも頑固者だし。
その読み通り、昼食までに決着はつかなかった。
「融通が利かないなー」
「その言葉、そっくりお返ししますぞ」
互いにハアハアと肩で息をするほど言い合っていた。
『何処の早口言葉だよ』
とか思ったほどだ。
「いやぁ、滑舌がいいねぇ」
トモさんが感心していたくらいだから相当なものである。
それはさておき──
「時間切れー」
「なっ、それはないよー」
俺の宣告にカーターが情けない声で縋ってくる。
一方、爺さん公爵はドヤ顔をしていた。
「決着がつかなかったってことは引き分けだよな」
「なんですとぉっ!?」
爺さん公爵の勝ち誇った顔が一瞬で呆気にとられたそれに変わっていた。
「カーターはヒューゲル卿を説得できなかったのは事実だ」
「そうですともっ」
「だが、カーターを諦めさせることはできたのかい?」
「ぬうっ」
爺さん公爵は呻くだけで答えることができない。
「私は諦めていないよ」
ここが勝負所と見たのだろう。
カーターが力を込めて言ってきた。
「ぐぬっ……」
押され気味の爺さん公爵は顔を真っ赤にしている。
怒っているようには見えない。
歯痒い感じだろうか。
決着はついていないが、このままではカーターを諦めさせることができない。
そう思うからこそ力んでしまうのだろう。
「つまり、どちらも勝てていない。
相手に負けを認めさせていないんだから当然だよな」
「では、昼食後に再開するということで──」
そう言いかけたカーターを「チチチ」と舌を鳴らしながら指を振って制止する。
「日が暮れるまでやり合ったって決着はつかないよ」
「うっ」
カーターも自覚と予感はあるのだろう。
反論はなかった。
「ちなみに日が暮れたら出発するから」
俺がそう言うとカーターが慌てだした。
「それは困るっ」
「俺は困らない」
「そこを何とか」
懇願までしてくるカーターである。
「叔父様……」
フェーダ姫も呆れ気味だ。
当のカーターは姪っ子の目など意に介してはいないが。
『王族としてのプライドを持とうぜ。
もうアンタしか王位を継ぐ者はいないんだからさ』
そう言いたいところだが、俺も人のことは言えないので語ることはしなかった。
それに型破りな王がいてもいいかなとも思うし。
「ならば公平な手段で決めよう」
「公平な手段って?」
「己の運だけで勝負する一発勝負のジャンケンだ」
一瞬、呆気にとられるカーターと爺さん公爵。
「何をバカな──」
反発しかけた爺さん公爵に指を突き付けながら威圧する。
「決着のつかない論争で時間を無駄に費やすよりは余程マシだと思うがな」
「うぐっ……」
読んでくれてありがとう。




