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764 呼んだら呼んだで……

「賠償って言われてもなー」


 こういう要求がされるとは思っていなかった。

 何か欲しいモノでもあるのだろうか?

 普段から欲しいものはすぐ手に入る環境なんだけど。


「何が欲しいんだよ?」


 まだ見ていない動画とかだろうか?

 バイオレンスな感じのだったら何でもござれな感じで見るし。


 あるいは新作料理ってこともあり得そうだ。

 動画で料理番組とか見て、あれが食べたいとか言い出すこともあるからな。


 それか変装用の新しい着ぐるみとか。

 前にドルフィン・グレンの設定をミスったとか言ってたし。

 無口すぎて何も喋らないのは厳しいってさ。


 そんなあれこれを考えていたのだが、俺の予想は全部ハズレ。


「くぅっ、くーくくぅくーくっくぅくー!」


 バトル、肌がひりつく様なバトルをっ! とか言っちゃってますよ。

 眩しいのは収まったのか両腕を上げて「怒ったぞ」のポーズで文句を言ってくる。


「くーくぅくー!」


 ズルいズルい! とまで言うし。

 デカいピンクの縫いぐるみが怒ってみせても迫力には欠ける。

 ただ、バイオレンスな本性を知っている身としては冷や汗ものだ。


「何がズルいんだよー」


「くうくーくくぅくっくーくーくぅくくっくうくぅ」


 こっちが留守番している間に皆はバトルの連続っ、ですか。

 何が起きているかローズには筒抜けなんだよな。

 俺と契約してつながってる上にパワーアップしてるからさ。

 距離とかまるで関係なくなってるし。


 強制的に見える訳じゃないけどね。

 見たいと思ったら阻害する要因は何もない。

 忙しいと見逃したりしてしまうけど暇だと見放題なのである。


 便利だけど、こういう状況だと厄介なんだよな。

 おまけに際どい発言してくれるし。


『バトルの連続って……

 まったく、冷やっとさせてくれるぜ』


 皆はって言ってたから大丈夫だろうけど。

 主語なしだったらシノビマスターとの関連を疑われかねない。

 もし、俺限定で言ってたら総長には確実に疑念を抱かれただろう。


『頭に血が上って下手なこと言い出さないだろうな……』


 心臓がドキドキものだ。

 とにかく話をそらさないと、冷や汗をかくだけではすまなくなる。


「機会があればな。

 今は仕事だから」


「くくぅ、くうくくっ」


 約束っ、約束ぅーっ、とか言われてしまった。

 どんだけフラストレーション溜めてるんだ。


「分かったから落ち着けよ。

 でないと、お留守番に逆戻りだぞ」


 プンスカ怒っていたローズがピタリと動きを止めた。


「くーくぅ?」


 お留守番? と首を傾げながら聞いてくる。


「そう、お留守番。

 それも今すぐ帰還して当面は何があってもお留守番」


「くくぅくーくう!?」


 何その罰ゲーム!? とか言いつつアレな叫びの有名絵画のようなポーズで固まるローズ。


「罰ゲームじゃなくて罰そのもの。

 別の言い方するなら、お仕置きだ」


「くーっ!」


 ガーン! とショックを受けて崩れ落ちる。

 四つん這いのガックリポーズで固まってしまった。

 相変わらずボディランゲージが忙しないローズさんである。


「やれやれ……」


 思わず溜め息が漏れた。

 どうにか静かにはなった。

 ショックを受けた状態で仕事になるかどうか怪しい状態だけどな。


「真面目に仕事しないと──」


 途中まで言いかけたところでローズが細長い耳をビクンと震わせた。

 瞬時に起き上がり直立。

 ビシッと敬礼のオマケ付きだ。


「やる気があるようでよろしい」


 ようやくスタンバイ完了である。

 召喚するより手間であった。


『疲れるわー』


 だが、まだ終わりじゃない。

 それどころか始まりもしていない。

 俺とローズのコントじみたやり取りは、さぞかし3人を待たせたことだろう。


「いやー、すまんな」


 謝りながら振り返る。


「此奴はちょっとばかりお調子者なのが玉に瑕なんだが……」


「「「……………」」」


 3人とも固まっていた。

 今にも飛び出さんばかりの目。

 顎を外さんばかりに開いた大口。

 両肩は脱臼したのかと思うほど完全に脱力しきって落ちている。


「あるぇ?」


 ダニエルがそうなるのは分からなくもない。

 ナターシャも。

 けど、総長がここまで唖然としているのは意外だった。


「もしもーし!」


 呼びかけてみるが反応がない。

 もっとも復帰してくれそうな総長の頬を突いてみるが……


「ダメかぁ」


 完全に無反応であった。

 続いてナターシャにも同じようにしてみた。


「……………」


 やはり固まったままで話にならない状態だ。

 ダメ元でダニエルにもと思ったが、少し考えた。

 野郎が相手だから少しばかり遠慮のリミッターを外してみてもいいのではと。

 という訳で揉み上げを引っ張ってみた。


「……いっ、いででででで─────っ!」


 ジジイが釣れた。

 痛そうにして体をクネクネさせている姿は釣り上がった魚のようである。


「なっ、何をするぅーっ!」


 歯をむき出して威嚇してくるダニエル。

 かなり痛かったようだ。


「いやー、すまんすまん。

 3人とも呼びかけても無反応だったからさー。

 これなら正気に戻るかと、ついやってしまった」


「ついではありませんぞっ!」


 ガルガルと犬のように吠えかかってくるダニエル。


「呼びかけた時点で無反応だった自分を恨むんだな」


「ぐぬぬ」


 ダニエルは唸っているが正気に戻ったので放置だ。


「この2人は、こんだけ騒いでもダメか」


 野郎相手のように粗雑にはできない。

 筆の穂先を使って耳周りでもくすぐってみるしかないだろうか。


「ヒガ陛下っ」


 ダニエルがうるさい。


「なんだよ」


 俺は振り返らずに返事をする。


「ヒガ陛下っ!」


「あー、もうっ。

 謝ったし、そっちも自業自得だろ」


 それで矛を収めろというつもりで言ってみたのだが。


「あの魔物は何ですかっ!?」


「はあっ、魔物ぉ?」


 思わず振り向いてしまったさ。

 そんなものは、この場にはいない。

 気配だってしていないし。

 俺が侵入警報の結界を張っているから誰も入ってきていないのは明らかだ。

 それ以前に隠れ里には魔物など最初からいない。


「何を──」


 言っているんだとダニエルを問い詰めようとした言葉が途中で止まった。

 そこにいるのだと指差していたからだ。

 指先を目で追えば確かにいた。

 人のようで人ならざるものが。


「くぅっくくぅくー!」


 魔物とは何だーっ! と憤慨していた。

 ダンダンと地団駄を踏んで、先程よりも怒っている。


「くーくーくっくう、くぅっくー?」


 喧嘩売ってんのか、この野郎っ? とまで言っている。

 それどころかシャキーンと鉤爪まで伸ばして振り回していた。

 先端も刃も鋭さはないので突いたり斬ったりまでするつもりではないのだろう。

 だが、あれで殴られるだけでも痛いだけでは済まないことになりかねない。


『また面倒な……』


 ダニエルは完全に地雷を踏み抜いたのだ。

 本人はそれに気付かずにいたが。

 ローズの言葉が理解できないとかではない。

 それ以前の問題で、届いていないのだ。

 別の言い方をするならパニックで脳が入力を受け付けない状態と言うべきか。


「どどどどうなっているのですっ!?」


 混乱状態が、ややぶり返している訳だ。

 物凄く疲れることをしてくれたことにイラッとしたが、このままでは解決しない。


「まずは落ち着け」


 再び揉み上げを引っ張った。


「いでっ、いでっ、いでででででででで──────っ!」


 すぐには放さない。

 踊ろうが暴れようが容赦なしである。

 先程の引っ張りでは正気に戻る時間が短かったからしょうがない。


 あと、ローズに見せつけて罰を与えたってことにしておかないと黙っていないだろう。

 鉤爪で殴られるよりはマシだと思ってもらうほかあるまい。


「詫びは入れさせるから落ち着け、ローズ」


 お仕置きを続行したまま呼びかける。

 すると鉤爪が引っ込んだ。


「くーくぅくっくう」


 しょうがないなーとか言いながらお手上げポーズをしているローズ。

 沸点は低いが根には持たないので助かっている。


「人の話をちゃんと聞いてくれないと困るんだが?」


 返事をする余裕がないのは分かっているので、そのまま話し続ける。


「コイツは俺の相棒だ」


 揉み上げの引っ張り具合を緩めつつダニエルに言って聞かせる。


「魔物扱いすると激怒するからな」


 完全に放すと、手でさすりながら頷いた。


「それと謝罪しておいてくれないか。

 でないと決闘を申し込まれかねないぞ」


「決闘ですと!?」


「喧嘩売ってるのかと言ってたからな」


「なんとっ!」


 やはり聞こえていなかったようだ。


「亜竜程度なら雑魚扱いするから気を付けてくれよ」


「─────っ!?」


 ダニエルの顔色が一気に悪くなった。


「申し訳ござりませぬぅ!」


『あ、ジャンピング土下座』


 一言謝れば充分なので、そこまでしなくても良かったんだが。

 まあ、外から見られない状態で良かったよ。

 大国の宰相に土下座させたとか広まったら面倒なことになりそうだし。


読んでくれてありがとう。

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