752 食後に神官ちゃんが
752話をアップ後に55話を改訂版に差し替えます。
食事が終わると、いよいよ3本目の結界柱の出番だ。
これを使っているように見せながら隠れ里への道を開く。
皆で表に出ようとしたところで、神官ちゃんがスッと寄って来た。
相変わらず素人とは思えない気配の紛らせ方をしている。
たまたま近くにいた護衛ちゃんが「うわあっ」と飛び上がる寸前な驚き方をしていた。
『本当に影が薄いよな』
毎度のごとく感心しながらも目の前に来たので声を掛けることにする。
「どうした?」
「大事な報告」
「それはダニエルにすべきなんじゃないのか?」
シーニュはうちの国民ではない。
大事なことなら己の国の責任者に報告すべきだろう。
そう思ったのだが、首を横に振られてしまった。
「俺が聞いて大丈夫な話なら聞くが?」
「これから向かう隠れ里に先客がいる」
「「「「「なっ!?」」」」」
俺の側にいた者たちがギョッとした目を神官ちゃんに向けていた。
そのことで村長宅を出ようとしていた面々もこちらを見てくる。
ゾロゾロと集まってくる。
「どうしてそんなことを知っているんだ!?」
護衛隊長のダイアンが驚きつつも神官ちゃんに問いかける。
「夢を見た」
ほとんどの者が困惑の表情を浮かべる。
「あのなぁ……」
ガックリと肩を落とすダイアン。
「隊長、無理ですよ」
護衛ちゃんが苦笑しながら慰めの言葉をかける。
「そうそう、相手はあの大神官様ですよ」
副隊長であるリンダがそれに同意した。
『大神官様って何だよ』
ステータス上でシーニュのジョブは神官である。
念のために拡張現実でジョブの表示をオンにしてみるが[神官]で間違いない。
訳が分からないながらも鑑定して確認してみた。
『あー、そういうこと』
何のことはない。
ただのあだ名であった。
普段は姿を見せないのに現れる時は何かをしでかすことが多いからだそうだ。
『言う程しでかすか?』
疑問に思うところもあるが、付き合いの短い俺には分からないこともあるだろう。
少なくとも今の不思議ちゃんな雰囲気を漂わせた発言はしでかしていると言える。
ただ、どういうことか分かっている俺には呆れたり笑ったりはできない。
『こっちにも出たのか』
何処にでも首を突っ込むな、ラソル様は。
「シノビマスターが知らない大きな建物を隠れ里に送る夢」
「「「「「なっ!?」」」」」
ゲールウエザー組が驚き固まってしまった。
「あら、まあ」
なんてことを言って、ちょっと驚いた風な総長を除いて。
一方でエーベネラント組はキョトンとしている。
「しのびますたあ?」
「何者だ?」
「分からん。
だが、向こうさんは知っているみたいだ」
「あの様子だと大物のようだな」
「しかし、夢に出たとか言ってるぞ」
「それで驚くとか普通じゃないだろう」
困惑した様子で話し合っている。
俺も困惑気味であった。
『お告げじゃないのか』
ラソル様の統一感のない行動に振り回されている気分だ。
そうでなくても不意打ちされた気がしてゲンナリしているというのに。
だが、神官ちゃん相手に事情を説明するのを端折ったと考えれば……
『ないとは言えないか』
神官ちゃんなら感覚で理解しそうだし。
言葉であれこれ説明するより伝わるような気はする。
「それで夢の内容はそれだけか?」
念のために聞いてみるとフルフルと首を振るシーニュ。
「その後に太陽神様が出てきた」
端折った訳ではないらしい。
「「「「「なんですとぉ────────っ!?」」」」」
絶叫するゲールウエザー組。
「「「「「…………………………………………」」」」」
言葉もなく大口を開けて固まるエーベネラント組。
信じなかった空気が一掃されている。
神官と神様の組み合わせだからだろうか。
特に説明しなくても、お告げの類だと理解したのかもしれない。
『それにしたって驚きすぎじゃね?』
どちらも固まったままである。
面倒だから放置しておくことにした。
そのうち復帰してくるだろう。
「それで?」
神官ちゃんに先を促す。
「神の代行者としてシノビマスターはしなければならないことがあると」
「それで俺に大きな建物にいる者を保護するよう伝えろと言われた?」
神官ちゃんがコクリと頷いた。
「シノビマスターは何をするか聞いたか?」
「エーベネラントの中枢に隠れ潜んだ悪魔を退治すると」
悪魔という言葉にうちの面々も少しだけ反応した。
『報告していないからなぁ』
下手に情報を持たせるとボロが出るからメールで知らせたりもしていない。
ただ、他の面子のように騒いだり固まったりはせず落ち着いている。
『潜ってきた修羅場の差かな?』
そんなことを考えていると、脳内スマホのメール着信音が鳴った。
例のごとく条件を満たしたことで受信したラソル様からのメールである。
『こんな部分に至れり尽くせりはいらんよ』
もっと真面目に筆頭亜神をやってほしいものだ。
叶わぬ願いではあるがな。
「そりゃあ大仕事だな。
守りたい相手は安全な場所に、か」
「そう言ってた」
コクリと頷くシーニュ。
「王女と彼女に従う護衛者たちを守ってほしいと」
その後も続いた報告を聞いていたが、メールとほぼ同じ内容だ。
ただ、ポツポツと話されるので聞き出すのに時間がかかった。
その間に徐々に固まっていた面々も復帰していく。
話の内容は頭に入っていたようだ。
再度の説明が省略できたのは幸いである。
「そういう大事な報告は食事の前にしておかぬか」
ダニエルが苦言を呈した。
俺に報告すること自体は構わないらしい。
「朝食は1日の活力。
報告することで後回しにされたりしては堪らない」
言いたいことは分からないではない。
聞き取りに時間がかかったことを思うと、先に食事しておいたのは正解かもね。
しかしながら、ダニエルにとっては同意できなかったのだろう。
上を仰ぎ見ながら溜め息をついていた。
二の句が継げないと言わんばかりに呆れた表情を見せていたが。
「まったく……」
再び溜め息をついて表情を無に近い状態に戻す。
「報告すべきことを無視して食事を優先する奴がおるか」
呆れを残したような調子で注意するダニエル。
言っても無駄だと半ば悟っているかのようだ。
現にシーニュは意に介さず平然としている。
「食事の後に報告した方が良いと判断した。
こちらの方が時間を無駄にせずに済む」
それを聞いてダニエルが苦虫を噛み潰したような顔をした。
そしてゆっくりと頭を振る。
どこか徒労感と諦観を感じさせる姿に同情を禁じ得ない。
それを見ていた総長が苦笑しているところを見ると、珍しくない光景なのだろう。
その点に関しては俺がとやかく言うことでもない。
大事なのは、隠れ里に行く前から皆が情報を得ているという点である。
緊急でなければ報告のタイミングが少し遅れるくらい、どうでもいいのだ。
ただ、シノビマスター役の人形を用意して練っていたシナリオはパーになった。
代わりに隠れ里で茶番劇をしなくて済んだが……
労力をふいにされた精神的なダメージは大きい。
『もう被害はないと思っていたからなぁ』
こうなるとラソル様はわざと捕まったんじゃないのかとさえ思えてくる。
『あの短い時間でよくもまあ……』
あそこまで詰め込んできたものだと思う。
特に最後のは狭まる包囲網の中で気付かれぬように仕込んだはずだ。
だが、だからこそ呆れはしても褒めはしない。
おちゃらけ亜神を増長させる元になりかねないし。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
神官ちゃんの報告の後、気を取り直して外に出た。
一応、ベリルママにはメールで報告してある。
電話だとキレない保証がなかったからだ。
[最後のイタズラにしてやられました。
ちょっとキレそうなのでメールで報告です]
本文はこんな感じだった。
[了解です]
俺よりシンプルな本文でレスが返ってきたけどね。
それが逆に怖かったですよ?
思い出すと震えが止まらなくなりそうなので、さっさと仕事にかかる。
俺は3本目の結界柱を引っ張り出した。
「これは……」
前の2本との違いを目敏く見つけた総長が呟いた。
独り言のようなので気にせず設置する。
「ハハハ、これは傑作だね」
トモさんには受けたようだ。
「柱状なのにドアとはこれ如何に」
トモさんの言うように3本目にはドアがついている。
4面のうちの1面にだけだがね。
似てないけど日本の国民的なアニメで良く出てくる道具のひとつが元ネタだ。
故にあまり近づけると色々と危険なのである。
「あー、ドアだけにしてしまうと問題ありそうだから」
「なるほど、なるほど。
風とか気にしないといけないからね」
とぼけた感じで本当に感じているのとは違う問題点を言ってくるトモさん。
偽装なんだが、意味があるだろうか。
コメントしなきゃうちの面子以外には誰にも分からないだろうに。
まあ、部外者にバレなきゃ何でもいいけど。
「じゃあ隠れ里へつなげるぞ」
魔力を流し込む振りをして結界柱を瞬間的に光らせた。
これくらいでは、あからさまに驚く者も出なくなってきた。
気にせずドアを開く。
「「「「「おおっ」」」」」
今度は驚きの声が漏れる。
白く淡い光が開いたドア面の全体から漏れ出していたからだろうか。
とにかくドアの向こうが見えないようにしてある。
「それじゃあ行こう」
俺がまず最初に向こう側へと入る。
でないと、うちの面子以外が続きそうにないからね。
それくらい西方人たちは呆気にとられていた。
『事前に説明しておいて、これだもんなぁ』
ちょっとイメージを優先した演出が過ぎたかもしれない。
読んでくれてありがとう。




