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747 いかにファンでも

 自分に会いに行くというのも妙な話ではある。

 俺が他人であるという前提のシノビマスターと対面する状況は前にもあった。

 ゲールウエザーの王城に輸送機で乗り付けた時のことだ。

 いま思い返すと、気恥ずかしいものがある。


『また、アレをやるのか……』


 アリバイ工作は必要だ。

 それしか選択肢がないのが憂鬱である。

 禿げ脳筋のような変なのがいないであろうことだけが救いだ。


「賢者ハ色々ト面白イ魔道具ヲ所有シテイル」


「魔道具ですか?」


 公爵は訝しげに聞き返してくる。

 それはそうだろう。

 今回の一件を引き起こした伯爵が魔道具を駆使していたと聞かされているのだから。

 煮え湯を飲まされたと言っても過言ではない代物に良い印象を抱けるはずはない。


「案ズルコトハナイ。

 賢者ハ道ヲ踏ミ外スヨウナ真似ナドセヌ」


「はあ……」


 公爵は生返事をするだけだ。

 シノビマスターとして保証した程度では納得できないのだろう。


「神ガ度々オ告ゲヲ聞カセテイル者ダト言ッテモ納得デキヌカ?」


「なんとっ!?」


 驚きに仰け反ろうとする公爵。

 椅子に背もたれがなければ、倒れ込んでいたかもしれない。

 いや、イケメン騎士がいなければ背もたれがあろうと倒れていたはずだ。

 椅子の前の方の脚が少し浮いた時点で兄ちゃんが足を踏み出して手を添えていた。


『なかなかいい反応をするな』


 当人は特に顔色を変えず、すぐに直立の姿勢に戻っていたが。

 わずかにでもドヤ顔をするかと思ったのだが。

 どうやら、この程度のことは茶飯事らしい。

 爺さん執事も目線が動いただけで動じた様子を見せなかったし。


『そそっかしいな』


 せっかちな所もあるから意外とは感じない。

 むしろ妥当というか納得がいく。


『周りがフォローするならいいか』


 フットワークが軽いのは現状においては強みになる。

 朝になれば拙速であっても対応するべく動き始めねばならないからな。

 なんにせよ、神という言葉は効果覿面らしい。


「それは真でございますか?」


「証人ガ必要カ」


「いえ、そこまで言っている訳では……」


 公爵は居心地悪そうに恐縮している。

 まあ、ファン心理としては複雑なのだろう。

 俺のことは信じたいが、立場上からすると鵜呑みにする訳にもいかない訳だし。


「公爵ヨ、気ニスルコトハナイ。

 我ハ私情ヲ挟マヌ汝ノ判断ヲ好マシク思ウ」


「なんと勿体なき御言葉を……」


 俺の言葉を受けて公爵は感じ入っていた。


「ありがとうございます」


 そして深々と頭を下げた。


「証人ナラバ、げーるうえざー王国ノ宰相ナドハドウダ?」


「ウェットウエザー卿ですか……」


 ダニエルのことだ。


『あの爺さん、そんな苗字だったっけ』


 とにかく公爵にとっては意外な人物が挙げられたようだ。


「アノ者モ関ワッタ事件ガアルハズダ」


「左様でしたか。

 ですが、確認するには時間のかかる相手ですな」


 手紙を出すしか連絡手段がないと思っているようだ。

 実際、今回の一件がなければ、それは間違いない。


「ソウデモナイゾ」


「どういうことでしょうか?」


「神ノオ告ゲニげーるうえざーカラノ使者ガイルトアッタデアロウ?」


「まさか!?」


「ソノ、マサカダ」


「一国の宰相が使者となるなど……」


 公爵が困惑の表情を浮かべている。


『完全に忘れているな』


 本当にそそっかしい男である。


「王弟ハ何ヲシニ行ッタノダ?」


「あ……」


 公爵は恥ずかしそうにモジモジしながら赤面し始めた。


『ゴツい爺さんにそんなことされてもなぁ』


 需要があるのだろうか?

 少なくとも俺は可愛いと思ったりはしない。

 まあ、お陰で脱線気味の話を軌道修正できたので悪印象はないのだが。


「トニカク魔道具ヲ用イテ王弟ト王女ノ安全ヲ確保スルダロウ」


「では、シノビマスター様は問題が解決したことを知らせに行かれるという訳ですな」


「ソノ通リダ」


「では、我々は受け入れ準備に専念すればよろしいでしょうか?」


『そう解釈したか』


 話の入り方をミスったようだ。


「ソレモ必要ダロウ」


「他に何かありましたでしょうか?」


 俺の口振りから疑問を口にした公爵。

 完全に失念しているようだ。


『大事なことなんだがな』


 まあ、仕方がない。

 状況は急激に動いた訳だし。

 それに伴う情報も少なくはない。


「オ告ゲヲ忘レテオラヌカ」


「は?」


 一瞬、公爵は呆気にとられた表情になった。

 カーターを迎え入れる準備のことで頭が一杯だったことがうかがえる。


「と仰いますと?」


「不穏分子ガ、マダ残ッテオルゾ」


 骸骨野郎の息がかかった連中のことだ。

 アンデッド化や魅了による支配はされていない。


 アンデッドは聖職者に無力化される恐れがある。

 最初に襲撃してきた連中だって魔道具で死体を支配するだけの予定だったのだ。

 色々と変なことになってしまったが。


 魅了は目の届く範囲に対象を置かないと骸骨野郎が不安だったのだろう。

 離宮に送り込んだ連中がことごとく支配から逃れてしまったし。

 何かの拍子に支配から外れることもあるのではと考えたとしても不思議ではない。


『根が臆病者だったからな』


 不確実であったり不安のある要素は排除する方向に動いた訳だ。

 そんな訳で元から骸骨野郎に従っていた連中が使われることになった。

 あれでも一応は元伯爵である。

 忠誠を誓う者はいるのだ。


 ただし、主がクズだから従う者たちもクズばかりとなるのだけれど。

 それこそ村ひとつを全滅させることも厭わないような連中である。

 不穏分子と言われても仕方がない。


「っ!?」


 そして指摘されれば公爵もすぐに気が付くようだ。

 目を見開いたかと思うと、ばつの悪そうな顔をした。

 だが、それもわずかな間のこと。


「これは迂闊でした」


 すぐに表情を引き締め頭を下げる。


「デハ、イカニスル?」


「討伐部隊を送り込みます」


 脊髄反射で答えているんじゃなかろうかというくらいの即答ぶりだ。


「王弟ニハ動カヌヨウ伝エルコトニナルガ良イノカ?」


 今度は即答しない。

 公爵は重苦しい表情を見せて考え込み始めた。


『カーターの命が掛かっているんじゃ無理もないか』


 皆で移動すれば暗殺部隊も対応してくるだろうし。

 カーターたちを追いながら、あの手この手で襲撃してくるはず。

 しかも、この連中に骸骨野郎が死んだことを教えても信じるとは思えない。

 あるいは信じたとしても仇を討つつもりで特攻を仕掛けてくる恐れもある。


『藪をつついて蛇を出すのは御免被りたいものだね』


 故に、ここで正解となる行動は動かないことだ。

 接近してこなければ暗殺部隊の連中もしばらくは待つだろう。

 斥候を送り込んでくる可能性はあったが、そんなのは来たとしても一部である。


『どうせなら罠を張って引き付けるのも面白いか?』


 こちらで引き付けている間に討伐部隊に片付けさせるか引き渡せばいい。

 新たに廃村となった村を用いて暗殺部隊を捕縛するのも悪くなかろう。


 ついアレを思い出してしまった。

 Gを捕獲して廃棄する使い捨ての罠。

 さすがにフルで再現しても怪しまれるだけだと思う。


『あんなのに引っ掛かる人間がいたら見てみたいがな』


 部分的にアイデアを利用するのは有りだと思う。

 その場合、捕まえた後は喋ることができないような仕掛けにするのが効果的だ。


 まあ、結界の応用で捕まえたら音声を阻害するのがいいだろう。

 このようにGの罠と違って単純にはいかない。


『餌も食べ物って訳にはいかんしな』


 幻影をチラチラ見せながら引き付けてというのが基本パターンとなりそうだ。

 見せる幻影はカーターでいいだろう。

 敵の目標なんだし。

 相手によっては美女の幻影や他に興味を引くものもアリかもしれないが。


『ふむ、見せる相手によって姿を変えるのは面白そうだな』


 そうなると幻影魔法では対応しきれない。

 敵が単独行動しているなら話は別だが。

 幻影ではなく幻覚を見せる必要がある。

 光属性ではなく闇属性か夢属性の魔法になってくるだろう。


『効果範囲に入ったら催眠状態にして……』


 密集している場合はバラバラに行動するように幻覚で誘導する。

 見せるのは個人がもっとも興味を抱く相手でいい。

 人によっては美人であったり身内であったりと様々だろう。


『ついでに幻聴も聞こえるようにするか』


 ならば催眠状態になった段階で音声はシャットアウトするのがいいだろう。

 目と耳の情報で誘導されるとなると抗いがたいとは思うが。

 念のために抵抗されたら眠らせるようにしておく。


『……………』


 最初から眠らせた方が世話がない。

 色々考えた術式がパーだ。

 何というか間抜けだと思う。

 それと、これはもうGの罠とはまるで別物だ。


『いいけどさ』


 どうせ公爵の返事を待つ間の暇つぶしのようなものだ。

 で、肝心の返事の方はというと……


「殿下を囮にする訳にはまいりませぬ」


 それなりに考え込んでいた割には平凡な回答だ。


「心配ハイラヌ。

 言ッタダロウ?

 賢者ガ魔道具デ王弟ノ安全ヲ確保スルト。

 暗殺部隊デハ近ヅクコトスラデキヌヨ」


「……………」


 公爵は言葉を失ってしまったかのように固まっている。


「ソレデモ足リヌノデアレバ、モウ一手用意シテモラウトシヨウ」


 固まっていた公爵が我に返ったようにハッとする。


「もう一手ですか?」


「王弟ヲ危険カラ遠ザケタイナラ身代ワリトナル囮ヲ用意スレバイイ」


読んでくれてありがとう。

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