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727 ハルト深夜の散歩に出かける?

すみません。

遅くなりました。


51話を改訂版に差し替えました。

 夕食後の反応は良かったと思う。

 エーベネラントの騎士たちは涙を流していたようだし。

 もちろんワサビが原因ではない。


 隊長曰く──


「こんなに豪勢な食事は久しぶりです」


 だそうだ。


 その話をダイアンから聞いた時は冗談だと思っていた。

 が、同席していたハリーもそれを肯定。

 そしてカーター以外のエーベネラント組に最敬礼されたんじゃ、信じる他ない。


 彼らが王弟の近衛部隊でなければ土下座されていたかもね。

 罪悪感にのし掛かられずに済んでホッとした。


 一方で翌朝の食事当番には同情を禁じ得ない。


『思いっ切りハードル上げてしまったよな』


 しょうがないから、もう1回担当して簡単なものでハードルを下げておこうかと思う。


 だが、実はその前に一仕事あったりするのだ。

 いつまでも自動人形に任せてばかりでは良くないだろうし。


『深夜にお散歩としゃれ込みますかね』


 まあ、散歩ができるかどうかは現地での状況次第だとは思う。

 自動人形による事前の調査によれば、荒事になる恐れがある。

 状況によっては暴れたり拉致したりなんてことがあるかもしれないのだ。


『気を引き締めないとな』


 そんなことを考えながらも食後は皆で雑談タイム。

 話題は主に食べ物である。

 まあ、寿司の話がメインになるのは想像に難くない。

 質問攻めにあうのも想定内だ。

 あっと言う間に寝る時間になったのは予想外ではあったが。


 もちろん、夜更かしなんてしない。

 数名の見張りを残し、寝る準備をして眠りについた。


 そうして夜が更けていく。

 見張り以外の者たちが寝静まった頃。

 俺は脳内スマホでセットしたアラームで目覚める。


「……………」


 俺にしか聞こえないから目を覚ますのは俺だけなんだが。

 どうしても周囲の様子を探ってしまう。


『よし、誰も反応してない』


 当然のことなんだが、安堵する。

 俺の気配に反応して目覚めかねないのがいるからね。


 子供組とか子供組とか子供組とか。

 強調したいので3回言ってみました。

 言ってみたかっただけとも言う。

 言わなくても、言うってことにしておいてくれ。


『寝起きのテンションが変なのはしょうがないのだよ』


 あと、ハリーも気付く恐れがあったな。


 とにかく目覚めた以上は動き始める。

 皆に気付かれたくないので一瞬の勝負だ。


 倉庫内に用意している身代わりの自動人形と入れ替わる。

 と同時に転送魔法を使った。

 瞬時に目の前の景色が変わる。


 だが、目的の場所という訳ではない。

 様子を探るために中継点として設定した目標に跳んだからだ。

 黒幕の反応を警戒したのだが。


 でも、最初に【天眼・遠見】で確認したのは皆の様子である。


「……よし」


 気付かれていない。

 うちの面子に気付かれていないなら黒幕は大丈夫だ。

 ちなみに跳んできた場所は敵のホーム上空である。


「これがエーベネラント王国の王都エーベネか」


 思わず溜め息が漏れた。


「王城に瘴気が発生してやがる」


 事前に自動人形たちを使って調査していたから分かっていたことだけど。

 何度も拡張してきた城全体に行き渡るほどではない。


 不幸中の幸いと思えばいいのか嘆くべきなのか。

 どちらもと言えそうである。

 前者は瘴気の濃さと広がり具合だ。


『想定した中ではマシな部類に入るか』


 後者は発生場所である。

 2個所あるが、片方はよりにもよって王宮だ。

 奥まった場所が中心となっている。


「いろいろ終わってるな」


 王族はほとんどが瘴気に汚染された状態だろう。

 彼らの詳細は確認していない。

 自動人形を瘴気の発生場所に近づけたくなかったからだ。


『まあ、おおよその想像はつくし』


 黒幕に気付かれたくなかったというのも理由のひとつである。

 なにより自動人形に隠密行動を優先させると瘴気を浴びかねないので回避した。

 遮断するために光魔法なんて使ったら、ここに居ますよと言っているようなものだ。


 まあ、浴びたとしても破損したり操られたりなんてことはないのだが。

 それは分かってはいるが嫌なのだからしょうがない。

 要するに気分の問題である。


『なんかバッチイもんな』


 まあ、普通はそれでは済まないのだが。

 現に王城内で瘴気の汚染を受けていない王族はフェーダ姫だけだ。


「離宮に引きこもったのが幸いしたか」


 運がいいのか、本人の危機察知能力によるものか。

 いずれにせよ瘴気の波に飲み込まれずにいる。


 離宮に施された結界のお陰だ。

 この離宮は古い時代に建てられたものらしい。

 どうやら、かつては王宮だったようだ。

 新しい王宮を建てた理由は手狭になったからという単純なもの。


「結界は省略されたんだな」


 そのコストを拡張分に当てたのか、単にケチったのかは不明だ。

 あるいは技術が失われていたか。

 いずれにせよ、結界なしで王宮を建てた結果が現状を招いたと言える。

 省略されなくても時間の問題だった気がしなくもないが。


 ぶっちゃけると瘴気は黒幕にとってはオマケなのだ。

 すべての王族を己の望む形で抹殺するのが目的なのだから。

 簒奪が成功すれば目的が達成される。

 黒幕には過程こそが重要なようではあるが。


『入念に準備をしたんだろうがな』


 俺からすれば呆れるほど気の長い話だ。

 目的を悟られぬよう本心を隠しながら国の中枢に潜り込もうというのだから。


 まあ、元の身分があったことで苦労はあまりなかったようだが。

 裏ではそれなりのことをして時間短縮しているくらいだし。

 それでも本人からすれば長い時間をかけている。

 バレればそこまでだからだ。


 慎重に仕掛けをバラ蒔いて準備を整える。

 政敵は謀略と暗殺で消していく。

 表では真っ当な言動で周囲の評価を高め支持を広げていく。


 ある意味、侵略行為である。

 故に些細なことで違和感を感じる者もいたかもしれない。


 ただ、それも最初のうちだけだ。

 黒幕と接触を続ければ徐々に蝕まれていく。

 闇ルートで手に入れた力に抗える者はほとんどいない。


 現在、王城の中で働く多くの者が催眠状態にある。

 中枢に近い関係者ほどその傾向があった。

 重鎮は全滅と言っていいだろう。


「この状況で王女が無事なのが不思議なくらいだ」


 黒幕はよほど離宮には近づきたくないらしい。

 催眠状態にある操り人形と化した誰かを送り込むだけだ。

 しかしながら、それは上手くいかない。


「結界が上手くできてる」


『昔の人は偉かったってやつだな』


 離宮に侵入する時点で少しでも瘴気を纏っていれば浄化されてしまうのだ。

 しかも浄化すればするほど結界の力が増すような術式になっている。

 瘴気で紐付けすることで催眠状態の維持と制御をしている黒幕には都合が悪い。

 繋がりを絶たれてしまうと操れないばかりか催眠が解けてしまうが故に。


 それを理解しているのかいないのか。

 何度か暗殺者を送り込んでいた。

 そして、ことごとく失敗している。


『失敗から学ぶ気はないようだな』


 半ば意地になっている部分がある。

 失敗し続けても離宮への侵入を試み続けているのは目的があるからだ。


 黒幕がもっとも排除したい相手を亡き者とする。

 その相手はカーターとフェーダ姫だ。


 ただし、普通に暗殺するだけではダメらしい。

 2人が互いに憎み合っていたかのような状況を作り出すことが本当の目的だからだろう。


 仲の良いはずの親族が実は憎み合っていたという醜聞を広め社会的に抹殺。

 そこから王族に対する疑心暗鬼を誘発させ世情不安をあおる。

 暴動を繰り返し誘発させて国力を落とさせた上でクーデターを起こす。

 そんな筋書きのようだ。


「妄想を垂れ流しているだけだな」


 シナリオを筋書き通りに進ませることだけに固執しすぎなのだ。

 状況の変化に応じて対応する気がまったく無い。

 カーターは帰国中にフェーダ姫の送り込んだ暗殺部隊によって抹殺される。

 フェーダ姫はその罪を断罪するべく乗り込んだところ変死体で発見される。


「上手くいくはずがないだろ」


 カーターは俺たちが安全を確保している。

 フェーダ姫は離宮の結界が守っている。

 そして俺が来たのだ。

 絶対に阻止するさ。


 まあ、俺たちが介入しなくても成功したかは怪しいところだが。


『三文芝居もいいところだしな』


 カーターたちが憎み合っていたなど、誰が信じるのだろう。

 状況をそれっぽく仕立てたところで陰謀だと思われるのがオチである。


 一応、出鱈目が書かれた日記を証拠として用意しているようだが。


『なんか日記で犯罪を告白しなきゃならん決まりでもあるのかね』


 全員とは言わないが、今まで見てきた悪党は日記が証拠になっていることが多い。

 今回はでっち上げではあるけれど。


『これは紙が貴重だからか?

 日記にわざわざ記すなら信用に値すると?』


 西方人の常識は分からない。

 俺に言わせれば、お粗末すぎるのだが。

 お互いの日記に暗殺する方法をつづられているとか出来過ぎだろう。


『王族だから貴重な品を使っていても不思議はないとしてもなぁ……』


 作為的なものを感じないのだろうか?


 なんにせよ自動人形を用いて没収済みだ。

 偽物と入れ替えてあるので発覚は遅れるだろう。

 発覚したところで、まともな判断ができる状態ではないだろうが。


『キレて暴走するってことはあり得るのか』


 むしろ、その方がありそうである。

 念のために偽物であることが発覚した場合は分かるようにはしている。

 偽物の日記を開くと結界が破れるようにしておいたのだ。

 結界としては役には立たないが、それと分かっていなければ気付かれにくい。

 そして今のところ気付かれてはいない。


 証拠は必要になるまで仕舞い込みたくなるのだろう。

 日記はそろって宝物庫に隠してあった。

 簡単に開かれる場所ではないから発見される恐れは少ない。


 仮に発見されても証拠品として押収したと言えば済む話だ。

 すぐに報告しないのも裏付けを取るため慎重に動いていたなどと取り繕える。


『これをでっち上げられた当人が知ったら、どうなんだろうな?』


 反応が面白そうだ。


「とりあえずフェーダ姫に会いに行きますか」


 俺は再び転送魔法を使った。


読んでくれてありがとう。

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