表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
733/1785

723 シビアすぎる御褒美?

 ファントムドラゴンが消滅すると暗雲は嘘のように縮んでいった。

 その様は早回しで逆再生しているかのように不自然だ。

 奴の能力で無理やりに拡大と維持を行っていたのだろう。


『気持ち悪っ』


 そんな印象を持ったが、そこまで嫌悪感のあるものでもない。

 これを映像で見ていたなら特に何も思わなかったはず。


『映像と現実の差は思ったより大きいんだな』


 不自然さが際立って見えるせいだろうか。

 逆を言えば、その程度の違和感でしかない。

 グロいのに比べれば遥かにマシである。


『とにかく終わったのは間違いないんだ』


 ここからは切り替えていく。

 さっそく村を覆っていた地魔法の障壁を解除する。

 面倒だからドーム状に覆った時より高速で元の状態に戻した。


「「「「「おお─────っ!」」」」」


 背後から感嘆の声が聞こえてきた。

 こうなるのは予測済みだから動揺することはない。

 それでも些かやり過ぎたかとは思った。

 つい先程の暗雲が収縮していく様を想起させられたからだ。


 面倒だからと自重の加減を間違えると、こうである。

 ただ、驚いている面々の反応からすると気持ち悪いとは思われていないらしい。


 むしろ彼らには大規模魔法が解除される瞬間に立ち会えたことの方が重要なようだ。

 俺にとっては不幸中の幸いと言える。


『アホなことやってないで次だ』


 光の防壁の消去。

 これは特に過剰な反応はない。

 せいぜいが「あ」という声がチラホラ聞かれる程度だ。


『次っ』


 祝福の効果も維持する必要はないだろう。

 ただし、いきなりカットすると反動がありそうだから徐々に戻さないといけない。

 余程敏感な者でないかぎり気付かれないはずだ。

 総長あたりが気付いたとしても騒ぎはしないだろうから気にしない。


 そんな訳で背後にいる面々のフォローは後回しでいいだろう。

 俺はミズホ組の面子に目を向けた。


「皆、お疲れ~」


 軽い調子で労いの言葉を掛ける。

 手に汗握るようなギリギリの戦いではなかったからね。

 約1名はギリギリまで消耗はしたはずだけど。

 それも敵にダメージを与えられたからではない。

 そう思っていると、当のブルースがグラリと揺れた。


「おっと、いかん」


『魔力切れかー。

 本当にギリギリまで絞り出したみたいだな』


 そのまま後ろにぶっ倒れていくのを理力魔法で止めた。

 激しい雨の影響でグチャグチャになった地面に倒れ込むのは良くないからな。

 すぐさまハリーがフォローに入ってブルースの肩を担ぐ。


「おー、ハリーか」


 戦闘中は補助に回っていたお陰で目配りが行き届いている。

 そういう訳だから真っ先に反応できたのだろう。


「ナイスだ、すまん」


「いえ、自分は直接戦闘行動に関わっていませんでしたので」


「その代わりに皆が濡れないように風魔法を使ってくれてただろ」


「それだけです」


「よく言うよ」


 トモさんが苦笑しながら言った。


「バットでアンカーを打つ時にバックアップに回ってくれていたじゃないか」


「余計なことをしてしまったでしょうか」


「んな訳ないない」


 顔の前で手を振りながら笑って返すトモさん。


「あれがあったから安心してフルスイングできたんだ」


「恐縮です」


「他にも子供組のフォローもしていましたね?」


 俺に確認するように聞いてきたのはフェルトである。


「ああ」


 俺が肯定するとハリーは恥ずかしそうに肩をすくめた。

 いや、すくめられなかった。

 気を失ったブルースを担いでいるので。

 あまり動くと目を覚ますことを懸念したのだろう。


「光魔法で赤い光点を照射してメタルワイヤーの魔法の目標になるようにしていたな」


 コクコクと一斉に頷く子供組。


「その上で常に不測の事態に対処できるよう立ち位置を変えていた」


 言わば遊撃的な役割を果たしていた訳だ。

 しかも派手に動くと皆の集中を削ぐであろうことまで配慮して動いていた。


「大したことではありません」


 当の本人は謙遜するばかりであるが。


「まあ、とにかくハルさんが最初に言ったようにお疲れ様ってことだよ」


 トモさんが笑いながらハリーにサムズアップした。

 そのままブルースの顔を覗き込む。


「あー、限界ギリギリまで頑張ったんだねぇ。

 これは明日の朝まで爆睡コースまっしぐらかな」


 苦笑しながらこちらを見るトモさん。

 両手でお手上げのポーズをして首を傾げた。

 ブルースがスッカラカンなのはバレバレである。


『まあ、トモさんも【鑑定】スキル持ってるし』


 バレない方がおかしい。

 そしてトモさんの言葉に反応した者が1人。

 ブルースの現状を把握したことで眉が釣り上がり気味だ。


「陛下っ!」


 ちょっと怒っているかなという顔も素敵な人妻フェルトさんである。


「どうした?」


「どうしたじゃありません!」


『あ、本当に怒ってるんだ……』


「ブルースさんがボロボロじゃないですかっ」


『ボロボロ?』


 何か勘違いしてないだろうか。


「陛下の求めた仕事のレベルがシビアすぎたんじゃないですかっ?」


 疑問形だが詰問口調だ。

 フェルトの中では、ほぼ断定されているっぽい。

 要するに苦言を呈されている訳だ。

 トモさんはオブラートに包んだ感じだったんだが。


『この人妻さん、怖い』


 まあ、ブルースを気遣う優しさの裏返しではあるのだろう。

 弱い立場の者には特に庇護しようという傾向がある。

 長らくフェアリーたちをまとめてきたことで、染みついてしまっているようだ。

 そのあたりの事情が分かっているから事実を誤認されていても腹は立たない。


『元々、俺の説明不足に端を発している訳だし』


「んー、否定はしない。

 要反省ってことだな」


「しかーし、後悔はしないっ」


 すかさずトモさんが茶々を入れてきた。

 なんだかんだでネタを入れてくるトモさんである。


 こういう時のトモさんはフォロー役に徹してくれるのだが。

 ひとつだけ問題がある。

 真面目な人間からは、ふざけているようにしか見えないのだ。

 現にトモさんの妻であるはずのフェルトでさえ釣り上がった目で睨みにかかったし。


「ハルさんはもちろんっ」


 拳をグッと握りしめて力説し始めるトモさん。


「この私も後悔はしないのだよっ!」


 芝居がかった身振りを交えながらトモさんはフェルトの前まで進み出た。

 そこから素早い身のこなしでササッとフェルトの脇へと回り込む。


「あっ」


 不意を突かれた形のフェルトは身動きが取れなかった。

 まあ、トモさんもそこから変なことをする訳じゃない。

 フェルトの耳元に手を当てて軽く囁くだけだ。


 始めから終わりまでを見るとギャグアニメっぽく見えてしまうのは御愛嬌。

 本人は至って真面目にやっているのだ。

 ミズホ組以外に話を聞かれないよう内緒話に持ち込むために。


 フェルトの隙を突く方法が些かアレではあったが。

 あと、御丁寧にも風魔法を使って俺の方に喋っている内容を送ってきている。

 俺にも話の内容を聞けということらしい。


 で、その内緒話を聞いたフェルトさんはというと……


「えっ!?」


 ビクリと体を震わせて驚いていた。

 耳に息を吹きかけられたとかではない。

 トモさんからもたらされた情報が予想外だったから驚いているのだ。

 更にトモさんのヒソヒソなお話が続く。


「本当に?」


 思わず体を引いてトモさんを見るフェルト。


「それはハルさんに確かめた方がいいんじゃないかい」


 促されるがままに俺の方を見てくるフェルトさん。


『まったくトモさんは……』


 肝心なところで話を振ってくれるから困ったものだ。


『トモさんのように内緒話モードに入る訳にはいかないってのに』


 アレができたのは2人が夫婦だからである。

 俺にとっては人妻である。


『難易度、高杉でしょうが』


 動揺しているせいか脳内での文字変換が一部おかしくなっている。


『あー、もうっ』


 こうなったら自棄クソである。

 数歩前に出てフィンガースナップをパチンとかます。


「これで部外者に話は聞かれずに済む」


 遮音結界を張らせてもらった。

 大袈裟だが、人妻の耳元でコショコショと内緒話をするより難易度はずっと低い。


「ついでに読唇術対策もしてある」


 光学迷彩ではなく認識阻害を使った。


『姿が見えなくなると大騒ぎになるのが目に見えているからな』


 口元を見ないように仕向けるだけで充分だ。

 これらの説明をすることでフェルトが口を開く気になったようだ。


「ブルースさんが大幅にレベルアップしたって本当なんですか?」


「事実だぞ」


「私の見立てでは20も上がれば良い方なんですが?」


「それはブルースが素の状態でタイマン勝負した場合だな」


「え、素の状態って……」


 フェルトが困惑している。


「真っ先にエンドレスアンカーを持たせたろ?」


「あれで倍以上もレベルアップできるものなんですか!?」


 信じられないらしい。


「それくらいのメリットがないと無理はさせられないさ。

 でなきゃ限界近くまで魔力を振り絞ることになる魔道具なんて使わせない」


 言いながら現在のブルースのステータスをメールで送信した。


[ブルース・ボウマン/人間種・ヒューマン+/男/31才/レベル175]


「私の見立てより3倍も増えているんですか!?」


 目を見張るフェルト。

 俺とトモさんは、つい「3倍」という単語に反応して目線を交わしてしまう。

 2人でサムズアップし合いながらフェルトにも答える。


「俺が防御に徹することで戦闘に参加しつつ敵にはダメージを与えない。

 これが何を意味するか分からんフェルトではあるまい?」


「経験値が可能な限りブルースさんに集まるように……

 いえ、陛下がすることに意味があるわけだから……」


 ブツブツ呟き始めてしまった。

 ただ、それもすぐに終わるのだが。


「陛下の【教導】スキルですね」


「そゆこと」


 返事をすると嘆息されてしまった。


「できれば事前に教えていただけたら良かったのですが……」


 無茶なことを言ってくれる。

 部外者組に知られたら、どんな事態になるやら……

 碌なことにならないのは目に見えているけどな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ