720 お守りしながらってのは意外と大変だ
49話を改訂版に差し替えました。
修正しました。
振られたか』→ 降られたか』
俺が守ると決めたはいいが、問題は攻撃だ。
『ブルース1人じゃ荷が重いな』
レベルアップのチャンスではあるのだが。
俺がフォローすると悪目立ちしそうな……
『既に手遅れか』
黒雲竜の突進を止めた時点で今更な状態である。
『だったら、俺1人で目立たないようにするしかないか』
とするなら俺以外の攻撃全員参加が望ましいだろう。
皆には手加減させてブルースがトドメを刺せるようにする。
『よし、そうしよう』
「よよよ余所見してないで前を向いてくださいっ!」
リンダが悲鳴に近い叫び声を上げた。
俺がずっと振り返ったままでいたことに耐えきれなくなったようだ。
別に手を抜いている訳ではないのだが。
さすがに黒雲竜と俺の実力差は見抜けないようだ。
『向こうは見るからに禍々しくて強そうだもんなぁ』
対する俺はものすごく自然体で気が抜けているようにしか見えないだろうし。
しかしながらリンダはまだマシな方だ。
『エーベネラント組がなぁ』
先程から青ざめた顔で蛇に睨まれたカエル状態だ。
これでも祝福の効果で[恐怖]状態にはなっていない。
士気は完全にマイナスだけど。
「んー? しばらくは大丈夫だぞ」
言いながら右手を下ろす。
「「「「「うわあああぁぁぁぁぁっ!」」」」」
エーベネラント組がうるさい。
俺の手が下がれば、魔法が維持できないとでも思ったのだろう。
黒雲竜の迫力は満点だからな。
デカいし凶暴だし。
そこに禍々しさが加わると怯えの気持ちが勝ってしまうのも仕方がない。
実際、彼らの状態は[恐怖]一歩手前だろう。
『あんまり祝福を強くする訳にもいかんしなぁ……』
黒雲竜を倒す時の都合上、俺が攻撃参加したことになるのは避けたい。
『まあ、これくらいは我慢してくれ』
割と勝手なことを言っているとは思うがね。
それでも2桁レベル前半なら耐えるだけでも経験値の足しにはなるはずだ。
彼らにとっても損をするだけで終わりはしないってことだな。
どうしても耐えられそうにないなら眠ってもらうしかないが。
今のところはギリギリ耐えていられるようだ。
『ならば、もう少し踏ん張れる材料を提供するか』
「よく見ろ」
親指で黒雲竜を指し示した。
「ちゃんと防いでいるだろ。
別に支える必要なんかないんだよ」
相変わらず光の防壁を突破しようと暴れ狂っている黒雲竜。
だが、成し遂げられずにいる。
「ドラゴンを……止めて、いる?」
恐れる感情を何処かに忘れてきたかのように呆然としている騎士隊長。
「なんと……」
「凄い……」
「おお、神よ……」
呟きを漏らす騎士たちも隊長と同じような状態だ。
『なんだ、意外と平気じゃないか』
そう思ったところで黒雲竜が大口を開けようとした。
『また咆哮かよ』
即座に光の防壁正面に魔法を重ね掛けする。
「──────────────────────────!」
直後に咆哮が来たが、今度は無効化させた。
奴の口の周りで消音するだけでも効果は大きい。
それだけでは呪いに等しい汚れた魔力の波動までは止まらない。
故に光魔法で対抗。
魔力量を調節して邪悪な波動を相殺させた。
『あ、怒った』
「──────────────────────────!」
またも咆哮する。
もちろん相殺するまでだ。
つい今し方の咆哮より波動は強くなっていたが問題ない。
「──────────────────────────!」
更に咆哮してきた。
『何度やっても同じだよ』
ボリュームを上げようが波動を強くしようが関係ない。
「──────────────────────────!」
それでも黒雲竜は諦めない。
『バカのひとつ覚えってやつだな』
まあ、元になったのが下級竜みたいだから知能は期待できないんだが。
頭の出来では翼竜とさほど変わらないくらいだし。
『どうすんだよ……
超しつこそうだぞ、コイツ』
そんな風に考えていたら変化があった。
奴にではない。
「雨だ」
誰かが呟いた。
とうとう雨が降り始めてしまった。
そして一気に豪雨と化す。
『あー、帰る前に降られたか』
もちろん魔法で遮断したけどね。
光の防壁に合わせて風魔法を展開した。
それが切っ掛けになったのだろうか。
黒雲竜は咆哮をやめていた。
「お?」
羽ばたきながら、その場に留まり続ける。
翼など使わなくても空は自在に飛べるはずなんだが。
『生存時の記憶に行動が縛られる訳か』
奴は俺を見ていた。
いや、目らしきものが見当たらないから意識を向けていたと言うべきか。
とにかく殺気はますます強くなっている。
奴は咆哮で俺を状態異常にして光の防壁を破りたかったのだろう。
それが通じなかったことで苛立ちは最高潮に達したようだ。
『さて、次はどうする?』
再び頭突きか咆哮か。
後者だとすると相殺しないといけないので目をそらせない。
頭突きに切り替えるなら、うちの面子に指示を出して後は待つだけになるのだが。
『どっちだ』
そのどちらでもなかった。
不意に奴は反転し、上空へ向けて進路を取った。
急速にこの場を離脱していく。
『どういうつもりだ?』
殺気は衰えていない。
だが、奴は瞬く間に暗雲の中へと消えていった。
祝福の効果で奴の殺気に気付いていない面々には逃げ去ったように見えたことだろう。
現にエーベネラント組の騎士の1人が安堵の溜め息をついた。
「た、助かった─────っ……」
「死ぬかと思った」
「我々だけなら死んでいた」
「まったくだ」
などと言いながら気を緩めている。
カーターと騎士隊長だけは硬い表情で空を見上げていたが。
そう、これで終わるはずはないのだ。
大半のエーベネラント組は気付いていなかったが。
そんな中で俺はうちの面子にハンドサインで指示を出しておいた。
次に奴が突撃してきたらブルースが1トップで迎撃。
他は援護に徹すること。
『これで俺は防御するだけだな』
そんな風に思っていたら──
「ヒガ陛下っ」
ナターシャが詰め寄るように話し掛けてきた。
えらく興奮している。
互いの距離が物凄く接近していることに気付かないほどだ。
「あのドラゴンは一体どうして何者で何がどうなって──」
完全に混乱していた。
自分でも何を喋っているのか分かっていないだろう。
『でなきゃ、こうまで支離滅裂にはならんよな』
「落ち着きなさい」
総長にたしなめられているが、耳に届いていないようだ。
これでは俺が普通に受け答えしようとしても通じない気がする。
『しょうがないなぁ……』
奥の手を使うことにした。
急がないと奴が戻ってきてしまう。
冷静さを失ったナターシャと殺意に満ちた黒雲竜を同時に相手したくはない。
「俺とチューがしたいのか?」
ジト目で言ってやった。
ワンテンポ遅れてナターシャの顔が真っ赤になった。
更に視線と両手が落ち着きなく動き始め……
最後はズバッと飛び退った。
「申し訳ありません、申し訳ありません、申し訳ありません!」
何回言えば気が済むんだよと言いたくなるくらいペコペコと謝るナターシャ。
ダイアンが頭を掴んで止めなければ延々と続けていただろう。
「総長が落ち着けと言っていただろう」
ダイアンがそう言いながらナターシャの頭を掴んだ手に握力を込めた。
「イダダダダダッ!」
すぐに解放されたがナターシャは掴まれた部分をさすっている。
しばらく復帰は難しそうだ。
そんな風に考えていると、今度は神官ちゃんが目の前に来た。
相変わらず出てくるまで存在感が希薄なシーニュさんである。
「アンデッドのドラゴン」
ボソリとそれだけ呟いた。
「もしかして手伝いたいとか?」
頭を振る神官ちゃん。
「私では足手まとい。
それよりも、なぜアレが来たか気になる」
「ああ、原因をハッキリさせた方がいいと?」
コクリと神官ちゃんが頷いた。
「他にもアンデッドが来るかもしれない」
『冷静だな』
もしかすると総長より落ち着いているかもしれない。
「おそらく来ないぞ」
「何故?」
解せぬとばかりに首を捻る神官ちゃん。
「奴の正体はファントムドラゴン。
本来は縄張りから出ない地縛霊型のアンデッドだ」
「ここが縄張り?」
神官ちゃんは首を捻ったままだ。
それはないと思っているからだろう。
「縄張りは大山脈の向こうのようだぞ」
神官ちゃんが目を丸くした。
エーベネラント王国は大山脈の中央部沿いの国だが、山を越えてくる魔物は滅多にない。
特に翼竜クラスの大物は百年単位で来ない。
今回のファントムドラゴンなどは例外中の例外だ。
「奴は魔道具を破壊した時の波動を感知して引き寄せられたようだ」
「波長が合った?」
神官ちゃんは勘がいい。
「そのようだな。
下級竜のアンデッドとはいえ、面倒な奴と波長が合ったものだ」
読んでくれてありがとう。




