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718 ミズホ組やり過ぎてしまう

 村長宅までは歩けばすぐだ。

 そして途中から目につく兵士の成れの果て。

 玄関先に倒れ込んだミイラ状の死体は否が応でも視界に飛び込んでくる。


「これは……」


「魔道具が求めた代償だ」


 俺の言葉にミズホ組以外の者たちが息をのむ。

 これはこれで刺激が強かったようだ。


「ほ、他にも同じ状態のものが多数いますっ」


 エーベネラントの騎士の1人が村長宅内を確認して報告してきた。

 緊迫した様子でエーベネラントの騎士たちが臨戦態勢を取る。


 ゲールウエザー組は動かない。

 俺に対する認識が定着しているか否かで、咄嗟の反応が変わってくるようだ。


「あー、そいつらはアンデッドじゃないから大丈夫」


「「「「「え……?」」」」」


 唖然とした様子で騎士たちが俺を見る。


「騎士たちよ、剣を納めよ」


 カーターが命令する。

 騎士たちのように慌てた様子がない。

 やや表情が硬いが、これは村人の亡骸を目にしてからずっとである。


「何も起こるまい。

 ヒガ陛下がこう仰っているのだからな」


 随分と信用されたものである。

 騎士たちもカーターの命令を聞いて素直に納刀した。


「ヒガ陛下」


 総長が声を掛けてきた。


「どうした?」


「魔道具はこれだけの人数から命を吸い上げたのですか?」


「百を超えるアンデッドを使役させる代償としちゃ安いもんだと思うがな」


「確かにそうかもしれませんが……」


 納得しているようなのに総長の歯切れが悪い。


「何が言いたい?」


「敵は本当にこの魔道具の力を把握していたのでしょうか?

 これだけの力を制御する魔道具を簡単に使うとは私には思えません」


「黒幕が切り札にするならともかくと言いたい訳か」


「はい」


 ぎこちない表情で頷く総長。


「暴走させると使用者まで巻き込むと分かっていたから使い捨てにしたんだろ」


「あっ……」


 俺の言葉に総長が昨日の報告時の話を思い出したようだ。


「魔道具を使っていた者もアンデッド化していたんでしたね」


 総長にしては、らしくないと思える失念だ。

 それだけ魔道具の代償を求める効果に衝撃を受けたということか。


「では、魔道具ごと消し去ったというのは被害が拡大する恐れがあったのですかな?」


 ダニエルが堪らずといった様子で聞いてきた。


「絶対そうだとは言わんがな。

 魔道具の詳しい仕様を知っている訳じゃないし。

 まあ、安全策だ。

 単に破壊するだけじゃ逆に解析しようとする奴が出てきかねないしな」


「仰る通りですな。

 下手に劣化コピーしたものが出回れば碌なことになりませんぞ」


「そういうことだ」


 話を聞いていた全員が渋面を浮かべていた。

 うちの面子は厄介なことになるのは御免被ると言いたいと思われる。

 他は世の中にアンデッドが溢れる事態になりかねないことを危惧したのだろう。


「心配しなくても塵すら残さなかったよ」


 消滅させたのはハリーだが。

 本人はうんうんと頷いているだけである。

 己の戦果を誇るつもりがないのは元々からだ。


『そういうことに興味が無いからなぁ』


 ここでハリーの仕事だと言っても、本人は隠れようとするだろうし。

 俺としても自分の戦果のように受け取られかねないのは勘弁してほしいのだが。


「とにかくヤバいアイテムは消えた訳だ」


 総長に向き直って軽口を叩くような感じで言ってみた。


「ですが、他にも似たような魔道具はあるかもしれません」


 その一言にミズホ組以外がギョッと目を見開いた。

 まさに驚愕。

 気付いていなかった事実を突き付けられたって感じだった。


 ダニエルやナターシャは、そうでないことを願う感覚だったのかもしれんが。

 だとしても希望的観測が過ぎると思うがね。


「あのような恐ろしいものが、まだあると!?」


 エーベネラントの騎士隊長が興奮気味に尋ねていた。


「同じものは無いでしょう。

 ですが、同じレベルの魔道具があっても不思議ではありません。

 ヒガ陛下も仰っていたように、今回の魔道具は使い捨てにされているのですから」


「なんと……」


 冷や水を浴びせられたように興奮が一気に冷めた騎士隊長は呆然とするばかりであった。


「困ったものだね」


 カーターが頭を振っていた。


「まったく、ですな」


 ダニエルも同意するように頭を振る。


「だからこそ向こうから出向いてくるのを待って各個撃破するんだよ」


 俺の言葉に皆の反応は割れた。


 エーベネラント組がやや懐疑的。

 これは、まあ分かる。

 いくら昨晩の戦い振りを少し見せたとはいえ、実績はそれだけ。

 全面的に信頼できるほど圧倒したというなら話は別だけど加減したし。


『そもそも付き合いなんて無いに等しいからなぁ』


 ゲールウエザー組はドン引き。


『これって、どうよ?』


 俺が敵を徹底的に潰すつもりなのを理解したからだとは思うが。

 結果を想像してドン引きしているのは間違いないだろう。


『各個撃破とか言わなきゃ良かった』


 それって全滅させるって意思表示しているようなものだからな。


『短い付き合いだが色々と見せてきたからなぁ』


 禿げ脳筋の時とか。

 魔導師団の時とか。

 飢饉対策の時とか。


『実際に見せてはいないがバーグラー王国を壊滅させたことも知ってるし』


 文句のひとつも言ってやりたいが、反論されると言い返せる自信がない。


 そして、最後はうちの面々である。

 なんだか生暖かい視線で見られているのだけれど。


『やっぱ付き合いが長いと読まれるよなぁ』


 安全な場所に皆を避難させた上でチャチャッと片付けるつもりなのはバレバレだ。

 ジト目で見られないだけマシというのもだろう。


「なるほど、そのための隠れ里ですか」


 総長がようやく穏やかな表情になった。


「魔道具には魔道具で対抗する訳ですね。

 向こうが探知系の魔道具を使っても発見されにくいと」


「まあ、そういうことだ。

 頻繁に出入りしなけりゃ、まず見つからんよ」


「本当に底が知れないですね」


『それは、もうええっちゅうねん!』


 思わず関西弁でツッコミを入れてしまうところであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「これで一通り確認が終わった訳だ」


「はあ……」


 カーターが呆気にとられていた。


「殿下、慣れるしかありませんよ」


 苦笑しながら総長が話し掛けていた。


「うん、そうだね」


 返事はしているものの心ここにあらずといった感じのカーターである。


 どうしてこうなったか。

 結論から言えば、魔法で色々とやらかしたからだろう。

 もちろん俺たちミズホ組としては普通のことである。


 色々の手始めは干涸らびた兵士たちを消滅させたことだ。

 装備の検証をするため体だけに分解の魔法をかけさせた。

 ブルースが魔法を使うと、エーベネラント組が主にどよめいていた。


「斥候かと思っていたが……」


「こんな高度な魔法が使えるとは」


「そんなことより調べるぞ」


「そんなことじゃないですよ」


「俺も同感だが、驚くのは後にしろ。

 先にすべきことがあるだろう」


「そうでした」


「申し訳ありません」


 検証する仕事を任された騎士たちの会話である。

 騎士隊長の「驚くのは後にしろ」は、トモさんのツボに入ったようである。

 肩を振るわせて吹きそうになるのを耐えていた。


 その間にも騎士たちは真面目に仕事をこなし、一定の成果を上げていた。

 結果、ミイラ組はエーベネラント王国の正規兵ではないことが判明。

 部外者よりエーベネラント組の方が驚いていた。


『裏の諜報部隊じゃしょうがないか』


 犯人は彼らを直轄指揮する王族だと言っているようなものだからだ。


 続いてやらかしたのは村長宅の穴の空いた天井である。

 これはハリーが錬成魔法でふさいだ。

 エーベネラント組は唖然呆然で言葉を発することができなかった。


「これはもしかして錬成魔法ですか?」


 総長の質問がよほど意外だったのかミズホ組以外の面子がギョッとした目を向けていた。


「そうだな」


 今度は俺に視線が集まったのだが。


『必死すぎて怖いわ』


 殺気立っているのかと思わせるほどの形相だった。


「この目で伝説の魔法が見られるなんて……」


 総長だけがマイペースな感じであったが、発言はあまり穏当ではない。


「本当に長生きはしてみるものですね」


 だが、伝説の魔法だというのなら皆の反応も頷けるというもの。

 それを受け入れられるかは別問題だけれども。


「伝説って何だよ。

 大袈裟すぎだろ」


「あら、ミズホ国ではそこまで珍しくない魔法なのですか?」


 総長が少し驚かされたと言わんばかりに口を開き気味にしている。

 他の部外者たちは「まさか!?」を顔全体に貼り付けていた。


「うちじゃ普通に使われる魔法なんだが?」


「「「「「なんだってぇ───────────っ!?」」」」」


『あー、うるさい』


 そして最後に俺以外の全員でやらかしてしまった。

 誰か1人でやるよりはマシだったと思いたい。

 切っ掛けはカーターの言葉だった。


「ヒガ陛下、村人たちを埋葬してやりたいのだ」


 物凄く言いにくそうにしていた。

 穴を掘る時間を気にしていたからだろう。

 後は痕跡を残す懸念もあるか。


「すぐには敵も来ないだろうからいいんじゃない?」


 俺も賛成だから了承したんだが、カーターは慌てていた。


『自分の意見に同意されて焦るってどういうことよ?』


「そんな簡単な話ではないでしょう。

 痕跡を極力残さずとなると、かなり深く掘らなければならない。

 しかも全員を埋葬できるだけのものとなると1日や2日では到底無理だ」


「魔法でやればすぐだけど?」


 キョトンとした顔で固まるカーター。


「埋葬の時に土をかけるだけじゃ足りないか?」


「本当に?」


「こんなことでウソついてどうするよ?」


「では、是非ともお願いしたい」


 そんな風に頼まれたので了承した訳だ。

 元より、そのつもりだったからね。


 問題があるとすれば俺が穴を掘るとやり過ぎてしまいそうな気がしたことか。

 ということで皆に丸投げした。


 皆も空気を読んで、かなり加減してくれたんだよ?

 全員を埋葬できる幅を確保しつつ深さ5メートルほどの穴にしたんだけど。

 たっぷり1分は時間をかけたからね。


 なのにエーベネラント組が固まってしまった。

 ゲールウエザー組は苦笑してたけど。


 ドウシテコウナッタ……


読んでくれてありがとう。

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