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714 ハリーの怒り

48話を改訂版に差し替えました。

「それにしたって、もう少し何とかならなかったのでしょうか」


 ハリーが食い下がる。


『騙されたのが、そんなにショックだったのかね』


 だとしてもハリーの勝手な思い込みなんだけど。


「別にコイツの安全を心配する義理はないだろう」


「心配じゃなくて腹立たしいんです」


『あー、そういうことか』


 何となく言いたいことは分かった気がした。

 一応、念のために聞いてみる。


「罪もない村人たちを皆殺しにする輩の間抜けぶりに腹が立つってことか?」


「はい」


 コクリと頷くハリー。

 その目は怒りに燃えていた。


「コイツは詰めが甘いです」


 同感だ。

 策を弄しているつもりなだけで、ただの力押ししかしていない。


「用心深さもありません」


 護衛に関してはしょうがないところもある。

 連れて来た兵だけで賄うつもりだったのだろうから。

 村人を取り囲んで皆殺しにできるだけの数は連れて来ていることからも明らかだ。


 結局は計算が狂って全滅している訳だが。

 まあ、事前に魔道具に対する確認を怠ったのだからハリーの意見を否定などできない。

 未知の代物である魔道具を信用しすぎたのだ。


 コイツがこの魔道具の全機能を把握していたとは思えない。

 支配数を増やすほど魔力コストの問題が出てくることに気付いていなかったしな。

 だからこそ自らもアンデッドと成り果てた上に魔道具に縛られている。


 思うに最初は問題なかったのだろう。

 ゾンビ十数体程度なら用意した魔石や自前の魔力で制御できた訳だ。

 これで調子に乗ってしまったのだと思われる。


 更に百体を超えるゴーストを操ろうとした。

 より慎重になるべきだったのに。


 結果として百体を超えるゴーストを使役するには魔力がまるで足りていなかった。

 だから階下の兵士たちは限界まで絞り尽くされたのだろう。

 コイツが絞り尽くされなかったのは支配下にあるアンデッドの制御が必要だからだ。

 故に自我が残され、逃げられぬよう魔道具に縛り付けられた。


『コスト計算もできんとはアホだな』


 用心深さがないのは無知蒙昧であるからだ。

 あるいは度し難いほどのお調子者か。


『人の死を軽く考えているからこうなるんだよ』


 それは詰めの甘さにもつながる訳だ。


「度胸もなければ覚悟もない」


 どちらも否定しようがない。

 度胸があるなら廃村でカーターに奇襲を掛ける部隊を置いたはず。

 たとえ成功しなくても守る側の方が疲弊しやすい。

 護衛対象がいる訳だし精神的な負担は並ではないのだから。


 そういう状況では肉体的な疲労も倍加する。

 連続して襲われれば、より警戒もしただろう。

 そうなれば消耗もかなりのものになっていたはず。


 だが、それをしなかった。

 このローブの輩が己の護衛を務める兵士が減ることを懸念したからだろう。

 たかがそれしきのことで不安を抱き、耐えられなかった。

 度胸がないにも程がある。

 あるいは覚悟があれば度胸不足も補えたのだろうが。


「村人たちは、こんな下らない輩に殺されたのです」


『確かにな』


「彼らには殺されるほどの理由など無かったはずです。

 こんな理不尽をまかり通しておきながら首謀者がこんな小物だったとは……」


 いつになく饒舌なハリーである。

 声を張り上げることこそしないがね。

 ハリーにとっては、それに等しい喋りっぷりだ。


『つまり……』


 広場の惨殺ぶりを見てブチ切れた。


『俺だけじゃなかったんだな』


 いや、むしろハリーの方が怒りが大きいかもしれない。


『俺はこのミイラ野郎を本気で殴れないと思ったからな』


 証拠のことなど後々のことを考えたためだが……


『下らない』


 最初から後先を考えている時点で俺の怒りはハリーには及ばない。


 思わず溜め息が漏れた。

 同時に肩の力が抜ける。


「よかろう」


「陛下?」


 俺の言葉が何を意味するのかが分からなかったのだろう。

 怪訝な表情を向けてくるハリー。


「ハリー、アレを殴れ」


「え?」


 その言葉は予想外だったらしい。

 ハリーは呆然としていた。


「魔道具でもミイラでも好きな方を殴れ。

 どっちでもいいし、両方でも構わん」


 俺の言葉にハリーは目を丸くした。


「で、ですが……」


「下らねえことは気にするな。

 お前の怒りを全てぶつけるつもりでぶん殴れ」


「それでは証拠が残らない恐れがあります」


 怒りを言葉にして吐き出したことで頭に上った血から熱が奪われたらしい。

 冷静になったハリーが常識的な判断をしてきた。


「本気で怒っておいて後から日和ってんじゃねえぞ」


『最初から後先を考えていた俺なんかよりずっと本気だっただろう!』


 ならば俺と同じ位置まで下りてくるなと言いたい。


「っ!?」


 己の状態をピタリと言い当てられてしまった。

 ハリーの顔にはそう書かれていた。


「証拠がどうとか、どうでもいい」


「しかし……」


 俺が自棄になったとでも思ったのだろう。

 ハリーの反応が鈍い。


「何度も言わせるな。

 カーターには広場を見せればいい」


 少なくとも黒幕が誰であれ庇うようなことはないだろう。

 それで充分だ。


「黒幕はどうされるのです?」


 ハリーにとっては充分ではないらしい。

 大方、カーターのことを慮ってのことだろう。


「決まってるだろ。

 俺の流儀で潰す」


「ここは友好国ではありません。

 カーター殿下の立場も悪くなりかねませんが」


「自国民を手駒か道具のように考えている輩を潰す方が優先順位が高いと言っている」


「……………」


 ここでハリーが黙り込んでしまった。

 俺が本気であることに、ようやく気付いたようだ。


「陛下も怒っておられたのですね」


「無垢な子供まで手に掛けるような輩だからな。

 そう言うハリーだって本気で怒っていただろう」


「為す術なく理不尽に殺された村人のことを思うと……」


 ハリーが唇を噛んだ。


「何の関係もない自分が仇討ちなど、おこがましいにも程がありますが」


 そういう気持ちになってしまうのだろう。


「わざわざ血縁を探すか?」


 探しても村人全員の血縁関係者は見つかるかどうか怪しいところだ。


「それをしたところで一般人なら何もできんぞ」


 黒幕は確実に権力者サイドだ。

 それを知ってしまったら権力を持たない国民の側にできることなど何もない。


「あ……」


 ハリーもそれに気付いたようだ。


「おこがましくても構わん。

 後のことはどうにかする」


「わかりました」


 静かにそう答えたハリーが前に出た。

 室内に入ったが、何の反応もない。


『認識阻害の魔法を強くかけ過ぎたか』


 まあ、不具合がある訳ではないので良しとする。

 ハリーがローブ姿のミイラの背後を取った。

 次の瞬間、何の予告もなく光魔法を纏わせた脚で蹴り上げる。


「ドゴォッ!」


 その一撃で椅子が派手に飛び散りミイラの体を跳ね上げる。

 蹴り上げたハリーの脚は止まらない。


「バキィッ!」


 ミイラの体がテーブルに当たるがお構いなしだ。

 いや、机上の魔道具もろともにという考えだったようだ。


「メキメキメキィッ!」


 ハリーが脚を振り上げきった時には、蹴ったものはすべて天井を突き抜けていた。

 そして塵となる。

 ミイラだけでなく魔道具も跡形無く消え去っていた。


『まあ、あれだけ瘴気を内包してればな』


「戻るか」


「はい」


 俺たちは村を後にした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「──という訳だ」


 戻って合流を果たした俺たちは一通りの報告をした。

 誰も何も語らない。

 エーベネラント組は話をする前から結果に唖然とていたし。

 ゲールウエザー組は報告内容の壮絶さに呆然としていた。


「とりあえず終わったから俺たちは寝るぞ」


 壁際へと足を向けた。

 外に出る前と同じように壁を背にして座って寝るためだ。


「お待ちください」


「ん?」


 呼び止めてきた総長の声に俺は振り返る。


「夜が明けてから村の確認に行くのは分かりました。

 よく分からないのは、その後にヒガ陛下が仰った今後の方針です。

 しばらく隠れるというのは、どういうことでしょうか」


「簡単なことだ。

 音信不通なら調査に来るだろ。

 そして黒幕の元へ報告に行く」


 俺の返事を受けて総長はしばし考え込む。

 やがて溜め息をついた。


「それしか打開策がなさそうですね。

 やたらと時間がかかりそうですが……」


 諦観を感じさせる口振りだ。


『そうでもないさ』


 既に斥候型の自動人形は多数放っている。

 この先に待ち受けている刺客たちの情報も入りつつあるからな。

 黒幕の情報もさほど待たずに上がってくるだろう。

 まあ、これに関しては言う訳にはいかないが。


「その間は何処に隠れるおつもりですか。

 安全圏まで引き返すとなると、国境を越えるしかないと思うのですが」


「そんな必要はない」


「え?」


「この廃村に結界の魔道具を設置する」


読んでくれてありがとう。

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