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72 助けてみたけど加減が難しい

改訂版です。

 あれからしばらく沈黙が続いていたが──


「ん?」


 不意に俺の【気配感知】に引っ掛かるものがあった。


「どうした?」


 まだ距離があるからかハマーは気付いていない。


「この調子だと、一暴れすることになるかもな」


「なに!?」


 俺の言葉に車内の雰囲気が一気に引き締まった。


「ああ、ドルフィンが気付いたな」


 先行する馬車がスピードアップ。


「俺たちも続くぞ」


 ハマーとボルトの返事を待たずに、こちらも速度を上げる。


「わかった」


「了解です」


 2人の返事からは引き締まった意志が感じられた。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 魔物の咆哮が耳に届いた。


「魔物に襲われているようだな」


 ハマーも気付いたようだ。


「人間の悲鳴も聞こえます」


 ボルトはハマーも聞き取れなかった声を聞き取っていた。


「間に合うでしょうか」


「何人かはダメだろうな」


 心配するボルトにハマーが否定的な返事をした。

 このあたりを感覚的に判断できるかは経験の差だろう。


 ボルトが悲痛な面持ちで顔を強張らせた。

 俺は身内が襲われているわけではないのでドライに割り切っている。

 ただ、助けられるなら助けるつもりだ。


 という訳で念のため今回は拡張現実を使うことにした。

 更には【地図】スキルを併用。


『あー、こりゃカオスだ』


 盗賊の襲撃に魔物の群れが乱入したらしい。

 襲撃側が逃げ惑うという珍妙な事態になっていた。


 一方で襲われていた方はガッチリ守っていたお陰か統率を乱してはいない。

 護衛はどうにか魔物をはね除けているようだ。


 その時、ちょうど先行していた馬車が止まった。

 ローズ扮するドルフィンが真っ先に下りる。

 続いてツバキとハリーも出てきた。


 俺たちの馬車も追いつき停車。

 サイドブレーキを引き、手綱をフックにかけてから下りた。


 先行したドルフィンたちは谷側の瘤状になった岩の上から様子をうかがっている。

 俺たちが来るのを待っていたようだ。


 盗賊殺しのソードホッグが群れで盗賊を追い回していた。

 護衛サイドに襲いかかる数は少なめである。

 逃げるから追うといった感じだ。


 数の差もあって盗賊は既に半数以上が倒れていた。

 全身が血塗れである。

 ソードホッグの硬い体毛で切り刻まれたせいだろう。


 護衛は騎士装備のお陰で魔物からの被害は受けていないようだ。

 盗賊が全滅して矛先が集中すれば危うくなるだろうが。

 パワータイプの魔物ではないとはいえ、連続攻撃に晒されればな。


 特に護衛は全員がお姉さんな女性騎士だ。

 数の暴力を相手にスタミナ勝負となれば危うい。

 男がいないのは護衛対象者がお姫様って感じの女の子だからだろう。

 人選ミスとも言い切れない。


 一瞬でそれを見て取った俺は3人に指示を出す。


「魔物をこれ以上、守りを固めている連中の方に近寄らせるな」


 俺が指示を出すと3人は躊躇なく飛び降りて行った。


「ええっ!?」


「なんとっ!?」


 ボルトとハマーが慌てた様子で下を覗き込む。

 まさしく切り立った崖の上だからな。

 馬車で近づくには緩い下りをかなり先まで行って回り道をしなければならない。


「ほら、俺たちも行くぞ」


「え?」


「なにっ!?」


 俺は有無を言わさず2人のベルトを掴んで飛び降りた。


「「うわあああぁぁぁぁぁっ!」」


 ストッと軽やかに着地。

 ジェダイト王国組は着地後にドサッと落とす。


「おっ、おま、おま、おまっ、おま─────っ!」


 ハマーが壊れた。

 関西のローカル遊園地でイメージキャラクターになっている男性アイドルを思い出した。

 台詞上の話で外見は似ても似つかないがね。


「2人そろって大げさなんだよ」


「無茶言うな!」


 ようやく復帰したハマーが食ってかかってきた。

 一方でボルトは槍を手に走り出している。


「助太刀いたす!」


 こっちも壊れてるのかよ。

 口調が変だ。


「ほれほれ、行った行った」


「くっ」


 悔しそうにしながらも長柄のハンマーを手にソードホッグに向かっていくハマー。


 うちの面々は周辺のソードホッグを片付けにかかっている。

 本気を出さないようにしているので速攻で片付けるなんてことにはならない。

 盗賊を追い回していた奴らを引き付ければ充分だ。


 とにかく化け物じみた能力を発揮するわけにはいかない。

 少女は止ん事無き身分のお方だし、バレると厄介だ。


「っと、急いだ方が良さそうだ」


 少女の側で死にかけてる人間がいる。

 拡張現実の表示によるとメイド長らしいがHPが危険領域に入っていた。

 2台の馬車を背後からの盾として6人で半円状に広がって少女とメイド長を守っている。

 護衛の女性騎士たちは魔物相手に奮戦するのが精一杯の様子だ。


『あの女の子じゃ応急処置も心許ない』


 俺は周辺を飛び回るソードホッグたちの隙間を縫って一気に距離を詰める。

 そのまま回転アタックで騎士たちに猛攻を仕掛けているソードホッグたちを飛び越えた。


「なっ!?」


 騎士も飛び越えてしまったので、こういう反応をされるのは当然か。


「敵じゃない。

 状況を見ていただろ。

 後ろは気にするな」


「くっ!」


 苛立たしげに声を漏らす騎士がいた。

 余裕がないながらも助っ人が現れたことは理解しているはずだ。

 それでも、簡単に懐に飛び込まれて「はい、そうですか」とは言える訳もない。

 己を無能だと言っているようなものだからな。


「守りが疎かになると主人を守れんぞ」


「言われなくてもっ!」


 負けん気の強そうな言葉が返ってくる。

 同時に強い気迫が湧き上がるのも感じた。

 先程までは押され気味だったが今なら守り通すはずだ。

 あまり長い時間は持たないだろうが。


『充分だ』


 重傷者に専念しよう。

 金髪のメイド長は脇腹に矢を受けていたようだ。

 すぐ側で血塗れの矢が転がっている。


『抜いたのか』


 そのせいで出血が酷い。

 が、矢傷を見れば内臓すれすれだ。

 怪我が広がる恐れを考慮すれば間違った処置とも言えない。

 適切に止血ができるならばだが。


 少女が長めの黒髪が汚れるのも構わず止血しようとしていた。

 2人とも血だか泥だかよく分からない汚れでドロドロだ。


「マリア!

 しっかりして、マリア!」


 少女の叫ぶような呼びかけにも金髪メイド長の反応は鈍い。

 出血が酷くて意識が朦朧としているようだ。


「はいはい、ちょっとごめんなさいよー」


 側に寄って少女を押し退けるように屈み込んだ俺はポーションを振り掛けた。

 少女が止血のために傷口に手を当てているがお構いなしだ。

 竹製の筒から流れ出る青紫の液体は体に悪そうな色に見えるが効果は絶大。

 欠損部位があっても即座に生えてくる上に増血もするような代物である。


 現に残り1割を切っていたHPゲージが即座に8割まで回復した。

 消耗した体力まで回復させるポーションじゃないから、こんなものだ。

 既にメイド長の呼吸は安定している。

 グッタリしているが、放っておいても動けるようになるだろう。


「はい、完了」


「え? なに? 誰っ!?」


 少女は混乱して怯えた表情を俺に向けている。

 今頃になって俺に気付いたらしい。

 それでも止血をやめようとはしないあたりは大したものだ。

 何としてもメイド長を助けたいという必死さが伝わってくる。


「傷は塞がった。

 止血はしなくていい」


「え? え? ええっ!?」


 言葉の意味を理解するまでに少々時間を要したことで混乱ぶりがうかがえる。

 銀色の瞳が迷いを伝えてくる。


 が、血の気を失っていた白い肌が赤みを取り戻しつつあった。

 俺の言ったことを信じたいと思ったからか。

 いずれにせよ警戒したような行動は取らないようだ。


 ならば後は殲滅行動に入るのみ。


 俺は振り返りながら立ち上がると腰に下げたポーチから長杖を取り出した。

 このポーチは言うなれば青い猫型ロボットのポケットのようなものだ。

 サイズの違う物品であっても出し入れ自在である。


 まあ、そういう設定にして自前の魔法で出し入れしているだけだがね。

 見ている人間にはどちらかなんて分かる訳もない。

 いずれであっても驚くことに代わりはないのだ。


 背後にいる少女も例外ではない。

 息をのむような気配が伝わってきたが無視。

 杖を前に掲げて適当な呪文をゴニョゴニョ唱えた。


 騎士たち目掛けて飛び込んでくるソードホッグに向けて風のボールをぶつけて叩き返す。


「「「「「なっ!?」」」」」


 急に弾かれたソードホッグを目の当たりにした女性騎士たちが驚愕していた。


『隙だらけだぞ』


 ソードホッグの再アタックがあったら、どうするつもりなんだ。

 まあ、それを指摘する前に構え直してはいたが。


『予告なしはマズかったか』


「次、風壁だ」


 一般的なものより分厚くしたものを発動。

 ソードホッグの回転グルグルアタックで切り刻むように突破されると意味ないからな。


 風壁が構成された直後にソードホッグが一斉に突っ込んできたが突破は許さない。

 押し込もうとして弾かれていた。


「なんとっ!?」


「信じられない……」


「何が起きているっ!?」


 予告ありでも浮き足立っていた。

 これは計算外だ。

 が、今度は全員がそうなった訳ではない。


「これは風の防御魔法だ」


 隊長と思しき女性騎士が冷静に声を掛ける。


「そんなっ!?」


「大魔導師級ですよ!」


「狼狽えるな!」


 一喝されると、ようやく落ち着きを取り戻す。


『刺激が強すぎたのか』


 加減したつもりが、逆の反応をされてしまうとは。

 後はうちの面々に任せて守りに徹した方がいいかもしれない。

 と思ったのだが……


「うおぉぉぉっ、急に殺到してきたぞ!」


 ハマーがハンマーを振り回して防戦一方になっていた。


「こっちもです!」


 ボルトも同じような状態に追い込まれている。

 互いに背中を預け合うことでカバーしているが長くは持ちそうにない。


『あー、いかんな』


 俺は炎の矢をスタンバイした。


読んでくれてありがとう。

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