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708 つくってあった『監視装置』

 元村長宅まで戻ってきた。

 偽装しつつ、あれこれと魔法を使う。


「何をなさっているのですか?」


 真っ先に反応したのはエーベネラント組の護衛騎士の1人だ。

 まあ、いきなり建物の外で屋根を越える高さのポールを生やされたら何事かと思うよな。

 先端には召喚した奇妙な箱を設置しているし。

 しかも、それが4本。

 建物の四隅をカバーする意味が分からないと、困惑するのも無理はない。


「さっきの感知結界に連動した魔道具を設置してる」


 ぶっちゃけると監視カメラである。

 が、それを知らない者には何のことやら訳が分からない。

 質問をした騎士も首を捻っていたし。

 まあ、うちの面子以外は同じような状態だが。


「見れば分かるから中に入ろうぜ」


 促して全員で村長宅へ入る。

 入ってすぐの場所は広めのスペースが確保されているので都合がいい。

 壁面ギリギリに大型モニターを引っ張り出して自立させた。

 とりあえず騒ぐ面子はいない。


『召喚したように見せたくらいでは驚かなくなってきたのは助かるな』


 そう思ったのも束の間。


「こいつはモニターという魔道具だ。

 外の魔道具と連動させることで、こういう使い方ができる」


 そう言いながら監視カメラと同調させて4分割した外の映像を見せると……


「「「「「お─────っ!?」」」」」


 大半が仰け反るように驚いていた。

 この反応は仕方がない。

 外の映像が見えるとは思っていなかっただろうし。


「こ、これは凄いですな」


 唸りながら食い入るように見ているダニエル。


「まったくだね。

 何と言ったらいいのか言葉が見つからないよ」


 そんなことを言いながら楽しそうに笑っているカーター。


「ちょっと待ってな」


 そう言い残して外に出る。

 村長宅の周囲を1周して戻った。


「凄い! 凄いよ、ヒガ陛下っ!」


 戻って来るなり俺の両手を取ってブンブンと縦に振るカーター。


「画期的だよっ。

 外の様子が完璧に分かるじゃないか」


 俺が動いている映像を見て子供のようなテンションで喜んでいる。


「あ、でも、夜はどうするのでしょうか?」


 不意にナターシャが疑問を口にした。


「ハリー、すまんが1周してきてくれ」


「はい」


「あ、ドアは開けっ放しでな」


「了解です」


 ハリーが外に出たタイミングでフィンガースナップをひとつ。


「パチン!」


 弾けた音の直後にドアの外が闇に包まれる。


「「「「「────────っ!?」」」」」


 エーベネラント組が飛び上がらんばかりに驚いていた。


「な、な、な、な、な……」


 若い騎士が動揺のあまり言いたいことが出てこない状態になってしまったようだ。


『「な」しか言えないのか?』


 内心でツッコミを入れるだけに留めておく。

 親しい訳ではないしな。

 仮に親しくても無駄に時間を使っている場合ではない。


「闇魔法で、この家の近辺だけ暗闇にした」


 信じ難いという目が向けられるが、今更だ。


『ブルースの方が規模の大きい魔法を使っていただろうに』


 ゲールウエザー組を見ろとばかりに視線をそらした。

 促される形で、そちらを見たエーベネラントの一同が固まってしまう。

 ゲールウエザー組が「これくらいは普通ですが何か?」と言わんばかりだったからだ。


「言いたいことは色々あるだろうが、モニターの方を見てくれ」


 どうにか皆の視線を誘導した。


「外の様子が見える!?」


 そう声を発したのはダイアンだ。


「暗闇のはずなのに周りの家や道がこんなにもハッキリ見えるとは……」


 呆然としながら呟いたのはエーベネラント組の騎士隊長だった。

 彼の言うように周囲のあれこれがモニターに映し出されている。


「ヒガ陛下の配下の方も、あんなにクッキリと見えます」


 信じられないものを見たと言わんばかりのリンダ。

 言葉通りハリーが映っているのが確認できる。

 ゆっくりと歩いていた。


 他の面子は声すら発せないようだ。

 唖然呆然の状態でモニターに視線が釘付けとなっていた。


「これが外に設置した監視用の魔道具の性能だ」


 細かい説明は省略。

 魔力利用の暗視装置だとか言っても分からんだろうし。

 まして画像処理しているなんて説明を受けてもチンプンカンプンだと思う。


『初めてづくしだもんな』


「とにかくコイツの性能は分かるよな」


 念を押すように言うと、呪縛が解けたかのようにコクコクと一斉に頷きが返ってきた。


「理解してもらえたようで何より」


 俺は再びフィンガースナップで指を鳴らした。

 闇魔法が消える。

 それとほぼ同時にハリーが戻ってきた。


「御苦労」


「いえ」


 短く返事をした後はスルッと下がって気配を薄くする。

 どこか牧羊犬をイメージさせてくれるところがあるよな。

 まあ、本来の姿の時は顔がボーダーコリーだけどさ。


 ともかく皆に監視装置の性能は理解させた。

 いささか強引にではあるが。


「これなら監視要員は少なくて済むだろ」


 反論はない。

 が、騎士たちの反応は微妙である。

 屋内にこもって監視するのが受け入れられないようだ。


『監視装置の利便性がネックなんだろうな』


 理解はできるが納得はできないってところか。

 危険にさらされにくくなるから臆病者のイメージに結びついてしまうのだろう。


「色々と思うところはあるだろう。

 だが、現状はこいつを引っ張り出さざるを得ない状況だと思ってくれ」


 俺の言葉に各国の護衛たちが困惑の表情を浮かべる。

 互いに顔を見合わせながら首を捻る者もいた。


『まあ、訳が分からんよな』


 その割に誰も疑問を口にしようとしない。

 そこに煮え切らない雰囲気を感じ取ったのだろう。


「どういうことですかな?」


 疑問を口にしたのはダニエルだった。


「嫌な予感がするんだよ」


 この言葉にゲールウエザー組がたじろぐ。

 ナターシャなどは「縁起でもないことを言わないでください」と顔で語っていた。

 ダニエルの顔も血の気が失せている。


 それを見たエーベネラント組が訳が分からないながらも緊張した面持ちになった。


「もしも俺の読み通りなら魔法しか通用しない相手が出てくるぜ」


「「「「「────────っ!?」」」」」


 闇魔法を使った時のように声にならない悲鳴が上がる。


「ヒガ陛下、それは本当ですか!?」


 ナターシャが慌てている。

 ゲールウエザー組には純粋な魔法使いは限られた面子しかいないからな。

 エーベネラント組が全滅に等しいことも把握しているようだ。

 ただ、俺たちのことを失念しているっぽいのは何故なのか。


『もっと落ち着けよ』


「絶対ではないさ。

 ただ、俺の嫌な予感はよく当たる」


 うちの面子がうんうんと頷いた。

 それを目にしたゲールウエザー組一同が意気消沈。

 更にそれを見たエーベネラント組が信じられないものを見た目でドン引きしていた。

 見事な連鎖である。


「今回の場合、無駄骨になるのが最上だ。

 何もないなら被害だって出ないんだし」


 騎士たちを説得しようと話し始めたのだけれど。


「ひとつ、よろしいかな」


 ダニエルが割り込みを掛けてきた。

 強引に入ってきて、いいも悪いもないと思うのだが。

 ここで揉めても時間の無駄なので聞くことにする。


「いや、話の腰を折って申し訳ない。

 その話を聞く前に、どうしても確認しておきたいことがあったのだ」


 思い詰めた表情をしているダニエル。


「ヒガ陛下は嫌な予感がすると仰られたが」


 そこで言葉を句切って俺の瞳の奥を覗き込むようにジッと見てきた。

 俺の真意を探る気のようだ。


『一体、なにを聞こうってんだよ』


「よもや予言ではありますまいな?」


 あまりに予想外すぎて、咄嗟に【千両役者】を使ってしまったさ。

 表情だけなら【ポーカーフェイス】で充分なんだけどね。


「それを聞いてどうする?

 事態が好転する訳でもないだろうに」


「そんなことはありませんぞ」


 ダニエルはやけに自信たっぷりだ。


「もしも予言であるのならヒガ陛下の御指示に従うのが最善でございましょう」


『あー、そう来たか』


 向こうにしてみれば過去の実績から鑑みてってことなんだろう。


「飢饉対策の時もそうでしたが……」


 実績として考えるには弱すぎないかと思ったのだが。


「それ以前にもブリーズの街で予言されていたそうですな」


 情報収集はちゃんとしていたようで……

 宰相の肩書きは伊達ではなさそうだ。


 ただ、やはり実績とするには弱くないだろうか。

 加えて言うならば何を根拠にそう思ったのかと小1時間は問い詰めたい。

 何故かは知らないが盛大に勘違いしてくれている。

 訂正するこちらの身にもなってみろと声を大にして言いたい。


『面倒くせえー』


 この一言に尽きる。

 どうしたものかと思ったところで着信音があった。


『ん?』


 脳内スマホのメールだ。

 ベリルママからである。


[タイトル:予言でGO!]


 センスの古さにガックリきた。

 【千両役者】を使わなければ膝から崩れ落ちていたかもしれない。

 元ネタが最近のゲームでないのは[予言で]となっている部分から明らかだ。


『電車じゃないんだよ、ベリルママ』


 気を取り直して本文を読もうとしたが、空だった。

 タイトル以上の意味はないということなのだろう。


 色々とツッコミを入れたい気分になったが、何を言っても無駄な気がしたので諦めた。

 指示に従わないという選択肢もない。

 余計に面倒な手間を掛けることになるだけだ。

 そう考えると助かるのだが、モヤッとしない訳ではない。


『まあ、いいや』


 半ば自棄クソに近い気持ちになりつつも、予言で押し通すことにした。


読んでくれてありがとう。

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[気になる点] 改訂の際に、参考にしていただければと一言。この話での主人公の思考の中に、それは予言ですか?と聞かれ、飢饉対策とブリーズの街の予言では実績として弱くないかとの自己判断をしますが、どう客観…
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