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707 夜襲に向けた準備

「最悪の想定ですか……」


 ブルースが考え込む。


「この国が滅ぶことになりそうだけど?」


 トモさんが物騒なことを言い出した。

 どうにも考えることが極端である。


「いや、確かに最悪が何度も重なった場合はそうなるけどね」


 そこに至るまでは何日もかかるだろう。


「せめて翌朝までの範囲で考えようよ」


「それもそうか」


 ハッハッハと笑っている。

 どうやら軽口で重くなりがちな雰囲気を払拭しようとしてくれたようだ。


『いや、ありがたいね』


 真面目に考えるべき状況ではあるが、思考が硬直するのもよろしくないしな。


「王弟殿下たちの一行だけでは対応は不可能ですよね」


 確認するようにフェルトが聞いてきた。


「魔法に長けた面子がいなさそうだしな」


 少なくとも今回の件で要求されるレベルの魔法は使えないだろう。


「となると、ゲールウエザー組が鍵を握るかな」


「難しくないでしょうか。

 最悪を想定するのであれば彼女らでも耐え凌ぐのが精一杯では?」


 真面目に戦力分析をしていたらしいブルースが疑問を口にする。


「俺もそう思うな」


 トモさんがブルースの意見に同意した。


「ですね、粘れる時間が少し増えるだけだと思います」


 フェルトも同じだ。


「ハリーはどう思う?」


 俺が声を掛けると──


「エーベネラント組だけでは為す術もないかと。

 ゲールウエザー組が加わっても夜明けまで何人が生き残れるか」


 ハリーが自分の考えを披露した。

 皆、俺が言う最悪を正しく認識してくれているようだ。


「という訳で俺たちが積極的に介入せざるを得ない」


「じゃあ、今から村の方へ行くかい?」


 トモさんが提案してくる。


「そこまで積極的だと敵が出てくる前に逃げてしまう恐れがあるんだよね」


「うわー」


 顔を顰めて仰け反るトモさん。

 他の皆も似たような反応だ。


「陛下は黒幕が制御できるとお考えですか?」


 フェルトが確認するように聞いてきた。


「魔法でやるつもりなら無理。

 魔道具でなら不可能ではないってところかな」


「あ……」


 何故かフェルトが呆然としている。

 いや、トモさんやブルースもだ。


「どうしたんだ?」


「魔道具が使われることを見落としていました」


「……………」


 意思の疎通に齟齬があったようだ。

 これは俺の責任である。

 説明を省略してしまったからな。


「すまんな。

 発掘品やダンジョン産の魔道具があり得ることを言ってなかった」


「あー、前に見せてもらった巨人兵かー」


「話に聞く隷属の首輪もそうですよね」


「忘れていました……」


 トモさんやフェルトの話を聞いてブルースが落ち込んでいる。

 バーグラーでの戦闘奴隷時代を思い出したのだろう。

 戒めとして忘れるべきではないという自己批判の状態に陥っているようだ。


 だが、嫌な過去に囚われたままよりはずっといいと思う。

 本人はそう思う余裕など微塵もないように見えた。


『どちらにも関わったんじゃ、しょうがないか』


「どうしたんだ?」


 すぐに気付いたトモさんが声を掛けている。

 フェルトも心配そうにブルースの様子を見ていた。

 それくらいブルースの落ち込みようが酷いのだ。


「両方に関わった被害者なんだよ」


 答える気力もなさそうなブルースに代わって俺が説明する。

 かなり端折ってはいるがね。

 巨人兵には直接かかわったかは俺も知らないし。


「「あー……」」


 俺の説明に2人が納得しながら申し訳なさそうな目を向けていた。

 トラウマに触れてしまったとか考えてそうだ。

 まあ、事細かに説明することでもないだろうからスルーした。

 2人は声を掛けて良いものかどうか迷っているようだ。


「今回に関してはブルースは外れてもらおうか。

 動揺したままでは、思わぬミスをする恐れもあるからな」


 俺としては気を遣ったつもりだったのだが。

 ブルースがションボリ猫背状態からビシッと直立状態へと変化した。


「是非とも自分にやらせてくださいっ」


 俺には空元気で無理をしているようにしか見えないのだが。

 とはいえ、やる気を見せているところを頭ごなしに却下するのも気が引ける。

 それに連れて来ている中では一番レベルが低いから稼がせたいとも思う訳で……


「全部を任せるつもりはないぞ」


 とりあえず任せてみることにした。


「はっ!」


 敬礼つきで返事をするブルース。


「あと、危ういと思ったら強制的に退かせるからな」


「了解であります」


 気合いの入っているブルースを見ると逆に不安になるのだが。

 任せると決めた以上は働いてもらうがね。


「あ、俺も参加しておきたいな」


 軽い調子でそう言ったのはトモさんである。


「向こうで使うから練習になるかなって」


 ここで言うところの「向こう」とは日本のことである。


『なるほど、実戦練習になるか』


「いいよ」


 こちらは事情が事情だけに、すぐに許可を出した。

 ブルースのフォローもしてくれそうだし、これなら安心だ。


「サンキュー」


 他の面子はブルースとトモさんに遠慮したのか積極的に参加したいとは言わなかった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 その後、あれこれと打ち合わせをした。

 それを終えると、未だにバスの話で盛り上がっているカーターたちに終了を告げる。


「ああっ、もう少しぃ~」


 情けない声を出すカーターだが、付き合うつもりはない。

 さっさとバスとトレーラーを倉庫に仕舞う。

 もちろん召喚魔法風の偽装をして送還したように見せかけるのは忘れない。


『そんなに気に入ったのか?』


 動いてもいないのに眺めているだけで満足していられるとは思わなかった。


「明日にしろ」


 この一言で納得はしたようだ。

 まあ、ションボリしたままである。

 うるさく言わないならスルーで終了だが……


「相変わらずヒガ陛下の魔法は凄まじいですね」


 今度はナターシャに食いつかれてしまった。

 一難去ってまた一難である。


「それも明日にしてくれ」


「失礼しました」


 こちらは素直に引き下がってくれたが。


「ブルース、感知結界だ」


 俺は短く指示を出した。

 が、これ以上は特に細かくあれこれとは言わない。


「はい」


 どうすればいいかなどもブルースは聞いてこない。

 すぐに魔法の準備を始めた。


 本来なら集中して発動して終了なのだが、部外者の目があるのでそうはいかない。

 そういう時の魔法の使い方は前もって指導してあるので、その手順で進めるのみだ。

 まずは光魔法で大型の魔方陣を地面に描く。


「「「「「おおっ!」」」」」


 俺が車両を倉庫に仕舞った時に使った魔法でも上がったような歓声が聞こえた。


「なんと、ヒガ陛下だけでなく……」


 途中から言葉を失うダニエル。


「儀式級の魔法をこんな簡単に使える人がいるのね」


 ダニエルの言葉を引き継ぐような台詞で感嘆する総長。


「この様子では他の方々もこのレベルなんでしょう」


 ナターシャは諦観を感じさせるような表情で溜め息をついていた。

 他のゲールウエザー組はというと言葉を失っている。

 ブルースの見た目が戦士寄りの斥候っぽいから無理もない。


 まあ、これはマシな方だ。

 エーベネラント組など目も口も開ききったまま固まっているし。

 唯一の例外が──


「いやー、綺麗だねぇ」


 何か的外れなことを言っているように思えてならないカーターだ。


『大物なのか天然なのか』


 そんなことを考えている間に結界は張り終わった。

 一瞬、村の外周を淡い光が包み込む。

 これも部外者の目をそらすための演出だ。


『村の外周にしか魔法を使っていないと印象づけないと騒ぎになるしな』


 実際は廃村と次の村の中間地点までの距離を半径とする結界も張っている。

 感知するだけの結界で負担が少ないからブルースにも可能なのだ。


 そうは言っても規模が大きいだけに消費魔力は並ではない。

 これが遮音結界や幻影結界だったら、外側の結界は縮小せざるを得なかった。

 それでもブルースは魔力切れの危機を迎えていただろう。

 まして障壁結界なら村の周りを囲うので精一杯だったはず。


 感知結界をどの規模で使うかはブルースの判断に任せたが……


『早期警戒を強く意識してるな』


 外側の結界はだからこそ、あの規模なのだ。


『相手のスピードにも警戒してるか』


 外と内の結界を通過する時間で、おおよそのスピードを把握しようとしているはず。


『魔力を消費する価値があると判断したようだな』


 現時点での消耗は敵襲がある頃には回復していると計算しているか。

 夜襲の時間帯によっては魔力の完全回復は困難と思われる。


 が、これも修行の一環と考えていそうだ。

 魔力の急速回復手段として瞑想は教えてある。


「これで襲撃に対応できるな」


「ヒガ陛下、今の魔法は何ですか?」


 総長が尋ねてきた。

 俺が作ったオリジナルだから知らなくて当然である。


「今のは感知結界だ。

 結界の領域に入った相手を術者や対象の魔道具に知らせる魔法だな」


 説明を受けた総長は感心しているのにナターシャが驚いている。


「漏れはないのですか」


 総長は冷静に聞いてくる。


「何をもって漏れとするか次第だ。

 普通の虫なんかは感知の対象外になる。

 生命反応や魔力反応の強弱で判定するからな」


 俺の返答に総長が唸った。


「恐ろしく強力な魔法ですね。

 見張りいらずじゃないですか」


「そうでもないぞ。

 消費魔力が少ないだけで相手を弾く効果はないし。

 何が来たかは実際に目で見ないと判別できんし」


「それでも見張りの負担は軽減できるでしょう」


「まあな」


読んでくれてありがとう。

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