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705 占いで鍛えていたようだ

「確実に当たると分かる時は明確なビジョンが見えるよ」


 カーターは平然とそんなことを言った。


『マジか……』


 それはもう占いじゃない気がするのだが。

 予知の類じゃなかろうか。


『何か特殊能力を持ってる気がするな』


 ここでようやく鑑定してみる気になった。

 神級スキルの【目利きの神髄】で見てみる。


「……………」


 結論から言えばスキル持ちだった。

 それも特級スキル【霊眼】である。


『占いじゃなかったんかいっ!』


 なんてツッコミを内心で叫んでしまう。

 しかも霊感じゃなくて霊眼である。

 念のために言っておくが指先からぶっ放すやつではない。


[本人の霊的な波動に触れたものを見ることができる]


 説明文の初っ端から「そんなのアリかよ」と言いたくなった。

 うちにはルーリアという霊的なこと関する専門家がいるからその程度だったけど。

 そういうのを信じない質の人間だったら「出た、電波系」とか言われていたことだろう。


 何にせよ本人は占いしているつもりで霊視していたようだ。


[過去であれば起きた出来事。

 現在であれば離れた場所の出来事。

 未来であれば起こり得る可能性。

 以上を断片的に霊視するスキル]


 説明文の続きにこうあるからな。

 ほぼ間違いないだろう。


[熟練度と霊視する情報の確度により見られる情報量が変わる]


 情報量とは動画か静止画かということだけではないようだ。

 靄がかかったように不鮮明になったり。

 見える範囲や時間が限定的だったり。

 特に熟練度が低いと暗示的な象徴のようなものしか見えないという。


 例えば大雨を予知的に見る場合。

 熟練度が高いと強く降る雨だけでなく場所なんかも分かる見え方をする。

 逆に低いと激しく流れ落ちる滝が見えるだけだったり。

 しかも場所の情報などはない。


『割と不便なスキルだな』


 そんな風に考えていたのだが──


[任意で見るためには熟練度に関係なく訓練が必要]


 もっと不便であることが判明した。


[なお、見ることに限定されるため音声情報はない]


 更にはこれである。


『あれば便利なんだろうがな』


 使い勝手が悪すぎる。

 しかも熟練度の上がりにくい特級スキルだ。

 このスキルを真面目にものにしようと思えるだろうか。


『まあ、それ以前の問題かもな』


 西方じゃ自分のステータスを確認する手段が限られるのだし。

 ところがカーターは占いを趣味にしていた男である。


『自然と鍛えていたのか……』


 好きこそものの上手なれとは言うけれど。

 世の中、なにがどうなるか分からない。


「それで好ましくないものが見えたから旧街道を使ったか」


 俺がそう言うとカーターは目を丸くしていた。


「何だ?」


「いや、だって普通は信じてくれないんだよ。

 占いなんて趣味にするもんじゃないって散々言われたし」


「役に立っているんだから気にしなくてもいいだろう」


 再び目を丸くするカーター。


「ヒガ陛下は本当に凄いね」


「何がだ?」


「私の言葉を聞いて疑う素振りも見せないじゃないか」


 なんだか瞳をキラキラさせている。

 それでオネエ的雰囲気は微塵も感じさせないのは才能じゃなかろうか。


『こんな場面でも王子様キャラとは……』


 まあ、これがカーターの通常運転なのだろう。

 占いを趣味にする様なタイプだし。


『ああ、それでかもしれないな』


 カーターがこんなキャラになった理由が分かった気がした。

 占いに傾倒することで男とは疎遠になり女子に囲まれる環境を自ら作り出していたのだ。


『いかにも女子が好むような占いを趣味にしたんじゃ無理もない』


 しかも、昔からそこそこ当たっていたのだろう。

 でなきゃ長続きするとは思えない。

 一般人なら仕事にするなどして継続できただろうが。

 カーターは王族だ。

 自分の趣味を続けるだけでも大変なはず。


『周囲の風評なんかもあるだろうしな』


 自らも周囲に否定されたと言ったばかりだし事実だろう。


「嘘をついているようには見えなかっただけだ」


 またしても目を丸くするカーター。


「でなきゃ俺たちのことは、もっと警戒していただろうに」


「あー、そうでしたね」


 カーターは自分の額を叩いて苦笑した。


「最近、どうも占いのビジョンと現実とが混ざってしまって苦労してるんです」


 前よりも【霊眼】の熟練度が上がったからだろう。

 霊視してしまったものを当然と受け止めるくらいに未来視の確実性が増したと。

 もしくは本来ならば見ていないはずのものを見てしまっていることも含まれるか。


『案外、襲われる理由はこの辺にあったりしてな』


 確証を持って断言できる訳ではないが、あり得ないとも言えない。

 ただ、もしそうだとしたら面倒だ。

 カーターに殺意を抱いている奴は関係者ということになるからな。

 その懐に飛び込みに行くことになるのは……


『考えるだけで鬱だよな』


 まだそうと決まったわけではないが、その線が濃厚であるように思えてならない。


『姫ちゃんの病気を治しに行くんじゃなかったのか……』


 とはいえベリルママからお墨付きを貰っているトラブルだ。

 そんな単純なものではないのだろう。


『エーベネラント王国との戦争もあり得るくらいは覚悟しといた方が良さそうだ』


 とりあえず、今はカーターとの話を進めよう。

 この王子様キャラの兄ちゃんが果たして何処まで状況を把握しているか。


「占いのビジョンが見えたから予定進路を変えたのだろう?」


「あ、分かります?」


「でなきゃ、こんな悪路を通って遠回りで帰ろうとは思わんだろう」


「それもそうだね」


「……………」


 まるで他人事である。

 飄々として掴み所がないというか……


「こちらの方が被害が少ないビジョンが見えたんだー」


『ああ、そういうことか』


 自分のことより護衛たちのことを考えて決めたことのようだ。

 優しすぎて継承順位を落とされるだけのことはある。


「でもねー、急に見え方が悪くなったんで困ってるんだよ」


「ん?」


 別にスキルの熟練度が落ちたとかではないだろう。


「この廃村で夜を明かした方が良いと占いの結果は出たんだけどね」


 にもかかわらず、そこから先を言い淀む。


「何が見えたんだ?」


「私たちがここで夜を明かすビジョンだけだよ」


「俺たちも含まれる訳か」


「うん、そうさ」


「なるほどね。

 俺たちが特に疑われもせずに招かれる訳だ」


「アハハ」


 カーターが困ったような笑顔を見せる。

 またしても占いと現実を混同したと思っているのだろう。

 別にそれが事実になるなら、どうでもいい。


 問題があるとすればカーターの周囲の人間がどう思っているかだ。

 執事氏の方を見てみたが、穏やかな表情で頷かれた。


『この様子だと護衛の面々もカーターの占いを信用しているんだな』


 相当の的中率ということになる。


「でもねー」


 カーターが溜め息をついた。


「そのビジョンも霞みがかった感じの断片的なのが少しだけなんだ」


 言い淀んだ理由は、これのようだ。

 何だか嫌な予感がした。

 根拠がないのに確信がある。

 カーターのスキルに妨害が入っている気がしてならない。


『俺が絡んでいるからだろうな』


 妨害しているのは言うまでもなくベリルママだ。

 凄く気まずくなってきた。

 しかしながら、変なビジョンを見せる訳にもいかない。


『俺が何者なのか知られた日には……』


 カーターの記憶を封印する必要が出てくる。

 そう考えると、仕方のないことだとは思うが。


「不確定で流動的な時に見るビジョンのはずなんだけどね。

 色々と想定して占ってみても同じのしか見えないんだ。

 さすがにこんなのは初めてで戸惑ってるんだよ」


 そんなことを言っている割に、表情は穏やかだ。

 とても戸惑っていたり困ったりしているようには見えない。

 もしかすると内心では困窮しているのかもしれないが。

 だとしても俺にそれを気遣う余裕はない。


『間違いなくベリルママの仕業だろうな』


 そればかりが気になってしまっているせいである。

 どうしても罪悪感が残ってしまう。

 過保護すぎやしないかとか考えてしまうのだ。


「不思議と不安感はないっていうか、むしろ安心感があるんだけど」


 ますますベリルママが仕事をしているようにしか思えない。


「へえー」


 これが目一杯の返事だ。

 どもらなかっただけでも大したものだと自分を褒めたいくらいである。

 表情は【ポーカーフェイス】で幾らでも誤魔化せるんだけどな。


『声とかでも動揺を隠せるスキルとかあればいいのに』


 そう思うだけじゃなくて該当しそうなスキルを【諸法の理】で検索してしまったさ。


[上級スキル【滑舌】

 特級スキル【千両役者】]


 検索結果が出た瞬間には余りまくっているスキルポイントを使っていた。

 迷わず【千両役者】を選択。

 【滑舌】や【ポーカーフェイス】の上位スキルで統合されるからね。

 取得するだけで【滑舌】も熟練度がカンスト状態になるし。


 【千両役者】の熟練度にはスキルポイントを消費しなかった。

 セコいと言うなかれ。

 桁違いに上がりにくい神級スキルと違ってスキルの種の効果ですぐにアップするのだ。


 とはいえ、このスキルは普段使いしないようにしよう。

 ベリルママのことで焦って取得してしまったけど乱用するものじゃないだろう。

 ここぞって時だけだ。


「なんにせよ襲撃があるなら夜だろうな。

 今のうちに交代で休んでおいた方がいいぞ」


「そうだろうか?」


「襲撃で少なからぬ死人を出しているんだ。

 体制を整える必要が出てくるし、補充もするだろう」


「なるほど、そうだね」


 カーターは俺の意見に同意すると執事氏の方を見て軽く頷く。

 それだけで執事氏は恭しく一礼した後、部屋を出て行った。


「さて、俺も車両を回収してくるか」


読んでくれてありがとう。

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