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7 その国の名は

改訂版バージョン2です。

 極東の島の上空に来た。


 本当に日本刀のように見える。

 まあ、熱帯魚のような形の大陸と見比べると玩具っぽく感じてしまうのだが。

 両極をのぞけば唯一の大陸だから、そこは仕方あるまい。


 そんなことより移住先のことを整理しよう。

 環境的には日本に近いと言えるだろう。

 四季と火山があるからだ。

 もちろん温泉もね。

 そして米が食えるとくれば楽園か天国かといったところだ。


 ダンジョンは驚異度が低いものしかないようで、住みやすそうである。


「ハルトさんはどんな所に行きたいのかしら?」


「できる限り戌亥市と似通っている土地がいいですね」


「気候的な条件だったら南半分くらいになるかしら」


 海流の影響などで北上しても冬以外は大きな差はないそうだが。


「地勢的に言うと海に面していて川の近くが絶対条件よね」


「そうですね。

 後は低めの山が近くにあれば……」


「山の幸も手に入るような場所がいいわよね」


「はい」


 で、刀の峰の付け根部分に相当する場所に連れて来られた。

 刀の鍔のような出っ張りになっている半島のお陰か海は穏やかだ。

 そして山々に囲まれていながらも広々とした場所であった。


「どうかしら?」


「理想的ですね。

 近くに火山もないようですし」


「だからといって油断しちゃダメよ。

 災害は他にも色々あるんだから」


「はい」


「地震が来たら津波を警戒しなさい」


「はい」


「分かっていると思うけど台風の風は大きなものも当たり前に吹き飛ばすのよ」


「はい」


「ここは大きな川だから豪雨の時は氾濫に注意すること」


「はい」


「あと、温泉に行くなら火山の状態に気を付けなさい」


「はい」


 先程から「はい」しか言えていない。

 どれも当面は心配するレベルのものはないそうなんだが……


『ホント親バカになってしまったな、ベリル様』


 実際、息子と言われても否定できなくなってしまったさ。

 お陰で凄い過保護になってしまった気がする。


 そんなやりとりの末に移住の地へと降り立った。

 ハルト、大地に立つ……なんてな。


 見渡す限りの青い空、広い海、背後には緑に覆われた山々が連なっている。

 俺たちが立っている平野部は山と海に囲われている割には結構広い。

 戌亥市よりも広いのは確実だ。

 開放感があるせいか思わず伸びをしてしまった。


「んー、ここは空気が澄んでるなぁ」


 そんなことを言うとベリル様にクスクスと笑われてしまった。


「ここだけじゃなくて惑星レーヌ全体がそうよ」


「そうでした」


 こっちの世界には汚染物質なんて無いからな。

 少し離れた所を流れている川の水も綺麗なものだ。

 まあ、細菌とかには気を付けないといけないだろうけど。


「こうして見ると大きい川ですね」


 上から見下ろしていた時よりも川幅があるように感じる。


「この島の中では最大級の河川ですからね」


「これだけの流量があれば中核市規模になっても充分な水源になりますね」


 大陸の大河には及ばないが30万人規模でも余裕で賄えるなら問題ない。


「役所勤めが長いとそういう目線で見るようになるのね」


 またしても笑われた。


「いえ、気が早すぎました」


 ぼっちでスタートだというのに。

 しかも人脈がない。

 ゲームのように施設を配置したら人が住み着いたりなんてことはないのだ。


 ただ、この道を選んだのは俺だ。

 文句を言うのは筋違いだろう。


 まずはここで生きていくために生活を安定させなければ。


『街づくりシミュレーションの前にサバイバルシミュレーションだな』


 なんだかゲームっぽい。

 リアルはゲームとは違うがね。

 まあ、そういう遊び心は必要かもしれない。

 脱ぼっちを目指して自由に生きようとしている俺には特にね。


 そんなこんなを取り留めなく考えていたらベリル様から呼びかけられた。


「ところでハルトさん」


「はい?」


「この島はまだ名前がありません」


 無人島じゃそれも当然だ。

 大陸東部は人跡未踏の地で西部の人間には認識されていないそうだし。


 なんにせよ建国するのに名無しじゃ拙い。


「俺が勝手に決めても良いのですか」


「ハルトさんが建国するのでしょう?」


「そうでした」


「名前は決まりそうですか」


「ミズホにします」


「あら、即決なんですね」


 ベリル様が少し驚いている。


「米を主食の国にしたいですから」


「良い名前ですね」


 米好きの俺としては、そう言ってもらえるのは嬉しい限りだ。


 パンが嫌いというわけではない。

 米を用いた料理には至高のものが多いというだけである。


 その筆頭はカレーライスだろう。


 そして祖母直伝の自家製梅干しが入ったおにぎりは格別である。

 他の具材でもおにぎりは旨いものが多い。

 鮭、おかか、昆布、ツナマヨ、明太子、焼きたらこ、高菜、梅紫蘇などなど。


 チャーハンやオムライスも好きだ。


 カツ丼、天丼、親子丼も素晴らしい。

 丼物はすべて正義であると言うべきだな。


 寿司も外せない。

 この国は海に囲まれているから寿司ネタには困らないはず。


 問題は酢がないことだが、無いなら醸造してみせるさ。

 もちろん醤油もだ。

 味噌は大豆を用意できれば祖母直伝の技があるからなんとかなる。

 たぶん……


「では、ここに住むということは首都になるわけですね」


 というベリル様の指摘で俺は我に返った。


「ここより住み良い場所もなさそうですし」


 神様のチョイスがベストでない訳がない。

 ベリル様がドヤ顔で胸を張った。


「それで、首都名はどうするのかしら?」


「ミズホシティにしようかと」


 センスも捻りもあったもんじゃない。


「あら、本当にお米が好きなのね」


 などとベリル様には感心されたけど。


「このあたりは自生はしていないけど安心して。

 米所としての条件は上々だから。

 もちろん、お米も種籾も倉庫に入れてあるわよ」


 正直、やり過ぎだと思うくらい至れり尽くせりである。


「ありがとうございます」


 俺は深々とお辞儀しつつお礼を言った。

 過保護すぎて顔が引きつりそうになったので、それを隠す目的もある。

 何より断るなんてできる訳がない。


「もう~、悲しくなるから他人行儀にならないで」


 ベリル様の瞳はまだウルウルしていないが、ギクッとさせられた。

 そんな雰囲気を感じてしまったのだ。

 どうやら大仰な行動のせいで泣かれかねない状況に追い込まれたっぽい。


「余所余所しいと泣きたくなっちゃうじゃない。

 これでも過保護にならないよう自重してるのよ」


 なんとか踏み止まれたが「えっ!?」と聞き返してしまいそうになった。

 とりあえずスルーしておこう。


「じゃあ、始めます」


 いつまでもぼさっとしていると日が暮れてしまう。

 それまでにやっておくべき事は終わらせておかないと。


「何を?」


 ガクッと膝に来てしまった。

 この天然女神様、ホントに疲れる。


「あら~、大丈夫?」


 誰のせいなのか半日は問い詰めたい気分だ。

 やんないけど。


「大丈夫です」


 精神的疲労を感じつつヨロヨロの状態から踏ん張って姿勢を正した。

 さっさと作業に入ろう。


 まずはイメージ。

 思い描くは未来のミズホシティなんだが……

 日本の町並みしか想像できなくて違和感バリバリだ。

 が、元日本人なんだから仕方ない。


 あと長年の役所勤めの影響もあるみたい。

 都市開発課で都市計画のことを多少かじったせいで防災のことが頭に浮かんだ。


 地震、水害、火災などなど。

 大事なのはバランス感覚と将来性。

 ちぐはぐなことをすると都市機能が著しく低くなってしまうしな。


『特にこれだけ広い場所だと……』


 そこまで考えて、ふと我に返った。

 人がいないのに都市を造ろうとしてどうするというのか。


 時間だってかかる。

 魔法を使っても何日かかることやら。

 日が暮れることを気にする以前の問題だ。

 自分の間抜けさ加減に情けなくなってしまったさ。


 国づくりは前途多難である。


読んでくれてありがとう。

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