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668 つくってみた『滑り台』

『酷い目にあった……』


 破壊力満点な可愛さで妻組&子供組&ベリルママから「あーん」を要求されてしまった。

 昇天しそうな破壊力だったと思う。

 途中で意識があるのかないのか、あやふやになったくらいだ。


『その上、衆人環視の状態なんだぜ』


 こっちは恥ずかしさで地獄かと思ったさ。

 愚痴ったら「贅沢言うな」と言われそうだけど。

 それとも「もげろ」だろうか。


 まあ、うかつに愚痴など口にできんがね。

 そんなことしてベリルママに泣かれたら軽く死ねるからな。

 それがなかったとしても妻たちの突き上げがあるだろうし。


 故にそういう言葉を聞くこともないと思う。

 とにかく「あーん」で天国と地獄なひとときは終わった。


『次は人目のない時にお願いしたいよ』


 え? 懲りてないだって?

 だってさぁ、可愛いんだぜ。

 それも超をいくつもつけたくなるくらい。

 地獄は嫌だが天国は味わいたいって思うだろ?


 え? 爆発しろ?

 サーセン。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 朝食後さっそく浜に出てきた。

 みんな気合いが入っている。

 昨日のトラブルで奪われた時間を取り戻すぜと言わんばかりだ。

 そこを言葉にしないのは人竜組もいることだし気を遣っている訳なんだが。


 とにかく遊ぶ気満々である。

 その割には端っこで固まった状態である。

 ウズウズしてはいるが、それ以上の動きがない。

 俺が遊具を出すからと予告して止めているためだ。


『さて、それじゃあ引っ張り出しますかね』


 ふうと一息ついた俺だが、それすら待ちきれない一団がいた。

 テテテーッと子供組が駆け寄ってきて──


「「「「「ねーねー、陛下ー」」」」」


 声を掛けてくると同時に囲まれてしまった。

 毎度のごとくベッタリで幼女まみれになってしまう。

 その上で期待のこもったキラキラした瞳が向けられるんだな、これが。

 幼女のそれはYLNTな紳士でなくても蠱惑的と表現することだろう。


『くっ、可愛ええ』


 身悶えしそうになるの我慢するのがつらい。


「なにかな?」


 内心で我慢を強いられていることなど見せず呼びかけに答える。

 ある意味、苦行である。


「「「「「何が出てくるの?」」」」」


 彼女らの背後にワクワクという書き文字が見えそうなほど期待されている。

 その姿を見せられて俺は焦る。


『マズい、非常にマズい』


 そんな大したものを用意したつもりはないのだ。

 ちょっと楽しめればいいかなぐらいに思っていたのでね。


『皆で楽しめればと数は用意したけど……』


 多少のアレンジはしたけど、やっつけ仕事的な意識があったのは否めない。


『作ったのは昨晩だしなぁ』


 しかも、あの騒動の後である。

 トラブル続きで、やる気が付いて来なかったのは認めよう。

 とはいえ言い訳だし誤魔化しだ。

 そんなものが子供組の純粋な気持ちに通じる訳がない。


『ガッカリされる訳には……』


 俺、大ピンチである。

 【ポーカーフェイス】を使っていなければ嫌な汗がブワッと噴き出していたはずだ。

 それ故に内心ではこれ以上ないほどに焦っていた。

 が、おくびにも出す訳にはいかない。


『数多の俺よ、緊急招集っ!』


 【多重思考】で人海戦術だ。

 この難局を乗り切るにはそれしかない。


『『『『『どうにか時間を稼げよ、俺』』』』』


 応じてくれた複数の俺が一斉に話し掛けてきた。

 事情を説明する手間が省けるのがありがたい。

 通常、こういう人海戦術でどうにかしようという時は説明に時間が取られるからな。


『なんとかしよう。

 その間にグレイトな改良版を作ってくれよ、俺』


『任せろ!』


 実に頼もしい返答である。

 だが、それは1人からだけだった。

 この状況で敵前逃亡はあり得ないがね。


『簡単な物なら設計は上がっている』


 別の俺から報告が上がる。

 既に仕事を始めていた訳だ。

 開始の合図など必要ない。

 というより、その時間さえ惜しいのだ。


『簡単なやつはシミュレーターの安全確認も終わっている』


『というより設計が上がった段階で終わってたぞ』


『それを言うなって』


『そんなことはどうだっていい。

 どうにか誤魔化して最初に出そうとしてたのと差し替えろ』


『そうだ、それで更に時間が稼げるはずだ』


『その間にグレイトなやつをどうにか仕上げておく』


『すまん、助かる』


 送られてきた初期遊具の改良版データを受け取った俺は倉で作業を始めた。


「手始めにこれだな」


 倉庫からドンと引っ張り出したのは俺のお手製滑り台。

 児童公園にあるような小さい金属製のものではない。

 アレよりも滑り面は倍の高さがある。

 角度は変わらないので長さも倍だ。

 全体の形状は小山のようになっている。


 それを海に向けて設置した。

 滑りきると海へと放り出されるようにしてあるのは最初からの仕様だ。


「大きな滑り台ニャ」


 ミーニャが駆け寄ってグルグル回り始めた。


『良かったー』


 テンションが落ちた気配がない。


「階段が自動で動くよ」


 シェリーが目敏く見つけていた。

 だが、まだ階段に乗り込むようなことがない。

 フライングで階段に足を乗せたりはしたけどね。

 で、動くのを確認したら階段から足を退けた。

 俺が何も言ってないから許可を待っているのだろう。


「エスカレーターなの」


 ルーシーがシェリーの言葉に反応していた。


「「滑る部分に水が流れてるよ」」


 ハッピーとチーは別の点に着目している。


「「「ホントだ!」」」


 先の3人が滑る面を確認して喜ぶ。

 そして幼女たちが小躍りを始めた。

 それを見てちょっと安堵したのは内緒だ。


『セーフ!』


 俺が小躍りしたい気分だよ。


『ガッカリされたら立ち直れんからな』


 まあ、手始めにと言っておいた保険が利いていると思っておかないといけない。

 この滑り台だけで終わらせると、すぐに飽きられてしまう恐れがあるし。

 最初はこれを幾つも並べて遊ぼうと思っていたのだが。


『そんなのでどうにかできると思うほどヘロヘロだったんだな、俺』


 図らずも昨日は精神的には削りに削られた日であったことを思い知らされてしまった。

 体力的には余裕だったんだけどね。


「「「「「陛下ー」」」」」


 再びテテテーッと駆け寄ってきて取り囲まれてしまった。


「「「「「他にもあるの? あるの?」」」」」


 大事なことなんだろう。

 2回聞かれてしまいましたよ。


『危ねー』


 初期状態のままにしなくて良かったと内心で安堵した。

 冷や汗ものである。

 だが、些か誤解させてしまったかもしれない。


「すまん。

 言葉足らずだったようだな」


 俺は頭を下げる。


「用意したのは、すべて滑り台だ」


 こちらを先に説明しておくべきだったかもしれない。


「「「「「えー、そうなのー?」」」」」


 案の定、子供組のテンションが少し下がった。

 それだけでドキッとしてしまう。


「ただし、こいつは入門用でな」


 この言葉だけで落ちたテンションが盛り返す。


「「「「「入門用?」」」」」


「そう、入門用。

 他にも中級と上級がある」


 ということにしておいた。

 中級とは先に設計図データをもらったやつだ。


「「「「「おおーっ」」」」」


 俺の説明に子供組だけでなく皆からも感心する声が上がる。


「見たいのニャ」


「見たいの」


「見たいです」


「「見たい見たい」」


 飛び掛からんばかりの勢いで要求されてしまった。

 他があると言われると、そうなるのも仕方ない。

 だが、上級用の完成報告はまだない。


『ここで時間を稼がねば』


 中級用は入門用を高く急にしただけなので完成しているのだが。


「そんなに見たいか」


「「「「「見たいでーす!」」」」」


 元気よく手を挙げて答える子供組。


『うはー……

 可愛ええのー』


 などと和んでいる場合ではない。


「では、まず入門用のチェックをしてもらおうか。

 実際に滑ってみて何の問題もないことを証明してくるのだ」


「「「「「ラジャー!」」」」」


 ビシッと敬礼したかと思った次の瞬間、子供組は滑り台にダッシュしていた。

 跳躍すれば一発で上に行けるのだが階段下に並んで順番に上っていく。


『普段の教育の賜物かな』


 我先にということになっていないので安心した。


「いっくよー」


 トップバッターはシェリーのようだ。


「「「「おーっ」」」」


 残りの4人が拳を突き上げて宣言に応じた。


「それーっ」


 通常の滑り台よりも勢いよく滑り出していくシェリー。

 あっと言う間に加速して滑りきった。

 滑走面に流れている水のお陰だ。


「思ったより速ぁーい」


 そして海へと放り出される。

 水面スレスレを数メートルほどザザザーッと滑っていきドボンと落ちる。

 すぐに海面から顔を出してきた。


「おもしろいよー」


 滑り台の上で待機している面々にブンブンと手を振るシェリーさん。

 この後、4人が次々と滑っていったのは言うまでもない。


読んでくれてありがとう。

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