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667 羞恥心で天国と地獄

 注目を浴びまくる中で俺のライフは削られていくかのようだ。

 羞恥心ゲージはガンガン加算されていくというのに。

 いや、加算されていくからダメージが増していると言うべきだろう。


『とにかく終わらせるぞ』


 途中で中断は許されない。

 何としてでも「あーん」の行列を捌ききってみせるさ。

 そう決意を固めたところで次の面子が目の前に来る。


『次はツバキか』


 その後ろにカーラが続いている。

 筆頭弟子コンビである。

 この両名はミズキたちとは対照的にガチガチだった。

 笑顔は笑顔なんだが、ぎこちない。

 というより引きつってしまっている。


「大丈夫か?」


 羞恥心によるメンタル攻撃を受けている俺が思わず声を掛ける程だ。

 余裕がある訳ではなく、俺より酷そうに見えてしまったってことだな。

 表情だけなら声も掛けなかっただろう。


「だだだ大丈びゅ」


『噛みまくりじゃねえか』


 これで「あーん」なんてできるのだろうかと不安になってくる。

 舌や頬の内側を噛んで血塗れになったりしやしないかってな。

 あるいは飲み込み損なって咽せたりとか。


『無いとは言い切れない……』


 だが、このまま待ち続けても状態がマシになったりはしなさそうである。

 匙を手渡す動きもカクカクしてたし。

 昔見た外国の映画に出てくるロボット警官みたいだったぞ。

 それっぽい効果音をつけたら本当にロボットっぽく見えただろう。

 少しだけ気が楽になった。


「ほら、あーん」


 卵かけ御飯をすくった匙を口元へ持って行く。

 俺はツバキと違って動きが変になったりはしない。

 ガリガリと精神を削られるほど恥ずかしくはあるけどね。


「ああああーん」


 ツバキのこんな状態を見ると少しだけ削られるペースが緩くなる。

 心配でたまらない。


『噛むなよー。

 咽せるなよー』


 心の中で何度も何度も呪文のように繰り返す。

 ツバキが口の中に匙を収め咀嚼を始めた。

 噛むのは問題ないようだ。

 相変わらず引きつった笑顔のままだが。

 そして俺から匙を受け取る動作もロボット警官のままであった。


「むぐっ!」

「どうしたっ!?」


 飲み込む際にツバキが変な声を出した。

 一瞬、咽せたのかと思ったのだが。


「し心配なひ、こ声が出ただけら」


 噛み噛みだが喋ることができるなら大丈夫なんだろう。

 少なくとも咽せてはいない。

 それが確認だけでもホッと一安心だ。


「でわな」


 ウィーン、ガションなんて聞こえてきそうな動きで向きを変えて俺の前から移動する。


『最後までガチガチだったな』


 だが、まあ心配させられた分だけ可愛くも感じられた。

 妖艶な雰囲気を持つ美女だからこそのギャップ萌えなんだろう。

 密かに身悶えしたくなったほどである。

 ただし、それが余計に羞恥心ゲージを加算してくれるのだが。


『最後にゴッソリ削られた気分だ』


 そして続くカーラの番。

 判で押したようにとは言い過ぎだが、ツバキの再現であった。

 まあ「あーん」が「ふぁーん」だったりと違いはあったが。

 噛み噛みでロボット警官のパターンも同じ。


 最後に「んがんぐっ」とか何処かで聞いたような飲み込み方をしていたけれど。

 どうやら声を出さないと上手く飲み込めなかったようだ。

 それが分かっても心配になるのは変わらない。


『心配させやがって』


 ほぅと一息。

 安堵すると、それまでの緊張した姿のカーラが可愛くて仕方なくなる。

 エキゾチックな雰囲気を醸し出す美女がそれだからね。

 危うく身悶えするところであった。


『危ない、危ない……』


 それ故に恥ずかしさが増していくのは視線のシャワーがあるからなのは言うまでもない。

 頬はとうの昔に真っ赤である。


 そして続くはシヅカさん。


「主よ、あーんなのじゃ」


 恥ずかしがる様子も見せずに「あーん」をしてくる。


「……………」


「ほれほれ、どうしたのじゃ。

 あーんなのじゃ、あーんっ。

 何をしておるのじゃ。

 あーんしてたもれっ」


 催促が激しい……

 だが、シヅカは肝心なことを忘れている。


「匙がなければ、どうにもできんぞ」


 そう、シヅカは己の手に握りしめたまま催促していたのだ。


『気付けよな……』


 それくらい有頂天になっていたということなんだろうが。


「なんとぉっ!?」


 大袈裟に仰け反って驚いている。

 その後は顔を真っ赤にして、おずおずと匙を差し出してきた。


「あーん……」


 今のミスがかなり恥ずかしかったようだ。

 ションボリして声が小さくなっている。

 美女がしおらしくしていると絵になるのだが。


『これもまたギャップ萌えっ』


 先程までとの落差に内心では悶えまくってしまった。

 それが外に漏れ出てしまうのではないかと気が気じゃない。

 必然的に羞恥心ゲージが溜まっていく訳だ。


 こんな不意打ちみたいな手を使わないでほしいと思う。

 狙って実行した訳じゃないので、俺の要望は通りにくいと思う。


『次はルーリアか』


 緊張した面持ちで匙を渡してくれた。


「よろしくお願いします」


「ア、ハイ」


 妙な緊張感がある。

 弟子コンビのようなガチガチの感じとは、また違う。

 顔を引きつらせたりはしていないし。

 動きも自然なものだった。


 ただし、果たし合いでもするかのような空気が周囲に漂っている。

 その辺りの調整を間違えるようなルーリアではないので殺気にまではならない。


「じゃあ、あーん」


「あーん……」


 ピシッと気が張っているのに自信なさげな「あーん」である。

 ルーリアの童顔でコレをされると何もしていないのにダメージをくらった気分になる。

 それだけでもフェイントなのだが……


「これでいいのだろうか?」


 いきなり不安そうな表情になって、こんなことを言われると困る。


「っ!?」


 タイミングが外されて匙を手に持ったままズッコケそうになったよ。


『ナチュラルに天然ボケをかまさないでくれっ』


 抗議は内心だけで留めたが。

 直接、言っていたらグダグダになっていただろう。

 ピリピリしていたのは不安を押し隠すためだったようだし。

 あまり文句を言うと、その心理が加速されかねない。

 だから何でもないように見せながらリトライである。


「ほら、あーん」


「あーん……」


 今度は中断することなく食べてくれた。

 それは嬉しい。

 そこに不満などないのだがピリピリしっぱなしだったので微妙に疲れた。

 ただでさえ恥ずかしくてメンタルが削られているというのに。


 しかも、だ。

 ルーリアは意識していなかったのだろうが、去り際にナチュラルな笑顔を見せてくれた。


『グハァッ!』


 まるで豪快なアッパーカットをくらって吹っ飛ばされた気分である。

 どうにか耐え切りはしたが、羞恥心ゲージが跳ね上がったのは言うまでもない。


『俺、最後まで保つのかね』


 そしてリーシャが来た。

 性格的に似ていると同じような行動パターンになるようだ。

 中断こそなかったがピリピリしつつ不安そうにするという器用なことをされたよ?

 去り際のニコッも同じだった。


『ガハァッ!』


 俺は再び内心で宙を舞った。

 破壊力満点である。

 故に羞恥心ゲージはレッドゾーンから下がる様子を見せない。


『勘弁してちゃぶだい』


 下らない駄洒落でも考えないと耐えられそうにない。

 その次も破壊力が高かったからな。


「なによ、私があーんしちゃいけないの?」


 真っ赤な顔したレイナにそんなこと言われるんだぜ。

 そのくせ頬が緩んでるんだもんよ。


『可愛すぎだろっ』


 もちろん衆人環視の状態でそんなツッコミが入れられるはずないんだけど。

 こんな具合に様々な「あーん」攻撃が続く。


『俺、耐えられるのか?』


 心臓がバクバクしっぱなしで自信がない。


「これも試練やで」


 アニスにはそんなことを言われながら「あーん」をした。

 気遣いが嬉しくて小休止の気分になりかけたさ。

 だが、此奴も反則級の笑顔を見せてくれたので俺は大ダメージを受けた。

 休まる暇なんてありゃしない。


 ダニエラは普通に「あーん」をしたが反則攻撃を受けた。

 食べた直後にピョンと軽く跳びはねたのだ。

 嬉しかったのだろう。

 それはいいのだ。

 が、胸元のポヨンポヨンしたものが弾むのは反則だろう。


『ゲハァッ!』


 俺はまたしても内心で宙を舞った。

 そしてメリーとリリーが並んで目の前に来た。


「「同時でお願いしまーす」」


 理力魔法で茶碗を浮かせつつリクエストに応えさせてもらいましたよ。

 ダブルで笑顔を見せてくれるとか、これも反則級だったけど。

 気分はヨレヨレである。

 まだまだ終わらないので途方に暮れそうになったがな。


 というか、その後の記憶があやふやだ。

 腹の底に力を入れて羞恥心に耐えながら「あーん」を続けたはずなのだが。

 気が付けばラストのベリルママの番だった。


 確かに記憶はあるのだ。

 エリス、マリア、クリス、アンネ、ベリー、レオーネ、リオンと続いたはず。


 それだけではない。

 子供組にも「あーん」はした。


「あーんニャ」


「あーんなの」


「あーんですぅ」


「「あーん……」」


 などの声は確かに聞いた。

 あれは幻聴などではない。

 どうやら感覚が麻痺していたようだ。


「ハルトくん、あーん」


 それはラスボス級の攻撃であった。


読んでくれてありがとう。

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