663 話を聞いた末に閃いたもの
遠慮して飲まなかった面子は酔わなかったということのようだ。
飲んでしまったら例え神様でも酔ってしまうとか怖すぎる。
『もしエヴェさんたちが遠慮してなかったら……』
考えるだに恐ろしい。
ブレーキ役すらいなくなるんだぜ。
そういう意味じゃ助かったと言えるのだろう。
現状はとても助かったと言えるような状態ではなかったが。
(しかも大広間の話し合いが決着つかんちゅうてゴネはったんですわ)
『無茶苦茶だ』
秩序もクソもない。
普段のベリルママでは考えられないことだ。
(ゲームで決着つけるようにとか言い出して、あっちはああなってしまいましてな)
『ゲームって……』
それで枕投げになっていた訳か。
(枕が当たれば減点っちゅうルールで始まってしまいましてん。
最後の1人が残るまでのバトルロイヤル式でんな。
誰と組んでもええし、その時はチームが残れば勝ち。
チーム内でハルトはんの隣で寝る権利を決めるっちゅうことになったんですわ)
確かにチーム対抗みたいな感じになっていた。
単独だと複数から狙われた時が厳しくなるからな。
そのせいか、なかなか脱落者が出ない状況になっていた。
現状でも半数以上が残っている。
(持ち点は100点で0点になった時点で脱落ですわ)
『100点からの減点かよ……』
気の遠くなるような話である。
むしろ脱落者が出ているのが凄い。
そう思ったのだが、次のエヴェさんの説明を聞いて納得がいった。
(普通に命中したら5点減点ですねん)
『実質20点か……』
それなら脱落者が出ているのも分からなくはない。
(それと持ったまま殴りつけるのは無効でしてな)
つまり投げた枕が当たった時のみ有効打として認められるのだろう。
そこから本物の乱闘に発展するのを防ぐ目的があると思われる。
(擦っても有効やけど、その時は減点1ですわ)
『持ち点を20点にしなかった理由はこれか』
完全回避を狙いすぎると無理をする場面が出ると読んだのだろう。
『酔っ払ってるのに細かいところに気が付くなぁ』
呆れるやら感心させられるやらだ。
そこまで気を遣うなら宿泊施設でこんな真似をさせないでほしい。
(キャッチしたときは減点3になりまんな)
『それで回避オンリーだった訳か』
たまに枕で迎撃したりもしている。
要は当たらなければいいってことだ。
(顔面の命中は無効でっせ)
事故防止を考えてのことだろう。
可変結界の中で飛んで来る枕に殺傷能力はないけれどね。
それでも顔にぶつけられて頭に血が上らない保証はないわけだし。
乱闘防止の目的もあるのだろう。
『ホント細かく考えてるなぁ』
溜め息をつきたくなってきた。
(ただし、自分から顔面で当たりに行った場合は20点の減点ですねん)
『ズルは許さない、か……』
(あと魔法は使用禁止でっせ。
使った場合は即失格でんな)
しつこいくらい皆を暴走させないように考えられている。
色々と思うところはあるけれど。
怪我をさせない。
喧嘩をさせない。
そのあたりは考えてくれていた。
細かなルールを決めることでセーブしたつもりなんだろう。
可変結界も使っているし。
安全対策は万全と言いたいのかもしれない。
『けど、そういうことじゃないんだよなぁ』
大広間で暴れる真似をさせたのが問題だ。
宴会場にもなるけど、ここは宿泊施設であって体育館ではない。
いかに厳格なルールの下で管理されようと、あんな乱闘もどきは問題外なのだ。
『神の酒を飲んだせいで常識的な判断ができなくなったのだとしてもね』
飲むのを決めたのはベリルママだ。
息子として注意せねばなるまい。
素面に戻るまで待たないと、どうにもできないけれど。
逆に酔いが覚めれば俺の出番はないかもしれない。
俺が注意するまでもなく反省すると思うし。
『下手すると反省するためとか言い出して帰られてしまいそうだな』
それだと休日にした意味がない。
皆もベリルママを帰らせてしまったと落ち込む気がする。
難しいところだ。
ベリルママに指示されたから始めたにせよ今は熱中してしまっている。
自分たちが止めなかったからだと考える者たちも出てくることだろう。
『あえて明日も休日に付き合うのが罰ってことにするか?』
自分に問いかけてみる。
だが、すぐに意味がないという結論に達した。
『楽しめなきゃ休日じゃないよなぁ』
かといって延期するというのは枕投げ関係者以外が可哀相だ。
『どうすりゃいいんだよ』
実に憂鬱である。
途方に暮れるしかないと言いたいところだが、そうも言っていられない。
自然にゲームが終了するのを待っている訳にはいかないのだ。
『ここからが長丁場になりそうだよなぁ』
脱落者は徐々に出始めてはいるけれど。
それは逆に回避するためのスペースが確保できるということでもある。
『どう考えたって日付が変わる前に終わんねえだろ』
そんな悠長なことは言っていられない。
花火を楽しんでいる面子が帰ってくるからだ。
『それもあるんだよなぁ』
花火組が帰ってきたら混乱が更に拡大すると思われる。
そうなった場合、事態を収束させるのは現状の何倍の労力が必要になるだろうか。
正直、考えたくない。
とはいえ逃避するとツケが大きくなって返ってくる。
『せめて動ければなぁ』
無理やりにでも止めさせるんだが。
ベリルママの可変結界を壊すことは無理だろうけどね。
内と外で見えなくなっている訳じゃないんだ。
脱落して大広間の端っこで待機している面々なら気付いてくれるだろう。
すぐ側まで行ければだが。
『魔法でどうにか信号を送って……』
おそらく無理だ。
ベリルママにキャンセルされるだろう。
身じろぎしようとしただけで理力魔法で抑え込まれるのだ。
『魔法を使おうとしただけで強制解除されるのは目に見えているよな』
何の魔法を使おうとしているかとかは関係ない。
喋るのもリスクが大きい。
その内容次第でどうなるかが読めない。
事態が好転すると確信できる時以外は口を閉ざした方が無難だと思われる。
『何かないか……』
スマホは使えるが、これもリスキーだ。
声に出して話をするよりは隠密性はあるけれど。
あと、念話よりも察知されにくいか。
それでもメールの送受信には魔力を発している。
瞬間的なものとはいえ多用することはできないだろう。
もし使うならカモフラージュしておいた方がいい。
『適当なアプリを使って退屈しのぎをしているように見せかけて……』
文句を言われそうな気がする。
退屈なのかって。
『それならアプリを開発していることにした方がまだマシか。
新しいアイデアが閃いたから忘れないうちに、とか言えば……』
いずれにせよ解決の糸口が見つけられていない現状で試みてよい手ではないだろう。
切り札は使うタイミングが肝要である。
今はまだその時ではない。
手札がなさ過ぎる。
『何か決定的な情報があればなぁ』
現時点で得られている情報を思い返してみた。
が、いまひとつな気がする。
神の酒でベリルママたちが酔った。
けれども、その出所は不明。
分かっているのは貰い物ということだけ。
『誰から送られた?』
そこが気になる。
真っ先に思い浮かんだのは、こういう厄介ごとを面白半分で引き起こす御仁だ。
が、それならベリルママも警戒しただろう。
けれども現実には無警戒で飲んだと思われる。
おそらくこれが神の酒であることを知らなかったのではないだろうか。
取って置きなんて言ってたようだけど。
(誰から貰ったの?)
ここに来て初めてノエルが質問した。
俺と似たようなことを考えていたようだ。
(それが分かりまへんのや。
えらいすんまへんなぁ……)
申し訳なさそうにエヴェさんが頭を下げる。
その瞬間、俺の中に閃くものがあった。
『ここが勝負所だ!』
そう思った俺は、その人物に連絡を入れるべくメールの文面を打って送信。
カモフラージュとか全部飛んでしまった。
そんなもの気にしている場合じゃなかったからだ。
『あの人なら……』
根拠レスの直感だ。
それでも俺は間違いないと感じていた。
『厄介なものをベリルママに押し付けてくれたもんだよ』
内心で憤慨さえしていたほどだ。
後はどうにか事情を聞いて責任を取ってもらうだけだ。
「………………………………………」
メールの返事がない。
厄介ごとの匂いをかぎ取って読まずに放置している恐れがある。
『まあ、いいけどね。
責任を取る気がないと判断させてもらうだけだから』
無視されたことも含めて陳情するまでだ。
アドレスはルディア様に聞けばいい。
そのための文書を作成しようとした時のことである。
『ちょちょちょっと待とう。
待ってくれないと泣いちゃうよ!』
念話で割り込んできた相手がいた。
相変わらず勘が鋭いようで。
『どうも御無沙汰してます、エリーゼ様』
俺からも念話を送った。
しかしながらベリルママは無反応だ。
『いやいや御無沙汰だね、ハルトくん。
何か大変な目にあっているようだが心配はいらない。
強制的に私と君の間に結界を張らせてもらったから』
ベリルママにも気付かれない結界を即席で構築するとか並大抵のことではないはずだ。
上司へ報告されるのは、よほど嫌だと見える。
『そこまでするくらいなら最初から騒動の種なんて蒔かないでくださいよ』
『ハッハッハ、まさかこんなことになるとはね』
悪びれる様子が一切ない。
『報告……』
『スンマセンッ!』
読んでくれてありがとう。




