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662 厄介な取って置き

 すうっとノエルの瞳が細められた。

 まるで「このオッサン、バカなの?」と言っているかのようだ。


『信じられるか?

 これで未成年なんだぜ』


 子供のはずなのに妙に迫力がある。

 絶対零度とまではいかないが視線の冷ややかさに俺の背中まで凍り付きそうだった。

 明らかに怒気を感じる。

 それでいて静かで冷たい。


『刺されるんじゃないのか?』


 思わず錯覚したほどだ。

 俺じゃなくてエヴェさんが、だけどね。

 視線を向けられているエヴェさんなど金縛りにあったかのように固まっている。

 表情すら変えられないようだ。

 いつの間にかエヴェさんの額には汗が噴き出していた。


『怖ーっ』


 身動きの取れる状況だったら俺は震え上がっていたことだろう。

 顔が引きつりそうになったけど毎度のごとく【ポーカーフェイス】で誤魔化した。


『頼むからお兄ちゃんにあんな目を向けないでくれよ』


 そう願わずにはいられない。

 もし向けられたら耐えられないですよ?

 YLNTな紳士たちの一部からすれば御褒美なのかもしれないが。

 俺はMっ気なんて持ち合わせていないからね。


『エヴェさんもバカだよな』


 何故こうなったのか説明を求められているのに見ての通りだって?

 そんな頓珍漢なことを言われたら白い目で見られても仕方あるまい。

 今の状況にテンパっているせいだとも考えられるけど。


『気持ちは分からんではないけどさ』


 もう少し踏ん張ってほしいものである。

 ただ、責めることはできない気がした。


(最初から聞かせて?)


 ノエルも責めるだけでは状況は何も変わらないと判断したのだろう。

 視線の冷たさを幾分やわらげ、再び説明を求めた。


『子供の対応じゃないよな』


 それだけ苦労はしてきてるけれども……


(あ、ああ、そうでんな)


 殺気にも近い怒気のトーンが下がったことでエヴェさんが再起動に成功する。


(わてとしたことが、こりゃ失礼)


 エヴェさんにもダメダメ発言の自覚はあったようだ。

 なら最初からしっかりしろと要求するのは酷なんだと思う。

 少なくとも俺が同じ立場でも似たような結果になっていた気がする。

 それほどの重圧がこの場にはあるのだ。


 この状況は主に3人の酔っぱらいによってもたらされた。

 ルディア様やフェム様が手を尽くしたように見受けられるが。

 それでも現状は何も抑えが効かないような状態だ。


 いや、この広間内に留めているだけでも上出来な結果なのかもしれない

 そんな中でよく耐え続けたものだ。

 やはりエヴェさんは責められそうにない。


(発端は誰がハルトはんの隣で寝るかを話し合ってたことやと思うんですわ)


 エヴェさんが説明を始める。


(誰かが片方はベリルベル様だと言いましてな。

 それについては誰も反対意見を言わんかったんです)


『まあ、そうだろうな』


 ベリルママと俺が親子ということは周知の事実である。

 それを承知の上でケチをつける者などいるはずもない訳で。


 まあ、布団が同じだったりしたら何か言ってきた者もいたかもしれないが。

 布団は全員シングルである。

 学級委員のような口うるさいことは誰も言うはずがない。

 現にエヴェさんからそのようなことは聞かれなかった。


(問題はもう片方で誰が寝るかっちゅう話になったことですわ)


 小さく肩を落としてエヴェさんが溜め息をついた。

 ノエルは黙ったままである。

 ここでコメントするより先を促した方が良いと考えているのではないだろうか。


(こういうことは滅多にないからと皆が手を挙げましてな)


『マジか……』


 少しでも俺の側で寝たいという気持ちが発端ということになるのだろう。

 そういう風に思ってくれるのはありがたい。

 素直に嬉しいと思う。

 しかしながら乱闘騒ぎにまで至るのは論外だ。


(最初はクジとかジャンケンで権利を得ようっちゅう意見もあったんですけどな)


 どうやらいきなり枕投げが始まった訳ではないようだ。


(しばらくはどちらで決めるかで話しおうてたんですわ)


 実にまともな判断だと思う。

 それが、どうしてこうなったのか。

 まだ納得のいく答えは得られていない。


(同時にわてらはこの話し合いを邪魔したらアカンやろいうことになりましてん)


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。


(それでこっちの部屋に来ましてな)


 ここでまたしてもエヴェさんが溜め息をついた。


(ただ待ってるのも退屈やからっちゅうことで飲むことになったんですけど)


『ここで飲み会が始まったのか』


 しかし、神やその眷属はアルコールで酔うことがない。

 飲み会が始まったからといって、今の状態になるとは思えない。

 俺は未だにナデナデされているし。

 リオス様とアフさんは、そんな俺を見てケタケタと笑っている。

 何がおかしいのか理解不能である。


『ずっと笑い続けるって、どうよ』


 それこそ変なブツを食べたのかと聞きたくなってくる。

 例えばワライタケとか。

 ただ、アルコールと同様にそういうものを口にして状態異常になることはないのだが。

 仮にも神とその眷属なのだ。


 これも酔った影響なのだろう。

 なぜ酔うことになったのかは未だ謎のままではあるけれど。


(最初は皆で供え物を出しおうて話し合いをのんびり眺めてられたんですわ)


 枕投げの中継は話し合いの中継から始まったということか。

 ただ、気にすべき情報ではない。


(それで途中からベリルベル様が出された酒がありますねん)


「……………」


 これだ、と思った。

 根拠はない。

 それでも確信があった。


(最初はミズホ国で供えられたお酒を出してはったんです)


 大吟醸とかビールとか種類は色々ある。


(それはもう嬉しそうにハルトはんが作った酒や言わはって……)


 エヴェさんはそう言うと、更に肩を落とした。

 ドンドン小さくなっていく。

 普段の明るい雰囲気など見る影もなかった。


『苦労してるなぁ』


 同情を禁じ得ない。

 とはいえ俺の状況も同情されて然るべきではなかろうか。


 が、そういう視線は多くはない。

 うちの面子がエヴェさんの話に耳を傾けているせいだ。

 リオンが時折チラチラと横目で気に掛けてくれている程度だろう。

 ルディア様はベリルママたちを諫めるような声掛けをずっと続けている。


「いいですか。

 飲み過ぎて誰かに迷惑を掛けるようなことがあってはいけないのですよ」


「んもう、ルディアちゃんたら堅いんだからぁ」


「これは性分です。

 それよりもですね──」


 言葉を換えながらの繰り返しである。

 先程から延々と続いている。

 ただ、これは注意を引き付けるポーズだ。

 そうすることでエヴェさんたちの方へ意識が向かわないようにしてくれていた。


 フェム様も同様のことを実行中だ。


「お前たちは、それでもベリルベル様の眷属かっ」


 矛先は主にリオス様とアフさんに向けられている。


「眷属でーす」


 リオス様が手を挙げて答えた。


「眷属だよーん」


 アフさんもそれに続く。


「「アハハハハハハハハ!」」


 そして2人して声も高らかに笑うのであった。

 フェム様のこめかみがヒクヒクしている。

 爆発しそうなところをどうにか堪えているようだ。


「眷属としての自覚が足りんっ」


「「足りてまーす」」


 2人が肩を組んで笑いながら反論する。

 とても自覚が足りているようには見えない。


「反省が足りんっ」


「どうして反省しないといけないんですかー」


 唇を尖らせて質問で返すリオス様。

 ただし、ふざけた感じでやっているようにしか見えない。

 さすがは酔っ払いである。


「なーんにも悪いことしてないでーす」


 アフさんが合わせて反論する。


「何もかもが足りんわっ!」


 どうにか怒鳴ることだけは回避したフェム様。

 だが、凄い形相は隠せるものではなかった。


「「キャー、フェムちゃんが怒ったー」」


 なかなかの迫力だというのに2人は屈託なく笑う。

 それを見てフェム様がますます怒りを増幅させ……たりはしなかった。

 肩を落とし深く溜め息をつくに留まっている。


 どうやら半分は自制している様子。

 長丁場になることを自覚してのガス抜き的意味合いがあるように思える。

 そしてクールダウンして最初に戻るという感じだ。

 注意を引き付けることに重きを置いている節がある。


 それだけでもありがたいのは事実だ。

 が、それしかできないと言われているも同然なのでガックリもしている。


『はやく何とかしてほしいんだけどな』


 他力本願ではダメなんだろうけどね。

 現状で自力救済はできそうにないので、ひたすら待つだけだ。


『楽だけど退屈すぎて苦行なんだよ。

 あと、何されるか分からんプレッシャーも嫌だ』


 出口が見えないのは辛い。

 つい「責任者、出てこい!」とか言いたくなる。

 仮に言っても事態が好転することはないのだけれど。

 そんな中でエヴェさんの話が核心に迫ろうとしていた。


(そこまでは良かったんですわ。

 せやけど、その後に出してきはった酒が問題ありましてな)


 どうやら特殊な酒のようだ。


(人の酒やのうて神の酒なんですわ)


 エヴェさんのその説明に激しく嫌な予感がした。


(滅多に出回らへんので知られてないんですけど……)


 エヴェさんが少しだけ言い淀む。

 嫌な予感がより色濃くなった気がした。


(これ飲むと神でも酔いますねん)


『やっぱり……』


 嫌な予感ほどよく当たるものである。


(わてもこれが出てくるとは思いまへんでした。

 取って置きの貰い物やいう話やったんで遠慮してたら、あの有様ですねん)


 エヴェさんが溜め息をついた。


読んでくれてありがとう。

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