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661 ピンチの次は羞恥プレイか

 ベリルママのナデナデ攻撃が終わらない。


『何時まで続くんだ?』


 羞恥心に耐えながら終わるのをひたすら待ち続ける。


「…………………………」


 心なしか頭の方が熱を持ってきた気がする。


『おいおい、摩擦熱で火がついたりしないだろうな』


 そんなことはあり得ないのだが、そういう冗談を考えていないと間が持たない。


「…………………………………………………………………」


 待てども待てども終わらない。

 ひたすら撫でられるだけの簡単なお仕事状態である。


『簡単だが退屈だ』


 下手すりゃ一晩中このままということもあり得るだろう。


『せっかくベリルママが上機嫌なんだ。

 それを損ねる訳にはいかんよ』


 できれば脱出したいが下手なことはできないし。


『意味がないどころか最悪コース確定だからな』


 退屈なだけあって考える時間はいくらでもある。


『やはり背に腹は代えられん』


 未成年がどうとか言ってる場合じゃない。

 ノエルに情報を引き出してもらおう。

 内容次第では何か良い手立てを思いつくことができるかもしれない。

 そう思ったのだが……


『どういうこと?』


 ノエルの様子が何というか変だった。

 微妙に俺がニヨニヨされているような、そうでないような。


『俺は何もしていないぞ?』


 混乱する中で色々考えてみたが答えが出ない。

 もしかしたら俺の見間違いかと思って隣にいるアニスを見ることにした。


『……………』


 こちらはもっと明確でしたよ。

 ニヨニヨを濃縮した感じで俺の方を見ている。


『我が妻ながらキモいんですが』


 ここまであからさまにされると何が言いたいのかも何となく分かった。

 俺が膝枕された状態でナデナデされているのがお気に召したらしい。

 アニスは隠す気など微塵もなく楽しんでいる。

 冷やかしてこないのは、ベリルママたちに捕まると同じ目にあうと考えたからだろう。


『ズルいぞ』


 ギリギリのラインを飛び越えることなく顔面だけで俺をからかっているのは確実だ。


『くぬヤロー』


 地味にムカついた。

 人が恥ずかしい思いをしているのに楽しむとか趣味が悪くないか?


『ギルティ』


 誰がなんと言おうと有罪判決が確定だ。

 大事なことだが、一度言えば充分である。


『人の苦境を楽しんだ罰は受けてもらうぞ』


 罰の内容については【多重思考】でもう何人かの俺に決めてもらおう。


『任せた、俺たち』


『任せたまえ、俺よ』


 代表して1人の俺が請け負った返事をしてきた。

 ああ、ややこしい。

 そんなことを考えながらノエルに視線を戻した俺。


『ニヨニヨしてるよな』


 アニスのようにあからさまではないがね。

 どうにか我慢しようとしているように思えた。

 耐えきれずに浮き出てくる感じだろうか。

 実に健気なものである。


『アニスに見習わせたいよ』


 爪の垢を煎じて飲ませたいというやつである。


『これで未成年者なんだぜ』


 普通、この年齢くらいの子供だと親しい相手には冷やかしたりしそうなものだが。

 そこまでには至らずとも面白いと感じたのは事実だろう。

 アニスもノエルも滅多に見られない俺の恥ずかしい姿を面白いと思ったのは仕方ない。

 そこからどういう態度に出るかで印象は大きく異なる訳だ。


 ノエルは堪えようとした。

 アニスには冷やかされたも同然の態度を取られた。

 根っこは同じでも結果は大いに違う。

 心証に差が出るのも当然というものだろう。


 まあ、俺たちの相談の結果アニスはくすぐりの刑が確定したようだ。


『本人がどう言うかは知らんが妥当な線だろ』


 いつまで実行し続けるかも検討されていた。

 アニスがあの表情を見せるようになってから終わるまでと同じにすればいいとのこと。


『それも妥当か』


 自分が刑を受けることになるとは知らぬが故に現在もカウントされている。

 もちろん警告したり教えたりなんてしない。

 意地が悪いとは思うが、それはお互い様だからな。


 開始の方は何時であるか映像ログを超高速で逆再生しながら確認する。

 ナデナデ攻撃に耐えるために意図的にスルーしていたというのはある。

 そうしないと羞恥心が爆発していたかもね。

 で、肝心の始まりはナデナデが始まったあたりからみたいだ。


『マジか……』


 思ったより早い段階でニヨられていた訳だ。

 酔っ払いによるスプラッタな耳かきという危機が去ったからだろう。

 まあ、危機の方は実行された訳ではなく未遂だけれど。


 ノエルもほぼ同じタイミングだった。

 アニスと違って波があるけどな。

 耐えようとしたりニヨニヨしかけたり。

 普段のノエルと違って葛藤が見られる。


『そんなにかよ』


 どんだけ心の琴線に触れたんだか。

 未遂に終わったとはいえ危機が去ったのは大きいようだ。

 現状も基本は実害がありそうだと心配してくれているみたいなんだけど。

 その一方で楽しむ気が満々である。


『お兄ちゃんは悲しいよ……』


 悲しいが、アニスのように刑の執行をしたりはしない。

 優しい葛藤は見せてもらったからな。

 後は姉妹の方だが。

 レオーネは何か我慢するような表情をしていた。


『心境的にはノエルに近いのかもな』


 リオンはポーッと見惚れるような顔をしている。

 免疫がないんだろう。

 あれでよく露天風呂で告白なんてしてきたものである。

 しかも人前で。

 俺が感じていた以上に勇気を振り絞っていたようだ。


『なんか御褒美が必要かな』


 そう思うくらいには。

 妻組は大体こんな感じ。


 亜神組はというと、もっと様々な反応が見られた。

 ルディア様はこめかみに手を当てて渋い表情をしていたし。

 嘆かわしいと言いたげであった。

 もちろん、俺に対してではない。


『これは酔いが覚めたら説教があるか?』


 ベリルママが叱られそうな予感。

 筆頭亜神として黙っていられないというのはありそうだ。

 おそらく超のつくレアケースだろう。


 で、ルディア様と似たような雰囲気なのがフェム様。

 仏頂面で口を真一文字に引き結んでいる。

 ルディア様と一緒になって苦言を呈するかは不明だ。


『そこまでフェム様のことを知っている訳ではないからな』


 これと対照的なのがリオス様とアフさんだ。


「ひ・ざ・ま・く・らっ!」


 何が楽しいのか笑顔で強調して言っているリオス様。


「ひ・ざ・ま・く・らっ!」


 しかも繰り返したよ。

 大事なことなのか、それとも面白いだけなのか。


「アハハハハハハ!」


 どうやら後者のようだ。

 もしかしたら両方なのかもしれないが、それを確かめる術はない。

 なんにせよリオス様は腹を抱えて大笑いしていた。


「ニャハハハハハハハハッ!」


 そしてリオス様に釣られるように笑い転げるアフさん。

 文字通り畳の上を転げ回っている。

 幻影魔法の映像があろうとお構いなしだ。

 映像の方が器用に回避していた。

 それを尻目に申し訳なさそうにションボリしているエヴェさんがいる。


『結局、俺のことを心配してくれるのはオッサンだけか』


 こっちがションボリだよ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 色々と思うところはあったが、ノエルに依頼を出した。

 スマホを用いてチャットで会話する。


[すまんが、エヴェさんにどうしてこうなったか聞いてくれるか?]


[止めるように頼まなくていいの?]


[それをして止められるなら頼む前にやってくれてるよ]


 ルディア様が諫めてくれていたはずだ。

 現状で何も言わないのは、言っても無駄だからだろう。

 いや、逆効果なのかもしれない。


[納得]


 そのあたりはノエルもすぐに理解してくれたようだ。


[エヴェさんでいい?]


[ああ、隅っこに退避してるからルディア様より目立たんと思う]


[なるほど]


[とりあえず、原因が分かれば何か対処法が見つかるかもしれん]


[望み薄だと思う]


[百も承知だよ]


[何もしないよりマシな心境?]


[そういうこと]


[分かった。

 こうなった理由を聞けばいい?]


[ああ、神様はアルコールに酔わないはずなんだ。

 もしかしたら何か解決の糸口になるかもしれん]


[分かった]


[なるたけ目立たんように頼む。

 ベリルママとか酔っている面子に気付かれると面倒だ]


[了解]


 返事をしたノエルがさり気なくスルリと後ろに下がった。

 ノエルの動きは無駄や堅さがなく猫を思わせるものがある。

 そのままレオーネたちの背後を通ってエヴェさんの斜め後ろに回り込んだ。


 それに気付いたエヴェさんが、少し身をかがめてノエルにヒソヒソと話し掛けてきた。

 ノエルの行動を見て目立ちたくないことを察してくれたようだ。


(どないしはりました?)


(ハル兄に頼まれた)


 その言葉だけで申し訳なさが倍増するエヴェさん。


(すんまへんなぁ)


 謝っている姿だけを見れば、ただの気の弱そうなオッサンである。

 とても西方で狩猟神と崇められているようには見えない。


(気にしなくていい。

 エヴェさんのせいじゃない)


 淡々とノエルが語る。

 どちらが子供か分かったもんじゃない。


(どうしてこうなったの?)


(見ての通りですわ)


『いや、だからそうなった理由が知りたいんだって』


 エヴェさんもなかなかのポンコツぶりを見せてくれる。


読んでくれてありがとう。

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