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640 想定外なカニづくし?

 前菜をクリアすれば、いよいよカニだ。

 俺たちの前には蓋付きの丼が並べられていった。

 器は小さめではあるけれど。

 うどん屋とかで丼のセットものを頼んだときに出てくる大きさだ。

 だが、本当に気になったのは器の大きさじゃない。


『いきなり丼とはな』


 こういうのは締めとして出すものじゃないかとは思うのだが。


『しょうがないか』


 出てしまった以上は引っ込めるわけにもいかない。


 実は俺もメニューを知らないのだ。

 出てくるまで伏せておいた方が夕食を楽しめるだろうと思ってね。

 完全にメニューの選定を自動人形任せにした。

 故にいきなり丼が出てきたことで些か動揺していたりする。


『これは失敗したか?』


 動揺を悟られぬよう【ポーカーフェイス】で誤魔化してはいるが、ヤバい気がする。

 晩御飯の初っ端から躓いたりしたら目も当てられない。

 大ピンチである。


 現にマイカなんて俺の方をすんごい睨んでいるし。

 何も言わないけど、言いたいことは山ほどありそうだ。

 いきなり締めを持ってくるバカが何処にいるのよ、とか。

 本当にカニ料理なんでしょうね、とか。

 カニじゃなかったら承知しないわよ、とか。

 とにかく視線がバイオレンスな感じなのだ。


『怖えーっ』


 これでカニがちょっとしか使われてない海鮮丼とかだったら、どうなることか。

 器は小さいから腹一杯とはならないだろうが。

 それでも無駄に腹を膨らせたとか言ってキレかねない。


『頼むから海鮮丼ならカニをたっぷり使ったやつにしてくれよ!』


 願わくばカニ飯でありますようにと強く強く思う。

 でないとマイカが暴れかねない。

 そんなことになったら食事どころじゃなくなるからな。

 程なくしてメイド型自動人形たちが丼の配膳を終えた。


「それではお召し上がりください」


 深々と一礼したのを見て丼の蓋を取る。


「うおっ」

 想定外と言って良いだろう。

 目に飛び込んできたのは丼の上面を占拠する黄色。

 更には黄色をコーティングするかのように覆っている半透明な薄茶色の液体。


「これはカニ玉だね」


 しげしげと眺めながらトモさんが言った。


「カニ玉丼だったとは意表を突かれたなー」


 感心しながらも台詞ほどには驚いていない。


『俺はそんなこと思う余裕もなかったさ』


 マイカのプレッシャーを受けているかいないかの差が出たようだ。


「心臓に悪いよ」


 そう言いながらマイカを見ると、既に食べ始めようとしていた。

 どうやらお気に召したようである。

 少しだけ安堵した。


『ただし、カニがどれだけ使われているかで結果が変わってくるだろうけどな』


 まだまだ安心はできない。


「どうしてさ?」


 トモさんが聞いてくる。


「海鮮丼かもしれないと思ったんだよ。

 カニが少なかったらマイカがキレてたぞ」


「あー、そうだね」


 互いに苦笑する。


「うどんだニャー」


 ミーニャがそんなことを言った。


「なにーっ!?」


 思わず自分の丼を見るがカニ玉が邪魔をして下は見ることができない。


「本当だね。

 これは面白い、アチチ」


 俺が呆然としている間にトモさんが食べ始めていた。

 うどんと聞いて驚くよりも食指が動いたのだろう。

 さすがはうどん好きを公言するだけある。


『感心している場合じゃないな』


 俺も食べることにする。

 箸をつけてカニ玉の部分を割っていく。

 餡の部分がぬるりと流れ込んで裂け目を埋めた。

 そこには赤いカニの身がこれでもかというほど入っている。


『マイカが黙って食うわけだ』


 裂け目の下には確かにうどんが見えた。

 が、まずはカニ玉だろう。

 箸で一口大にカットして口に近づけた。


「熱っ」


 餡でコーティングされているだけあって簡単には冷めないようだ。

 見ると周囲でも皆が悪戦苦闘しながら食べている。

 マイカなんて一心不乱に箸と口を動かしていた。


 だが、それだけの価値はある。

 ただひたすらに旨いと思う。

 完全に裏をかかれた上に味も素晴らしいものだった。


 続いてうどんの方も食べていく。

 餡が絡んで、これも旨い。

 普段食べるうどんとも味わいが違う。

 しかしながらミスマッチは何処にもない。

 絶妙なバランスで作られたと言って良いであろう。


 そんな訳であっと言う間に食べ尽くす。

 マイカも1品目としては満足してくれたようだ。


『とりあえず、これでマイカもキレることは無くなったかな』


 続いてはコロッケと焼売と天ぷらが盛り合わせで出てきた。


『自由すぎる』


 綺麗に盛りつけられていて文句のつけようがなかったけどな。

 自動人形が言うには「ミックス定食です」だって。

 にしたってどういうチョイスなのかと問い詰めたくなる。


 コロッケと焼売なら幕の内弁当とかでも見たことのある組み合わせだけど。

 そこに天ぷらが加わるとカオス感が出てしまう。

 しかも量が少ないから定食と言われるのも違和感があった。


「これは定食じゃないよね」


「そだね、おかずだけだもん」


 ミズキとマイカのツッコミも容赦がない。

 相手がメンタルダメージを受けない自動人形だからだな。


「ではどのような名前がよろしいでしょうか」


 現にそんな感じで普通に聞いている。

 学習機能が働いてデータの修正を行おうとしているのだろう。


「うーん、揚げ物盛り合わせでもないし」


 首を捻りながらマイカが唸っている。


「焼売が入ってるもんね」


 ミズキもそこは同意しているが、自分のネーミング案は出てこないようだ。


「あのー」


 そこに声を掛け得てきたのはレオーネであった。


「「あら、何かいい名前があるの?」」


 ミズキとマイカの2人にハモられて気圧された感じになったレオーネ。

 だが、気を取り直したように話し始める。


「良い名前かは何とも言えませんが……

 盛り合わせでいいなら、カニづくし盛り合わせで良いのではないでしょうか」


 まるっきり普通で何の捻りもない。


「あー、変に捻ろうとするよりいいかも」


「結局はシンプルが一番ってことね」


 2人が頷き、他の面々からも反対の意見などは出なかった。

 こんなやり取りを交えつつ俺たちは食べる。


 まずはコロッケから。

 箸で掴んで持ち上げるとプニュプニュした感触が伝わってくる。

 中身を見る前から予想していたことだが普通のコロッケではない。

 かぶりつくと熱々でトロリとした感触が口の中に拡がっていく。

 そう、これはカニクリームコロッケなのである。


「むほー」


『カニのエキスが染み渡るぅ』


 舌で味わえるだけでなく鼻に抜けていくふわっとした匂いでも感じられた。

 それに加えて食感がある。


『こんなにたっぷりカニの身が入っているクリームコロッケなんて初めてだ』


 満足できないはずがない。


 コロッケの次は焼売へと箸を伸ばす。

 もちろんカニづくしであるからには普通の焼売であるはずがない。

 カニの身たっぷりカニ焼売だ。


 アクセントとしてカニをちょっと使った程度の市販品とは一線を画している。

 カニの旨味が凝縮されていて実に味わい深い。

 プルンとした弾力を噛み切るとジュワッと口の中に拡がっていく。

 クリームコロッケとはまた違った味わい深さがあった。


『カニ焼売、最高ーっ!』


 決して普通の焼売が劣っているわけではない。

 これはこれ、それはそれである。

 今は文句のつけようがないほど旨いカニ焼売を味わうのみ。


「旨いっ!」


 思わず声に出てしまった。

 皆がしきりに頷いている。

 どうやら同じタイミングで焼売を食していたようだ。

 味わいながら食べると意識しなくてもそろってしまうものらしい。


「うむ、これはたしかに絶品だ」


 そんな呟きを漏らしたのはフェム様だった。


『へー、フェム様がそこまで言うとはね』


 直後にハッとした表情になってチラチラと左右を見て俯いてしまったけど。

 食事前にネガティブな発言をしていたのが恥ずかしくなったのだろう。


 ツッコミこそ入らないもののリオス様とアフさんがニヨニヨしている。

 フェム様も気付いたからこそ視線を外すために俯いたわけだ。

 頬が薄く染まっているのが何よりの証である。

 ニヨニヨしたくなる気持ちが分かろうというものだ。


『生真面目な人が恥ずかしがるのは可愛いもんな』


 レアな気がするし、ちょっと得した気分である。

 おまけに恥ずかしがりながらも箸が止まっていない。


『本当に気に入ってくれたようだな』


 俺としては大満足である。


 さて、残るはカニの身の天ぷらだ。

 俺も初めて食べたが、これも旨かった。

 サクッ、ふわっ、ジュワーである。

 茹でたカニと違ってエキスが濃縮されているように感じる。

 実際は衣がカニのエキスを逃さなかっただけなんだろうがね。


 だが、天ぷらを選択したのはそれだけが理由ではないと思われる。

 サクサクした衣の感触とプリプリのカニの食感が絶妙なのだ。


 しかも食べ方にも幅がある。

 抹茶塩で食べたときと天つゆにつけて食べたときでは、まるで違う。

 衣のサクッとした感じを楽しむなら抹茶塩。

 カニの旨味をより引き立てるなら天つゆ。


『この上なく贅沢な味わい方ができるな』


「これも絶品です」


「まったくです」


 ABコンビが頬に手を当てながら味わっていた。

 彼女らだけではない。

 皆がホクホクした笑顔で味わっている。

 天ぷらというチョイスは単品でも良かったのではないだろうかとさえ思えるほどに。


 だが、カニづくしの夕食はメインがまだ控えているのだ。


『こいつは楽しみだよな』


読んでくれてありがとう。

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