表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
632/1785

622 ようやく話が終わったと思ったら……

「「「「「ありがとうございますっ!」」」」」


 やたらと元気なネージュたちの返事だった。

 来客として応対して一番の声が出ていたと思う。

 客人だから好きに滞在していいと言っただけでこれだ。


「そーゆーのはいいからネージュたちも遊んでいくといい」


「「「「「え!?」」」」」


 まさか誘われるとは思っていなかったのだろう。

 全員が困惑の表情になった。


「言ったろ?

 君らは客人だと」


「「「「「はあ……」」」」」


 そろってポカーンと口を開けるネージュたち。


「異議のある者はいるか?」


 誰も答えない。

 首も振られることがない。

 沈黙であるなら異議なしと見なす。


「じゃあ、そういうことで」


 ネージュたちに有無は言わせない。


「ツバキ、悪いけど水着を作ってやってくれるか」


 着るか着ないかは本人たち次第だ。


「心得た」


 とにかく勝手に話を進めていく。

 これ以上、遊ぶ邪魔はされたくないからな。


「それと着るものもいくつか用意してやってくれ」


 ツバキにリクエストしつつネージュたちを見やる。

 話し合いの最中は気にしないようにしていたが、彼女らの衣服はボロボロである。

 元はゆったりした感じの白い絹のような衣服だったのだろうが。

 そこらじゅうに汚れがこびりついていた。

 それどころか、あちこちが裂けたり穴が空いているほどだ。


『空を飛ばずに来たんだな』


 人竜族なら竜にも変身することができるだろうに。

 そう考えて気が付いた。


『……俺に配慮したか』


 我ながら気付くのが遅すぎて情けなくなる。

 何処に向かうかを残った人竜族たちに知られないように空を飛ばなかった。

 そう考えればボロボロの衣服にも納得がいく。

 人目につかぬよう隠れながら長旅をしてきたのだろう。


『ならば余計に報いねばならんよな』


 ましてや客人として遇すると言ったのだ。

 着の身着のままにさせておくなど俺の恥にもなる。

 絶対に汚らしい格好のままにさせておくことなどできない。


 水着を着ない選択もある訳だし、早急に用意する必要があるだろう。

 いずれにしても夕方以降は水着を着ている者たちも着替えることになるからな。


『綺麗な水着からボロに着替えるしかないなんて惨めすぎて泣けるぞ』


 そんなの見せられたら俺の罪悪感ゲージも軽くレッドゾーンに突入だ。


『俺の目の前で絶対にそんな気持ちにさせたりはしない!』


 ツバキにアイコンタクトすると、確と頷かれた。


「もちろんだ」


 ニヤリと笑って返してくるところを見ると俺と同じことを考えていたようだ。


『闘志に火がついたな』


 もともと服を作るのが趣味みたいなところがあるからな。

 さて、水着や服ができるまでは俺はお邪魔虫だ。

 脚についた砂を払いながら立ち上がる。


「そんじゃ、また後でな」


「あのっ」


 ネージュが追いすがるような四つん這いになった。

 いや、リュンヌ以下全員が同じ体勢だ。

 微妙に苦悶の表情である。


『足が痺れたか』


 土下座からの流れで、ずっと正座だったからな。


「痺れているなら無理しない方がいいぞ。

 そのうち収まってくるから辛抱するんだな」


 ヒラヒラと手を振って海の家へ向かおうとしたのだが。


「待ってください!」


 呼び止められてしまった。


「何じゃらホイホイ」


 遊びモードに戻ったから真面目な話はしたくないんだが。


「何もされないのですか」


「ん? 何もしない訳ないぞ。

 これから思いっ切り遊び倒すからなっ」


 ピースサインで宣言する。

 もちろんドヤ顔でだ。


「そうではなくてっ」


 必死な様子で訴えかけてくるネージュ。


「他にも何か情報があるのかい」


 だとしたら俺が早とちりで話を切り上げたことになる。


『やっちまったか』


 内心で冷や冷やしていたのだが。


「いえ、そうではなくてですね」


 ネージュが否定した。

 人竜族の話が残っていると言いたいのだろう。


「もしかして君らが絶縁した連中のこと?」


「はい」


 コクコクと頷いて答えるネージュ。


「来たら潰す。

 それだけだ」


「ですがっ!」


 先程よりも鬼気迫る表情を見せてくる。


「あの者共は龍の誇りを忘れ卑怯な手を使ってくるやもしれないのです」


『だろうな』


 大勢で取り囲んで俺を殺そうとするくらいだ。


「奇襲くらいは想定しているさ」


 もしかすると秘策のようなものを用意しようとしているかもしれないが。

 こっちだって何もしない訳じゃない。

 空中空母の部隊に偵察くらいはさせるさ。

 俺が直には動かないというだけである。


「それも含めてひねり潰す所存だが?」


「そ、そうですよね」


 ハハハと乾いた笑いを漏らしながら頷くネージュ。

 俺が平然と返したことで、対策済みだと読んだようだ。


「敵意のある連中がうちの領域に侵入したら即座に知らせが入るようになってるし」


「「「「「え!?」」」」」


 凍り付くネージュたち一同。


『そんな反応されると思ってなかったよ』


 少なくともネージュは対策ありだと思ったんじゃなかったっけ。

 そこまで驚かれると俺の方が驚くんですが?

 俺の認識が間違っていたのだろうかと考えていると──


「我々が来ることも御存じだったのですか……」


 どうにか立ち直ったシフレが恐る恐る聞いてくる。


『そっちが気になったのか……

 まあ、苦労してようやく辿り着いたみたいだしなぁ』


 ネージュとリュンヌが食い気味で身を乗り出してきた。

 どうやら脚の痺れは抜けてきたようだ。


「いいや、知らなかったぞ」


「「「「「……………?」」」」」


 訳が分からないという顔をされてしまった。


「言っただろ?

 知らせが入るのは敵意のある連中だけだぞ」


 侵入者を通報するシステムがあることに気を取られすぎてしまったようだ。


『無理もないのか』


 国全体をカバーするシステムがあるなど夢にも思わなかっただろうしな。

 実際には惑星レーヌを全カバーしているのだが。

 スマホの通信を安定させるために空中空母を満遍なく配備しているからだ。

 防衛戦力としても活用できるよう多い目に稼働させているし。


『知れば、どんな反応をするのやら』


 国民ではないから教えるつもりはないけれど。


「そんなに正確に分かるものなのですか?」


 リュンヌが呆然とした面持ちで聞いてくる。


「そもそも知らせが入るとは……」


 同じような表情でネージュが呟きを漏らした。


「うちの警戒システムはそれだけ高性能なんだよ」


 まあ、国民でない者に詳細を教えることはしないが。

 たとえ客人といえどね。


「君らは俺たちの客なんだから気にする必要はない。

 逆にシステムで引っ掛かる連中は敵で間違いないってことだ」


 いまいち反応が悪い。

 納得できないというよりは理解が追いつかないようだ。


「ああ、しばらくは警戒レベルを引き上げるから大陸の方で動きがあれば分かるぞ」


「「「「「─────っ!?」」」」」


『おおー!

 驚いてる、驚いてる』


 卒倒しそうな勢いなのはちょっと予想外だったが、概ね予想通りであった。


「そんな訳だから安心して遊んでくれ。

 俺たちは君らを危機を知らせてくれた友人として歓迎する」


 言葉だけでなくサムズアップとウィンクを追加しておいた。


『伝わるといいんだが……』


 そろって抜け殻まであと一歩な状態になってしまっているから厳しいかもしれない。


『大丈夫かな』


 復帰には時間がかかりそうだ。

 その間に服を用意すれば丁度いいかもな。


『おそらく遠慮するだろうし』


 頭の中が真っ白の間に採寸から始まる服の用意を終わらせてしまえば面倒も少なかろう。

 そう考えれば好都合である。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 とりあえずツバキにネージュたちを任せて海の家へ向かった。


「どうにか話が終わりましたー」


 椅子に座ると同時にテーブルに突っ伏してしまう。


「お疲れ様ー」


 ベリルママの労いの言葉が耳に心地よい。


「大変ですなぁ」


 エヴェさんも気遣ってくれている。


「それでどうするつもりだ」


 ルディア様はその辺りをすっ飛ばして俺の方針を聞いてくるけど。

 まあ、早く片をつければ楽になると言いたいのだろう。

 考えようによっては、これもまた気遣いだ。


『そうは思うけど有り難みがなぁ……』


 いま俺が欲しいのは休息である。

 振り切った罪悪感ゲージをゼロに戻して心理的な負担をナッシングに!

 故に俺は起き上がる、立ち上がる。


「全力で遊びます!」


 拳を握りしめて力説。


「いいのか?」


 ルディア様には怪訝な顔をされてしまったが。


「連中が来れば対応します」


「後手後手になるだろう。

 先手を打って黙らせれば良いではないか」


 さすがに抹殺的なことは口にはできないみたいだ。

 件の連中がうちの国民に危害を加えれば話は別になってくるだろうが。


「敵対を明言している相手に警告で済ませたりしませんよ」


 俺はそんなに優しくないですよ?


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ