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621 彼女らが来た理由

 それから少し時間をかけてネージュたちから事情を聞くことにした。

 まずは目的。


「ヒガ様には必要ないのかもしれませんが」


 そう前置きしてネージュが話し始めた。


「あの殲滅を見ていた同族の多くがヒガ様を抹殺すべきだと言い出したのです」


「そーなんだ」


 ちょっとウンザリした気持ちになった。

 面倒くさい話が始まってしまったからなのは言うまでもない。


「私達は止めたのです。

 到底、敵うはずがないと」


『竜種にそこまで言わせるのか……』


 人竜族って亜竜より上位のはずなんだけど。


「その様子だと説得はできなかったんだな」


 俺の指摘は図星だったようで、8人は俯いてしまった。


「あー、勘違いしないでくれよ。

 君らを責めている訳じゃないんだ」


「え?」


 意外な言葉を聞いたとばかりに顔を上げる人竜族一同。


「むしろ、感謝している」


「「「「「は?」」」」」


 そろって目を丸くされてしまった。


「警戒すべき情報を持ってきてくれたんだからな。

 うちの国民に危害が加えられる恐れがある訳だし」


「勿体ないお言葉です」


 ネージュが深々と一礼した。

 それに倣う配下の者たち。

 土下座したら帰るという宣言は有効なようだ。


「で、抹殺なんて言いだした理由は分かる?」


「それは……」


 ネージュが一瞬、言い淀んだ。


「プライドでしょうか。

 彼等は人間が竜より優れているなどあってはならないことだと……

 我々以外は、口を開けば言葉は違えど同じようなことを言っていました」


『うわー、くっだらねー』


 そう思う一方で新たな疑問が湧き上がってきた。


「そんな風に考えるなら、さっさと殺しに来そうなもんだが?」


「苦手としている連携を鍛え上げるのだそうです」


「は?」


「そのままでは勝てないと彼等も理解しているのでしょう」


『まあ、そこまで馬鹿じゃないんだな』


 結論から言えば五十歩百歩だけど。


「ひとつ思うんだが」


「なんでしょうか」


「連携して俺を倒すつもりなんだよな」


「少なくとも我々が最後の説得に失敗したときは、そうでした」


「連中の主張が最初から矛盾してないか?」


 自分たちの方が優れていると言っておきながら多勢に無勢で押し通そうとする?


『それでプライドとか笑わせてくれるよな』


 連中の矜持はすごくねじ曲がったもののようだ。

 俺をこの世から消し去って無かったことにするつもりなんだろう。

 証拠隠滅しておいて自尊心を保てるというなら凄いものだ。


「それは私達も思いました」


 ネージュは悲しげでいて怒りも感じさせる複雑な表情を見せた。

 リュンヌたちも同じ心境のようで唇を引き結んで肩を振るわせている。


『少なくとも彼女らの方が本物の矜持ってのを持ってそうだな』


 好感が持てる相手である。

 ならば、もう少し彼女らに任せるのも悪くはあるまい。

 そう思う一方で──


『やめといた方がいいかなぁ』


 などとも感じている。

 次に説得が失敗すると彼女ら自身に危害が加えられる恐れもありそうだからな。

 少なくとも話を聞く限りでは、そんな雰囲気がある。

 もしかすると帰っただけでアウトなのかもしれない。


「ところで、ネージュたちはどうするんだ」


「どういうことでしょうか?」


 その瞳は不安げに揺れている。


「再び説得しに行くのかってことだな」


「それはありません。

 いえ、あり得ないと言うべきでしょうか」


 やけに強調した言い回しをするものだ。

 一同がネージュに同意するように頷いている。

 その面持ちは硬い。

 怒りを押し隠そうとしているかのようだ。


「その様子だと喧嘩別れになったか」


「「「「「っ!?」」」」」


 全員、図星を指されたという顔になった。

 そして赤面して俯く。


「お恥ずかしいことですが、その通りです」


 絞り出すようにネージュが白状した。


「竜としての誇りを履き違えた連中とは、もはや相容れません」


 その言葉に静かな怒りを感じた。


「俺が連中を滅ぼすことになっても構わないのか」


「はい」


 ネージュは逡巡することなく即答した。


「あの者共は、いまや本能のみで生きる亜竜以下の存在です」


『そこまで言い切るか』


 これは完全に見限ったということだろう。

 ちらりとローズを見ると、コクリと頷いた。


「じゃあリュンヌはどうだ?」


「わ、私ですか!?」


 自分に質問が及ぶとは思っていなかったようで、些か泡を食っているようだ。


「思うところを話せばいい。

 情が残っているというなら配慮する」


「いえ、そんなものは欠片もありません」


 リュンヌも断言した。

 もちろん迷いなど感じられない。

 感じられるのは怒りの感情だ。


『何されたんだろうな』


 ネージュよりも怒っているのだから、ちょっと普通じゃない。


「シエルは、どう思う?」


「あれらは虚栄心に囚われ性根が腐ってしまった……

 二度と仲間だったとは思いたくありません!」


 シエルも辛辣である。

 相手に対する殺意さえ感じられた。


『ホントにどんな仕打ちをされたんだか。

 絶対に単なる喧嘩別れじゃないぞ、これ』


「クレールはどう?」


「意見が違うというだけで姫様を亡き者にしようとするなどあり得ません!」


 クレールの発言に残りの面子が騒ぎ出す。


「そうよ、そうよ!」


 激しく同意するオロル。


「絶対に許さないんだから!」


 もはや敵であると言わんばかりに憎しみを隠そうともしないシフレ。


「次に会ったときは血祭りだわ」


「死ぬのは奴らの方よ」


 ルシュもコリーヌも発言が物騒だ。

 殺気まで漏れ出ている状態では本気であると認めざるを得ない。

 俺を抹殺するという人竜族と遭遇すれば血で血を洗う争いに発展するだろう。


『これは説得になんて行かせられないな』


 とはいえ気になるのはクレールの言った言葉だ。


『姫様、ね』


 恐らくだがネージュのことだろう。

 自分が慕う相手を殺されそうになれば、敵認定するのも当たり前。

 リュンヌやシエルの言葉に怒気を感じるのも無理はない。

 だからこそ、クレールたちも怒りを隠さなかったのだろう。


 いや、過去形ではない。

 今も興奮したまま、かつての仲間を扱き下ろしている。

 その状態が収まるまで待とうかと思ったのだが。


「貴方たち、いい加減になさい」


 ネージュが静かに叱責した。

 ピタリと止まるあたり、凄い統率力だと思う。


「私はもはやあの者共とは何の関わりもありません。

 それはすなわち身分も関係のない存在になったということです」


『その割には上下関係があるよな』


「このことは、ここに来るまでに話したことですよ」


 クレールたち5人が萎んでいった。

 畳み掛けるようにリュンヌが口を開く。


「そして新しい関係を構築するということで決闘したはずだ」


『おいおい、決闘って……』


 リュンヌさんが何やらとんでもないことを言い出しましたよ。


『この連中も脳筋なんじゃねえか』


 ツッコミが喉まで出かかってしまったさ。


「とにかくネージュ様が我らの頭であることに違いはない」


 シエルの言葉から察するに最強はネージュなのだろう。

 本気で戦ったかは分からんが。

 リュンヌやシエルが5人よりも強いのは間違いなさそうだ。


『レベルで言うと150から200の間くらいか』


 雰囲気からすると、それくらいに見える。


「じゃあ、君ら以外の人竜族がどうなっても異存なしということでいいかな」


「「「「「はい」」」」」


 全員が頷いた。


「それと、もうひとつ確認しておきたい」


 俺の言葉に全員が首を傾げる。

 タイミングがピッタリすぎてちょっと面白いと思ったのは内緒だ。


「何でしょうか」


 代表してネージュが聞いてくる。


「この後はどうするつもりだ?」


「う……」


 たじろぐネージュたち一同。


「失礼を承知でお願い申し上げます!」


 リュンヌが深々と頭を下げて声を張る。

 これは土下座厳禁にしてなかったら、やってただろう。

 そう思うだけでプレッシャーだよ。


「当面の間、この国に滞在することをお許しいただけないでしょうかっ」


「あー、そんなことでいいの?」


 拍子抜けのお願いでした。


『そんなん余裕でオッケーに決まってるじゃんか』


「君らは客人だから気にしなくていいよ」


「誠に厚かましいと存じますが……え?」


 俺の言葉が遅れて頭に届いたらしい。

 リュンヌは耳にした言葉が信じられないのか面を上げてきた。

 俺を見ているが、心ここにあらずといった様子だ。


『懇願することに気を取られすぎたんだろうな』


 呆気にとられすぎて隙だらけになってしまっている。


『言動も見た目も武人タイプだなぁと思っていたけど』


 意外と可愛い。

 どちらかと言われると妹的な感じだろうか。


『外見は大人びているんだがな』


 思わず苦笑してしまった。


「好きにすればいいと言ったんだけど」


 改めてそう答えると全員が深く頭を下げてきた。


読んでくれてありがとう。

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