618 遊びながら帰ったら客が来ていた
修正しました。
見方 → 味方
「負けていられないの!」
残ったルーシーまでもが対抗意識を燃やしてきた。
御丁寧にスピンしてから駆け下り宙返りに挑戦するようだ。
ターンしてズザザッと駆け上がってくる。
頂点に達するかという瞬間──
「とおっ!」
掛け声と共にルーシーはサーフボードでジャンプした。
気合いのこもった分だけ高さがある。
ミーニャよりも高いのは間違いなかった。
『いつもより高く跳んでおります』
そしてクルクルと回る。
『いつもより多く回っております』
「「「「「おおっ!」」」」」
3回宙返りである。
そして着水。
寸前まで回転していたので着水時にバランスを崩すかとも思ったのだが。
そういうこともなかった。
見事と言うほかない。
「凄いのニャー」
素直に称賛するミーニャにガッツポーズしてみせるルーシー。
「「3回まわっておけば良かったー」」
ハッピーとチーがそんなことを言って悔しがった。
もちろんルーシーを称えた上でのことだ。
自分たちに工夫がなかったことが残念ポイントとなったようである。
とすると、そのまま真似をするつもりはないということか。
『スピンで3回転とか?』
それならミーニャの真似をしていることにはならないけど。
とにかくアレンジしなかったのが良くなかったらしい。
『下手すりゃ5回転とか言い出しかねないな』
もっとかもしれない。
不意に俺が1年間の眠りから覚めた後のことを思い出してしまった。
あの時は自分の能力を確かめるためとはいえ調子に乗って色々やった覚えがある。
ジャンプしてグルグル回転もやったさ。
陸地でだけどな。
『馬鹿みたいに捻りまで加えたっけ』
思い返せば些か恥ずかしいものがある。
それを考えれば水の抵抗があるとはいえ3回程度は可愛いものだ。
『人は何故、回転したがるのだろう』
つい明後日の方を見たくなってしまった。
見ないけど。
『アホなこと考えている場合じゃないな』
いくら黒歴史とはいえ現実逃避している暇はない。
下手すりゃ幼女たちの回転合戦が始まりかねないからね。
既に縦回転か横回転かで幼女たちの議論が始まっている。
『あー、現実逃避するんじゃなかった』
不幸中の幸いと言うべきか、3姉妹は加わっていない。
クリスは自分の技に不満が残ったようだが向きにはならなかったしな。
『っと、安心している場合じゃないんだ』
このまま技の開発タイムに突入するのだけは阻止しなければならない。
もうすぐ海岸に到着である。
派手な技をかまして周辺に迷惑がかかってはいけない。
怪我をする者はいないだろうが、派手にやればやるほど危ないのは確かだ。
そんな風に思っていたら──
「チャレンジタイムは終わりなの」
ルーシーが終了を告げた。
ちょっと意外である。
「あー、もう戻って来ちゃったよー」
シェリーが落胆の色を見せる。
どうやら周囲の状況は見えていたようだ。
ホッと一安心。
「「危ないから皆のいる所ではできないねー」」
浅瀬では妻組だけでなく人魚組も沢山いるからな。
それを見てハッピーやチーも自粛しなければならないと思ったのだろう。
「残念ニャ。
だけど、しょうがないニャ」
あっさり打ち切り終了で潔い。
感心な幼女たちである。
良い子には御褒美だ。
後で海岸周りの施設を拡張してサーフィン専用区画を作るとしよう。
「でもでもぉ、マリカちゃんがまだだよー」
思い出したように言ってくるシェリー。
そういやマリカが大人しかった。
『ずうっと無言だったもんな』
なんというか部屋の片隅にポツンといる感じ。
実際には波に乗っているので、そこまで地味な感じじゃないんだけど。
イメージとしては、それに近い。
どうしたのかとマリカを見ることしばし。
何か言いたげな表情で顔を上げてきた。
「どうした?」
「あるじー、お客さんだって」
「なんですと!?」
「シヅカちゃんから電話で連絡があったよ」
『それでポツン状態だったのか……
にしても俺に直接かけてくればいいものを』
俺の状況を把握していないから邪魔しちゃ悪いと思ったのかもな。
「で、客が来ていると?」
「うん」
「俺の客なのか」
「分かんない。
知らない人だって」
そんな風に言われて初めて海岸の方をしっかりと見た。
今までは漠然と皆がいるなぁ程度だったのだが。
いつの間にか全員が海から上がっている。
そんなことまで見落とすとかボンヤリしすぎだ。
『まあ、いい。
反省するのは後だ』
まずは状況の確認である。
客人の応対を誰がするかとなると妻組かベリルママだろう。
妻組はベリルママの側にいた。
で、ベリルママの方を見てみると──
「何故だっ!?」
思わず声に出していた。
ここにトモさんがいたら「坊やだからさ」と返されていただろう。
もちろん三毛田庄一さんの物真似オプション付きでだ。
ちょっと残念である。
『じゃなくてっ!!』
セルフツッコミまでしてしまうとは、かなり動揺しているようだ。
「ハルトさん、どうしたのですか?」
「客人とのことですが」
「どなたなんでしょうか」
3姉妹が長女から順に尋ねてくる。
「ん、ああ」
3人同時に話を振ってきたことで俺も一息つく。
浮き足立っているのが自分でも分かったからだ。
それで少しは落ち着きを取り戻せたように思う。
「ちょっと見てみたが、誰かは分からんな」
「顔見知りの方ではないのですね」
確認するようにエリスが聞いてきた。
「それすらも分からんよ」
「何故です?」
意外だと言わんばかりに目を丸くされてしまった。
エリスだけでなく、マリアもクリスもだ。
俺なら、この距離でも相手の顔を判別するのは容易だと分かっているからな。
「ベリルママの前で土下座をしているからだよ」
3姉妹そろって空を仰ぎ見た。
俺もそうしたいさ。
『また土下座なんだぜ』
泣きたいよ。
『今日2回目じゃんか。
俺、何か悪いことした?』
「分かるのは女性と思しき集団ということくらいだな」
「お1人ではないのですか?」
クリスがちょっと驚いている。
ジェダイトシティなら、もっと普通の反応だったんだろうが。
東方の果てにある島だからな。
『まあ、しょうがないか』
ここに客が来たというだけでも信じ難かったはずだ。
それが複数の来客とは夢にも思わなかったのだろう。
「8人いるようだぞ」
「そんなにいらっしゃるのですか!?」
マリアも唖然としている。
数秒ほどフリーズしてしまったくらいだ。
「ナギノエさんたちとは別の群れのドルフィーネの方たちでは?」
気を取り直したマリアが聞いてきた。
『そう思うのも無理はないか』
この国に来る手段は飛ぶか泳ぐかくらいのものだ。
西方で見られる船は遠洋航海向きではないし。
理力魔法などで人間が飛ぶなんてのはミズホ国の国民にしかできないし。
ならば泳いできたと考えるのは妥当な線だろう。
そして長距離を泳げて人化も可能な種族は現状ではドルフィーネしか知らない。
マリアがそういう結論に達するのも道理である。
「もしかするとナギノエさんたちの知り合いとか」
『ああ、そういう発想もあるのか』
まだ彼女らの姿を見ていないからな。
俺は見ているから、それはないと断言できるのだが。
「いや、違うだろう。
少なくともドルフィーネではなさそうだぞ」
念のためにレーダーで確認してみた。
『敵ではないな』
マーカーの光点に赤い色は含まれていなかった。
味方を示す緑色と中立の白色だけである。
『じゃあ、誰なんだ?』
このときの俺は動揺が抜けきっていなかった。
鑑定してしまえば一発なんだから。
【目利きの神髄】スキルなら距離があっても判明する訳だし。
だがまあ、頼りっぱなしになるのも良くないと使わなかったかもしれない。
都合のいいときだけ使ってるけどな。
なんにせよ、このときは使わなかったのだ。
「どういった方たちなんでしょう」
クリスが考え込んでいる。
「会えば分かるさ」
まずは会わないと話にならない。
どうにか土下座をやめてもらわないことには顔さえ分からんし。
「それもそうですね」
クリスが苦笑した。
客人が土下座している話を思い出したのだろう。
「良い出会いになるといいですね」
エリスがそんなことを言ってくる。
俺は意表を突かれ、ちょっと呆気にとられてしまった。
「ああ、だといいな」
照れくささもあって俺は苦笑しながら、そう答えた。
読んでくれてありがとう。




