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62 これがクリスマス?

改訂版です。

「どうしてこうなった」


 そう言わざるを得ない。


「皆でクリスマスパーティーをしようぜ」


 それが合い言葉だったはずだ。

 なのに目の前に広がる光景はカオスとしか言い様がなかった。


 まず、目に飛び込んできたのは各種ケーキ。

 五段重ねのデコレーションケーキ。

 イチゴが上面を埋め尽くしているケーキ。

 何種類ものフルーツをふんだんに使ったケーキ。

 チョコクリームの味を変えて何種類か用意したブッシュ・ド・ノエル。

 シフォンケーキにバームクーヘン。

 ホットケーキもシンプルなものから多段積みでデコレーションしたものまで。

 クリームたっぷりのロールケーキ。

 クリームはノーマル、チョコ、抹茶、紅茶、コーヒーの五色ある。

 モンブランやカップケーキにシュトレンも忘れていない。


 作ったのは俺ではない。

 レシピは教えたがね。


『調理担当者の意気込みは本物だな』


 何しろ並べられた食べ物はこれだけではないのだ。

 ホイップクリームがあるためクレープも用意されていたし。

 カスタードクリームまで作っていたことはシュークリームがあったことで判明した。

 クリームパンまであるし。


 そして、肉まん、餡まん、カレーまんがあった。

 1種類増えているが当初の予定通りだ。

 クリスマスパーティーに相応しいかと聞かれると答えに窮するところだが。


『冬の風物詩として考えれば無くはないか』


 だが、おはぎときなこ餅はどうだろう。

 餡まんで餡子を作ったついでに、おはぎもとなったみたい。

 きなこ餅は更にそのついでだ。


 ついでに次ぐついでで用意されたのが和菓子……

 違和感しか感じない。


 お菓子ではないが、フライドチキンの方がむしろ自然だろう。

 ただ、確保できた鶏肉は少なかったが。

 それを補うために他の鳥の唐揚げなどもあった。


 七面鳥の丸焼きもその口だと思う。

 日本人にはあまり馴染みのない七面鳥は、鶏の方が脂がのっているが悪くはない。

 量を食べるならこちらだろう


 なんにせよチキンや七面鳥はパーティーメニューという感じがする。

 ピザなんかもそうだ。

 食材の都合で野菜系と魚介系が多いのだが好評なようだ。


 他のメニューになると、いよいよ怪しくなり始める。


「あー、にぎり寿司だー!」


 誰かの喜ぶ声が聞こえてきた。

 が、クリスマスと寿司が結びつくだろうか。


「巻き寿司も切ってないのがあるよー」


『恵方巻きか?』


「こっちは、ちらし寿司だね」


『ひな祭りじゃあるまいし』


 まあ、俺が日本人としての常識を持っているが故に違和感を感じるのだろう。

 ここまで色々と山盛りで出されていると清々しい気分にさえなる。


 とはいえ和食に振り切っている訳ではない。


「オムライスがあるにゃ~!」


「オムライスなの~」


 ミーニャがはしゃいでいた。

 ルーシーも負けてはいない。


「こっちはナポリタンだよぉ」


 シェリーも尻尾で喜びを表現しきれず駆け回っている。


「「ハンバーグがいっぱい!」」


 ハッピーとチーも尻尾をフリフリしながら可愛らしく踊っている。

 妖精組の演奏する音楽に合わせているつもりなのだろうか。

 創作ダンスだから分からないという訳じゃない。

 使っている楽器が独特すぎるのだ。


 和太鼓とギターとトランペット。

 バランスのとれていない和洋折衷である。

 皆の希望を聞いた結果なので仕方あるまい。


 和太鼓は来年の夏祭り用に試作したものだ。

 仕上がりの確認で叩いていたら皆が集まってきて気に入られた。

 いま「ドンドンドン!」と叩いているのは法被に鉢巻き姿のキースだ。


「あらよっと!」


 掛け声まで含めて、やけに似合っている。

 そこだけ切り取って見るならば、だが。


 室内が適温に調整されているせいで季節が分からなくなりそうだが今は真冬である。

 しかも今日はクリスマスだ。

 そこに夏祭りの雰囲気を出されるとね……


 更にギターとトランペットの演奏が混じって違和感はMAX。

 しかも両者共に立てた状態で固定したハシゴに乗っての演奏だ。


『出初め式かっての』


 何故こんなアクロバティックなことをするかといえば、動画の影響だろう。


「陛下ー、いろんな変身ヒーローが見たいですぅ」


 誰のリクエストかは覚えていないが、そんな風に頼まれて見せた記憶がある。


「あっ、これ格好いい!」


「ホントだ!」


「でも、どうして煙突の上で演奏するの?」


「こっちのは木の上だね」


「でも、面白そー」


 俺も知らなかったシリーズものの古い特撮ヒーローだ。

 これだけが気に入った訳じゃないが、その時はこれが流行った。

 特に高所での演奏がな。

 最初はバランスを取るのに苦労して落ちたりもしていた。

 高いレベルで底上げされた身体能力で普通に着地してたけど。


『ネコかよ……って、半数は猫妖精だったな』


「そうか、わかった!

 こうやって敵と戦う時にもバランス感覚を鍛えているんだね」


『んな訳ねーだろ!』


「えー、そうじゃないよー。

 高い所から睥睨することで敵を威圧してるんだよ、きっと」


 こちらの方が、まだ分かる。

 演奏する意味が分からないが。


『でも、日本で再放送されたら真似する奴が出そうだな』


 主に厨二病患者の間で。

 もしかしたら患者を増やしてしまうかもしれない。


 とにかく、格好いいというだけで適当に選んだから、まとまりなんてある訳ない。

 見た目も音色もね。

 料理に負けず劣らずカオスである。

 だけど、1時間も聞いていると慣れてしまうから不思議だ。


『ガンフォールを連れて来なくて正解だったな』


 最初は、呼ぼうと思っていたのだ。

 旅を続けているノエルたちより呼びやすいし。

 色々な料理を紹介して貿易の拡大につながれば、お互いの利益につながるし。

 あわよくばドワーフが移住する許可をくれるかもって考えたりもしたけど。


 いずれにしても簡単には呼べない。

 目の前で繰り広げられるカオスな現場以外にもヤバいのが多々ある。


 城も神社も見たことのない建築様式だし。

 特に城の大きさには、さしものガンフォールも度肝を抜かれるかもしれない。

 他にも多重結界の鉄壁性も気付かれると何を言われるか……


『でも、一番の問題は時差だよな』


 どうやって説明したものか。

 なんてことを考えていたら脚を軽くポンポンと叩かれた。


「ん? ローズか」


「くくぅくぅくーくうくぅーくっくぅー」


 こんな時に辛気くさい顔で考え込むなって?


「そりゃ失礼」


 パーティの最中くらいは楽しまないといけないな。

 確かに周囲を見渡すと、みんな楽しそうだ。

 各々がそれぞれの楽しみ方をしている。

 ちょっと度が過ぎているのもいるが。


「おーい、流し素麺の追走はするなー」


 パーティー会場である食堂の壁際を一部の興奮した妖精たちが駆け回っていた。

 やたらと距離のある流し素麺セットを作ってしまったせいだ。


 高低差とかに関係なく水路として使う竹を魔道具化して全自動で流れるようにしてある。

 竹は錬成魔法で曲げたり繋いだりしたので最後まで途切れることもない。

 素麺は流水と一緒にウォータースライダーのように流れていく。

 グルグルやクネクネは当たり前。

 上昇下降に宙返りまである。

 魔道具でなければできない芸当だ。


 それを追走するのが何人かいるんだよね。


「危ないし周囲のみんなが迷惑するぞー」


「「「「「はーい」」」」」


 返事は間延びしているがピタッと止まった。

 手にした麺つゆが急制動でこぼれないのは普段の訓練の成果だろう。

 走って飛んだり跳ねたりもして零さなかったんだし当然と言えば当然か。


 なんにせよ、素直な良い子たちである。

 止まった後も目で追ってるのがご愛敬。

 本能が刺激されて狩りモードになっているようだ。


『調子に乗って流す速度を早くしすぎたかもしれん』


 という訳で動作させながら調整。

 家庭用のグルグル回る卓上流し素麺よりは少し早い程度に抑えた。


「悪いな。

 かなり遅くさせてもらった」


「「「「「大丈夫でーす」」」」」


 今度は純粋に流し素麺を楽しむようだ。

 他にも何人か集まってきたし。

 走り回ってたのが邪魔で参加できなかったみたい。

 最初からこの速度に抑えておけば良かった訳だ。


「くっくぅ」


 一件落着、ね。


 この調子でトラブルがないか見回ることにした。

 そこで、ふと気付く。


『子供組は何処に行った?』


 いつの間にか、洋食が並ぶテーブルから姿を消していた。


「陛下ー」


 どのあたりにいるかと首を巡らそうとしたところで背後から声を掛けられた。

 この声はロシアンブルーなケットシーのルーシーだ。


 振り向くと俺の方にチョコチョコと小走りで駆け寄ってきていた。

 他の子供組も一緒だ。

 チワワのチーだけがいない。

 黒猫3兄弟となにやら話をしている最中のようだ。


「楽しんでるか?」


「美味しくて楽しくて幸せニャ~」


 真っ先に答えたのは子供組の中では引っ張っていく側に回ることが多いミーニャ。


「御馳走たくさんなの」


 最近は、はにかむ仕草が減ってきて積極性が上がったルーシーも喜んでいる。


「美味しくて面白いよー」


 まとわりつくようにちょこちょこ動き回るシェルティなシェリー。


「楽しい、です」


 パピヨンなハッピーも最初の頃を思えば感情を前に出すようになった。

 チーと並んでルーシー以上のはにかみ屋だったからなぁ。


 ふと、銘々が手にした取り皿を見た。

 その痕跡から既にかなり食した後らしい。


『幼女の食欲あなどりがたし、だな』


「食べ過ぎて腹壊すなよ」


 念のために注意だけはしておく。


「「「「はーい」」」」


 そのタイミングでチーもこっちに来た。


「美味しい料理、ありがとです」


 チーがペコリンと頭を下げると──


「「「「ありがとです」」」」


 他の子供組も同じく礼をした。


「礼なら俺じゃなくてツバキとカーラだ。

 今日の料理は全部あの2人が作ったからな」


「「「「「はーい」」」」」


 子供組全員で良い返事をする。


「ところで3兄弟と何を話してたんだ?」


「まだ食べてないのを皿に盛ってたから教えてもらっていました」


「えっ、なんだニャ?」


 急にミーニャが焦り出す。


「シュークリームだって」


「まだ食べてないのー」


 ルーシーも必死になってる。


「中に詰まってるカスタードクリームがとろける美味しさだって」


 チーの説明に残りの子供組が涎を垂らしそうになっていた。


「それならあっちだ」


 苦笑しながら誘導する。


「まだ残ってるから食べておいで」


「「「「「はーい」」」」」


 返事が終わった瞬間には消えていた。

 せっかちな忍者幼女たちである。


「くぅくくーくっ!」


 元気でよろしい! ですか。

 俺もそう思う。


「陛下」


 晴れ晴れした表情で法被姿のキースが近づいてきた。

 こういう時のハスキー顔は、あんまり怖くない。


「太鼓、すごく面白かったです」


「そいつはなによりだけど、食べないと楽しみも半減だぞ」


「はいっ!

 これから腹一杯食べます」


「何にも食ってないなら、あっちなんかがお勧めだ」


 肉まんとかピザの置いてあるコーナーを指し示した。


「あ、行ってみます」


 では、と言い残してキースも食事に向かった。


「みんな楽しんでくれているようだな」


 つい、独り言が漏れてしまった。

 返事をする者はいない。

 そばにいるはずのローズも無言で頷くばかりである。


「ところで今日の功労者は何をしてるんだ?」


 調理担当者の姿が見えないのだ。


「くうくーくー」


 食堂の隅っこ、だって?

 ローズの指差す先を見ると、確かにいた。

 テーブルの影に隠れて見えなかったようだ。


『そりゃ、見つからねーよな』


 食堂の片隅で脚を投げ出して床に座り込んでいるんだから。


 俺とローズはそちらに向かった。

 近づくとツバキもカーラも生気のない目で見てくる。


「なーにやってんだよ」


「主よ、魔法を頼む」


「陛下、私もお願いします」


 グッタリした様子の2人から頼まれてしまった。


「何事だよ?」


「くっくー」


 食べ過ぎ、って……


「もしかして全部つまみ食いしながら作ったのか?」


「「はひ……」」


 力なく頷く2人。

 全種類なら結構な量になる。

 つまみ食いと称して、その手が止まらなかったら結果はお察しというものだ。


『皆にもディジェストを覚えさせた方が良いかもな』


「しょうがないなぁ」


 俺は苦笑しながら胃薬魔法ディジェストを使った。


読んでくれてありがとう。

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