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597 住民登録と魔法のポーチ

修正しました。

だっただけど → だったけど

配り追えて → 配り終えて

 冒険者カードと互換の住民登録システムは便利である。

 まず、申請者が氏名、年齢、家族構成、住所などを書き込む必要がない。

 申請書自体が必要ないのだ。

 したがって、これを読み取りデータ化する作業がなくなった。


 では、どうやって登録するか。

 ここで住民登録用魔道具の出番である。

 いつ作ったかって?

 奴隷組の住民登録の途中ぐらいからだな。

 間怠っこしく感じたので、ちまちまと作っていたのだよ。

 もちろん【多重思考】と倉のコンボでもう1人の俺が密かにやっていた。


 とっくに完成していたけど、使うのは今回が初めてである。

 食堂3姉妹のときに使えば良かったんだが、ウッカリしていたのは内緒だ。

 まあ、暴露しても笑われて終わりだろうけど。


「カードを渡されたら登録完了だぞ。

 後ろが支えるから速やかに移動してくれ」


「「「「「はーい」」」」」


 窓口はひとつだけではない。

 それでも数百人を一度に手続きしようとすると時間がかかってしまう。


「手続き用の魔道具がなかったら大変だったね、ハルくん」


 しみじみと呟くようにミズキが声を掛けてきた。


「まったくだ。

 年度末の修羅場を思い出す」


「えっ、役所って年度初めが忙しいんじゃないの?」


 マイカが意外だと言わんばかりに話に乗ってくる。


「部署によって修羅場のタイミングは違うよ」


 業務内容によるのだ。

 そんなに単純なものじゃない。


「そうなんだ」


 アッサリした返事をするマイカ。

 内情を知らないからこそだな。

 知っていたら、こんな返事はできない。


 例えば国民健康保険課の4月から5月末の修羅場とかマジでやばい。

 健康保険料の算定をして通知する業務を完了させなきゃならんからな。

 国民健康保険に該当する全世帯に対してだ。


 保険料の納付は6月から始まる。

 4月からの2ヶ月は年度末で確定した所得で保険料を算定する期間という訳だ。

 そして1年分の保険料を年度末までの10ヶ月で支払うことになる。

 絶対に間に合わせないといけないのは言うまでもないだろう。


 他の部署にしたって似たような修羅場を抱えているところは多い。

 市民課の場合だと年度末の転入出の手続きかな。

 進学や就職で転入してくる人、転出する人。

 単独だったり世帯単位だったり。


 最低でも新生活が始まる年度初めまでに転出は終わらせていないと大変だ。

 転入の手続きはしないといけないし。

 実際の引っ越しの手続きも完了させないといけない。

 あれもこれもそれもと本当に大変なのは異動する本人である。

 そういう大変な人たちが半ば殺気立って大勢押し寄せてくるのが年度末の市民課だ。

 当人たちは他にも回らないといけない課があるんだけどね。


「まあ、色々あったのさ」


 マイカに愚痴っても仕方がないのだが思わず口に出してしまった。

 表情も自分でそれと分かるくらい渋いものだ。


『異動する人たち同士で暴力沙汰に発展したこともあったからな』


 原因は窓口の混雑に焦れた1人が割り込みをしようとしたことだ。

 整理券があるから通用するはずもなかったのは言うまでもない。


 だが、常識の通じる相手じゃなかったんだ、これが。

 窓口ひとつを占拠した状態で訳の分からん主張を繰り返すばかりだった。

 その窓口担当も最初は丁寧な口調で順番を守るように促してたんだけど。

 だんだん強い口調になってきたけど効果なし。


 それを見て待っている人たちも我慢の限界に到達。

 そして常識なしの男と待っていた人たちの戦いが勃発した。

 最初は怒鳴り合うだけの舌戦だった。

 さすがに、いきなり喧嘩になったりはしない。


 そこに警備員がようやく到着したのだが……

 常識なし男が過剰反応で口論していた相手を殴り始めた。

 そしたら応戦する人も出てくる始末。

 もちろん警備員が彼等を抑え込もうと動いてはいたのだ。


『カオスだったよな』


 やたら腕っ節の強い常識なし男。

 応戦する一般市民たち数名。

 対処する警備員2名。


『そんなの警備員だけで止められる訳がねーだろ』


 市民課から制止のための人手を出せる状況でもない。

 他の窓口の面子は窓口をひとつ潰されたことに苛つきつつも仕事をこなしていた。


 被害が及ばない限り構ってなどいられない。

 それくらい忙しかったのだ。

 だからこそ奴もキレて騒ぎを起こしたのだと思う。

 何の解決にもならないし、逆効果でしかないのだけど。


 結局、他の課の職員さんたちが駆り出され、どうにか封じ込めることに成功。

 よくも死者が出なかったものである。

 刃物とか使われていたら危なかったんじゃないかな。


『何人か怪我人が出たしなぁ』


 こんな状況だから警察沙汰にもなった。

 誰が通報したのかは知らない。

 もしかすると複数の110番があったのかもね。

 知らんけど。


 そして逮捕連行される常識なし男。

 連行されるときも何か意味不明なことを喚いていた。


『往生際が悪い輩だったよ』


 けど、その時はそんなの気にしちゃいられない。

 窓口ひとつを占拠されてロスした時間を取り戻すのに必死だったからね。

 余計なことを考えている暇などないのである。

 ピークを過ぎると考える余裕もできたけど。

 ハッキリ言ってしまうと、そんな輩のことなど思い出すだけ無駄である。


『殺意しか湧かんわ』


 仕事が終わってからはさすがに話題になっていた。

 皆そうとう鬱憤が溜まっていたようで、なかなかバイオレンスなことになっていた。

 言葉で人が殺せるなら奴は骨の一片も残さずこの世から消えていただろう。


 かなりの騒ぎになったせいか、あのときはニュースにもなったし。

 まあ、ローカル局のだったけど。


「大変そうね」


 俺の表情を見たせいか、そんな言葉をかけてくるマイカ。

 そうは言っても一言で終わりだけどね。

 事実を知らなきゃ、そんなものだ。


 かといって何があったかを事細かに説明する気もない。

 一応は同情してくれたので良しとしよう。


「まあ、過去のことだしな」


 そう思えば気が楽になる。

 二度とあんな体験はしたくない。


「そっか、それでハルくんは魔道具を作ったんだね」


「まあね、イライラさせられたくないからな。

 今後も大量の転入手続きがあるかは未知数だけど」


「備えあれば憂いなしだよ、ハルさん」


 うんうんと頷いているトモさん。


「いや、愚痴ってスマンね」


 どうやら気を遣わせてしまったようだ。


「つい昔を思い出してやさぐれちまった」


『まったくもって修行が足りん』


 実に情けないことだ。

 これが生まれ変わったことで精神まで若返った影響なのだとしてもね。

 17才はこっちの世界じゃ成人だ。

 もっと大人にならなきゃならん。


「気にすることはないよ。

 誰でもそういうことはあるさ」


「サンキュ」


 そうこうしている間に転入の手続きは進む。

 窓口で石版に手を置いて情報の読み取り。

 データの登録とカードへの書き込み。

 カードを本人へ手渡して次の手続きをする人に交代。

 手続きを済ませると、自動人形の誘導によってホールへ案内される。


 そこで今度は別の自動人形職員からポーチを渡されるのだが。


「これは何?」


 最初に手渡された者は周囲を見渡しながら疑問を口にする。

 答えてくれそうな相手を捜し求めるが、古参組はその近辺にはいなかった。


「さあ?」


「何だろうね?」


「嵩張っちゃうわ」


「うん、両手が塞がる」


 同じようにポーチを手渡されて困惑する面子たち。

 一通り配り終えて次の面子が来るまでの間ができたとき、自動人形が喋り出した。


「いまお配りしたのは魔法のポーチです」


「「「「「魔法のポーチ!?」」」」」


 魔法という単語の部分で驚きを、ポーチの部分で疑問を強くした感じでハモっていた。


「こうやって使います」


 自ら腰に巻いて使い方を説明する自動人形。

 ファスナーを開けてカードを入れる。


「入れ物だったのね」


 1人が頷きながら感心している。


「これだと両手が使えて便利だわ」


「そうね」


 他の面子も納得の様子だ。

 だが……


「あれえっ!?」


 さっそく真似をした1人が素っ頓狂な声を上げた。


「どうしたの?」


「落ち着きなさいよ」


「だだだだってえー」


 涙目である。


「何も泣かなくてもいいじゃない」


「カードが消えちゃったんだもん」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 普通なら一大事である。


「御安心ください」


 そこで自動人形の声がかかる。

 半泣きのドルフィーネを囲んでいた面子が一斉に振り返った。


「ポーチの中に手を入れたまま欲しい物を念じてください」


 不安げな表情ながらも頷く無くしたちゃん。

 次の瞬間──


「あっ、あったぁ!」


 ポーチからカードを取り出して笑顔になる。


「脅かさないでよぉ」


「人騒がせなんだから」


「ホントよ」


「ゴメーン」


 テヘペロで謝る無くしたちゃん。


「でも、なんで?」


 別のドルフィーネが首を傾げる。


「それは、これが魔法のポーチだからです。

 空間魔法で中に収納できるようになっています」


「そうなんだー」


 無くしたちゃんが、しきりに感心していた。


「出したい物を念じながら手を入れれば出せるのね?」


 いちばん落ち着きのあるドルフィーネが自動人形に質問する。


「はい、そうです。

 入れるときは手に持って持ち上げられるものなら大きさ重さは問いません」


 その説明を聞いていた全員が絶句した。


『えっ!? そんなに?』


 様子を覗っていたこちらが驚かされましたよ?


読んでくれてありがとう。

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