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593 ようこそミズホシティへ

「「「「「ふわぁ─────っ」」」」」


 初めてミズホシティを目にした人魚組の第一声である。


「これがミズホ国の王城だ」


「「「「「おっきぃ────────っ」」」」


 天辺を見上げながら声をそろえてドルフィーネたちは驚いている。

 目も口も全開状態。

 それでいて、あちらこちらと視線を彷徨わせている。


「こんなに大きいんだぁ」


「この庭も広いよぉ」


「すっごいねー」


「アレは何かしら?」


「わかんない」


「聞いてくるー」


「ホント、どれもこれも珍しいものばかりだわ」


「塀の外も色々あるわよ」


 一気にワイワイと賑やかになってしまった。

 あちこちでこんな具合である。

 お陰で俺に注目する人魚組は1人もいなくなってしまった。


『こりゃ、しばらくは収まりがつかんか』


 溜め息がこぼれ出てしまう。

 まあ、人魚組からすれば見るものすべてが珍しいんだからしょうがないのだろう。


 オオトリの施設も大きいはずなんだが、到着したのは夜だったし。

 端っこの方で場所を確保したからね。

 後は食事会に意識が向いて誰も気にしなくなった訳だ。

 翌朝も俺たちが仕込みを始めていた朝食の匂いに気を取られていたし。


 結局、転送魔法で跳んでくるまで向こうの施設には注目されなかった。

 危機管理の点から言えば落第決定である。


『まあ、色々あって気が緩むのも仕方ないか』


 人魚組は総じてレベルがそんなに高くないし。

 海水浴イベントまで1週間の猶予があるから、その間に少しでも鍛えておこうと思う。


『その前に住民登録しないとな』


 その辺は役所の自動人形に任せるとして。


『住む場所も決めないと』


 など色々と考えながら時間を潰す。

 普通なら【多重思考】で済ませるところなんだがな。

 人魚組が城の中庭で興奮冷めやらぬままに囀りあって止まらない。

 現状は城の大きさがメインの話題になっている。


「それにしても大きいよね」


「ホントホント」


「どうやったら建てられるんだろう」


「それを言うなら、どれだけ時間がかかるのかじゃない?」


「信じられないくらい大きいもんね」


「空間魔法で中はもっと広くて大きいそうよ」


「嘘でしょ!?」


「小さい猫ちゃんに聞いたから間違いないわ」


 それって子供組のことだろうか。

 三毛ットシーなミーニャかロシアンブルーなルーシーか。


「陛下の空間魔法でグーンと縮めたニャ、だそうよ」


「「「「「……………」」」」」


 ミーニャであることは確定したが、そんなことより沈黙が怖い。

 根拠はないものの嫌な予感がしたのだ。

 沈黙の間はさほど続かなかったが、嫌な汗が背中を伝うような気がした。


「陛下じゃしょうがないわね」


「そだね」


「中は本当に広いのでしょう」


「疑う余地なしだわ」


『なんだろうね、この空気』


 実に居心地が悪い。

 嫌われているとかよりも特別視されるむず痒さのような。

 それも良い意味での特別なら気にならないんだが。

 どう考えても厨二病患者だと診断された気分である。


 おそらく、お嬢さんたちの評価もそう外れてはいないだろう。

 それとも俺の被害妄想が過ぎるのだろうか。


「桁外れの大魔法使いよね」


 まだ我慢できるけど背中がムズムズするな。


「当然じゃない。

 私達の救世主なんだから」


『やめてくれー』


 いきなり羞恥心がレッドゾーンへ突入ですよ?

 救世主とか恥ずかしすぎでしょうが。


『そもそも今回は俺の働きなんて凄くないじゃんかっ』


 メインで戦ったのはうちの子たちなんですがね?

 まあ、そんなことを主張したところで「はい、そうですか」とはならないだろう。


 それどころか俺の存在を気付かせたら包囲されかねない。

 でもって取り囲まれて赤面級の話を聞かされる羽目に……

 考えるだに恐ろしい。


「救世主っていうか王様だから救世王?」


『やめろください』


「それより魔導を極めた王様だから魔導キングの方が良くない?」


「あっ、それいいかも」


「格好いいわね」


『どこがだっ!?』


 厨二くさい二つ名のような評価の仕方は止めていただきたい。


「でも、それじゃ足りなくない?」


『足りなくありません』


 心の中で即答したさ。

 これ以上のネーミングデコレーションは俺の心臓によろしくないのだよ。


「足りないって、どういうこと?」


「だって、あれだけ凄い魔法が使えるのよ」


「言われてみれば、そうよね」


『そこ、納得しないっ!』


 これ以上の厨二病ネーミングは平静でいられなくなりそうだよ。

 すでに【ポーカーフェイス】スキルで誤魔化しているくらいだし。


「超弩級魔導キングとか」


『だから、やめてくれぇ─────い!』


 どんどん酷くなっていく。

 こんなのマイカに聞かれたら絶対に笑われる。

 【遠聴】スキルで聞いている会話じゃなかったら隠蔽しながらの遮音結界ものだ。

 そうでなくても、自分で穴を掘って入りたくなるような状態なのに。


『俺のライフはもうゼロよ……』


 その後、彼女らが脱線させた話を元に戻すのに数分を要した。


「とにかく陛下は凄いのよ」


「うんうん」


『ようやく厨二病ネームから離れてくれたか』


 まだまだ俺の話題なので油断はできないが。


「じゃあ、このお城を建てたのも陛下ってことなのかしら」


「小さい猫ちゃんが言うには陛下が魔法で一気にやったそうよ」


「こんなに大きなものを……」


「魔法で……」


「一気に……」


「陛下の魔法の数々を見てなかったら信じられなかったわね」


「そうよねぇ……」


「そう言えば、隠れ里から出た所にできていた巨大な石柱も見る間に無くなったわね」


「スルスルって縮んでた」


「あんなことが簡単にできるなら、この城だって……」


「それにしたって、こっちの方が大きいし複雑じゃない」


「そりゃそうだけどぉ」


「なんにせよ私達じゃ束になったって真似ができないわよ」


「そうそう、比較する方が間違ってる。

 スケールが違いすぎるわよ、このお城」


「ホント大きいもんねー」


「「「「「ねー」」」」」


 とにかく城がデカいという話だけでこんなに会話が続くとか、どうなんだ。

 何度もツッコミを入れたくなったさ。

 羞恥心で思わず「やめてくれぇ」とか言いたくなるような話を聞かされなければね。


『……………』


 思い出すから考えるのはよすとしよう。

 そんなことより城の大きさに言及し続ける感覚について考えてみよう。

 彼女らを鍛えるときにギャップが大きいと問題が出てくるだろうし。


『そんなにデカいかね』


 俺としては、そこまでじゃないと思うのだが。

 だが、俺がそう感じる時点で意識にズレが生じている証拠だ。


 ならば古参組はどうか。

 皆の方へ視線を向けると、人魚組の反応に違和感を感じているのは元日本人組だけだ。


 妖精組は何も感じていないようである。

 どちら寄りでもないといった感じ。


 月影の面子は俺のやらかしたことだからしょうがないと言いたげだった。

 若干、人魚組に同情目線だろうか。

 何だか俺との付き合いが短いほど同情の色合いが濃くなっていくようだ。


『要するに古参であればある程うちのカラーに染まっているってことだな』


 故にリオンなんかは、かなり同情的である。


「初めて見て驚くだけなら、まだマシだよね、お姉ちゃん」


「そ、そう?」


 レオーネは返事でしどろもどろになっている。

 どうやら妹と認識に差があることに動揺したようだ。


「だって、こんなに凄い建物だらけなんだよ」


「凄いとは思うけど」


「怖いと思う人がいても不思議じゃないと思う。

 私はお姉ちゃんがいたから平気だったけど」


 そんなこと言われると凹むわ。


「これでも周囲の景観を考慮して高さは制限しているんだがなぁ」


 思わず愚痴ってしまう。


「空間魔法まで使ってるもんね、ハルくん」


 ミズキが同意する。

 どうやら俺の思っていた以上に愚痴る声は大きかったようだ。

 そんなつもりはなかったのだが。


「最初はそこまで神経質になるなんてどこの古都よって思ったけどねー。

 最近は高層どころか中層ビルさえ必要ないって思うようになったわ」


 マイカも上から目線ながら肯定派のようだ。


「向こうの世界には、そんなに高い建物がいくつもあったんですか」


 フェルトがトモさんに聞いている。


「大都会だとミズホシティの建物を余裕で見下ろせるビルが乱立する感じかな」


 平然と答えるトモさんにフェルトが目を丸くしていた。

 その感覚に近いのが元ゲールウエザー組である。


「「それ本当なんですか!?」」


 ABコンビがハモりながらトモさんに聞いていた。

 3姉妹も注目している。

 トモさんの今の発言が気になるようだ。


「本当だけどさ」


 苦笑しながら返すトモさん。


「証明しようがないから、そこまで必死になられても困るんだ」


「そこを何とかできないものでしょうか」


 余程気になるらしくエリスが食い下がる。

 ちょっと珍しい姿かもしれない。


「私も見たいです」


「私も」


 援護するクリスにマリア。

 ABコンビも期待するような視線を向けている。

 魂だけとはいえ日本と行き来できるトモさんへの期待は大きいようだ。


「そんなこと言われてもなー」


 困った様子を見せていたトモさんだったが。

 ふと、何かを思い出したような表情になった。


「ハルさんに動画とか見せてもらったらいいんじゃないかな」


『そう来たか』


 言うが早いか、一斉に振り向いてきた。


「動画は後でね。

 今はドルフィーネたちを案内するのが先だよ」


読んでくれてありがとう。

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