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6 同情だけではなかった

改訂版バージョン2です。

「じゃあ、極東の島国で建国します」


 行く場所も方針も決定。

 そこに後悔など微塵もない。

 当然、反省などする余地がない。


「そう決断するんじゃないかと思っていました」


 ベリル様はコクコクと頷く。

 なぜか嬉しそうだ。


「はあ」


「トラブルに巻き込まれる確率が格段に低いのです」


「それは良かった」


 安堵する俺に──


「さすがは私の息子ですね」


 問題発言が投げかけられた。


「……………………………」


 しばしの沈黙。


『ナニヲイッテイルノダロウ、コノメガミサマハ』


 壊れたオルゴールのように同じ思考が繰り返される。

 頭の回転が鈍化すると思考がカタカナ化して停滞気味にループするのは何故なのか。

 とにかくループを離脱するために記憶の掘り起こしにかかる。


『ネテタ、ゲキツウ、クワレタ』


 片言になってるが続行。


『ドウジョウサレタ、ウマレカワッ……タ!!』


 最後の単語で電流が体を走り抜けたのかと思うほど思考が急加速した。


『そうだよ、生まれ変わったんだよ!』


 欠損した魂と肉体の半分が補われた。

 この話を聞いた時点で補填のために何を用いたのかくらいは考えられた。

 今ほぼ確信している答えも候補のひとつになったはず。


 そうすれば、少なくとも動揺して思考をカタカナ化させることもなかっただろう。

 いや、動揺はしたかもな。


『女神様の一部が俺と融合!?』


 としか考えられないからね。

 でなきゃ息子呼ばわりはされないだろう。


「説明をお願いしたいのですが」


「はい?」


 可愛らしく小首を傾げるベリル様。

 美人がそれをすると破壊力満点だ。

 が、それを気にしている精神的余裕はない。


「息子とはどういうことでしょうか?」


「あら~、説明してなかったかしら?」


『天然ボケかよっ』


 思わずツッコミを入れたくなるほどの天然ぶりを披露してくれた。


「はい……」


 返事をすると同時に物凄い脱力感を覚えた。


「俺の体や魂の欠損を補っていただいたという話だけです。

 それが何を元にしていたのかなどの具体的な話は何も」


「やだっ!?」


 この反応から察するに失念していたようだ。


「ごめんなさ~い」


 軽いノリで謝られてしまった。


「ウッカリしてたわ」


 ニコニコしながら、そういうことを報告しないでほしい。

 多分こちらが素のベリル様なのだろう。

 当初の落ち着いた姿は謝罪と償いが念頭にあったからか。

 正直、苦手なタイプだ。


 とにかく説明はしてもらえた。

 俺の体と魂はベリル様の血を魔法で処理したもので補われたそうだ。

 若返ったり外見が大幅に変わって上位種になったのも、それが原因であるという。


 なんにせよ俺の半分はベリル様の血でできている。

 息子と言い出す訳だ。


「それでね、私の世界でも唯一のエルダーヒューマンになってしまったの」


「えっ!?」


 寝耳に水の情報である。


「ハイエルフやエルダーフェアリーはいるんだけど」


「いても少ないんですよね」


「そうね、こちらも多くはないわ。

 人間の上位種は亜神に近い存在だから仕方ないんだけど」


 ツッコミどころ満載の追加情報である。

 死なずに済んだのだから贅沢を言うつもりはない。

 が、重要情報を後出しにするのは心臓によろしくないので勘弁してほしい。


『これらの事実が世間にバレたらヤバそうだ』


 極めつけは女神様の子供だろうな。

 どんな風になるのか見当もつかないが、望ましくない結果になるのだけは分かる。

 考えるだけで凹んでいく一方でベリル様が何故かウキウキしている。


「嬉しそうですね」


「だってハルトさんが私の初めての子供なんですもの」


 そう言われても独身だった俺には分からない感覚である。


「はあ、そうなんですか」


 生返事になるのも無理はない。

 ベリル様は気にするどころか嬉しそうにあれこれと説明してくれた。


 その話によるとベリル様は一族の功績で神様になったそうだ。

 年の近い血縁者だけだったため全員が未婚という珍しいケースなんだとか。

 神になると子供をもうける機会がなくなるみたい。

 そのため他の神との交流時に子供の話を聞かされて大変うらやましく思っていたそうだ。


 それは良いのだが説明が終わったらベリル様に懇願されてしまった。


「島に行ったら寂しくなるから連絡してね、ハルトさん」


 本音を言えば一緒にいたいのだろう。

 が、某漫画のように女神様と同居という訳にはいかないようだ。

 短期間ならともかく常駐すると世界に良くない影響があるみたい。


「わかりました」


 俺は了承した。

 初めての子供と離ればなれは可哀相だし。

 無言の圧力を感じたってのもあるけどな。

 たぶん連絡を面倒くさがったら一緒に島で住むとか言い出していたと思う。


 なんにせよサボる訳にはいかないだろう。

 問題はどうやって連絡するかだ。


 そんなことを考えていたらベリル様から薄く輝く板状のものを手渡された。

 スッと手の中に消えていく。

 感覚的にはスキルの種をもらったときに近い。


「何ですか、これ?」


「連絡手段よ」


 その瞬間、俺の頭の中で見覚えのあるスマホが浮かび上がった。


「あ、俺のスマホだ」


「ちょっと違うわね。

 見た目と操作方法だけ魔法で再現しているの」


 まあ、でなきゃ視野範囲外にスマホが浮いていたりはしないよな。

 試しにイメージだけで操作してみる。


「おおっ」


 自在に操作ができた。

 ちょっと感動だ。


「これを使って電話なりメールなりすれば良いわけですか」


「そう、お願いね」


「わかりました」


 アドレス帳を確認するとベリル様が登録されている。

 あとはラソル様とルディア様だけ。

 知り合いはいないことになっているから無理もない。


『元々プライベートの登録件数は少なかったけどな』


 仕事で登録した方が多いという有様だった。

 使われたことは、ほとんどないので登録していないも同然だったんだけど。

 ぼっちの道を自分で選んだから当然か。


 それにしても登録内容の濃さが際立っている。

 俺の親だと言い張る女神様。

 そして眷属筆頭の両名。


 連絡必須のベリル様はともかく後者の2人に電話するのは地雷に突っ込むようなものだ。

 ラソル様はひたすら喋って解放してくれなさそうだし。

 ルディア様は用もなく電話すれば延々と説教されそうだし。


『これ、もうベリル様の連絡専用だな』


 俺が使っていたアプリなんて異世界じゃ意味ないだろうし。

 乗り換え案内とか天気予報とか。

 もちろんインストールされていない。

 代わりと言ってはなんだが、見覚えのないアプリがいくつかある。


「この倉庫管理って何をするアプリですか?」


「それはね~」


 ベリル様が何だか楽しそうだ。


「まずは開いてみて」


 開くとフォルダーアイコンが並ぶメニューが表示された。

 衣類、食品、住居、家具、武具などなどが並んでいる。

 試しに衣類を選択してみたら『衣類セット』とか『革靴』などの表示が出てきた。


「これって何かの目録ですか?」


「さあ、どうでしょう」


 ベリル様が楽しそうに答えをはぐらかす。


 試しに革靴を選択してみた。

 写真付きのカードに表示が切り替わる。


『トレーディングカードみたいだな』


 上に革靴の写真、下には数字や文字が並んでいる。

 1/1という数値は在庫数のようだ。

 所有者の欄があって俺になっている。

 備考欄には──


[管理神ベリルベルからの贈り物]


 などと記載されていた。

 他もこんな感じなのだろう。


 試しに閉じるボタンでメニューに戻り武具を確認してみた。


「は?」


 目が点になった。

 剣や槍などのフォルダーに分類されている中身の量が半端ではなかったからだ。

 スクロールさせてもさせても延々と続く。


 おおむね魔法の小剣とか魔法の片手剣といった名称である。

 槍や斧なども似たようなものだった。

 同じ名前ばかり続くのは性能や形状などが違ったりするからのようだ。

 中には螺旋回転剣とか竜鱗自在剣みたいな厨二臭のする剣があったけどな。


 武器がやたら多い一方で盾を使うのは恥だと言わんばかりに少ない。

 鎧は両者の中間くらいか。


 翼竜の革鎧がやたらとあって困惑した。

 そんな簡単に入手できるものでもないだろう。

 流石に気になったのでカード表示させてみた。


『うん、わからん』


 数値を見ても比較対象がない。

 他の防具を見れば差があることは分かる。

 が、それがどの程度のものか判断出来ない。

 武器でも防具でもいいから使ってみなければ判断のつけようがない訳だ。


「ん?」


 諦めてメニューに戻ろうとしたんだが、ふと備考欄に意識が向いた。


「ちょっ……[魔神討伐の戦利品。浄化済み]ってなんですか!?」


 実に不穏当な文言である。

 慌てて確認してみれば、ほとんどの武器防具の備考欄に同じ文言があった。

 世間に出回るとヤバそうなんてものじゃない。


「だって捨てるの勿体ないでしょう?」


 首を傾げながら不思議そうな表情で聞き返さないでいただきたい。


「瘴気は完全に消え去ってるから安心して」


 そういう問題でもありません。


「そのせいで大半のアイテムから銘が消えてしまったんだけど」


 武器のリストで同じような名前が続いたのはそのせいか。

 いや、いま追及すべきはそこじゃない。


「俺のことを息子だと言ってくれるなら自重してください。

 トラブルの種になりそうなものを譲渡するのは問題大ありでしょう」


 俺としては湧き上がるものを精一杯抑えたつもりだったが。

 それは失敗したようだ。


「だってレーヌは危険な所ばかりだし」


 ベリル様の薄紫の瞳がウルウルと揺らめいている。


『あー、もう!

 それは反則だっての!!』


「わかりました、わかりましたから。

 泣くのは勘弁してください」


「本当に?」


 捨てられた子犬を連想させる上目遣いで確認される。


「ありがたく頂戴させてもらいます」


 要は人前で引っ張り出さなきゃ良いのだ。

 売り払うなど以ての外である。


「やったー」


 子供のように諸手を挙げて喜ぶベリル様。

 でも、親バカ丸出しの過保護モードなんだよな……

 疲労感が津波のように押し寄せてきた気分だ。


「それで頂いたものはどこにあるんですか」


 気を取り直して聞いてみる。

 何かの拍子に間違って取り出したりしたら、シャレにならんからな。


「カードを使えばわかるわよ」


 表示されているカードをタップすればいいようだ。

 試しに革靴のカードを表示させて確かめてみる。


「おっ」


 空間魔法の術式が自動で展開し発動。

 すると指定した『革靴』が足元に出てくる。

 同時にカードが半透明になった。

 よく見れば[使用中]の赤スタンプが押され、在庫数が0/1になっている。

 試しにメニューに戻ると革靴のテキストも赤文字になっていた。

 革靴は足元に転がったままだ。


 もう一度カードを表示させて半透明ではないボタンを押した。

 再び空間魔法が発動し、今度は革靴が足元から消える。

 革靴が俺の亜空間領域に格納されたのも感覚で分かった。


「なるほど、それで倉庫管理ですか」


 つまり、俺が調子に乗って倉庫街と言えるほど拡張した亜空間を使いやすくするものだ。

 このアプリの補助がなくても出し入れは自由だが、これがあると管理がしやすい。

 何が入ってるか分からなくなることが無くなるからな。


「そうよ、便利でしょう」


 何気にドヤ顔だ。

 俺としては、やりすぎだと思うんだけどな。

 意識しなくてもアプリを使うだけで魔法が発動するし。

 呪文の詠唱もなければ魔力の消耗もない。


『どう考えてもオーバースペックだよなぁ』


 そうは思うが、ツッコミを入れるのは危険だ。

 同情から溺愛にシフトしてきている気がするからな。

 泣かれちゃ敵わん。


読んでくれてありがとう。

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― 新着の感想 ―
女神がついてくる小説はなろうには結構あるけど、多分ここでは青髪の酒好き駄女神の事を指しているんでしょうねわかります()
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