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57 子孫はまともなのに

改訂版です。

 ドワーフに伝わる言い伝えとやらはツッコミどころ満載である。


『普通、こういう言い伝えって危機的状況を打破するためのものだろ?』


 近年における最大の被害は数年前に翼竜の襲撃を受けた時だそうだが。

 現状は平穏そのもの。

 その時の人的被害は相当なものだったそうで……

 王族であるアネットの両親も果敢に戦って散ったという。


 滅亡を免れたのは採掘跡である洞窟のお陰らしい。

 洞窟の固い岩盤が自然の城塞がわりとなって非戦闘員や怪我人を守った訳だ。

 翼竜じゃ手出しできぬほど奥まった所まで掘られているのは大きい。

 大陸の東西を分断する山脈地帯に住むドワーフたちには必須のシェルター施設と言える。


 地下レーダーの魔法で確認したが規模は桁違い。

 控えめに見ても数百年で掘れるものではないからな。

 歴史の重みを肌で感じた気分だ。


『魔物が山越えを厭わないなら滅んでいたんだろうがな』


 何故か大陸東方の魔物は大山脈を越えたがらないようなのだ。

 魔物の中でも特に好戦的な翼竜がまれに飛んで来る程度。

 飛行型の魔物が山脈越えを嫌うお陰で人類は滅ばずにいると言っても過言ではない。

 そんな訳で山中で現れる魔物は大山脈産か西方から流れてきたものがほとんどである。


「なあ、困ったことになってないなら平伏する必要あるか?」


 そう聞いたらドワーフたちはお互いに顔を見合わせて苦笑いしていた。

 ただ、こういう状況を作り出して面白がる相手を俺は知っている。

 疑念を抱いたなら確認する必要があるだろう。


 容疑者をそのまま放置しておく訳にはいかない。

 おしおきが発生するとしても知ったことではない。

 となれば、脳内スマホの出番だ!


『もしもし』


『ハルトか、どうした?』


 ルディア様の返事は素っ気ない感じだが、これで普段通りなので一安心。

 折檻3倍コースの最中だったら御機嫌ななめだったかもしれないからな。


『実は念のために確認しておきたいことがありまして──』


 前置きしてから斯く斯く然々と今回の一件を説明した。


『それはバカ兄の仕業ではないな』


 思わず「ちっ」とか舌打ちしたくなったが無罪確定の瞬間だった。

 本来なら勝訴の文字が飛び交うところなんだろう。

 しかしながら俺の気分としては敗訴である。

 きっと誰かの仕込みがあるように感じていたからだな。


『そうでしたか。

 思い込みが激しくて申し訳ありません』


『いや、アレについてはそのくらいの認識でいた方が良い』


 相変わらずのダメ兄認定ぶりである。

 俺も否定しない。

 というより俺が認定したいくらいである。


『ただな……』


 ルディア様が軽く溜め息をついた。

 何かあるようだ。


『兄者は関わっておらぬが、その件はとあるお調子者が招き寄せた結果だ』


『どういうことでしょう?』


 果てしなく嫌な予感がする。

 たとえばダメ兄にソックリな弟妹がいるとか。

 それは考えたくもないような悪夢だ。


『元凶はジェダイト王国の建国王だ』


『そうですか』


 返事をしながら俺は内心で安堵していた。

 さすがにラソル様みたいな亜神はそうそういないようだ。


『性格は違うが兄者と同類でな』


 その一言で安堵はキャンセルされた。

 そんな風に言われると、どのような人物かはなんとなく想像がつく。


『何もないのに大勢の人を扇動するタイプですか』


『そうだ、察しがいいな』


 どうやら当たったらしい。

 少しも嬉しくはないが。


『そやつは神の啓示があったと言っては騒ぎ立てておったな』


 厨二病患者のノリである。

 痛すぎてガンフォールたちに公表できそうにない。

 が、こういうタイプは色々と読みやすい。


『まさかとは思いますが──』


 などと前置きしているが、今から言うことに関してはほぼ確信があった。


『その神の啓示とやらで建国してませんか?』


 希代の詐欺師あらわる、だな。

 まるで三流ゴシップ誌のスクープ記事の見出しである。

 事実なら大手新聞の一面トップを飾るスキャンダルと言えるだろう。


『本当に察しがいいな。

 そのまさかなのだ』


 スキャンダルが事実だと確定した。

 ガックリだ。

 死んでも国民を騙し続ける建国王とか、代々の国民たちが憐れすぎる。


『どうやったら、そんな奴のデタラメな言葉について行こうってなるんすか』


 建国王は絶対に頭がおかしいが、従う方もどうかしている。


『そのデタラメが何回かに一回は的中するからだ』


『うわぁ……』


 トリックで的中を演出しつつ、その頻度を下げることで怪しまれないようにする。

 真っ先に思ったのが、それだ。

 自分で仕込んでおけば的中して当たり前だからな。

 実に詐欺的である。


『言っておくが、本人は何も仕掛けをしていないからな』


 俺の推理はその一言で否定されてしまった。


『騙しているとかではないということですか』


『騙すも何も本人が信じ切っているのだからな』


『マジですか』


『マジだ』


『勘弁してくださいよー』


 建国王が本物の厨二病患者とかシャレにもならない。


『何なんですか、そいつ』


『まともな奴なら仙人になれた男だ』


『仙人ですか……』


『精神のバランスを崩していたから無理だったがな』


 大学時代の主席くんに匹敵するくらいの迷惑な奴だ。

 あっちは自滅していったから最終的には無害になったけど。


『でも、外れることもあるんですよね。

 その神の啓示とかいう建国王の妄想は』


『妄想とは言い得て妙だな』


 喉を鳴らして笑うルディア様。

 笑い事じゃないと思うのだが。


『質の悪いことに外れたときも妄想で片付ける』


 その言葉に嫌な予感が津波のように押し寄せてきた。


『しかも状況が悪化したときと好転したときで使い分けていた』


『使い分けって……』


『悪化したときは神の啓示を妨害する悪魔の仕業になった。

 好転したときは神の加護があったことにしておった』


『……………』


 悪意がないというのなら病気だ。

 建国王は完全に妄想の世界の住人になってしまったのだろう。

 現実との区別がつかなくなってはお終いである。


 しかも仙人候補になったこともあるという。

 レベルも高かったのだろう。

 ドワーフであることを考えると戦士系だろうか。

 神の啓示とか言い出すくらいだから光属性の魔法が使えたかもしれない。


 いずれにせよ使命感のようなものから皆を守り続けている間に精神を病んだと思われる。

 結果、大勢の人々を巻き込んで建国。

 本人も周囲も大変な苦労をしたはずだ。

 そう、しなくていいはずの苦労を。


 国として不安定な時期に滅んでいた恐れだってある。

 それを考えると妄想を神の啓示として現実にすり替えた建国王は大バカ野郎だ。

 だが、詐欺師かと言えばそうではない。

 自ら率先して妄想の海で溺れるような輩だし。


 救いは現在の国王と国民たちがまともなことだろう。

 まともでない残念な例外が約1名いるものの、あれは飽くまで例外である。

 彼らは被害者だ。

 面倒事に巻き込まれている俺もだけど。


 西方人と関わるたびにトラブルに巻き込まれている気がする。

 しかも規模が大きくなっているし。


『まあ、建国王はどうでもいいです』


『確かに、アレは既に死んでいるしどうでも良いか。

 死しても子孫らに迷惑をかけるとはバカ兄に勝るとも劣らぬ愚か者だがな』


 問題は今を生きる面々だろう。

 見知らぬ他人なら「ああ、大変だね」でスルーして終了なのだが。

 トラブルの渦中にいる面子は気のいい連中ばかりだ。

 面倒事は御免被りたいところだが、何とかしたいと思う。


『それよりも、この件どうにかなりませんか?』


 ルディア様にお願いしてしまうのは俺の手に余るからだ。

 何とか出来るなら俺が解決のために動いている。

 とはいえルディア様だってそうそう人間に干渉して良いはずはないのだろうけど。


『ふむ、そうだな。

 私が何とかしておこう』


 あっさりと引き受けてもらえた。


『ありがとうございます』


『なに、どうということはない。

 先祖を名乗る者が子孫の夢枕に立つくらいは問題なかろう』


『名乗る者ですか?』


 代役ということだろうか。


『本物を引っ張ってきても役には立つまい』


『確かに……』


 逆効果になるのは目に見えている。


『だから夢の中に幻影魔法を送り込む』


『よろしくお願いします』


『任せておけ』


 そんなこんなで通話は終了した。

 その間、広間の方を放置していた訳ではない。

 【多重思考】があるから、もう1人の俺を呼び出して同時進行である。


 ローズは楽だった。


「じゃあ霊体化しなくていい」


 これで大人しくなったからな。


 問題は土下座しているドワーフたちである。

 説得しても頼んでも、何を言ってもビクともしなかったからね。


 【多重思考】が使えるのも善し悪しだ。

 2人分の疲れが同時に襲いかかってくるのは勘弁してほしい。

 疲れた表情を見せたらローズに腹を抱えて笑われた。

 よほど酷い顔をしていたのだろう。


『人の苦労も知らないで、まったく』


「ならば、これでどうだっ!」


 自棄になって俺も土下座してみた。


「くーくぅ」


 面白ーい、と嬉々として真似をするローズ。


「ちょっと、待たんかーっ!」


 慌てたのはガンフォールである。


「ええいっ!

 皆の者、面を上げよっ!!」


 それだけですんなり土下座が解除されるとは思わなかったさ。


『俺の苦労は一体……』


 そうは思うが、愚痴のひとつも言う気になれなかった。

 それで再び土下座されたらシャレにならん。

 わざわざ藪をつついて蛇を出すこともない。


 後はルディア様がいい仕事をしてくれることを願うばかりである。


読んでくれてありがとう。

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