表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
560/1785

551 突進してきた脳筋たちを罠にはめる

 ジャイアントシャークが猛スピードで突っ込んでくる。

 もちろん空中でホバリングしている輸送機に対してではない。

 海中の浅いところで陣取っているメタルサーバントのカメラを通した映像だ。

 大型の壁面モニターを通して見ると、それなりに迫力がある。

 皆の視線も釘付けだ。

 ヤエナミだけは顔色を悪くしていたが。

 それについてはエリスが声を掛けていた。


『おーおー、厳つい面を更に厳つくして向かってきたよー』


 緊迫感の薄い軽い口調でトモさんが告げてきた。

 繋げっぱなしのスマホを通した音声であるが、水中からだというのに明瞭に聞こえる。

 ノイズすら乗らない。

 今更な気もするが、魔法万歳である。


 さて、通信の明瞭さは壁面モニターに映し出された映像でも確認できる。

 メタルサーバントのカメラで捉えたシャークマンの表情なんかもクッキリだ。

 他の映像も多々あるが、トモさんの言葉でそれに皆の意識が集中している。


 言葉通り厳つい顔をしていた。

 殺意に満ちた鋭い目付きに開いた口から覗いている鋭い牙の数々。

 殺人ザメを題材にした外国の古い映画を彷彿とさせる姿だ。


 それを見てしまうとジャイアントシャークの面構えが間抜けなものに見えてくる。

 物理的な攻撃力はサイズの差もあって大幅に違うのだが。

 だからこそシャークマンはジャイアントシャークを手懐けて騎乗するのだ。

 そんなことをしてまで敵を殲滅しようという意思と知能がある。

 今までにないタイプの魔物だ。


 単なる殺意だけではない歓喜しているような感情が口元に出ているようにさえ感じる。

 そこまでクッキリと確認できるのはカメラのズーム機能を使っているから。


 等倍映像だとシャークマンの表情はまだ確認できない。

 ジャイアントシャークの背に腹ばいで密着している姿が確認できる程度。

 風変わりに見えるかもしれないが、あれで騎乗している状態である。

 水の抵抗を考えると乗馬のスタイルと同じようにするのは非合理的なのだ。


『変わった騎乗の仕方ね』


 マイカは違和感を感じる口らしい。


『コバンザメを逆にした感じ?』


 ミズキのコメントはどちらか判断しづらい。

 ただ、所感としては面白いことを言ったものだと思う。

 コバンザメの引っ付き方はシャークマンとは何もかもが逆だ。

 奴らは腹側にへばり付く上に頭に吸盤があるからな。

 あの姿を思い出した後だとシャークマンが騎乗して見えるから不思議である。


『ちょっと位置が違うけど、ゼッゴークみたいだね』


 そんな感想を漏らしたのはミズキである。


『あー、ホントだ。

 それっぽい感じ』


 マイカが即座に同意していた。


『言われてみると確かに』


 トモさんも同意する。


『あのランスっぽいのがセンサーユニットっぽく見えるじゃないか』


「まんまランスだよ」


 ジャイアントシャークの骨を加工して作られた代物だ。

 そこまで頑丈に見えないが故にトモさんはランスとは思わなかったのだろう。

 【鑑定】持ちなのにスキルは使わなかったようだ。

 それなら武器らしく見えないのも仕方がない。

 なんというか玩具のブロックで組み上げました感がそこはかとなくするからね。


『あ、ホントだ』


 そして今頃になってスキルを使っている。


「ほう、骨を組み合わせて馬上槍にするか」


 釣られてガンフォールがコメントする。

 壁面モニター越しで【鑑定】を使えるほど熟練度があったかと思ったが違うようだ。

 職人としての目で見極めたといったところか。

 ニヤリと笑うガンフォール。


「どうやら、ただの脳筋ではないようじゃな」


「そこそこの知能があるって言っただろ」


「聞いてはおったが、あの猪突猛進ぶりではのう」


 呆れた視線を壁面モニターに向けるガンフォール。

 言いたいことは分かる。

 我先にと言わんばかりの勢いで突っ込んでくるんじゃ脳筋と思われても仕方ない。


「極めて好戦的な連中だからな」


 【諸法の理】で確認したから間違いない。


「脳筋であることは疑いようがないが、あれで連携したりしてくるぞ」


「見たことがあるのですか?」


 ボルトが聞いてきた。


「連中を直に見るのは初めてだな」


 そう返事をするとボルトが困惑の表情を浮かべた。


「おいおい、俺は賢者だぞ」


「あ……

 そうでした」


 ショボンと落ち込むボルト。


「落ち込んでいる暇などあると思うなよ」


 俺がそう言うだけでボルトからボンヤリした雰囲気が抜けた。

 壁面モニターへと強い視線を向ける。

 等倍の映像では米粒大だったものがグングンと大きく見えるようになってきた。


「来ました!」


「ああ、結界の範囲内に入ったな」


 いよいよ始まるぞ。


「結界のタイミング合わせ、いけるな」


「くっくぅ!」


「もちろんじゃ」


「まかせてー」


 結界担当の守護者たちも気合いが入っている。

 すでに3人で円陣を組んで集中していた。

 発動直前の段階まで持ってきている。

 後はタイミングを合わせて発動させるだけ。

 この状態を何分も前から維持していた。

 制御を乱せば魔力も無駄に消耗するのだが、それもない。

 短時間で集中を乱すような彼女たちではないからな。


 その時である。

 横並びだったジャイアントシャークたちに動きがあった。


「むぅ、ここで隊列変更じゃと?」


 ガンフォールが言うように横並び状態から縦列へと変えてきた。

 向こうは1体ずつ確実に仕留めようという判断なのだろう。

 メタルサーバントの大きさに何か感じるものがあったようだ。


「直前で変えてきますか。

 しかも乱れがない。

 手慣れておりますな」


 ハマーが唸っているが、パイロット組は特に慌てた様子がない。


『あら、考えなしに突っ込んでくるだけじゃないのね』


 相手が聞いていたら挑発になるであろう発言をするマイカ。


『意思の疎通が見られなかったけど?』


 トモさんがコクピットで首を捻っている。


『何か分かるかい、ハルさん』


「分かるけど、解説は後で。

 敵さんの初撃が来るよ!」


『おっと、そうだった』


 目前に迫った敵を相手に余裕である。

 というより眼中にないと言うべきか。

 敵の攻撃が当たってもダメージにならないからね。


 でも回避が前提だ。

 命中したら罰ゲームとは言ってあるんだけど緊張感が足りない。

 防御も命中という厳しいルールにしたのにね。

 もちろん擦るのもダメだ。


 敵が最初に標的としたのはトモさんではなくマイカだった。

 地味な配色のスゴークが弱く見えたのか。

 それとも逃がすと保護色のせいで見失いかねないと思っているのだろうか。

 そこは分からない。


 とはいえランスを突き出しながら突っ込んできたのは事実。

 アレが入れば海竜もただではすまない威力があるであろう。

 それだけの勢いがあった。

 だてにジャイアントシャークに騎乗している訳ではない。

 ただし、まともに当たればの話ではあるが。

 コクピット内のマイカが緊張感のない表情で機体を操作する。


『先頭から3組様、入りまーす』


 緊張感のない一言と共にマイカのスゴークがゆったりとした動きで回避していく。

 スゴークが半身になりつつバックステップするかのように横へと回り込んだ。

 タイミングがシビアだが、レバー操作はそのぶん参考にしやすかった。

 ちゃんと皆の手本になるように配慮してくれている訳だ。

 マイカは無理をせず、そのまま距離を取った。

 2番手、3番手は手出しできずに通り過ぎていくのみである。


「よし、今だ。

 結界発動!」


 俺の合図でマイカたちを中心とした広域の球状結界が張り巡らされる。

 守護者たちの魔法によって。

 あえて連中が通り過ぎて減速するタイミングを狙った。


 より狭い範囲の結界だったなら攻撃の瞬間を指定していただろう。

 だが、3人がかりの結界は奴らが全速力で突進してきても余裕で囲えてしまう。

 方向転換のために減速しようとするなら尚のことである。


「なあなあ、ハルトはん」


 アニスが話し掛けてきた。


「どうした?」


「結界を張るタイミングがちょっと遅ない?」


「ああ、それは私も思った」


 リーシャもか。

 いや、他にも同じことを思っている面子が多いらしく頷いている者が何人かいる。


「せっかく広範囲で結界を構築するんだ。

 単に囲うだけではない効果ってのを味わってもらおうと思ってな」


「どういうこっちゃの?」


「敵の動揺を誘うためではないか?」


 自信なさげにそう言ったのはルーリアだった。


「動揺を誘うって……

 タイミングひとつで、そんなこと可能なの?」


 レイナが目を丸くしている。

 ルーリアが提示した答えは予想外のものだったようだ。


「可能みたいですねー」


 ダニエラの発言によって皆の視線が撮影用に送り込んだ機体のカメラ映像に集中する。

 モニターの中でジャイアントシャークたちは右に左にと忙しなく体を振っている。

 見えない壁を隅々まで見ようとするかのように。

 背中に張り付いたシャークマンがそうさせているのだが。

 方向転換することも忘れてすることじゃないとは思う。


「「ホントだー」」


 メリーとリリーが口に手を当てて驚いた様子を見せていた。

 他にも何人か意外だって顔をしている。


「「「「「どういうこと?」」」」」


 疑問を抱いた面々が俺じゃなくてルーリアに視線を向ける。

 ルーリアは困惑の表情で俺の方を見てきたけど。


「それが正解なら誰が答えたって同じだよ」


 俺のその言葉を受けてルーリアは困惑を残しつつも話し始めた。


「減速中に目の前で出口を閉じられたら、どんな気がするのかということだ」


 簡単に言えば出られないと強く印象づけるのが目的という話である。


「そういうことかいな。

 減速中にそんな真似されたら焦るかもしれんなぁ」


「焦ったから、あの状態なんじゃない?」


 アニスの言葉にレイナが後押しする。


「少なくとも頭に血が上って正常な判断ができなくなったようではあるな」


 リーシャも頷きながら、そんなことを言った。


「そんな簡単にあんな風になるだろうかという疑問が残るのだが……」


 話をしたルーリアが首を傾げている。

 普通はならないね。

 デバフでもかけられない限り。

 はい、私が犯人です。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ