548 選択でこだわるのは仕方がない?
あれからオオトリへとやって来た。
空を飛ぶとそれなりに時間がかかるので転送魔法だ。
いきなり場所が変わったことにヤエナミが狼狽したのは言うまでもない。
転送魔法だと説明したら卒倒しかけたもの想定済みだ。
細かなフォローはエリスに任せておいた。
『俺は他にすることがあるからな』
決して面倒だからという訳では……
ゲフンゲフン、ん~何のことかなぁ。
『とにかく俺にはすべきことがあるのだ!』
そのうちのひとつである輸送機の大型化にも【多重思考】を駆使して取り掛かっている。
格納庫内でメタルサーバントを立たせることができると便利なんでね。
搬入出とか発進とかさ。
「それじゃあ最初に出撃する3人は希望する機体を選択してくれるか。
被っていてもコピーするから気にしなくていいぞ」
それは何気なく言った無意識の一言であった。
まさか、こんなことで注意を受けるとは夢にも思っていない。
そこへトモさんが想定外の一言を繰り出してきた。
「それはいけないよ、ハルさん」
「おぉっ!?」
『何がいけないんだ?』
トモさんがやけに真剣な表情で詰め寄ってくる。
口調は穏やかなのに大迫力だ。
「どうしたのさ」
「赤い人のスゴークはオンリーワンじゃないかっ」
拳を握りしめて力説してくる。
「あー、それは確かにそうだよね」
「そこは譲れないラインだわ」
ミズキとマイカまで乗ってきた。
俺も否定するつもりはない。
いや、むしろ激しく賛同する。
「じゃあ、そういう感じで」
『アレはオンリーワンだわ』
続編に出てきた最初の搭乗機は後に同じ色だらけになってしまったけれど。
「やけにアッサリ引くのね」
意外そうにマイカが聞いてきた。
「俺もそう思うからな。
他の機体はコピーするってことで」
「ちょっと、グランダムはどうなのよ」
「あれはそこまでオンリーワンじゃない気がするんだが」
「プロトタイプも3号機もあるよね」
ミズキが補足を入れてくる。
「フルアーマーとかフルアーマーとかフルアーマーとか」
トモさんもだ。
平坦な口調ではあるが目力を込めてフルアーマーを推してくる。
永浦氏が絡んでいるからなんだろう。
『まさしく愛、なのか?』
違うな。
親友に対する情ではあるんだろうけど。
それに、その台詞はグランダム違いという意味でも違う。
そもそもそっちの彼はグランダムには乗っていない。
「残念だけどフルアーマーはカラーリング程度では誤魔化せないよ」
「とりあえず3人分あれば充分だから、そこまではいいんじゃないのかな」
「そう言うからにはミズキはグランダムなのか」
「うん」
「トモさんもグランダムじゃないのか?
カラーリングで選択の余地はあるけど」
「海で戦うのに赤い人のスゴークを選ばない理由があるだろうか」
『そっちですかー』
「いや、ない!」
仕事用の声まで使って力説してるし。
思い入れも余程のものだな。
「沢口さんに自慢してやるんだー」
『沢口さんって、泰介さんか』
確かスゴークに乗る役がやりたいと公言している声優さんだ。
でも、グランダムの続編にあたる作品で主役に抜擢されてしまった。
本来なら物凄く幸運なはずなのに夢は叶わなかった訳だ。
運がいいのか悪いのかよく分からない人である。
「赤い人のスゴークに乗って活躍したって」
「「「おいっ!」」」
俺だけじゃなくミズキとマイカまでそろってツッコミを入れていた。
「こっちのこと喋っちゃダメでしょうが!」
ガーッと噛みつく感じでマイカが吠える。
「喋ってもいいけど、妄想癖の激しい変人扱いされるよ」
『それは、いいのか?』
ミズキの感覚はよく分からない。
心配そうに言ってるけど、喋ったら終わりだと言わんばかりだし。
「下手をしたら檻付きの病院に入院させられたりとかあるかもしれないよ」
『おいおい、穏やかじゃないな』
言ってることが極端だ。
「そこまで酷くはないと思うけどな」
「そうかなぁ?」
「事故の影響で妄想が激しくなったとか心配されるとは思うけどね」
「あー、ありそうありそう」
マイカがしきりに頷いている。
「それで仕事とか減らされたりするのよねー」
「なんですとぉ!?」
トモさんが慌てている。
無理もない。
『しばらく声優の仕事がなくて凹んでたからなぁ』
「場合によっては引退勧告を受けたり」
先程からミズキの言うことが辛辣である。
そんな風にあえて言うことで思い止まらせようとしているのかもしれない。
「うぉっ、それは困るぅ────────っ」
芝居がかった苦悶の表情をしているトモさん。
「引退勧告はないと思うけど、余計なことはしない方がいいよ。
どんなトラブルが舞い込んでくるか分かったもんじゃないし」
「致し方あるまい。
断腸の思いで自慢するのは止めるとしよう」
やけに渋い声を出している。
声真似をしているようにも聞こえるけど、違うような気もした。
迷うところだ。
どっちだろうと思っていたら──
「それ、誰かの真似?」
ミズキが聞いていた。
「真似じゃないよ。
単に苦渋の決断を声で表現しただけ」
「紛らわしいわっ」
マイカがツッコミを入れていた。
「ツッコミ入れるのはいいけどさ」
「なによ」
吠えた後だから微妙に機嫌が悪い。
『まあ、こんなのは可愛いもんだ。
本気でマイカが怒るとミズキでないと抑えが効かなくなるからな』
「機体選択してないのはマイカだけだぞ」
「あちゃー」
右手を額に当てて仰け反っている。
「マイカちゃん、あちゃーじゃなくて決めないと」
「じゃあマッカイで」
「さらっと決めたな」
「赤いスゴークの僚機と言えばマッカイでしょ」
妙なこだわりを見せる俺の妻である。
「セットで選ぶとか縁起の悪いチョイスだな。
それ、撃墜されるフラグじゃないのか」
偵察部隊に墜とされるほどショボい代物ではないけれど。
世の中、何が起きるか分からないからね。
「そういうこと言わないでよ。
一応、気にしてるんだから」
「だったら他のにしておけよ」
「あら、私が撃墜されるのが嫌なの?」
「自分の妻が酷い目にあって喜ぶ旦那がいると思うか」
「あら~」
にやけた顔をして意地悪な目を向けてくるマイカ。
「少なくとも俺は喜ばんぞ。
サドでもマゾでもないからな……
って、おい! 俺の話、聞いてるか?」
『ダメだ、聞いてねえ』
何故かマイカがクネクネと身を捩らせている。
見ようによっては「イヤンイヤン」という仕草に見えなくもないのだが。
奇妙というか微妙というか……
『慣れないことすると、そうなるんだよ』
ここでマイカにホラーチックなお面でも被せたら某有名絵画を連想したかもしれない。
とりあえず、それについてコメントするのは危険だ。
余計な一言は無駄な損害を産む元である。
「マッカイのままでいいのか」
そう問いかけると、真顔に戻った。
ただし、すぐにやけ顔に戻るのだが。
「そうよねー、ハルが心配するものねー」
誰もそこまでは言ってない。
言ってないが訂正するつもりもない。
「ニュフフフフフフフフ」
「……………」
マイカの笑い方がヤバイ。
クネクネはしなくなったが、何も変わってない気がする。
「デレちゃった」
「デレたね」
ミズキとトモさんが頷き合っている。
「これがデレる……」
フェルトはしげしげとマイカのことを見ていた。
『良くない見本のような気がするんだが……』
まあ、別に真似をしようって訳じゃないだろう。
「変更するのかしないのか、ハッキリしてくれ。
10秒以内な。
決められないなら強制的にゴッヅにするぞ」
「やあよ、関取なんて」
拒否の仕方が独特だ。
ゴッヅのことを関取呼ばわりするとは思わなかった。
そういう雰囲気のあるメタルサーバントだけどさ。
「じゃあ、どうするんだよ」
「熊谷さんはないの?」
一瞬、何のことかと思った。
しかしながら、すぐに思い出す。
グランダムのプラモデルを扱ったアニメ作品を。
『そういや、プラモをスキャンしたデータで戦うアニメがあったな』
熊谷さんはそれに出てくるマッカイを魔改造したプラモデルだ。
何故か「熊谷さん」と人名で呼ばれているのは制作者の趣味らしい。
一見しただけでは可愛らしい熊の縫いぐるみにしか見えないのが最大の特徴だ。
そのお陰か本当に熊谷さんの縫いぐるみが発売されたんだけど。
「悪いな、そこまで考えてなかった」
「えー」
マイカが口を尖らせて唸っている。
「今から魔改造してる時間はないよ。
見た目は似ている部分もあるけどマッカイとは別物だからな」
「う、それは確かに」
どうやら相当の思い入れがあったらしい。
理解しつつも、いじけていた。
『マッカイを選択したのもそういうことかもな』
結局、マイカはスゴーク後期型を選んだ。
『やれやれ、ホント疲れたわ……』
これで未だに戦闘が始まっていないとは先が思いやられる。
読んでくれてありがとう。




