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545 ブリーフィング始まる

 エリスがヤエナミの耳元で何事か囁いた。

 その気になれば聞き取ることはできるのだが、それはしない。


『さすがにマナー違反だろ』


 できれば今後の参考にしたいと思いはしたけどな。

 それもすぐに終わる。

 エリスの言葉にヤエナミが深く頷いた。

 そして頬を拭って立ち上がる。

 泣いたことは隠しようのない状態だったが、今はもう涙を流してはいなかった。


『嘘だろぉっ』


 軽くなぐさめただけでヤエナミは復帰した。

 泣くのを堪えているという感じではない。


『どんな魔法を使ったんだぁ』


 そう言いたくなるくらい謎である。

 少なくとも同じ真似は俺にはできない。

 先程の罪悪感が残っているだけに複雑な心境だった。


 が、やるべきことがある。

 悩むのは後にして俺は皆を静めにかかることにした。

 といっても一部の面子には一言で済む話だ。


「総員、集合せよ」


 意図的に抑えた渋めの声で言う。

 妖精組がピタリと動きを止めた。

 それも一瞬のことだ。


「これよりブリーフィングを始める」


 言い終わる前にシュバッと俺の前に整列して片膝をついている。


「なんじゃあ?」


 珍しくガンフォールが慌てていた。

 妖精たちの急変ぶりに焦ったらしい。

 それは他の皆も同様だ。

 それなりに平静を保てているように見えるのはローズと月影の面子くらいか。


『あれだけ騒いでいたのに急に整列して静かになればなぁ』


 何事かと思うのも無理はない。


「傭兵ごっこ」


 ノエルがボソリと呟いた。

 ガンフォールの疑問に答えたつもりらしい。


「訳が分からんわい」


「そういう遊びを以前していたんだよ。

 集合して状況説明と作戦内容の確認をして出撃するだけなんだがな」


「おー」


 と言いながらポンと手を叩いたのはトモさんだった。


「ゾーン808のザキ司令だ」


「似てないけどね」


「マニアックすぎるわっ。

 しかも旧版じゃないの」


 文句を言ってくる割にマイカのツッコミもマニアならではのものだ。


「なつかしーねー。

 トモくんに言われるまで分かんなかった」


「全員、置いてけぼりになるからそのくらいでな」


「「「へーい」」」


「変わった遊びをしておったんじゃな」


「娯楽が少なかったからな。

 ヨウセイジャーごっこだけだと飽きるし」


「何が役立つか分からんわい」


 ガンフォールの言う通りである。

 どんなに騒いでいても静まりかえる上に整列してくれるからな。

 条件反射もここまで来ると凄いの一言に尽きる。


『感心している場合ではないな』


 みんな俺の話を聞く体勢になっているのだから、このまま進めるのみだ。

 ただし、ザキ司令の真似はしない。

 これは遊びじゃないのだ。


「敵の偵察部隊と思しき一団がオオトリに接近しつつある」


 この情報を知らなかった面子がどよめいた。


「ハッキリ言って雑魚だ。

 しかし敵の大本が我が国へ向けて移動中である」


「それは侵攻作戦を展開しているということでありますか」


 妖精組の1人が聞いてきた。

 傭兵ごっこから抜け出し切れていないせいで口調がおかしい。

 表情は至って真面目なので遊び感覚はないだろう。

 故にそこはスルーした。


「敵の目的はヤエナミを捕縛し情報を得ることだろう。

 ドルフィーネの集団を発見できないことから手段を変えてきたものと考えられる」


「ハルト様はどうされるおつもりですか」


 マリアが聞いてきた。


「決まってるだろ。

 喧嘩を売ろうとしてくる連中に遠慮はいらん」


「「「「「そうだ!」」」」」


 妖精組が気炎を吐く。

 出会った頃とは大違い。

 変われば変わるものである。

 そうさせた張本人は俺なんだけど。


「交渉はしないのですか?」


 今度はクリスが聞いてくる。


「その余地があると思うか?」


「……ものすごく薄いとは思います。

 ですが、こちらの正当性を主張する意味はあるかと」


 ヤエナミを保護したからこその発言だろう。

 こちらが正しいのだと主張して相手をやり込めようという腹積もりか。


「シャークマンに人間の理屈は通用しないだろうな」


「あ……」


 ションボリと萎んでいくクリス。

 交渉などできる相手でないことを悟ったようだ。


「気にするな。

 色々な意見が出されることは、むしろ良いことだ」


「ありがとうございます」


「ただ、今回は相手が悪い。

 知能はそこそこあるようだが獰猛だ。

 そもそも客人に瀕死の重傷を負わせた連中にこちらの主張を聞かせる必要などない」


 これは取って付けた言い訳のようなものだ。

 客人が怪我をしたのではなく、怪我人を客人としたのだから。

 うちはまだ攻撃された訳でも虚仮にされた訳でもない。


 だが、些細なことだ。

 ヤエナミがうちの客人である以上、そういう結果になるのは目に見えている。


「まるで何処かで見た光景ね」


 レイナが苦笑している。


「ホンマやなぁ。

 あん時はうちらも暴れたけど」


 アニスが相槌を打っている。

 バーグラーで禿げ豚を叩き潰したときのことを思い出しているようだ。


「何だか懐かしいですねー」


「「ちょっとちょっとダニエラちゃん、そんなに前のことじゃないよ」」


 しみじみ呟くダニエラにツッコミを入れるメリーとリリー。


「そう感じるから仕方がない」


「同感だな」


 ノエルが反論し、ルーリアが同意する。


「今度は妖精組が活躍する番だな」


 そしてリーシャが締め括った。


「リーシャの言う通りだ。

 同胞であるドルフィーネたちを虐げたシャークマンどもに思い知らせてやれ」


「「「「「おおーっ!」」」」」


 妖精組が吠える。

 士気は充分以上だ。


『入れ込みすぎにならないようにしないとな』


「ただし、くれぐれも気を付けろ。

 シャークマンは身体能力はオーガ並みだが知能は上だ。

 連携やフェイントなんかは普通に使ってくる。

 ジャイアントシャークを手懐けて使役しているくらいだからな。

 他にもシーゴブリンを従えている。

 敵の軍勢は決して侮るんじゃないぞ」


「「「「「はいっ」」」」」


 気合いの入った返事になるのが、逆に不安を抱かせる。

 だが、そこは妖精たちを信じるしかあるまい。


「軍勢……」


 レオーネが呟く。


『そこが気になるか』


 いいところに気が付いたものだ。


「そんなに大勢いるんですか?」


 気になったことは放っておけなかったようだ。

 レオーネが疑問を口にした。

 どうやらちょっとした小グループ程度に考えていたらしい。


『そりゃあ確認したくもなるよな』


「北上してきている連中の総数は5万程度か」


「ごっ!?」


 ヤエナミがビクリと震えた。

 まさかそれ程とは思っていなかったのだろう。

 聞いてきたレオーネなどは軽く瞬きした程度なんだがな。

 まあ、うちの面子であからさまに驚いている者は……


『フェルトはそれっぽいな。

 あと、トモさんも少し驚いているか』


 俺の戦い振りを見たことがない2人じゃ、しょうがない。


「シャークマンは千程度しかいないぞ」


「しかいないって……」


 ヤエナミの顔色が悪い。

 圧倒的に不利だとか思っているのだろう。


「ジャイアントシャークはもっと少なくて百くらいだな」


「百も……」


 絶望的だと言わんばかりに顔を硬直させているヤエナミ。


「心配はいらんよ。

 さっきは侮るなと言ったがうちの面子なら敗北はない。

 怪我をするかどうかは本人たち次第だがな」


 油断しなければ大きな怪我などせずに勝利できるだろう。

 ヤエナミは俺の言葉が信じられないのか絶句しているけれど。


「大丈夫だって。

 残りの大半はシーゴブリンだ。

 水中で自在に動けるなら雑魚中の雑魚だぞ」


 俺がそう言ってもヤエナミの絶望オーラは払拭されない。


「この世の終わりみたいな顔をするなよ。

 いざとなれば俺がササッと終わらせるから」


 この発言はうちの面々から生暖かい視線を送られることとなった。


「陛下ならやっちゃうよね」


「確実に殲滅だニャ」


「きっと、あっと言う間だよ」


「「うんうん」」


 そんなやり取りさえ聞こえてくる。

 言うまでもなく子供組の面子だ。

 他にも似たようなことを皆が言ってるけどね。


『反論したくてもできねえ』


 自分でも、そうなるだろうと思うが故に。

 自重も大事だとつくづく思った。

 生憎と手遅れではあるのだが。


『トホホだよ、ホント』


読んでくれてありがとう。

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