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534 大量の肉をゲットだぜ

 キースの次は8人の妖精組である。

 ジャンケンの結果を見て俺が即席のチームを組ませた。

 オークの群れを引っ張ってくるんだが、些か数が多いのだ。

 8人チームでもキースより時間がかかるだろう。


『たとえ雑魚でも20倍の数を相手にしなければいけないからな』


 チームの連携に関しては心配していない。

 俺と出会う前から妖精組は協力し合ってきたのだ。

 仕事をするときだって、その時の状況で適当にチームを組んだりもするし。

 それでも問題になるのは数の差だ。

 普通に考えれば、突破されるのは目に見えているようなもの。

 それこそが狙い目だ。


『どう食い止めるかをヤエナミに見せつけてやらないとな』


 少し離れた場所にオークの群れを転送した。

 結界に触れている連中を引っ張ってくるのは魔力消費を抑えることができて楽だ。

 意外な発見であった。


『まあ、そうそうは使わんだろうがね』


 大量のオークがこちらに向けて突進してくる。


「後ろに生きてるのが抜けた時点で負けだからな」


 雑魚が相手だから勝利条件を加えることで難易度を上げておく。


「「「「「はーい」」」」」


 返事は軽いが殺気が増した。

 モチベーションが上がったようだ。


『客人の前だってことを忘れてないだろうな』


 彼等の殺気のお陰でヤエナミが我に返りはしたのだが。

 結局、オークを転送魔法で引き寄せたのを見逃してしまったけれど。

 それに関しては次である。


 今は8人の妖精たちが、どうオークの群れに対処するかだ。

 ドタドタといかにも鈍重な足音を響かせて接近してくるオーク。

 それに対して妖精たちは前衛6後衛2で対応するようだ。


『偉く変則的だな。

 攻撃的なようで中途半端な……』


 どうやら前衛でほとんどを止めてしまうつもりらしい。

 前衛を抜けるようなのがいたら後衛で対応。

 後は適当なところで2人ずつローテーションで交代する腹積もりのようだ。

 前衛の妖精たちは少し前に踏み出したが、それ以上は前に出ない。


『突っ込んで乱戦に持ち込むかと思ったんだが』


 その気配は微塵も感じられない。

 突進を止めてアピールするつもりのようだ。


『面白いじゃないか』


 対するオークは不格好な突進あるのみ。

 妖精たちの態度から舐められたと感じたり罠の有無を疑ったりはしないらしい。


「オークって脳筋だねえ」


 しみじみとした様子でトモさんが感想を述べた。


「脳筋以前の存在だと思うよ」


「何よ、それ?」


 俺の返答にマイカが疑問で反応してきた。


「本能の塊ということじゃな」


 シヅカが答えた。


「それは言えている」


 クックと喉を鳴らして同意するツバキ。

 そんなやり取りをする間に、オークたちがかなり接近してきた。

 距離がもう少しで無くなるかという頃合いになって妖精たちの前衛が動きを見せた。

 といっても構えただけだ。

 片脚に体重を乗せて軸足とし、もう片方の足は浮かせ気味にして。


『面白い、蹴りで止めるつもりか』


 数が多いと言っても横並びですべてのオークが飛び込んでくる訳ではない。

 最前列を壁代わりにしてしまえば後ろは出てこられなくなる。


 嘘くさい?

 いかに群れていようと所詮は雑魚のパワーだからな。

 見た目ならオーガ並みにゴツいが、力では遠く及ばない。

 その上、相手は3桁レベルに達している妖精たちだ。

 オーガですら数の暴力で圧倒することができない相手。

 その妖精たちのうち、前衛を務める6人が連続で蹴りを繰り出した。


「ドドドドドドドドドドドッ!」


 最前列のオークの上半身に無数の蹴りが入る入る入る。

 それだけでオークの突進が止まった。

 壁にされた最前列のオークを後ろから力任せに押し込もうとしてくるがビクともしない。

 妖精組1人で何体ものオークを受け持ってそれだ。


「圧倒的じゃないか」


「本当にトモってネタをぶっ込むのが好きよね」


「マイカちゃんはツッコミ入れるのが好きだよね」


 何か漫才じみたことを言ってる姉弟がいますよっと。


『もう少し真面目に解説する気はないんかね』


 エリスのように。


「軸足だけで蹴りの合間に軸線をずらして移動してるのね」


「その発想がなかったですね」


 マリアが感心している。


「オークが相手なら私達にもできそうですね」


 そして冷静に分析。

 レベル3桁に到達した余裕が感じられる。


「あ、動きが変わりましたよ、姉様」


 クリスが指差す先で妖精たちは蹴りを一瞬だけ変化させた。

 突き返すそれから蹴り上げるそれへと。

 最前列のオークが上へ飛ばされ放物線を描き、妖精たちの背後に落ちてくる。

 押し返す力が緩んだ瞬間を狙ったのだろう。

 後続が前に出ると次の蹴りの餌食である。


『交代してるし』


 オークの列ひとつ分を始末すると交代していくようだ。

 ただし順番はすぐに回ってくる。

 最前列を蹴り上げるまでと違って2列目以降は蹴って止めたらすぐに蹴り上げていた。

 それで充分にオークどもは死んでいるからだ。


『1列目は全体の動きを止めるための壁の役割があったからな』


 処理済みのオークがどんどん積み上がっていく。


「ああ、美味しそうなお肉の山が」


「カツ丼が食べたくなるわね」


 などと宣うABコンビ。

 2人は肉食女子だったようだ。


『ちょっと意外だな』


 普段はがっつかないから気付かなかった。

 女心は複雑なのである。

 些か違う気もするが、とにかく彼女たちの秘めた一面を見ることができたのは収穫だ。

 そうこうしている間に引き寄せたオークはすべて仕留められていた。


「も、もう、終わりですか……」


 ヤエナミが唖然としている。

 いくら驚いても驚き足りないようだ。

 積み上がったオークと先程のオーガの死体を倉へと回収していく。

 一度に大量のオーク肉がゲットできてホクホクである。


『豚丼、カツ丼、カツカレー……

 合い挽き肉にしてハンバーグ……

 ああ、餃子にシュウマイもあるじゃないか。

 これだけ肉があると何から作るか迷っちゃうね。

 ウハウハでやめられまへんなぁーハッハッハ!』


 考えるだけで口の中に唾液が溜まってしまった。

 もっとも俺の妄想はヤエナミによって遮られてしまう。


「きっ、消えたっ!?」


『あー、そういう反応しちゃうかー』


「空間魔法で回収しただけだから」


「でもっ、彼等は何かをしたように見えませんでしたが」


 彼等とは引き上げ始めている8人の妖精たちのことか。

 ヤエナミは8人が空間魔法を使ったと思ったようだ。


『まあ、ここからは少し離れているからな』


 至近距離でしか空間魔法が使えないというのは誤解なんだが。


『ただし、魔力の消費量に目を瞑らなきゃならんがね』


 そんな風に思うのも無理からぬことだ。


「俺が回収したからな」


 故に訂正しておく。


「は?」


 案の定、ヤエナミは何を言っているのだろうという顔をしている。

 しょうがないので回収したばかりのオークとオーガを倉から出した。

 魔物たちが何もない空間から出現しドサドサと落とされて死骸の山となっていく。


「────────っ!?」


 ヤエナミが声なき悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。


『死体が目の前に出てきたことに驚いたか。

 それとも俺の空間魔法の収納力に驚いたか』


 追及したからといってヤエナミが復帰する訳ではないのだが。

 結局、ヤエナミは約10分を復帰のために費やした。

 その間にオークとオーガは収納済みである。


『面倒くせえ』


 何も知らない人間に見せると、こうも手間がかかることになるとは。


『まさに夢にも思わなかったってやつだな』


 この調子で次の準備にかかった。

 次は3人一組である。

 一緒がいいと言ってジャンケンには代表でエリスしか出てこなかった姉妹たち。


 引き寄せた敵はバーサーカーが9体。

 数の上では先程のオークどもとは比べるべくもない。

 が、あっちは雑魚すぎるので単純比較はできないだろう。

 あのオークの群れと、このバーサーカーたちをぶつければオークが負けるからな。


 ヤエナミがどう評価するかは分からないが。

 ひとつ言えることがある。


『またしても転送の瞬間を見逃したな、ヤエナミは』


 タイミングが悪いとしか言い様がない。


『俺のせいではないと思いたい』


 そんなことより3姉妹とバーサーカーとの勝負である。

 何処かのゲームに出てくるような命のスペアをいくつも持っている奴とは違う。

 命はひとつだ。

 オーガより強靱であろうと関係ない。

 それを超える攻撃力を持っているのだ。


「1人3体!」


「「はいっ」」


 エリスが分担を決めるとマリアとクリスが応じた。

 バーサーカーが吠えようが狂ったように突進してこようが関係ない。

 淡々と作業をこなす感じで戦闘してるように見えないほどだ。

 退屈そうにしているとかではない。


 3姉妹は真面目な方だからな。

 エリスやクリスは茶目っ気もあるかもだけど。

 少なくとも仕事で不真面目な態度になったりはしない。


『あらかじめ決めていたことを試している感じだな』


 どうやら事前に相談していたようだ。

 3人ともあえてバーサーカーに初手を出させていた。

 まず、殴りかかってきたバーサーカーの拳を紙一重で躱す。

 一般的な冒険者からすると瞠目に値するであろう見切りだ。


 バーサーカーの体が繰り出した拳の勢いでわずかに泳ぐ。

 単体での攻撃なら致命的な隙となっただろう。

 だが、他のバーサーカーが攻撃のモーションに入ろうとしていた。

 向こうが連携している訳ではない。


「立ち位置を微妙に変えて攻撃をうまく誘導しおったな」


 ハマーが感心している。


「でも、狙いはカウンターで入れた攻撃のようですよ」


 ボルトが指摘したように1体目のバーサーカーが一瞬の隙を突かれて沈んだ。

 飛び上がってからのハイキック一発で首をへし折っていた。

 その蹴りの反動を利用して位置を入れ替えている。

 そこから激しさは感じられない。

 2体目3体目も同じような淡々とした感じで終了した。


読んでくれてありがとう。

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