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533 デモンストレーションはじめました

修正しました。

開設 → 解説


 ヤエナミがどうにか自力で復活したのは地に足をつけてから数十分ほど後のことだった。

 息切れの方はじきに収まったが、メンタルダメージはそう簡単にはいかない。

 何かブツブツ呟いてたもんね。


『ちょっと危ない奴だな』


「あり得ない……」


 空を飛んだことか、それとも移動速度か。


「信じられない……」


 同じことに対する台詞なんだろうけど。


「これは夢なんだわ……」


『現実だよ』


 ツッコミは声に出せなかった。

 それをすると更に追い込んでしまうような気がしたのでね。

 見せるべき相手が今のままでも困るというのに更に悪くしてどうするということだな。


 魔法を使って強制的に回復とも考えたが、それも止めた。

 自分自身で決着をつけてこそ耐性もつくというものである。


『初期状態のままでデモンストレーションは見せられないよな』


 見せるたびに呟きながら茫然自失状態になられてちゃ日が暮れてしまう。

 まだ昼前だというのに。

 そんな訳で根気よく待つことにした。

 俺を除く皆で順番を決めたり。

 オーソドックスにジャンケンだったが、適当に時間は潰せたと思う。


「わ、私もっ戦うんですか?」


 リオンは声が裏返っていた。

 無理もない。

 普通に亜竜が出てくると言われればビビりもするだろう。

 レベルアップして実力はつけてきているが、まだ3桁には到達していない。

 何より亜竜クラスの魔物と戦った経験がないのだ。

 勝てるはずのない相手だと教えられて育ってきているようだし。


「心配するな。

 相応の相手を用意するから」


 俺がそう言うと、リオンは深々と頭を下げた。


「えっと、よろしくお願いします」


 俺の言ったことを微塵も疑っていないようだ。


『割と短期間で馴染んだよな』


 とはいえヤエナミがデモの間にこの領域に達せるとは思えないのだけれど。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「申し訳ありません。

 取り乱してしまいました」


 ヤエナミが詫びてくる。


「いいけど、慣れないと大変だぞ」


 俺がそう返事するとヤエナミの表情が引き締まる。

 超音速飛行を体験して俺が見せようとしていることの異常性を悟ったようだ。


『空気抵抗とかどう処理したとかまでは気付いてなさそうだけど』


「これから皆が戦うところを見てもらうけど、腹はくくっておいた方がいい」


 気休めだとは思いながらも注意しておく。


「……はい」


 即答とはいかなかったのは覚悟を決めるのに時間を取られたからか。


『考えなしに返事をされるよりは、よほどマシだけど』


 問題はどれほど覚悟できているか。

 すぐに腰砕けになるようでは話にならないのだ。


『さて、覚悟のほどは如何ほどか』


「そろそろ始めるぞ」


「はい」


 ヤエナミの返事を受けてキースに目で合図を送った。

 キースが俺たちから少し離れた場所に移動する。

 俺が指定した位置だ。

 遠慮せず暴れられるだけのマージンだと思うのだがヤエナミの表情は浮かないものだ。


「彼1人だけに戦わせるのですか」


『ああ、そういうことね』


「とりあえず最初はそんなに強い奴らじゃないし」


『ジャンケンで負けたときのキースは悔しそうだったよな』


「えっ……!?」


 困惑の視線が向けられる。

 皆には俺が敵を誘導すると言ってあったけど、ヤエナミはそれを知らない。

 まして周辺を広範囲の結界で覆ったことにも気付いていない。

 その気になれば【魔導の神髄】で魔法を使った痕跡を隠蔽できるからな。


『隠蔽のお陰で周辺の魔物が大挙して押し寄せるのを防げるし。

 結界で弾いているから弱い魔物から順番に引き寄せることもできるんだよな』


 そういうカラクリがあることを知らないヤエナミは俺の言葉が信じられない訳で。

 俺のことを半信半疑どころか「なに言ってんだコイツ」の目で見てくる。


『じきに信じざるを得なくなるがな』


「ほら、前を見ろ。

 敵の第1陣だぞ」


「え……、あっ!」


 ヤエナミが振り返ったときには3体のオーガがキースに肉薄せんとしていた。


「そんなっ!?

 いつの間に?」


『短距離転送で一瞬だよ』


 内心で答えておく。

 次でバレるけど、今これ以上に動転されても困るのだ。

 それに解説している時間もない。

 ヤエナミが驚く間にもキースとの距離を詰めオーガが殺到していたのだ。


「はあ───っ!」


 気合いを込めた割には軽いステップでオーガが振り下ろす拳を次々と躱すキース。


「ズゥン!」


 派手な音が鳴り響く。

 オーガたちが勢いのつきすぎた拳を仲良く地面にめり込ませたからだ。

 そのまま止まっている。

 大振りで崩れた体勢を戻そうともしない。

 まるで己の攻撃力に酔いしれているかのように。

 あるいは獲物を仕留めた余韻に浸っているかのように。

 もちろん、そんな事実はない。


「うわぁ、防御無視の攻撃全振りかー。

 アクションゲームとかだと中ボスにありそうなパターンだね」


 トモさんがまた分かりづらい解説をしている。


「あくしょん……?」


 フェルトが何だろうという感じで首を傾げている。


『こういうのは解説とは言わないか……』


 まあ、どうでもいい。


「相変わらずオーガは動きが遅いわね」


 マイカが呆れている。


「しょうがないよ、オーガだもん」


 同調するミズキ。

 その様子を見ていたヤエナミは唖然とするばかりだ。


「ベキッ、バキッ、ゴキン」


 鈍くもハッキリと響く音が聞こえてきたが、それも耳には入っていない様子。


「客人、余所見をしている間に終わったぞ」


「えっ!?」


 ハマーが呼びかけてようやく気付く始末である。

 ヤエナミが視線をキースの方へと戻した。

 が、ハマーの言うように終わっていた。

 キースは既に残心している状態だ。

 そんな中、3体のオーガは首をあらぬ方へと曲げながらゆっくりと倒れていく。

 首ポキである。


「3連脚とは格ゲーの技っぽいね」


「その例え方は日本人組にしか分かんないわよ」


 トモさんの言葉にマイカのツッコミが入った。


「マイカちゃん……

 日本人でも女の子だと分からない子も多いわよ。

 私達はそこそこゲームやってた方だから分かるけど」


 ミズキがマイカにツッコミを入れる。


「細かいことはどうだっていいのよ」


 特に不満な表情を浮かべるでもなく反論するマイカ。

 いつものことである。

 これで話は終わるはずであった。

 だが、そこにトモさんが食いつく。


「あーっ、この2人もゲーマーだったとは。

 そいつは気付かなかったぁ!」


 トモさんが地団駄を踏んでいる。


『子供かよ』


「恐れイリオモテヤマネコだぜぇー」


『訳が分からん』


 恐れ入ったと言いたいのだろうか。


「ここにゲーセンがあれば……」


 わざとらしく苦悩する芝居を始める。


「いや、せめてゲーム機があればっ。

 どうにかして2人と勝負してえー」


「あら、私はいつでも受けて立つわよ」


 己の右拳を目の前に持ってきて不敵な笑みを浮かべるマイカ。

 この場で戦う気満々である。


『無茶言うな、マイカ。

 レベル差を考えろ』


 ツッコミ入れたいが、次の準備がある。

 【多重思考】で幾らでも俺が増やせるとはいえ、体はひとつ。

 口もひとつだけだ。

 もどかしい気もするがブレーキ役のミズキを信じるしかあるまい。


「マイカちゃん、リアルじゃなくてゲームでだよ。

 ゲームなんてこちらには無いんだから無理でしょ」


 俺の願い通りにミズキは動いてくれるようなので、俺は俺の仕事をする。


「次は数十ほど引き寄せるから、こっちも数を出すぞ」


 ヤエナミに語りかけるも返事がない。


「おい、聞いてるか?」


 返事なし。


『やれやれ……』


 処置なしである。


「しっかりせぬか、ヤエナミよ」


 そう言いながら肩を揺すったのはツバキである。

 揺すられて、ようやく我に返るヤエナミ。


「なっ、なんですかっ、アレはっ」


 俺ではなく揺すったツバキに詰め寄っている。


「あんなものは序の口だ。

 我らはあの技を首ポキと言っておる」


『しまらない技名だよな』


 身内で話す分にはどうも思わなかったが、部外者に聞かせると些か恥ずかしい。

 己のセンスのなさが恨めしくなってくるものだが今更である。

 聞かされる方はセンスがどうとかいう余裕はないようだ。

 青ざめた顔で「一瞬で首を……」なんて呟いている。


「次、行くぞ」


 短距離転送でオークの群れを引き寄せた。

 ヤエナミの状態とかは無視である。

 むしろ半ばボーッとしているヤエナミにはいい刺激になるだろう。


『まあ、これを見逃したとしても大丈夫』


 まだまだ始まったばかりである。

 そのうち正気に戻るだろう。


『というより、ここまで耐性がないとは思わんかった』


 結構シャレにならない。


『こんなのでよく囮を引き受けたな』


 それだけ仲間が大事なのだろう。


『そういうのは嫌いじゃないよ』


 俺は手を貸す動機がより強固になったことを感じていた。


読んでくれてありがとう。

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