532 散歩という名の遠征へ
38話の改訂版アップしています。
39話は来月半ばまでは厳しいかもしれません。
すみません。
妖精たちが大人しく席に座った。
ただ、静かにはなったが殺気は消えていない。
『戦いたいのに留守番なんて真っ平ってことだな』
今か今かと俺の号令を待っているのが、ありありと分かる。
思わず苦笑が漏れそうになった。
もちろん我慢したけどな。
ここで笑ってしまうと俺が冗談を言ったと誤解されかねない。
『そんなことになったら逆戻りだもんな』
二度と同じ手で説得はできなくなる。
「今すぐ出撃なんてしないぞ」
ショボーンな顔が続出。
殺気も消失でギャップが凄い。
いじけるんじゃないかと思ったほどだ。
じゃあ逆に不満が噴出したのかというと、それもなかった。
とにかく留守番を言い渡されるのが怖いらしい。
『効果が覿面すぎんだろ』
助かるのでツッコミを入れるのは内心でだけだ。
そのまま話を進める。
「まずは敵戦力の把握だ。
そこから準備して確実に潰す」
薄いながらも鋭い殺気が妖精組から漏れ出てきた。
俺が確実に潰すと宣言したからだろう。
『まったくバイオレンスなんだから』
一方でヤエナミは唖然呆然である。
俺は席に戻りヤエナミへと向き直る。
「こんな具合でな」
「こ、こんな具合って……」
殺気はヤエナミには向けられていないが、それでも感じるものはあるだろう。
震えこそしていないが顔色がやや悪い。
「城内で住んでいる者はみな例外なく強者だからな。
ジャイアントシャークごときはタイマンで軽く始末できる」
「は?」
そう言ったきり口を開いた状態でヤエナミが固まってしまった。
「うちの面々の実力を見せてやろう」
俺は不敵な笑みを浮かべた。
「え?」
怪訝な表情を浮かべるヤエナミから視線を外し、皆の方へ振り向いた。
「皆、食後の腹ごなしだ」
もちろん、ただの腹ごなしではない。
「大陸東方へ散歩に行くぞ」
フィールドダンジョンでひと暴れしてくるつもりだ。
「「「「「おお─────っ!」」」」」
妖精組だけでなく月影の一同までもが吠えた。
東方へ出向いたことがあるのは俺とローズを除けば妖精組だけだが。
古参の国民である彼女らは話しに聞いて常々行きたいと言っていたのだ。
念願の東方遠征にテンションが上がったのだろう。
まあ、テンションが上がったのは妖精組と月影だけではない。
「くぅくっくー!」
やってやるぜ! とローズが張り切っている。
屋内なので鉤爪は出さないが、顔に浮かんだ笑みは凶悪そのものだった。
「妾もたまには暴れてみようかの」
「じゃあマリカもー」
残りの守護者組も気合いが入っている。
口調こそ穏やかだが笑顔が怖い。
『シヅカはともかく、幼女が凶悪な笑みって需要あるのか?』
そんなのはMっ気のあるYLNTな紳士ぐらいだ。
『ニッチすぎるだろ』
つい、どうでもいいことを考えてしまった。
いずれにせよ何かしら理由をつけて暴れたいのはみんな同じようである。
「本当に大丈夫なんでしょうか」
マリアのように不安を口にする者もいるんだけどね。
でも、西方で東方遠征なんて言ったら絶対に止められる。
もしくは冗談だと思われるかだ。
「ハルト様がいるから大丈夫ですよ、姉様」
「そうそう、ちょっと楽しみよね」
妹のクリスは楽観しているし。
姉のエリスは期待すらしている。
邪悪ではないが笑みを浮かべていて何だか楽しそうだ。
『散歩というかピクニック気分だな』
そんな雰囲気が伝染したのかABコンビも楽しげである。
「どんな魔物が出るのかしら」
「それは現地に行ってのお楽しみじゃない?」
「そうね」
こんな具合である。
亜竜クラスも普通に出てくることは理解しているのだが。
どう見ても完全にリラックスしていた。
「えーっと、私は帰った方がいいのかな」
姉に会いに来ていたリオンが戸惑いの表情を浮かべている。
頑張ってレベル上げをしているようだが、まだ2桁だからな。
「大丈夫、お姉ちゃんの側にいなさい」
レオーネは連れて行く気満々である。
あわよくばレベルアップさせたいと目論んでいるようだ。
『姉にベッタリ気味だし、この機会に俺らでテコ入れするか』
贔屓だって?
身内だからするに決まっている。
公平だとか平等なんてのは上限で見てるとバランスを崩すしな。
そういうのはベースラインをキープするときに考えるものだ。
少なくとも俺はそう考えている。
異論があるなら他所の国でどうぞってことだな。
「話に聞く東方かぁ。
腕が鳴るねえ。
格ゲーで予習しておきたい気分だ」
トモさんもかなり気合いが入っているようだ。
気合いの入り方が些か変ではあるが。
フェルトが「かくげー?」と首を傾げている。
いずれにしても余裕である。
「それで、どうやって行くんじゃ?」
ガンフォールが聞いてくる。
転送魔法を使うのかという確認だろう。
「行きは空を飛んでいこうか。
ヤエナミが混乱すると困る」
「帰りに使うか」
「面倒だしな」
「混乱するじゃろう」
「俺らの実力を見せれば充分混乱すると思うがね」
ジャイアントシャークを雑魚扱いする発言をしたが、ヤエナミは信じていないだろう。
おそらくは半信半疑ですらないはず。
その状態で亜竜クラスの敵を圧倒すれば結果は火を見るより明らかだ。
「……それを忘れておったわ」
ガンフォールの発言に思わず苦笑してしまう。
それだけうちのカラーに染まったということだろう。
釣られてガンフォールも苦笑していた。
「よぉーし、中庭に集合だ!」
「「「「「はーい」」」」」
妖精組が返事と共にシュバッと消える。
いや、中庭へ向かっただけだ。
『張り切りすぎだ』
他の皆は苦笑しながらもゆっくりと席を立っている。
「えっ、……あ、あれ?」
ヤエナミには妖精組が消えたように見えたようだ。
「ええーっ!?」
そしてワンテンポ遅れて目を丸くする。
「ど、どうなってるんですかっ」
「そんなことを言われてもな。
素早く移動しただけだぞ」
絶句するヤエナミ。
消えたようにしか見えない素早さに理解が追いつかないようだ。
『この程度でこうまで驚かれるとな』
空を飛ぶだけで腰を抜かすかもしれん。
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結論から言うと絶叫に次ぐ絶叫だった。
「ギャー」ではなく「キャー」だったので最初は可愛らしく思いもしたのだが。
東方に辿り着く前から音声結界で絶叫を遮断させていただきましたよ。
『絶叫マシンの悲鳴が子供騙しに感じるんだもんな』
よくも喉を潰さなかったものだと思う。
それ以前に気を失ったりしなかったのが意外である。
中庭に集合して浮かび上がっただけで「キャー!」。
そこから新幹線程度のスピードで飛び始めて「キャーキャー!」。
しばらく飛んでも慣れる様子がなかったので諦めて超音速飛行へ移行。
そしたら最大音量で「キャ───────────ッ!!」。
グラスが側にあれば割れていただろう。
『間違いなく破壊兵器だよな』
その分、消耗したようだが。
着地した途端にへたり込んでゼエゼエと荒い息を吐いていた。
「陛下、速かったニャ凄いのニャ」
「そうか?」
これでも妖精組を初めてミズホシティに連れて来たときより控えめなんだが。
『眠ってたから知らないだろうけど』
唯一の証人であるツバキは苦笑している。
どうやら思い出していたようだ。
「そうだよ、速かったよ。
とっても面白かったの」
「バビューンだったねー」
「「ねー」」
などと子供組がはしゃいでいるのとは対照的である。
「さー、やってやるぜ」
「気合い入ったっす」
「俺はやるぜ俺はやるぜ」
黒猫3兄弟なんか、さっそくバトルモードに入ってるし。
『こいつら何か性格変わってないか』
それがバトルモードゆえなのかは判断がつけづらいところだが。
『まあ、他の妖精組も似たようなもんだしなー』
あちこちで動的ストレッチをしている。
『アスリートかよ』
内心でツッコミを入れる。
「カオスですなー」
「だねー」
トモさんの感想に同意する。
「ねえねえ、ハル」
マイカが不満そうに呼びかけてくる。
「どうした?」
飛んでいる間に何か不備でもあっただろうか。
『俺が運ぶ形だったからなぁ』
ないとは言い切れない。
「魔物の気配がしないんだけど」
クレームの内容に安堵した。
「そりゃそうだ。
客人が落ち着く前から始める訳にもいかんだろ」
「あー、そっかぁ。
デモンストレーションの意味がなくなっちゃうわね」
理解してもらえたようで何よりである。
「てことは結界でブロックしてるんだ」
「そゆこと」
まずはヤエナミを落ち着かせてからである。
読んでくれてありがとう。




