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527 ハルトと一部の仲間たち少女Aの様子を見に行く

 朝からトモさんとこの若夫婦の熱々振りを見せつけられたがスルーだ。

 マリカも首を傾げてはいるが、特にツッコミを入れたりはしない。

 代わりに俺が話を聞いてみた。


「変なじゃれ方するねー」


『……そういう認識になるんだ』


「そうかもね」


 まあ、平和的な傍観者と言えるだろう。

 対してノエルは詰問的な傍観者であった。

 ただひたすらに見つめている。

 背後にジーッという書き文字が見えそうなくらいの集中力で。

 咎めるような雰囲気はない。


 だが、刺し貫くんじゃないかと思えるほど真剣な眼差しを向けていた。

 いつものほぼ無表情で。

 トモさんやフェルトにはそう見えたことだろう。


「うはっ、その無垢な瞳が俺を刺し貫くぅー」


 冗談めかして身悶えしているトモさん。

 しかしながら、それは誤魔化すためのポーズである。


『あれはマジで恥ずかしがってるな』


 言葉こそ発しないがフェルトも同様である。

 さすがにトモさんみたいなオーバーアクションで身悶えすることはなかったが。

 両名とも顔を赤く染めていた。


「ノエル、そのくらいにしておいてやれ」


「?」


 俺を見上げてくるノエルは不思議そうにしていた。

 もちろん、ほぼ無表情でだ。


「興味深いのは分かった」


 ノエルがそういう視線を向けていたのだと俺にはすぐ分かったけれど。


「ただな、トモさんたちはそんな真剣に見られるのは慣れていないし照れくさいんだよ」


「ラブラブなのに恥ずかしい?」


 2人の顔が更に赤くなっていく。

 トモさんはより激しく身悶えしてるし。


「ぐおーっ、穴があったら入りたいぃーっ」


「私も恥ずかしー」


「「「……………」」」


『意外に似たもの夫婦なのかも?』


 フェルトの方はトモさんほど激しくはないが、イヤンイヤンの時のテンションだし。


「ハル兄、これ私の責任?」


 ノエルが引き気味だ。


「いや、気にしなくていいぞ。

 単に墓穴を掘って自爆しただけだから。

 恥ずかしくて耐えられないなら人前でしなけりゃいいんだし」


「なるほど、分かった。

 今後の参考にする」


「……そ、そうか」


 自重しながらラブラブの空気を出してアピールしてくれる分には歓迎だ。

 問題はノエルが恥ずかしくないというパターン。

 人前で堂々と際限なくラブ空間を創造されたとしたら……


『俺、耐えられるだろうか』


 できればノエルの要望には応えたいとは思うのだが。

 瞬間的に恥ずかしいだけならともかく、持続的なのは自信がない。

 いずれにせよ先々のことだ。


『覚悟だけはしておこう』


 俺が将来のことに少しビビっている間も若夫婦は恥ずかしい恥ずかしいと悶えていた。


「先に行くからな」


 俺は羞恥心の海に溺れている両名をあっさり見捨てたのだが。


「待ってくれー、行くぞぉ」


 どうにか復活してきたトモさんが同行を希望した。

 トモさんが行くならフェルトも来る訳で。


「私も参ります」


 共に食堂へと向かうことになった。

 軽く雑談しながら歩くと、距離が気にならない。

 途中で誰とも遭遇しなかったというのも大きいのだろうが。

 ただし、食堂の前に待ち構える者たちはいた。

 ガンフォールとシヅカだ。


『シヅカ、部屋にいないと思ったら……』


 普段は二度寝大好きさんなのに。


「先に来ていたのか」


「主ならきっとそうすると思ったまでじゃ」


 シヅカには完全に行動パターンを読まれてしまっているようだ。


「ガンフォールはどうなんだ?」


「知らんのか」


「何が?」


「年寄りという生き物はな、朝が早くて当たり前なんじゃぞ」


「アー、ハイ。

 ソーデスネ」


 祖父母がそんな感じだったのを思い出してしまった。

 高校卒業までは実に学生らしくない早寝早起きな生活が染みついていたよ。


『試験勉強ですら早朝にやってたもんな』


「じゃが、あの娘が気になったのは事実じゃ」


 早起き組は皆そういう部分があるようだ。

 思わず笑みがこぼれてしまう。


「なんじゃ、朝っぱらから気持ちの悪い」


『この野郎……』


 イラッとしたが、今は少女の具合の方が優先事項だ。

 魔法の効果はそろそろ切れる頃合いである。


「気になるなら先に見に行けば良かったのに」


 言いながら食堂へと入っていく。

 厨房では既に自動人形たちが仕込みを始めていた。

 それとは正反対の食堂の奥側に少女が眠るベッドがある。

 俺たちはそちらへ歩みを進めた。


「無茶を言うでないわ。

 目覚めたときに、こんなゴツい爺がいたら泣かれるぞ」


『自分で言うのかよ……』


「そこまで幼くはないぞ。

 ビビりはするかもしれんが」


 精神的な年齢がどうかまでは知らんからな。


「人間ならギリギリ成人年齢だし」


「えっ!? 彼女、人間じゃないんですか?」


 フェルトが目を丸くして驚いていた。


「私は海エルフだと思っていたのですが」


 俺たちと出会う前から海エルフと交流してきたフェルトでさえ勘違いするとは。


『侮りがたし少女A』


 言っておくが少女の名前はAではない。

 あくまで仮名なのでイニシャルも全然ちがう。

 【鑑定】で既に知ってはいるが、彼女がそれを名乗るとも限らんからな。

 事情が事情だけに。

 どう名乗るかで呼び方が変わるので仮名なのだ。


「人化してるんだよ」


 俺の言葉に一瞬だけ唖然としかけたフェルトだったが、すぐ我に返った。


「彼女は一体……」


 驚きの余韻が残っているのか、言葉は最後まで続かない。

 そのタイミングでトモさんが目で問いかけてきた。

 トモさんも【鑑定】持ちだからな。

 俺は静かに頷く。


『若干、フライング気味だけど構わんだろ。

 面子が少ないから騒ぎにはならないだろうし』


「彼女は妖精の仲間だな。

 フェルトなら聞いたことがあるんじゃないのか」


 トモさんはストレートに答えを言うつもりはないようだ。

 ヒントを出してクイズっぽくしている。

 対するフェルトはなにやらブツブツと呟き始めた。

 「妖精」とか「海」などという単語が漏れ聞こえてくる。

 少女の目の前までもう少しという所で、不意にフェルトは立ち止まった。


「もしかして、人魚だったりなんて……?」


 引きつった笑みを浮かべながら自信なさげに聞いている。

 答えたという感じではない。

 そんなことあるはずないよねという確認に近かった。


「んー、ほぼ正解?」


 トモさんが俺に聞いてくる。

 問いかけておいて、それはないだろとは思うが正式な種族名じゃないしな。

 【ヘルプ】スキルを育てている途中だと、俗称なんかに抜けは出てくるだろう。


「正解でいいよ。

 陸上では人魚としてしか知られてないから。

 正確にはドルフィーネと言うんだけどね。

 本来の姿は上半身が海エルフで下半身がイルカという海のほ乳類だ。

 あ、イルカに変身することもできるみたいだぞ」


 説明しながら幻影魔法でイルカを見せることも忘れない。

 海に馴染みがない皆は知らないだろうし。


『レオーネならイルカを見たことはあるかもしれないな』


 意外とドルフィーネが変身したイルカだったなんてこともあるかもしれない。


「妖精種なのは分かっておったが、まさか伝説の人魚とは予想外じゃった」


 ガンフォールも俺の解説を聞いて驚いている。

 山の民であるドワーフの間でも語り継がれていたのは些か意外であった。


『逆にそれだけ有名な伝承であるということか』


「基本的に人前に姿を現さないようにしているみたいだからな」


「そりゃまた、どうしてだい?」


 トモさんが聞いてくる。


「西方人の大半は海をタブー視してるせいで魔物と間違われやすいからだよ」


「おおう、ベリーハードな話になりそうだぜ」


 トモさんが仰け反っている。


「まあ、そうだね。

 大昔に不幸な事故があったみたいだし」


 俺がそう言うとトモさんが両手で耳を塞いだ。

 ちらりとフェルトの方を見ている。


『なるほど、フェルトに聞かせたくないんだな』


 あくまで自分が聞きたくないということにするとか手が込んでいるけど。

 これは妻への配慮ということか。


「それ故に人前には姿を現さないようにしている訳だ」


 俺はベッドで眠っているはずの水色の髪の少女に視線を向けた。


「おそらくは掟のようなもので決められているんだろう。

 今回の場合は不可抗力と言えるんじゃないかな。

 俺たちが保護しなきゃ生き延びられる可能性は低かっただろうし」


「じゃが、生き延びるために仮死状態になる魔法を使っていたのじゃろう?」


「不完全だったんだよ。

 蘇生するための術式が欠落してた」


「おいおい、それって魔力が切れたらどうするんだよ」


 思わずツッコミを入れてくるトモさん。


「そこまでは考えてなかったんだろう」


「どういうことですか?」


 今度はフェルトが聞いてくる。


「それしか致命傷を治す手段がなかったとしたらどうだ?」


「マジか……」


 トモさんが唸るように声を絞り出した。


「一か八かで賭に出たってことだろ」


「そゆこと」


「そんな!?

 死ぬかもしれないんですよっ」


「そうは言っても、一度は死ぬ必要があったんだと思うぞ」


「えっ!?」


 驚愕に目を見開くフェルト。

 いや、フェルトだけではない。

 シヅカとガンフォール以外は驚いていた。


「そうだろ、ドルフィーネのお嬢さん」


 彼女も含めてね。


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