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526 連れ帰ったら問題視された?

修正しました。

「明日の朝までかな」→「明日の朝まで待たないとダメかな」

「それで漂着した女の子を連れ帰った訳ね」


 俺たちの話を聞いてマイカがそんな風に宣った。

 ジト目である。

 これって事案よねと目で語っていた。


「そういうことだ」


 対する俺は悪びれずに堂々と胸を張って答える。


「くれぐれも言っておくが誘拐じゃないぞ。

 あくまで保護だからな。

 故に何ら疾しいことはない」


 念押しするように言ってみたが、実に怪しく聞こえてしまうものだ。

 発言者である俺からしても虚しい言い訳にしか思えないのだから。

 俺が第三者なら通報という単語が頭の中に浮かんでいただろう。


『通報しないけどな』


 面倒だから。

 明確に犯罪と決まったわけでもないグレーゾーンで通報するほど酔狂な人間ではない。

 それはともかく、マイカの視線はそんな感じだったのだが。


「そんなの気にしてないわよ」


 言ってることにズレを感じた。


『気にしてないのかよっ』


 だったら何なのだと言いたい。


『訳が分からん』


 だが、俺の困惑を表情から読み取ってもマイカはツーンとそっぽを向くだけだ。

 それどころか「そうよね」と同意を求めるようにミズキの方を見る。


『だから何なのさっ』


「うーん、マイカちゃんの言いたいことは分かるけどぉ……」


『分かるのかよ。

 俺は分かんねえよ』


「私はアウフかな」


『気にしてないと言ったのに、どうしてそういう話になるんだ』


「えーっ、ゲッツーのダブルアウトコースでしょーに」


「そうかなぁ」


 そのまま訳の分からない話を始める始末。


「……………」


 俺も含めて周囲のことは完全に頭の中から抜けている様子だ。

 完全に置いてけぼりである。


『しょうがない、ほっとくか』


 そのまま話を聞く気にもなれない。

 というか既に聞いていない。

 2人で結論出してからでも遅くはないだろう。

 俺は皆の方へと視線を向けた。


「とりあえず保護はしたが予定の変更はなしだ。

 そのつもりで海水浴の準備を進めてくれ」


「「「「「はーい」」」」」


 妖精組から元気な返事があった。

 他の面子も頷いたり了解の返事をもらう。


「マリア、何か気になることでもあるのか」


 声を掛けたのは3姉妹の次女が他の皆と違う表情を見せていたからだ。

 浮かない表情と言ってしまうと言い過ぎになるかなと思うくらいなんだが。


「あの、彼女はいつ目を覚ますのでしょうか」


『これぞ気遣いの鑑だね。

 マイカにも見習ってもらいたいものだ』


 さすがは元ゲールウエザー王家のメイド長。


「明日の朝まで待たないとダメかな」


「そんなにですか!?」


 目を丸くして驚いている。

 マリアは夕食後くらいを考えていたのかもしれない。

 俺が魔法で体力的に問題のない治療をしたのを皆に伝えたからだろうけど。


「体力的には問題なくても睡眠不足まで解消したわけじゃないよ」


「え、でも……」


 その気になればジェットラグキャンセラーの魔法でどうとでもなると思ったのだろう。

 確かに睡眠不足だけなら充分に解消できる。

 ただし、それは肉体的な問題がないようにするだけだ。

 一時は瀕死の状態にまで追い込まれたであろう少女の精神状態はそのままである。


 いま目覚めることになれば、脳の方が拒絶反応を示しかねない。

 脳を休めるために眠らせておくのは大事なことなのである。

 魔法でどうにかする方法もあるけど、そこまでするつもりはなかった。


『仮死状態までいった相手に脳を酷使させるのはスパルタが過ぎるからな』


 いくら魔法でケアできるとはいえ超高速で被害情報を処理させるとか鬼である。

 下手をすればトラウマどころの話では済まなくなってしまう。


「ダメよ、マリア」


 エリスがたしなめるような感じで割り込んできた。


「おそらく彼女は精神的にも参ってるはずよ」


 そう言われて気付かぬマリアではない。


「……そうでしたね」


 一気に消沈していた。


「誠に申し訳ありません」


「謝るほどのことでもないだろ」


 叩き起こせとか非常識なことを言った訳でなし。

 律儀な姐さん女房である。


「あの~」


 ABコンビAことプラム姉妹のアンネが小さく手を挙げていた。


「なにかな?」


 アンネとABコンビBことベリーがチラリと食堂の片隅を見る。

 そこには急遽持ち込まれたベッドと、そこに横たわる少女がいた。


「何故にここなんでしょうか」


「それは私も思いました」


『クリスもか』


「いやいや、みんな思ってるよ、ハルさん」


「えっ」


 トモさんの思わぬ指摘に俺はちょっと飛び上がりそうになった。


「陛下には申し訳ないのですが私も」


『フェルトさんもですかい』


「ここなら手間がかからぬと考えたんじゃろうて」


 俺よりも先にガンフォールが答えてくれていた。


「手間がかからない、ですか?」


 ボルトが確認するように聞いている。

 どういうことか想像がつかなかったようだ。


「ここならば誰かしら気にかけるじゃろ。

 ハルトは明朝に目覚めるようなことを言ったが、細かな時間までは指定しておらぬ」


「確かに朝であれば誰かしら居ますね。

 ここなら集まりやすいですし。

 でも、大勢集まるのは相手の負担になるのでは」


「だから今は眠らせておるじゃろう。

 目覚めた後は考える余裕を与えぬつもりじゃ」


「いまひとつ、よく分かりませんが」


「ハルトさんはなるたけ彼女の負担が減るように考えているのでしょう」


 そう言ったのはエリスだった。


「目まぐるしい変化で煙に巻くつもりなのです」


 ボルトだけでなく他の皆も天井の方を見上げるようにして考え始める。


「ショックな出来事を思い出して囚われたままになることを防げると?」


 真っ先に想像の世界から抜け出したのはクリスであった。

 無言だが穏やかな笑みで頷くエリス。

 そして俺の方へ視線を向けてきた。


「まあ、そういうことだ。

 他にも自動人形に介護させるには都合のいい場所だってのもある」


 ローテーションの都合でな。


「それだけじゃないでしょ」


 その言葉に振り返ると、何故かマイカが腕を組んで仁王立ちしていた。

 訳の分からない議論は終了したらしい。

 結果については語る気がないようだ。

 少なくとも今は俺たちの話に加わることがメインの目的になっている。


「ハルくんは皆に配慮したって言いたいのよ」


 ミズキがマイカの後を継ぐように語る。


「年頃の女の子を密室で看病するなんてヤキモキする人が出てくるでしょうし」


 チラリとマイカの方を見ながら、そんなことを言い出した。

 マイカの頬が赤く染まる。

 いや、頭から湯気が出そうなくらい顔が真っ赤になっていく。

 初心な女だ。


『嫌いじゃないけど。

 むしろ好きだけど』


 そこでふと気が付いた。


『コイツ、あの女の子が全裸状態だったのを気にしてるんだな』


 嫁でもない相手が裸で夫の前に現れた。

 事案だと目で主張するのも納得だ。

 ただし向こうは意図的にやったわけじゃない。

 俺だってエロい行動に出た訳でもない。


『そういうのは自分の奥さんだけで充分だ』


 すでにハーレム状態の俺がそんなことを言っても説得力がないとは思うけれど。


『まあ、可愛い嫉妬だよな』


 それをここで指摘するのはやめておく。

 ただでさえ傾いた機嫌が更に傾いてしまいかねない。


『後で御機嫌取りをしておくか』


 頭ナデナデは露骨すぎて怒らせるだけだろう。

 チューだと戻りきらない気がする。


『となると、風呂かな』


 ここのところタイミングが合わなくて1人で風呂というのが多かったから効果的かもね。


 結局、全員で入ることになった。

 それでもマイカの機嫌が良くなったので結果オーライだろう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 夜が明けて早々に身支度を調えて食堂へと向かうことにした。

 少女が目覚める時に誰かいた方がいいだろうと考えたからである。


『自動人形じゃ事務的にしか動かないからなぁ』


 起きた瞬間に気付いたマリカが尻尾をフリフリして無言で同行を志願する。

 寝ている皆を起こさないように配慮してのことだ。

 抜け駆けとかそういう打算的なことを考えてはいない。


 幼女は純粋なのだ。

 中身はハイフェンリルだろって?

 犬科の妖精種だから尚更だろ。


 そっと静かに部屋のドアを閉めたが室内の気配に動きがあった。

 そのまま待つこと数分。

 ノエルが出てきた。


「ハル兄、食堂?」


 考えることは同じようだ。

 俺は短く「ああ」と答えて一緒に食堂へと向かう。

 途中でトモさんとフェルトの若夫婦に出会った。


「やあやあ、おはよう」


「おはようございます」


 トモさんは朝からテンションが高い。

 フェルトは普通なのに。


「おはよう。

 そっちも食堂かい?」


 トモさんを見ればそうとしか思えない。


「どんな話が聞けるかワクワクして少ししか眠れなかったよ」


『やっぱり』


「不謹慎ですよ」


 嫁に注意されるトモさん。


「んー、そうなんだけどさぁ。

 問題の解決に皆で動けると思うと燃えるというか。

 ほら、日本の方だと単独で密かに動かなきゃならないだろ。

 あれって不完全燃焼気味でなぁ。

 ぶっちゃけ、フェルトがいないから寂しいというのは大きいと思う」


 熱く語り出したと思ったら別方向へ熱が流れて行ってますよ。


「あら、やだ」


 両頬に手を添えてイヤンイヤンと身を捩って恥ずかしがるフェルト。


『朝っぱらからお熱いことで』


 廊下で見せつけられるとは思わなかったさ。


読んでくれてありがとう。

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