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524 流れ着いたのは

 シヅカの指差す先、砂浜に人が倒れていた。

 うつぶせ状態ではあるが若い女であることはボディラインからなんとなく分かった。

 褐色の肌の半分が波に洗われるような状態である。

 そして腰まで伸ばした水色の髪がベッタリと背中に張り付いていた。

 流れ着いたのは間違いないようだ。


『ここに漂着するとか凄い偶然だな』


 そして、とんがり耳。


「海エルフだー」


 マリカがそう思ったのも無理はない。

 海辺で褐色の肌であの耳だ。


「残念だがハズレだな」


「えー、違うのー?」


「ああ」


 あえて種族は明かさない。


「それより急ごうか」


 岩場から短距離転送で跳んだ。


「死んでるの?」


 コテンと首を傾げるマリカ。

 脈が止まっているので、そう判断したようだ。

 が、違和感も同時に感じているらしい。


「仮死状態ではないか?」


「そのようですね」


 ツバキとカーラの判断は正しい。


「行き倒れ~?」


「状況的にそうだろうな」


「リオンみたい」


「あれよりは良くないぞ」


 仮死状態だからな。

 だが、これ以上悪くなる様子もない。

 魔法で異状がないか確認していく。


「脳に損傷なしっと」


「とりあえずは一安心じゃな」


 そう言っている割にはシヅカの表情は引き締まったままだ。


『まだ助かると決まったわけじゃないからな』


「心臓が止まっているのは厳しいですよ」


 カーラの言葉に皆が頷く。


「そこまで心配はいらんだろう」


「くーくくっ」


 その通りぃとローズだけが同意する。


「旦那よ、どういうことか」


「魔力の流れをよく見てみな」


 俺に促されて皆の視線がうつぶせの美少女に集まる。


「ふむ、魔法で保護しておるようじゃ」


「変わった魔法の使い方ですね。

 こんなに微弱な魔力の使い方で魔法を維持するなんて」


「冬眠みたーい」


 マリカの言葉は当たらずとも遠からずだ。


「上手いことを言うのう。

 心肺停止状態なのは魔法の効果のようじゃ

 そうであろう? 主よ」


「ああ、魔力の循環で最低限の生命維持をしてるな。

 省エネに特化した方法だから滅多に目にすることがない」


 珍しくて当たり前。

 変わっていると思うのは、そのせいである。


「生き延びることを最優先にしたか」


 ツバキは唸るように感心している。


「運任せが過ぎませんか」


 カーラはもっと他の方法がなかったのかと思っているようだ。


『なんとも言えないな』


 状況と本人の能力次第で結果は変わるだろうから。


「なんの、運も実力の内と言うであろう。

 運を引き寄せる前に体力が尽きて死んでしもうては意味がなかろ」


 シヅカの言うことも一理ある。


「何にせよ魔法制御能力は西方人などとは比べ物にならんな」


「そうなのですか?」


 俺の言葉にカーラが質問してくる。


「意識を失っているのに繊細な状態を維持してるだろ」


「あっ」


 俺がヒントを出すとカーラも気付いたようだ。


「発動時の制御で安定化させた証拠じゃな」


「少なくとも我々と同等の能力を持っているということか」


 シヅカとツバキが頷きながら語っている。


「くっくうくーくくぅ」


 そこまでじゃないよとローズが部分的な否定をした。


「鍛えれば直に追いつかれると言いたいのじゃろうて」


「なんで鍛えること前提なんだよ」


「まあまあ、それくらいにしましょうよ」


 別に喧嘩をしているつもりはないがカーラが仲裁に入ってきた。


「とにかく彼女は大丈夫なんですよね」


「仮死状態の割にはな」


 微弱だが小動物程度の生命力は感じるし。

 魔力も同様だ。

 パソコンのスリープモードのようなものか。

 マリカが感じていた違和感はこれだろう。

 あと、治癒の痕跡もあった。


『さすがは魔法』


 仮死状態でも治癒効果があるというのは素晴らしい。


「なるほど、主が気付かなんだのはこのせいか」


「気配だけだと小さな生き物のように思えるな」


「くうくーくくっくーくぅ」


 結界をすり抜けたのもねとローズが主張している。


「言われてみれば」


 呆然とした様子でカーラが俺の方を見てくる。


「そんなに驚くことじゃないよ」


 治癒が不完全なのを確認しつつ答える。

 傷口を塞いだだけのようだ。


「結界は相手の大きさだけで弾くようにしてる訳じゃないから」


『このままだと大きな痣になって残るな』


 よく見ると若干あどけなさを残してはいるが美人さんである。


『女の子に醜い傷跡ってのは辛かろう』


 ということで追加で治癒魔法。

 無造作にやると向こうの生命維持魔法に干渉しそうなので少しだけ注意して。

 一気に魔力を流し込むのではなくエアブラシで重ね塗りをする感じで。

 こうすると向こうの微弱な魔力を吹き飛ばすことがない。


「相変わらず見事じゃな」


「そうか?」


「その繊細な制御を片手間のようにやってのけるのじゃから」


「コツはあるけど、そんなに難しくはないぞ」


 ぬるりといった感じで皆の視線が集まった。

 ローズなんて「これだから」なんて言いたげに肩をすくめている。


『そんなに非常識だっただろうか』


「旦那よ、相手の魔法に干渉させずに魔法を浸透させるとか非常識だぞ」


 ツバキに言われるほどとは思わなかった。


「そうですね。

 でも、ハルト様ですから」


「しょうのない主じゃ」


 カーラとシヅカが何気に酷いと思う。


「くっくう」


 ウンウンと頷いているローズ。


『お前もかいっ』


 そんなこと言うなら俺も本気になるぞ。

 海水浴イベントが終わったらレベル3桁組は特訓だ。

 皆とのレベル差が少なくなれば、そんな呆れた態度を取らなくなるだろうさ。


『レベル倍増計画を発動させてやる!』


 それはともかく、本題はこの美少女である。


『おっ、顔色とか良くなってきたな』


 色々と考えている間にも魔法で処置していたから肌に赤みが差してきた。

 血も大量に失っていたようなので増血させたのだ。

 それだけだと目を覚ましたときに動けないはず。


『血と一緒に体力も奪われているからな』


 それも解決しておく。

 細胞の隅々にまで行き渡るよう魔力でエネルギーを送る。

 後は蘇生させて本来の生命活動が行われるようにするだけだ。


『けど、いま目覚めても問題あるよな』


 何しろ何も服を着ていない。

 うつぶせだから大事な所は隠されているけど。

 変な騒動にならないようにスリープをかけて眠ってもらっておくことにした。


『ついでにマルチプルメモライズで言葉が通じるように記憶を譲渡っと』


「これで命の方は別状なしだ」


「起きないよぉ?」


「目を覚ます前に服を着せておきたくてな」


「おー」


 騒動を回避するためだとマリカも気付いたようだ。


「という訳でツバキ、任せる」


「心得た」


 服飾関係はツバキに任せれば失敗がない。

 俺の場合はセンスに問題があるのでね。

 水着は既存のものを真似るだけで済むからいいんだけど。

 女物の上下一揃いをコーディネイトするとなると厳しいものがある。

 こういう時は、できる者に任せるのが正解。


 という訳でその場を離れる。

 オーダーメイドの服は採寸があるからね。

 その間にホテルとかの施設の詳細を確認しておくと無駄がないだろう。

 何も言わなくてもマリカは尻尾をフリフリ付いて来る。


「まずは屋上だな」


 転送魔法で跳ぶ。

 跳んだ途端にマリカが海に向かって歌舞伎役者のような決めポーズ。


『なんだ?』


「絶景かな絶景かなー」


『そう来たか』


「あれ~、違った?」


 俺が無反応だったのが不思議なのだろう。

 マリカが首を傾げている。


「それは満開の桜を見て言う台詞だな」


「しょうなのぉ?」


 さほどショックを受けた風でもなく聞いてくる。


『今度は荻久保さんの物真似か』


 あんま似てないけど。

 仕込んだのは誰なのかは明らかだ。


「そのすぐ後に春の眺めはって続くんだ」


「おおー、主はマイカより物知りー」


 無邪気にはしゃぐ幼女マリカ。


『やはり妙なことを吹き込んだのは彼奴か』


 だが、まあこれくらいで目くじら立てるものでもないだろう。

 単に勘違いして覚えていただけかもしれないんだし。


『それにこの眺めも価万両の絶景だ』


 ここに来たのは絶景を堪能するためではないんだがな。

 それでも、ついつい眺めてしまうのは仕方がない。

 俺もしばしの間、透き通るような海の碧を楽しむことにした。

 潮風に吹かれながら……


読んでくれてありがとう。

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