523 のんびりつくってみた『リゾート施設』
「ふうっ」
サンドイッチが手軽すぎて朝からつい食べ過ぎてしまった。
昼抜きにすれば丁度いいかもしれない。
だが、良い子は1日2食なんて太る元だから真似しないようにな。
『って、誰に向かって言ってるんだか』
ちなみに俺はこれくらいで太ったりはしない。
伊達に人間の上位種ではないのだ。
『さて、仕事に取り掛かるか』
「それじゃあ出かけてくる」
「行ってらっしゃい」
そう言ったマイカは早々に留守番を決め込んでいた。
曰く「海水浴の当日に見るから感動するんじゃない」だそうだ。
『確かに一理あるな』
美しい景色を休みの前に知ってしまうのは魅力が半減するって訳だ。
俺は何度見ても良いものは良いという口なので気にならないが。
あと、水着の製作もある。
無理に連れて行く必要もないだろう。
ちなみにミズキはマイカの手伝いをするそうだ。
『変なのを作らせないように頼むぞ』
そうは思ったが念話したりはしない。
バレるとマイカが煩いからな。
なんにせよ、水着を用意する面子が多いので俺に同行する者は少ない。
弟子1号のツバキは既に終わっているそうなので付いて来る。
デザインにこだわりがないと早いな。
弟子2号のカーラも同じだった。
『でもって守護者組も付いて来ると』
「くうーくっくー」
面白そうだからと言うローズ。
確かに箱物がポンポンと設置するだけで仕上がっていくのは面白いかも。
ジオラマ感覚というか、そんな感じ。
『規模から言うとジオラマなんてもんじゃないけどな』
「確かに主の街づくりは見ていて清々しいものがあるからのう」
シヅカさんはなんてことを言うのでしょうか。
『今回、街は作らないんだよ』
喉まで出かかった言葉は引っ込めておく。
たぶんシヅカからすれば些細な差でしかない。
せっかく御機嫌モードに入っているのだ。
水を差すこともないだろう。
「主と一緒がいいのー」
マリカは単に俺と一緒にいたいだけのようだ。
まだまだ甘えん坊である。
最近は喋りも流暢になって舌足らずな部分がなくなってしまったがね。
『あれはあれで、こう保護欲をそそるというか』
とにかく可愛らしいことに変わりはない。
『うむ、可愛いは正義だ!』
密かに内心で力説しておく。
くどいようだが俺はロリコンではない。
それが証拠にマリカの本来の姿の時も可愛く感じるぞ。
デカくて面構えも精悍な感じだけど甘えん坊なところは変わらんからな。
新規国民組に言わせると本来の姿は「怖い」の一言に尽きるらしいけど。
まあ、相手はハイフェンリルなのだ。
気持ちは分からんではない。
見た目からして威圧感があるし。
亜竜クラスの魔物も一撃で片付けてしまうからな。
さて、面子はそろっているのでサクッと行っちゃうとしよう。
「準備はいいかー」
俺が声を掛けると、バラバラに返事がかえってくる。
全員がイエスだ。
「じゃあ出発」
転送魔法で目的地、ミズホ国最南端の海岸線へ跳ぶ。
「はい、到着」
瞬時に景色が切り替わった。
碧い海と白い砂浜。
岩場なんかもあって絶景だ。
振り返ると青々とした森林地帯が拡がっている。
『さすがベリルママが選んだ場所だな』
現地に来て改めて思った。
「さて、まずは見て回ろうか」
斥候型自動人形たちが集めた測量データを確認するために周囲の見回りから始める。
「いつも思うのじゃが」
歩きながらシヅカが話し掛けてきた。
「ん?」
シヅカがしみじみと言った感じで語る。
「消費魔力が出鱈目よな」
転送魔法のことらしい。
今更と思うが、言われてみれば確かに出鱈目だ。
ただし膨大に消費しているのではない。
逆である。
「あの程度の消費で、転送魔法が使えること自体が考えられぬ」
6人を同時に転送させているのに消費は皆が少し大きめの魔法を使った程度に等しい。
ああいう風に言いたくなるのも頷ける。
でも、俺の心境としては「そんなこと言われてもね」である。
出来るんだからしょうがない。
「スキルのお陰だと思うぞ」
【魔導の神髄】様々である。
しかも、熟練度はまだ6割超えたところだ。
『カンストしたらどうなることやら』
神級スキルだからそう簡単に上昇させられないけど。
「うむむ」
唸るシヅカ。
まあ、魔法系のスキルなんて滅多なことでは身につかないからな。
「地道に魔力操作を頑張るんだな」
「うむ、それしか無さそうじゃ」
そんな感じで魔力操作上級編みたいな話をしつつ周囲の探索をする。
【多重思考】スキルがあるから話をしながらでも見落としなどはない。
海岸に岩場に陸地の方も。
平地がまともに見当たらないくらい木々で覆われているから伐採が必要だ。
切るというより引っこ抜くんだけどな。
で、グズグズになった地面は地魔法で整える。
そこでふと思った。
『植え替えるのはアリか』
材木は余っているし。
見栄えが良かったり実のなる木はミズホシティへ持って帰って植えてみるとしよう。
そんな訳で理力魔法を使ってポンポコ引き抜き倉へ放り込んでいく。
同時に地魔法で地面を均していった。
この光景をローズやマリカはキャッキャと喜んで見ている。
他の面子は「この辺りに施設を置くのかな」ぐらいに思っているだろう。
ここにガブローとかを連れて来ると面白い反応が見られそうだけど。
『既に街づくりを見ているから、そんなに驚かんかな』
ゴードンとかなら腰を抜かしそうだ。
国民じゃない相手に見せるつもりはないけどな。
『食堂3姉妹に見せるという手もあるか』
まあ、今更だ。
ここにリゾート施設を作ったら、当面は作ることもないだろうし。
「んー、そういや忘れてたな」
「どうした、旦那よ」
俺の呟くような声に反応したツバキがこちらを見てくる。
「いや、地名とか施設の名称を決めていなかった」
「そういうのは後で良いのではないか」
全くもってその通り。
でも、候補ぐらいは考えておいて損はあるまい。
「皆も考えておいてくれるか。
参考にさせてもらうから」
採用とは言わない。
これくらい控えめでないと、そっちに夢中になってしまうからな。
そのせいで気が付いたらはぐれてましたとか普通にあり得る話だ。
良さげなのを提示してきたら、その時に採用すればいい。
必死になってウンウン唸って考えるよりサラッと考えた方が良い場合が多いし。
皆から了解をもらって整地作業に戻っていく。
『昼までには終わりそうか』
シャッ、サッ、スパッで終わらせてしまうと水着を作っている皆が困るからな。
今回はノンビリモードでやっていくのだ。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
整地作業が終わった。
海岸線の方も景色が変わらない程度に手を加えた。
砂浜がこれ以上の侵食を受けないように魔道具を埋め込むだけだけどね。
岩場の方にも効力が及ぶようにしてある。
将来的に温泉がなくなってしまうと困るからな。
そう、温泉は海岸沿いの岩場にあるのだ。
宿泊施設の設置は岩場の近くが確定している。
『岩場にトンネルでも掘って通路にするか』
遠目に見る限りでは景観も大きく崩れることはないだろう。
それを前提にホテルの箱を置く位置を考える。
『あー、トレーニング施設が置きづらくなるなぁ』
このまま適当に置いていくと何本かの木と確実に接触する。
伐採を最小限にしたからなんだが。
もう少し引っこ抜くかと考えて自分で待ったをかけた。
『置き方の方を工夫してみるか。
ベリルママにもらったキットは融通が利くからな』
配置を工夫して最適解を出してからでも追加の伐採は遅くないはず。
箱物を実際において確認すると手間がかかるので幻影魔法を使うことにする。
何が手間かっていうと配置次第で勝手にウニョンと変形していくのだ。
横長に縦長、L字型なんてこともできる。
さすがはメイドバイ神様。
『【万象の匠】スキルを極めたら俺にもできるかな』
少なくとも、ようやく半分を超えた程度の熟練度では無理だ。
透過映像の箱を置いていく。
「色々と試すのですね」
カーラが聞いて来た。
「気持ちの問題の部分が大きいかな。
配置の最適解が必ずしも景観にマッチするとは限らんし」
「なるほど、勉強になります」
色んな形を試していく。
そうする間に方針が固まっていく。
ホテルは岩場と海岸の方へ寄せて段々の形状に。
トレーニング施設などは森林地帯の方へ配置する。
『良さそうだな』
皆からも反対意見は出てこない。
「という訳で、貰ったキットを配置するだけの簡単なお仕事で終了です」
倉庫から引っ張り出して透過映像に重ねるように配置していった。
後は各施設がグニャリと動いてあっと言う間に出来上がっていく。
「さすがはベリルベル様の作ったものだ」
「まったくです」
弟子コンビは溜め息をついて眺めている。
完全に形状が安定してからも完全に目を奪われたような状態だ。
『しばらく、そっとしておこう』
残るは海の家とかだが、そっちは当日で問題あるまい。
場所の選定は終わっているからな。
「ところで、主よ」
「ん?」
「珍しく気付かなんだようじゃな」
そう言ってシヅカが指差したのは砂浜の方だった。
読んでくれてありがとう。




