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521 あの人も海水浴に行って遊びたい

 夕食が終わると自由時間。

 普段であれば各々が好きなことをするので行動はバラバラなのだが。


『今日はものの見事に統一されているな』


 水着デザイン会議が開催されているためだ。

 海水浴に興味のないごく一部の面子は食堂を後にするけど、ほとんどが残っている。


「風呂入って寝るのか」


 特に理由もなくガンフォールに声を掛けていた。

 寝るにはまだ早い時間である。


「今夜は酒でも飲みながら将棋を指すつもりじゃ」


「ハマーに誘われたか」


「分かるか」


 答えながら苦笑するガンフォール。


「なんで分かるんだ」


 羞恥心から顔を真っ赤にしているハマーは本気で分かっていないらしい。

 ボルトを見ると苦笑から唖然とした表情に変わる瞬間であった。


『やっぱりボルトもそう思うよな』


 ハマーの将棋好きは相変わらずである。

 強引に人を誘うようなことだけはないが割と向きになるのはよく知られている。


『まさか、それを自覚していないとは』


 俺としては、そっちの方が驚きだ。


『まあ、いいや』


 巻き込まれると軽く数時間は潰れてしまう。


「そこそこにしておけよ」


 やらなきゃならんことがあるので俺は早々に離脱だ。


「明日も朝から仕事なんだからな」


「わかっておる」


 ハマーに声を掛けたつもりが何故かガンフォールが返事をした。

 それを見たハマーが居心地悪そうに頷いている。


『大方、調子に乗るなら即座に終了とか言われてるんだろう』


 苦笑を禁じ得ない。

 将棋のことになると冷静さを欠いてしまうとか、普通は逆だろうに。

 なんにせよ海水浴に興味のない3人は食堂を去っていく。


『アイツらも楽しめるイベントを考えておくか』


 温泉付きのリゾートホテルでも海岸沿いにドーンと設置するのはどうだろう。

 悪くないかもしれないと思いながら食堂の様子を確認しようと振り返ると──


「うわぁ……」


 場はもはや会議と呼べるものではなくなっていた。

 ガンフォールたちとの話に集中したくて風魔法で背後の音を遮断していたんだが。


「どうしてこうなった」


 彼方此方で銘々が動画再生。

 しかも口々に意見を言い合っている。

 わずかな時間でこの状況とはカオスと呼ぶに相応しい。


 混沌の場と化した食堂でヒートアップしていないのは俺くらいのものか。

 そう思っていたらスルッと抜け出てきた者たちがいた。


「全力で遊べと言ったのは主であろう?」


 シヅカである。


「それに期限を設けて準備をしろと言われれば、ああなるのは必定であろう」


 俺の呟きを聞き漏らさなかったようだ。

 守護者なんだし当然か。


「マリカも遊ぶー」


「くっくーくぅくう」


 ローズも遊ぶのだ、だそうである。


「シヅカはどうなんだ?」


「うむ、満喫させてもらうぞ。

 海水浴なるものは初物じゃしな。

 水着のでざいんとやらは分からぬゆえツバキに任せることにした」


『丸投げですかい。

 それに初物って……』


 旬の食材じゃあるまいし。

 まあ、ツッコミを入れるのはよしておこう。

 淡々としているように見えるが、凄く楽しそうな雰囲気が全身から滲み出ているし。


「マリカとローズの水着はマイカが用意してくれるってー」


「そ、そうか、良かったな」


 一抹の不安を感じさせられる話を聞いてしまった気がする。


『念のために保険を用意しておいた方が良さそうだ』


 よほどのことでなければ保険を使う訳にもいかないだろうがな。

 それはマイカがどれだけ自重するかにかかっていると思う。

 あるいはミズキがブレーキをかけられるかだ。


『どうか暴走しませんように』


 ついつい神頼み的なことをしてしまう俺であった。

 こっちの世界でも神様がこういうお願いを聞いてくれないのは分かっているんだけどね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



『んもう、ハルトくんったら。

 こんな楽しそうなイベントを報告しないなんて酷いじゃない』


「うへえっ」


 1人で部屋風呂に入っていたら脳内スマホの電話に強制着信。

 着信音もなくいきなりだったから跳び上がりましたよ?

 いや、マジで。


『ベベベベリルママッ!?』


 俺の動揺を代弁するかのように湯船が大きく揺れる。


『あら、驚かせちゃったかしら?

 御免なさいね、ハルトくん』


 まるで悪びれたように聞こえないが、そこは触れてはいけない。

 ベリルママはこれで平常運転なのだから。

 変に突くと泣かれてしまう恐れがある。


『いえ、いいんですけど』


 君子危うきに近寄らずだ。

 俺は罪悪感の海に溺れて死にたくはない。

 そんなことより、このタイミングで連絡が入ったことの方が気になる。


『もしかして何か緊急事態ですか?』


 だとしたら海水浴は延期である。

 皆に説明するのは気が重いけどな。


『うーん、緊急事態じゃなくて緊急参加かな?』


『は?』


 何か呼び出しでも受けたのだろうか。

 エリーゼ様は余程じゃないとそんなことするタイプじゃない訳で。

 とすると、もっと上ってことにならないか?

 そんなことを考えていたら予想外の爆弾発言があった。


『私も海水浴に参加しまーす』


 凄く楽しげに参加表明されてしまった。

 確かに緊急参加だ。


『ええっ!?』


 故に完全に虚を突かれてしまった。

 だからこそ驚きの声が漏れてしまったのだが、これは明らかに失策である。


『ダメなの?』


 ベリルママのトーンが急降下。

 ヤバいヤバい超ヤバイ!


『いいいいえ、そんなことないですよ?』


 危うく地雷を踏み抜くところであった。

 動揺しまくっているせいで疑問形だし。

 そうじゃなくてフォローだフォロー!


『えっとえっと……

 仕事が忙しいんじゃないかなぁと心配になったんですが?』


 ダメだ、それしか思いつかない。

 自分のポンコツぶりに情けなくなってしまった。


『あら~、ごめんなさい。

 気遣ってくれてたのねー』


『ハヒ……』


 ダメダメなフォローだったのにベリルママの機嫌が直った。

 不幸中の幸いと言うべきか、実にありがたい。

 誰だ? チョロいとか言ってるのは。


『そのあたりは大丈夫よ』


 どうやら仕事の方は大丈夫そうである。

 ほったらかしで来られても困るしな。


『それに息抜きは大事よね』


『はい』


 確かに仕事仕事の連続で休みなしなんてのは良くない。

 適度なリフレッシュは必要だ。


『という訳でハルトくんにプレゼントです』


『え? あ、はい、ありがとうございます』


 何を貰ったのか貰うのかがよく分かっていないものの、先にお礼を言っておく。

 脳内スマホにメールの着信があった。

 添付ファイル付きだ。


『添付ファイルを見てちょうだい』


『はい』


 促されて見てみた。


『地図と補充物資リストですか』


『そうよー、まずは地図に注目してね』


 地図はミズホ国のものだ。

 王都ミズホシティが赤い点でマーキングされている。

 同じようにもうひとつマーキングされた場所があった。


 我が国の最南端。

 刀の形をした柄尻の部分だ。

 丁度この辺りに送り込んでいる自動人形がいる。

 その斥候を担当している俺に現地映像を見せてもらった。


『ああ、広い砂浜があって良さげな場所ですね』


『自動人形を通じて見たのね』


『はい』


『近くに温泉もあるのよ』


『おお、それはいいですね。

 分かりました、そこにします』


 ベリルママが推薦した場所より良い所などあろうはずがない。

 探す手間が省けてラッキーだ。

 他所の地域に送り込んでいる自動人形もそちらへ送り込んで現地調査を集中させよう。


『じゃあ次は補充物資なんだけど』


 リストを確認してみる。


『……これって』


『どう? 凄いでしょう』


『はい』


 もうね、笑うしかなかったよ。

 リストの一番上が和風リゾートキットだもんな。

 詳細を確認してみるとホテルとリゾートにあるような施設の詰め合わせですよ。

 建物関連はすべて和のテイストで仕上げられている。


 キットになっているのは現地で確保した土地の形状に合わせて配置が変更できるからだ。

 さすが神様、そつがない。

 しかもそれだけじゃないんだな、これが。


『合宿用キットなんてものまでありますよ』


 これは各種運動施設の詰め合わせだ。

 体育館とか競技場とかもミズホシティにある施設を参考にしてデザインされていた。

 さすがベリルママ、俺が頭の片隅で計画していたことまで読んでいたようだ。

 今回は俺たちだけで利用するが、他の国民たちにも利用してもらおうと思ってたんだよ。


 合宿や臨海学校的な形にして連れて来ればどうかなと考えた次第である。

 でないと、みんな遠慮するんだよ。

 学校に通うだけで仕事とか満足にしていないからって。

 今は学んだり技術を習得することが仕事だよって説明してもなかなかね。


 だったら授業や訓練の一環として連れて来るまでさ。

 そのための施設まで用意してくれるんだから、うちの母親は過保護です。


『フフッ、それだけじゃないわよ』


 確かにね。

 海の家や各種屋台もリストに並んでいる。


『この花火大会セットって』


『打ち上げ花火って素敵でしょ』


 和風のリゾートホテルに行って海水浴を楽しんで。

 更に温泉でサッパリして夜は花火大会。

 これ以上ないくらい夏を満喫できそうだ。


読んでくれてありがとう。

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