表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
529/1785

520 海水浴に行くなら必要なものがあるだろう?

「よっし、海水浴に行くぞ!」


 椅子から立ち上がり高らかに宣言する。


「「「「「お─────っ!」」」」」


 俺の言葉に間髪入れず妖精組たちが歓声を上げた。

 みんな大喜びだ。

 ただ、それは海水浴そのものではなく付随する食事に期待してのものだったが。

 イカ焼き、焼きそば、お好み焼きは確実にやらなきゃならん。


『なかったからと言って暴動は起きないだろうが、みんな悲しむしな』


 妖精たちの悲しむ姿なんて見たくない。

 特に子供組がそんなことになったら罪悪感に押し潰されて俺が死ぬ。


 まあ、海の家とか屋台を臨時で設置すればいいだけのことだ。

 大した手間ではない。

 営業は自動人形に任せればすむ話だし。


『けど、問題があるか』


 ここにいる面子だけで参加となると、他の大多数の国民に気を遣ってしまいそうだな。

 普段から俺たちは好き勝手にやっているので気にしないかもだけど。

 さすがに目と鼻の先の場所でワーキャーと騒いでいれば興味も引いてしまうだろうし。


『いっそのこと全国民で海水浴とか?』


 さすがに無理だ。

 ミズホシティの海岸にそれだけの人数を受け入れるキャパシティはない。

 鮨詰めにすれば収容可能だが、それでは遊べなくなってしまう。


『なんで遊びに来て通勤通学ラッシュを再現せにゃならんのかって話だよな』


 大学時代に味わったが、ありゃ地獄だ。

 ニュースとかで見たことはあったが、体験してみると想像を遥かに超えていた。


『初めての時は何百万倍かと思ったものだよな』


 そのうち慣れてしまったんだが。

 人間の適応力とは、げに恐ろしいものである。


『そういや外国人の観光客が「クレイジー!」とか言ってたことがあったな』


 気持ちは分からんではないが、クレイジーはないと思う。

 ともかくミズホシティで海水浴はデリカシーがないだろう。


『となると、何処かに保養所のような場所を用意すべきだよな』


 リゾートホテルっぽくしてみるのもありだろうか。

 色々と施設を付随させると面白いかもしれない。


『だけど今から場所の選定と施設を作るのって面倒いなぁ』


 なんで夕食後にあんなことを言い出すかね、うちの妻は。

 せめて昼食後なら、翌朝には使える状態にしておいたのに。


『んー、宿泊施設とかは後でいいか』


 場所だけ決めて砂浜の整備をするだけってことで。


『あー、海の家と屋台だよな』


 それくらいは片手間ですぐに出来るから問題あるまい。

 とにかく今は斥候用自動人形をばらまいて偵察に出すのみ。

 そんなものはパパッとやって【多重思考】で自動人形の視覚と同期して監視するだけだ。

 あとは拳を突き上げて喜びを表現している妖精たちを眺めて和むのみ。


 一方でパチクリと目を瞬かせている女が約1名。


「え、あれ?」


 マイカである。

 なぜか状況について行けずに置いてけぼりであった。


『どうせ考え事でもしていたんだろう』


 もっと言うなら海水浴でキャッキャウフフしている妄想だな。

 まず外れてはいまい。

 唇の端から涎が垂れているし。


『この女はたまに妄想で暴走するからな』


 モフモフ癖と並ぶ二大変態癖である。

 悪癖というと些か可哀相なのでトーンダウンしている。


 え? そっちのほうが酷いって?

 本人が「悪癖にあらず!」とか言うんだもんよ。

 まあ、普通でないことも自覚しているみたいだけど。

 そんなだから自分で「変態癖だ!」なんて主張したくらいである。


『これさえ無ければ文句なしのいい女なんだが……』


 俺としては助かっていた部分はあるか。

 こういうマイカだからこそ変なのを寄せ付けなかったのだし。

 もしアクの強い性格をしていなかったら大学時代などはどうなっていたことか。

 明るくて社交的だからフラフラと寄ってくる奴もそこそこいたんだよな。

 そうなると俺が群がるリア充どもを追い払うことになっていただろう。


 そんな真似をせずに済んだのはマイカの癖というか趣味嗜好のお陰である。

 少し話しただけで正体が判明するからな。

 大抵の奴らはドン引きで潮が引くように去って行ったものだ。


 今でこそ控えめだが当時は筋金入りのゲーマーで特撮ファンである。

 会話して数分でギブアップするリア充ども。

 粘って10分がいいところ。

 それでもめげないような本当に上辺しか見ていないような輩は物理的に排除された。

 しびれを切らして手を出そうとするからなんだが。


『空手の有段者だからなぁ』


 露骨な態度に出ようとした連中はもれなく病院送りにされたのである。

 それでマイカが退学や停学の処分を受けなかったのは不思議なくらいだ。


 女子にボコボコにされたとか恥ずかしくて言えないというのもあるとは思うが。

 未遂でない被害者たちが弁護士を伴って被害を大学側に訴え出たのだ。

 輩を厳しく処分しない限り大学側の管理責任を問う形で。


 結果から言うと輩は退学処分。

 それに伴い過剰防衛であったマイカは未遂とはいえ被害者のためお咎めなしとなった。

 つまり運が良かったに過ぎないのだ。

 昔から無茶をする女である。


『ミズキは普通に回避してたのになぁ』


 というか、雰囲気的に寄ってくる男がいなかった。

 もしマイカと同じ状況になっていたなら無力化くらいはしたと思う。

 ミズキも同じ有段者だからね。


 幼い頃から道場に2人で通っていたそうだ。

 実力的には互角。

 しかしながら性格の違いによって結果が違ってくる。

 少しくらいはミズキを見習ってほしいものだ。

 で、そのミズキがマイカをフォローする。


「マイカちゃん、ハルくんが海水浴に行くって」


 その言葉を聞いた途端に喜色満面になるマイカ。


「キャー、ハル愛してるぅ!」


 まったく、感情表現が極端でらっしゃる。


「ムギュ」


 唐突に抱きつかれ視界を塞がれた。

 視界だけではなく鼻と口もだ。

 俺以外だったら窒息して昇天するのも時間の問題だったろう。

 これも天国と地獄だろうか。

 俺からすると天国だけになるんだが。


「ちょっとぉ!

 ハルトが窒息しちゃうじゃない!」


 レイナが尻尾をピンと伸ばし、その毛を逆立てて憤慨していた。

 視界は塞がれているが【天眼】があるから何がどうなっているかは分かる。


「せやせや、死んでまうで!

 はよう退いてんか!」


 アニスも慌てているな。

 常態的にはレイナと似たようなものだ。

 そのせいで状況を冷静に見ることができなくなっている。


「2人とも落ち着く」


 ノエルがレイナとアニスの肩に手を置いて興奮を収めようとしていた。


「無茶言わないでよ、ノエルゥ」


「そうやで、早よせんとハルトはんが!」


 多少はトーンダウンしたようだが、そのくらいで焦りは消せなかったようだ。


「半日も海に潜りっぱなしで平然としているハル兄がこれくらいで窒息したりしない」


「「あ……」」


 ショボーンと萎んでいく慌てん坊さんたち。

 まあ、気持ちは嬉しいので後でナデナデして進ぜよう。

 本人たちが希望するならチューでも可。


『ん? 目を丸くして驚いている面子がいるな』


 新婚夫婦やミズキは当然としてエリスたちもか。

 ドワーフ組は「それくらいは普通だな」という顔で茶を啜っていた。


「ノエルちゃん、ホントに?」


 そう聞いているのはクリスである。


「ん、ハル兄が初めて漁を教えてくれたときに」


 途中で言葉を句切った状態だが、それで通じるので誰もツッコミは入れない。


「魔法を使わず?」


 恐る恐るといった感じでマリアが聞く。


「ん」


 そう言って頷くだけで終わらせてしまった。


「我々には水中で呼吸するための魔法を使ってくれたがな」


 すかさずルーリアが補足説明を入れていた。


「本人曰く、苦しくもないのに面倒くさいことはしたくない、だったか?」


 そこだけは記憶があやふやなのか、隣にいるリーシャに確認を取る。


「ああ、確かそうだった」


 リーシャの頷きが返されると、その事実を知らなかった大半が唖然としていた。

 一部は俺のすることだから当然という姿勢のようだが。

 いずれにしても失礼ではなかろうか。

 些か抗議したい気分である。

 が、そんなことも言っていられない。


「諸君!」


 短距離転送で脱出した俺が皆に呼びかける。

 抜け出したことでなにやら文句を言っている約1名がいるがスルーしておく。


「遊ぶと決めたからには全力で遊ぶぞ!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 妖精組がそろって返事をした。

 最古参だけあって反応がいい。

 ローズも混じっているので「くーっ!!」という声も聞こえていたけどな。

 少し遅れてマリカが「おーっ」と両拳を突き上げて追随していた。

『くーっ、モフりたくなるじゃないか』


「そのためには事前の準備が重要だ」


「「「「「おおっ?」」」」」


 高まっていたボルテージにブレーキがかかる。

 妖精組だけでなく海水浴参加希望者たちが隣にいる者と顔を見合わせている。


「君たちは海水浴に行くのに水着なしを選択するのか」


 この一言で皆の表情が「あっ」と驚いたものになった。

 だが、俺はそこで止まらない。


「それはつまり素っ裸で海水浴を楽しむヌーディストビーチを堪能したいんだな」


 俺がそう言ったことで「ギャー」とか「キャー」なんていう悲鳴が聞こえてきた。

 代表的な1人がアニスである。


「ないないない、それはないでハルトはん!」


「おかしなことを言うのだな」


 シヅカが泡を食っているアニスにツッコミを入れる。


「妻であれば夫に裸を見せるくらいどうということはなかろう」


「うちは外でそんなことできるほどレベル高ぉうないで」


「ふむ、そういうものなのか?」


 いまひとつ理解できなかったのか苦笑しているツバキに聞いていた。


「そうだな、人目は気になるだろう。

 ここの浜ならば他の国民の目もある故な」


「おお、それは盲点じゃ」


『頓着しなさすぎだろ』


 ツッコミを入れるのは内心だけに留めておいた。

 とにかくアニスのような拒絶反応をしている者は他にもいる。

 あるいは、できれば勘弁してほしいぐらいの反対派も含めれば賛成する者はいない。


「ヌーディストビーチが嫌なら水着を用意するしかないよな」


 何名かはヘッドバンギングしてるとしか思えない勢いで首肯している。


「ということで俺からの宿題だ。

 各自、自分で水着を作って用意しておくこと。

 期限は俺が海水浴専用ビーチを用意するまでだ」


 そう言うと、皆が急に議論モードに入った。

 どんなデザインにするかということで、あーだこーだと相談している様子。


 期限の方は皆の水着作成期間に余裕を持たせるために明日というのはやめておいた。

 徹夜なんかで無理はさせたくないし。

 完成しなかったから下着で代用なんてこともさせたくないからな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ