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503 @純田朋克:呪いに勝つために

 年金基金の手続き以外でも俺は色々と動き回った。

 オーディション?

 ハッハッハ、全滅ですよ。


『懸念が的中したので慌てはしなかったけどさ』


 そのために動き回ったので焦りもない。

 昔の俺ならプレッシャーを感じて押し潰されていたかもしれないな。


『どうにかなるさ』


 それが今の心境である。

 結婚したのが大きいのかもね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 ある日の夜。

 俺はとある住宅街の中を屋根伝いに駆けていた。


『忍者もののアニメをリアルで体験するとは』


 目撃されないように光学迷彩の魔法を使っているから傍目にはどう見えるかは不明だが。

 その割に忍者装束を身に纏っている。

 別に普通の服装でもいいんだけどね。

 黒いジャージならそれっぽく見えるかと思ったんだけど。

 試しに部屋にある姿見の前で黒ジャージ着てみた。


「……………」


 どう見ても忍者に見えない。

 目出し帽を被ったら出来損ないのテロリストっぽくなってしまった。

 すぐ忍者風の覆面に変えたけどチグハグだったし。


『結論、忍者にジャージは似合わない』


 となった。


『ジャージはフィット感があって動きやすいから好きなんだけどね』


 でも、忍者らしさが感じられない。


『忍者に並々ならぬこだわりを見せる妖精たちを間近で見てきたせいなんだろうなぁ』


 妖精たちのせいにするのは良くないな。

 自分が妙なこだわりを持ってしまったせいだ。

 ルベルスの世界に転移してから自作癖がついてしまったからか。


『ハルさんが色々と教えてくれて面白いんだよな』


 そんな訳で忍者セット一式を作ってしまいましたよ。

 忍者装束は上から下まで完璧にそろえたし。

 必須アイテムの棒手裏剣に十字手裏剣は倉庫の中でスタンバイ中。

 忍者刀は背中に背負って完璧ですよ。


 え? 手裏剣はともかく刀は良く作れたなって?

 フッフッフ、一から作るなら手間だがね。

 観賞用の模造刀を売っている店があるのだよ。


 某大仏前の土産物店。

 土産物屋のはずなのに取扱商品でもっとも多いのは武器であるという不思議な店だ。

 洋の東西を問わず店内を埋め尽くさんとする武器、武器、武器。

 種類も豊富でクロスボウや銃なんかの飛び道具もある。

 そして時々ちょっと防具と盾という感じ。

 でも、土産物屋なんだな。

 看板もそう謳っているし。

 ちゃんと地元産の工芸品なんかも置いている。


『中に入ると異世界の武器屋と思われても仕方ないけどね』


 それくらいのインパクトがある。

 そこで買ってきた模造刀を魔法で改造した。

 魔力量の問題で時間はかかるところだったけど、そこは補充用の魔石を用意した。

 男1人でパワーストーンを扱っている専門店に入るのは勇気がいったけどな。


 買ったのはクリスタルとヘマタイト。

 クリスタルは浄化用でヘマタイトが魔力補充用の魔石にする本命だ。

 魔石へ改造しても見た目は変わらない。


 だから数珠にした。

 魔力の補充のために常時装着しておく必要があるからな。

 補充が完了したら空のやつに交換するため複数を持ち歩いている。

 充電池の発想だな。


 ちなみに魔力の補充は自動人形の担当だ。

 で、俺が日本に来たときに消費するという訳だ。

 魔石への改造で余分に手間を食ったが、使い捨てではないので気にしない。

 そんな感じで魔力不足を解消しつつ模造刀を武器として本物に仕上げていく。

 たっぷり練習してきたので落ち着いて作業に没頭できた。

 だが、失敗はできない。


『模造刀とはいえ、結構なお値段だもんな』


 だからルベルス側でたんまり練習してきましたよ。

 ハルさんの手ほどきを受けてね。

 そこまでしておいて失敗するとかはあり得ない。


『練習してきたことを思い出して集中だ』


 ここでの不安要素があるとしたら練習していたのはトモ・エルスであるということ。

 純田朋克としては、ぶっつけ本番だ。

 嫌な予感がしたので直前で中止した。

 カッターナイフの替え刃を買ってきて練習したのはハルさんには内緒である。


『太鼓判押されたのにビビって練習したってバレたら恥ずかしいもんな』


 でも、いい練習になった。

 お陰で現在のレベルは101にまで到達した。


『封印された世界で修行するとレベルがガンガン上がるよな』


 こっちの世界じゃ誰もやらないことをやってるからなのかもだけど。

 あと、地球じゃ唯一のヒューマン+だと聞いたし。

 情報源はもちろんエリーゼママだ。


『もしかして俺、とんでもないことしてるのか?』


 冷静になって考えてみると、そうなのかも。

 だが、止まらない。


『まだまだ終われないからな』


 逆恨みした奴の呪いになんて負けていられるものか。

 真っ当な生き方をしている人たちを巻き込むような真似をされたからな。


『黙っていられる訳がない』


 どうやら拡散した呪いはそれぞれに活動しているようだ。

 メインターゲットは俺なんだが、直接攻撃をしてこない。

 弾き返されたことで散り散りになった影響だろう。


 残留思念の塊ではあるが元は人間である。

 恐怖のような感情もあるようだ。

 そのあたりはルーリアさんに退魔道の指導を受けたときに聞いた。

 質の悪いことに、そういう感情が強迫観念となって暴走するのだそうだ。

 俺に近しい所に攻撃してくるのも、そのせいらしい。


『まるで近接作動信管を搭載したホーミングミサイルだな』


 俺や周囲の人間に対する直接攻撃がないので感度が良すぎる気はするけど。

 一度なんか電車が駅と駅の中間で止まってしまってオーディションに遅刻したもんな。

 なぜか遅延証明を発行してもらえなかったし。

 他にも色々あった。

 電車を止めるほど大がかりなものはなかったがね。

 他人が起こした交通事故で俺を巻き込んでこようとしたりなんてのもあった。

 あるいは新作アニメの関係者が食中毒を起こしたりとか。

 呪いが事件を起こせばエリーゼママが教えてくれたから間違いない。

 そんなのを何度も見せられては覚悟を決めるしかないだろう。


『俺が全て祓う』


 そのために退魔道の修行をしたのだ。

 忍者装束はともかく刀はそのためのものである。

 気合いを入れて改造したよ。

 練習した甲斐もあって模造刀の変質もムラなく仕上げられた。


『残るは術式を刻み込むのみか』


 それなりに魔力を消費したので日を改めることになった。

 いったん帰ってハルさんたちに報告する。


「辛抱が続くね」


 呪いの残滓をいつまでも野放しにはしておけない。

 けれども準備を疎かにして返り討ちにされたんじゃ話にならない。

 そのための忍者刀である。


「光魔法は目立つからね。

 夜陰に紛れてとはいかないよ」


 目撃されないなら光魔法で終わらせられるんだけどね。

 放った魔法に光学迷彩をかけるのは至難の業だ。

 発射速度を落とせば、できなくはない。

 でも、それじゃあ躱されるだろうし。

 結局は刀で退魔道の技を使うしかない。

 しかも近接専用のものだけに限定される。

 シンサー流の遠距離技は光魔法と同じで派手だからな。


「そういう意味じゃ、こっちは楽だな」


「魔物なんてのが本当にいるからね」


 俺は見たことないけどアンデッドもいると言うし。

 今回のは呪いの残留思念だからな。

 本体は死亡済みだ。

 そこからアンデッドとして復活みたいなことにはなっていない。


『復活なんてされたらシャレにならんぞ』


 凄く苦戦しそうだ。

 人一倍、呪う力が強い上に執念深いだろうからな。

 簡単には消滅してくれそうにない。

 そう考えると呪いの残滓の方も油断はできないか。


『術式の記述は丁寧かつ徹底しておかないとな』


 俺は気を引き締め直した。

 そして後日、対呪い用の刀が完成した。

 それを装備して今、屋根の上を駆け抜けている。


「ん?」


 ふと、何かの影が視界の端を過ぎった。

 ゆったりしたスピードで移動していたようだ。

 しかしながら、相対速度の関係で一瞬にして死角へと消えてしまった。


『こんな屋根の上で動くものだって?』


 気になった俺はそちらへ跳んだ。

 すぐにそれは姿を現すが、急に飛び込んできた俺に対して瞬時に硬直してしまった。


『ああ、なるほど。

 そりゃあ居ても不思議じゃないか』


「フギャ─────ッ!」


 毛を逆立てた猫が威嚇してくる。

 屋根の上を悠然と歩いていた猫を驚かせてしまったようだ。


「おっと、ゴメンよ」


 後ろ髪を引かれる思いだったが俺はすぐに立ち去った。

 それから程なくして──


「見つけたぜ」


 俺はとある空き家と思しき一軒家の庭で浮遊する黒い影に対峙していた。

 影が振り返る。


『後ろ向きだったのか』


 前か後ろかも分からない靄のような黒い影。

 なのに振り返ったと分かる存在感。

 普通の人間なら影は見えず薄気味悪さを感じるだけだっただろう。


「逃がさねえ」


 庭を結界魔法で覆う。

 と同時に──


「抜刀」


 背中の刀を抜き放った。

 両足を開き気味にして剣を霞に構える。

 切っ先は影に向ける。


「!」


 それまでこちらの様子を覗うような雰囲気だった黒い影が殺気を放ってきた。

 こちらは一気にゲンナリでウンザリだ。


『覆面で顔が見えないだけで敵と分からなくなるのかよ』


 気配で悟れないものだろうか。


「まあいい、消えろ」


 俺が刀身に魔力を集めると、こちらの殺気に気付いたのか奴が突っ込んできた。


「遅い」


 俺も踏み込み切り付ける。

 一刀両断。


「──────────!」


 影は声にならない悲鳴を発しながら消えていった。


読んでくれてありがとう。

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