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500 @純田朋克:目覚め

遅くなりました。

すみません。

 自分は人間である。

 人間ではあるのだが他の人とはカテゴリーが若干異なってしまった。

 我が友人の話によると上位種族ということらしい。

 それだけではなく同時に別のボディを持つに至ってしまった。

 日本と異世界でだ。


 自分の場合は特殊事例らしい。

 元いた世界の女神様が言っていた。

 彼女の名はエリザエルスというそうだ。

 しかも俺の母親なんだと。


 交通事故で意識不明になっている間にこんなことになったそうだ。

 称号がついているから間違いないってさ。

 何だよ[女神の息子]って。

 おまけに[女神に祝福されし者]なんて称号もついたというし。


「訳が分からん」


 話を聞いた当時はそんな顔をしていたらしい。

 友人が苦笑いしながら色々と説明してくれた。

 彼の名はハルト・ヒガ。

 かつては飛賀春人という名前の日本人だった。

 俺と同じように女神を母として転生し異世界に転移したエルダーヒューマンである。

 そう、自分も転生したばかりか異世界に転移してしまったのだ。

 声を大にして言いたい。


「どうしてこうなった」


 いや、言わんけど。

 言うなら銀座弾正さんの名台詞であろう。

 あれは国葬の時の演説のものだが、割と色んな場面で聞かされるしな。


「何故だ!?」


 そう言った後にすかさず三毛田庄一さんの台詞で返すのがド定番だ。


「坊やだからさ」


 皮肉を込めた感じにするのが基本である。

 実際には俺が坊やかどうか関係のないところで死にかけた結果なんだけどな。

 逆恨みが元で悪霊を呼び出されてとか無茶苦茶だよ。

 呪いで交通事故を引き寄せるとか何なんだと問い詰めたい気分だ。

 生憎と呪った奴は俺が呪いを弾き返したことで死んじゃったらしい。


「俺ってスゲー」


 お陰で人生最初の称号[運命を乗り越えし者]をもらってしまった。

 何をどうやったのか本人は分かっちゃいないんだが。

 それに呪いをどうにかできても物理現象は跳ね返せないんだよ。

 超人じゃないからな。

 呪いが引き起こした事象により交通事故に巻き込まれるのは避けられなかったんだぜ。


「運命を乗り越えてもダメじゃねえか」


 自分で自分にツッコミを入れてしまう。

 結果として意識不明の重体になった。

 誰が見ても最悪の事態だろう。


 しかし、俺にとっては決してそうではなかった。

 この事件が切っ掛けで妻を娶ることになったし。

 彼女の名前はフェルト・フォルト。

 外人さんじゃないよ。

 結婚して日本人になったというのでもない。

 名前はフェルト・エルスになったがね。


 そう、今の俺の名はトモ・エルス。

 日本人だった頃の俺からすると異世界ルベルスの住人である。

 なんで苗字がエルスかというと、エリーゼ様に決められたからだ。


「そういやエリーゼ様じゃなくてエリーゼママと呼ばなくちゃいけないんだよな」


 スゲー恥ずかしいんだけど。

 我が友人ハルさんによると──


「諦めろ、何されるか分かったもんじゃない」


 なんだそうだ。

 納得できないのが表情に出ていたのだろう。


「俺はベリルママに泣かれそうになった。

 別件で泣かれたから結構シャレにならん」


「おー、マジかぁ」


 女性に泣かれるのは最悪だ。

 下ネタを言って避けられる方がよほどマシである。

 泣かれるってことは距離が近いってことだ。

 野郎と違って女の子との距離感って分かんねえし。

 近いと緊張しちゃうんだよね。

 身近にいた女性って身内しかいなかったからさ。

 下ネタで遠ざければ距離感を気にしなくていいし。


「そっちは何か別の手を使ってくるかもな」


「勘弁してくれー」


 あんな綺麗な母親に精神攻撃を仕掛けられるとかシャレにならん。


「悪いことは言わん、諦めろ。

 羞恥心なんて最初しか感じないから」


「……分かった」


 地雷があると分かっているなら回避あるのみだ。

 恥ずかしいが仕方あるまい。

 エリーゼママから新しい名前をもらった。


 だが、それで前の純田朋克という名前を捨てることにはならない。

 日本人として今も使えるのだ。

 元の世界セールマール母であるエリーゼママの管理する世界でね。

 純田朋克としての体は日本で交通事故に遭遇して意識不明の重体で入院中だってさ。


 そりゃそうだ。

 体がふたつで魂はひとつ。

 同時に宿る訳にはいかないので、宿っていない方は仮死状態になるようだ。


 向こうの体はよく死体扱いされないものだ。

 と思ったら、エリーゼママが色々してくれたからなんだって。

 魂を行き来することで純田朋克としても活動できるって訳だ。

 色々と制約があるようだけどね。

 向こうの体はヒューマン+という上位種だけどエルダーヒューマン未満の存在らしいし。

 おまけに寿命を代償にして云々という話も聞かされた。


「正直、どうでもいい」


 普通のヒューマン並みの寿命だそうだから。

 そっちで死ぬと完全にこちらの世界ルベルスの住人になるらしい。

 考えても何かが変わる訳ではないので考えないことにする。


 そんなことより夢の結婚生活である。

 このフェルトさんが超美人なのだ。

 耳が尖っててヒューマンとは違うけどね。

 ゲームやアニメなどで見たエルフにそっくりである。

 だけどエルフじゃなくてエルダーフェアリーなんだそうだ。

 出し入れ自由の羽根も見せてもらった。


「妖精みたいだ」


 なんて言ったら──


「同じ人間種なんですよ」


 苦笑しながら彼女に言われてしまった。


「ごめんなさい」


「いえ、そんなキラキラした目で妖精みたいなんて言われると悪い気はしません」


 謝ったらそんな風に言われたんだけど。

 何故か幸せな気分になったね。

 彼女の魅力のなせる技なんだろう。


 しかも、それだけじゃない。

 料理が旨いのだ。

 結婚した以上、これは重要なファクターである。


 といっても家での食事はメイド型の自動人形が作るんだけど。

 外出先で自炊するときは友人であるハルさんが提供してくれることが多い。

 色々と手伝ったりはしている。

 新しい料理を覚えたりするのが楽しいそうだ。

 1品は奥さんの作が出ることもあるし。

 俺としては奥さんの手料理をもっと食べたくなったりするけどね。


『贅沢を言っちゃいかんな』


 奥さんは、いつも一緒にいてくれるんだし。

 文句などあろうはずがない。


「俺、結婚したぜぇ─────っ!」


 などと叫びたくなるくらいに。

 うん、叫んだりしないがね。

 周囲に奇異の目で見られるし。

 特に病院の集中治療室で目覚めそうになっているときに、それはマズいだろ。


 という訳で魂だけ日本に帰ってきた。

 意識不明の状態から目覚めるのは自分でやらなきゃならんそうだ。

 エリーゼママが言うには──


「復活の瞬間を録画で見るのと生じゃ臨場感が違うでしょ」


 だそうである。

 言われてみると、そんな気がしないでもない。


「後ね、魂が肉体に宿らないと自動人形の起動スイッチが入らないのよ」


「どういうことですか?」


「仕様上の問題ね。

 記憶を同調させるのが楽なのよ。

 自動人形だけ先に動くと齟齬が生じやすいから」


「はあ」


 細かなことは聞かない方が良さそうだ。

 よくよく考えれば知らなくても不自由はしない。


『さて、そろそろかな』


 ヒューマン+の体にも馴染んできたようだ。


『ビックリしたよなー』


 魂が入り込んだ直後なんて体がガチガチで動かなかったもんな。

 指先どころか瞼すらピクリとも反応してくれんかったし。


『ヤベえ、全身不随で寝たきり生活か!?』


 そんな風に思って焦ったもんな。

 そしたらエリーゼママから念話で怒られた。


『動かないのは当たり前じゃない!』


『うわっ、ビックリした!

 急に話し掛けないでくださいよ』


『トモくんが馬鹿なこと考えてるからでしょ』


『え、どうしてそれを?』


『思考が外部にダダ漏れよ』


 自分としては当然の疑問のつもりだったが、呆れたように返された。

 溜め息のオマケ付きで。


『あ、忘れてた』


 そういやハルさんにも注意されてた。

 あまりに強い思念は周囲に念話を送っているようなものだって。

 上位種になると思念波は強くなるそうだし。

 無意識でブロックできるようになるとも聞いた。

 練習するのを忘れてたけど。


『まったく……

 とにかく魂が定着してないの。

 皮膚の感覚だってないでしょ』


『はい』


 言われてみれば、その通り。

 現状は魂が物体を透過している状態に等しいようだ。

 単に体の中で移動を停止しただけ。


『そのままで待ってなさい。

 新しい体に馴染むまで時間がかかるわよ』


『へ~い』


 しばらくの間そのままでいると──


『お?』


 何かが繋がる感触があった。

 自分を中心として何かがジワジワと隅々にまで行き渡っていく気がした。


『最初は時間がかかるわね。

 そのまま待っていれば完全に定着したって分かるわよ』


 ということらしいので待っていた。

 時間の感覚が分からないので、それが5分なのか1時間なのかサッパリだったけど。

 不意に瞼が開いた。


「知らない天井だ」


読んでくれてありがとう。

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